26 治助様 松竹亭で待つ
遅れましたが投稿します。読んで頂けると嬉しいです。
宵の口、灯りが華のように吉原を包む。吉原の入口にある見返り柳。
その柳に小さな小鳥が一羽とまっている。夜目が利かないはずの小鳥は、柳の木で一休みすると、天女楼へ向かって飛んでいった。
◆
夜の帳が下りる頃、松竹亭の玄関へと続く小道には、蛍火が舞っている。蛍が心花魁の簪に留まり、ゆっくり光り出す。
「わぁ、綺麗。みて紅」と豆助。
「本当だ。このまま簪の飾りにならないかなぁ……」
そう言って、二人は蛍を追いながら小道を歩く。
(あっちが留守だったからか……二人は少し子供返りしてますね。もう少しそっとしていきましょうか)
私はそのまま松竹亭に入った。
離れに入ると、松江が入口で待っていた。
「ようこそお越し下さいました。
心花魁 治助様がお待ちです」
「あら、流石に素早いですね松江あっちは驚きました。」
「いやあんた、せめて明日にしてよ。また治助様があんたのために色々オーダーしてくれて。大変だったよ。結局友子にもお願いしてさ……」
「それはもうし訳ありませんで。ですが、あっちが今日治助様にお願いして丁度良かったみたいですよ」
「いや そうみたいね。では心花魁、参りますか」
二人は揃って、治助が待つ奥の間へ向かった。
「心花魁久しぶりだね。体は大丈夫?元気にしていたのかい?」
「あい。治助様ありがとうございます。それにしても何と美しいしつらえでござんしょう。あっちは感動しております」
夏に涼やかな白いよるがおが、縁側に蔓を這わせて咲いている。夜に白い花が浮かび上がり何とも優美な姿。
部屋の中にはムラサキクンシランが生けてある。名前の通り紫色が涼やか。この花は江戸ではまだ珍しい。きっと友子が採集して育てていたのだろう。
私が思わずうっとり眺めていると
「花魁、少し目を閉じておいで」
「治助様なんでござんしょう?」
治助様に言われ、私は目を閉じる。
「目を開けてごらん?」
私が目を開けると、治助様が光る花束を持っている。
その花束は、花の一つ一つがゆっくり光ったり光が弱まったりを繰り返している。
「ああ、何て綺麗なんでしょう!あっちはこれ、好きでやんす!」
「ああ!好きでやんすと言ってくれたね。嬉しいよ。この花はホタルブクロだよ。ちょっと花に細工があるのか、蛍がじっとしているんだ。私もこんなに長く光るのは初めてみるよ」
実際は蛍を花の中にいれる事はないと聞く。子供が入れて遊びそうだからとついた名前だとも……でもこの花束は素晴らしい。
「どうだい?花魁。少しは元気がでたかい?ずっと会えないのは何か訳があるんだろう?少しでも気が晴れればいいと思ってね……」
「治助様……。」
(いい人だなぁ。ちょっとキュンとしちゃった。心がアラフィフでもやっぱり嬉しいものね。)
治助様の優しさで柔らかい雰囲気に包まれていく。
すると治助が得意になって話す。
「植物採集人のお友様に頼んで作ってもらった花束なんだよ。お友様も花束の世話係で来てるしね。
本当は蛍も少し季節外れだろう?
これもお友様だよ。凄いねぇ」
「どうですか?心花魁 お気に召しましたか?」
小さな灯りを持って、友子が半笑いで姿を現した。
(わあ、友子ごめん。ちょっといや大分面倒かけたね(汗)
そして治助様、得意げな顔がちょっと残念。いや可愛いけどさ)
私は心の中で謝り、友子に目配せをした。
「治助様 友子様 松江様もわっちのためにありがとうございました。治助様が良ければ皆で少しお話しませんか?」
「それはいい!皆で話をしようじゃないか。花束の作り方も聞きたいねぇ」
治助様は快く、喜んで皆を迎える。
……がここで治助様へ急な知らせがきた。
それを聞いて治助様は笑顔になり、
「花魁、今左大臣の遠衛様がおいでだそうだ。心花魁に用があるらしい。
急な事だが、お通ししようと思う。
いいだろうか」
「わっち何かに何のご用でござんしょう。勿論お通し下さいませ」
「きたね左大臣。蛍じゃないけど飛んで火に入る夏の虫ね!」
私が小さく呟くと、
「上手い!」
思わず友子と松江が言ってしまう。
(心が昭和ってこういう事ね。ホント好きだわ〜)
私はくすりと笑った。
治助様は
「どうしたものか?」
何のことだか分からず首を傾げている。
そうしていると左大臣遠衛様がやってきた。
(よし。ここからだわ)私は気合いを入れた。
治助様、惜しい!




