31 理央、さくら亭で悩む
新しい話を投稿しました。追って、章で分けますね。
今度は週に2、3回。8時〜9時の投稿を目指します。
よろしくお願いします。
「毎度〜 またどうぞお越し下さい」
「ありがとうございました。またいらしてくださいね」
ここ、さくら亭もそろそろ閉店時間になる。
「ふぅ〜 今日もなかなかの繁盛しましたね、理央。
じゃあ、片付けを始めますか」
「はい。えり姫様 あ!すいませんえり様」
ここは平松の宮亭の敷地にある山の麓。小さな小川が流れる場所に、さくら亭という食事処ができている。
◆
あの遠衛様の事件から、早5年の歳月が経っていた。
事件の後、心、松江、友子、えりの四人は、自分の仕事へ戻り、時々集まっては宴を開く日々…。
が、本来姫宮であるえりだけは、何もする事がなかった。
(皆はちゃんと仕事をしている。私だけ何もしていないのは、どうだろう。せっかく元気になっても団五郎様の推し活だけじゃなぁ……。
前世、デイサービスの看護師として、働いていた記憶もあるから尚の事気になっちゃう)
えりの所へ皆が遊びに来た時に、この話を相談してみる。
「えりも何か仕事をしたいけど、何をしたらいいのかピンとこなくて」
「え〜?えりが仕事でやんすか?と言っても、あっちの所で働く訳にはいきませんしね」
「心様!それは困ります!まるちゃんも反対して下さいよ」
「理央ちゃん、よく聞けよ。心様は無理だしって言っただろ?」
「う〜ん 松竹亭も今は人が足りてるのよねぇ……。
女中頭の輝がやり手になってさ。私も仕事は最後の指示位だから。孔ちゃん何かいいアイデア、ない?」
松江が軍師並に頭の切れる自身の使役、孔ちゃんに聞いてみる。
「そうですね、特技や趣味を活かす。やって楽しい物を仕事にするのが良いと思いますよ。えり様は何をしている時が楽しいですか?」
「野菜を理央と収穫して、それを料理するのが今は一番楽しいですね。あとは推し活ですが……」
「えり、元からそうだけど、最近、また料理の腕上がったよね〜!あたしさ、異国から戻ってえりの料理食べるとホッとするもんね〜」
「そうよ!お母ちゃん(友子)の言う通り!美桜と雅も、朝に理央ちゃん達と野菜を収穫するの好きなの〜」
皆がそれぞれ意見をくれる。
「そうだ!えり、理央と二人で食事処をやるのはどうでありんすか?屋敷の裏山辺りなら、屋敷に人が入ることもないですし」
「心、それいいわね。裏山なら一応敷地内だし、お爺さまも心配は少ないと思う。小さなお店なら建てる手間も少ないし。理央どうかしら?」
「いいですね、えり姫様。それなら菜園の野菜も余らないし。その日収穫した日替り定食のみ!これでやってみましょうか」
話はトントン拍子に進み、3ヶ月後には食事処「さくら亭」が開店する事になったのだ。
「平松の宮様邸に食事処が出来るって」
「しかも宮様のご親戚に当たる、えり姫様御自らが、お作りになるっていうよ」
「それも随分割安だってさ」
と、江戸ではもっぱらの噂になっている。
「皆、さくら亭の話題で持ちきりでありんすね〜。
初日はまるちゃんと孔ちゃんを手伝いに行きますよ
きっとお店は成功しますよ。頑張って!」
心から励ましの手紙をもらい、緊張の糸がほぐれてきがして、ホッとした。
「心、No1になってから、会える回数が減ったなぁ。クセつけなきゃって私達にも敬語だし。体調は大丈夫なのかな?」
えりは手伝いには感謝しつつ、心の事も気になっていた。
いよいよさくら亭の、開店日。初日から客は長蛇の列だった。客人が5、6組とカウンターだけの小さな店。庭もこじんまりとしているが、座って庭を見ると、
「綺麗な庭だねえ……」
客人の誰もが口を揃える。
小さな小川が庭を通って、満開の桜の木が一本だけ。あとは菫とレンギョウが咲いていて、小さいけど春満開の庭。
「何だかホッとするお茶碗達だねぇ」
茶碗と茶器は素朴な焼き物に、色とりどりの野菜のおかずが並ぶ。
「野菜がとてもみずみずしいね〜シャキシャキしてるよ」
「はい。敷地内で育てたものですよ。えり様もお育てになってます」
理央がにこやかに、料理の説明をしている。
「ここではえり様と呼ぶように。お客様が緊張してしまいますからね。笑顔も忘れずにね」
孔ちゃんから、お客様への心得として言われているのだ。
「お待たせしました。今日の日替わり定食は、しらすと高菜の雑穀米おにぎり。
なすの味噌汁。焼き魚。ほうれん草のおひたしですよ。雑穀米は、脚気の予防になりますからね。」
「は、はい!」
孔ちゃんが見たことのない極上の笑顔で接客している。
「出来たぜ。日替わり定食。説明は、えっ〜とさっき話してたやつだ!美味しいぜ。食べてみな」
まるちゃんも頑張って接客する。
「ふぁい!わかりましたぁ」
……何だか説明はどうでも良さそうだ。イケメン二人の接客に、料理人の理央とえりも美男美女。
(あ〜あ、ちょっと見に来たら店は大丈夫そうだけど、違う意味で流行りそうだね。ふふっ)
友子は気になって様子を見に来ていたが、開店祝いの花を置いて、異国に行くため直ぐにその場を後にした。
◆
そうして目まぐるしく時は過ぎ、今は3ヶ月目。
「やっと2人でお店をやっていけるようになりましたね。理央」
「本当です。えり様。野菜の収穫も、こちらにいる時は、美桜ちゃん、雅ちゃんが。
時間の空いた時に、まるちゃん、孔ちゃんも配膳など手伝ってくれますし。ありがたい事です」
「これからもよろしく理央。頼りにしてます」
えりはそう言って、お店の片付けを続ける。
理央はその姿を見て、思っていた。
(本当にこれでいいのだろうか。私はたださくら亭でえり姫様にお仕えするままで……)
最近、ふっとこの考えが理央の中に浮かんでくることが多い。
(姫宮として、宮中奥深くで過ごす。
これは、今のえり姫様にとって、幸せではない。
さくら亭をやる事自体、えり姫様は楽しそうだ。
だが、何かが足りない気がする。
えり姫様、成人のお披露目のあのお姿。
心様の作った打掛をきた、まばゆいばかりのあの姿。
誰もがこれぞ日の本の姫宮様だと思っただろう。
姫様は本当にお食事処が仕事で良いのか?
えり姫様の良さが生かせる何かが、他にもあるのでは?
そして私にも、えり姫様の為に何か出来る事があるのではないか?だがそれが何かは分からないのだ)
ここ最近ずっとこの繰り返し。
庭の掃除をしながらふと思った。
(そうだ!私の友人達に相談してみよう。
来週、友子様が異国から戻られるので、皆揃っての宴が久しぶりにあるのだ。きっと私にない考えを貰えるだろう。皆に会うのも久々。楽しみだ)
理央は店じまいをして、えり姫様と平松の宮様邸へ戻っていった。




