9 植物採集人のお友
目の前にいる前世の親友だった友子は、とても生き生きと輝いていた。
何故か端正な顔立ちよりも、くるくるとよく変わる表情に目がいく。
あちこち植物採集に出る為か、よく日に焼けている。
髪は栗色で、その髪によく似合う鶯色の組紐で丁寧に一つにまとめていた。
白い歯を見せて笑う彼女は、人懐っこい印象で、誰もが一目で好きになる雰囲気を持っていた。
また、特筆すべきは、何ともいえない見た事のない様な派手な柄の旅装束だ。
「見たことのない柄の装束だのう」
平松の宮様が尋ねる。
「『亜布利華』という地域の生地でございます。汗も良く吸い、派手なこの柄のせいで、山の獣たちも怖がり寄ってきません……
まぁ柄行が気に入っているのもあるのですが」
お友が笑顔で話している。
(いやぁ 相変わらずド派手な柄の服を着てるねぇ!
でも不思議と友子にはめちゃくちゃ似合うんだけど。
やっぱり前世は思い出せないんだね。でも私は会えただけで嬉しいよ)
心は笑顔でお友をみて言った。
「お友様!なんて素敵な柄なの 私、凄く好きだわぁ その柄で浴衣作って、宮爺と花火を見に行きたいものねぇ。ね!宮爺」
「いや、あんたの顔じゃあ柄行に負けちゃうでしょう。無理無理」
と松江。
「え〜好きなのにぃ」
心は嬉しそうに笑いながら言った。
「心花魁に合うような柄行も、異国には沢山ありますよ。勿論松江様にも!」
お友は笑顔で続ける。
「本職は、薬問屋の娘です。薬草採集が目的で異国に行っています。直接見ると、お客さんに効能を説明したり、生活指導の時に役立ちますし。
そのついでに、今回の様に珍しい草木も、注文を受ければ採集するのです。
異国では植物採集人はプラントハンターといい、専門家として活動しているそうですよ。
また、薬問屋なので異国とも取り引きも多いです。
私は、あちらのプラントハンターと一緒に異国に植物採集しに行く事もありますよ〜
まぁ色々な国の山々や自然が好きなので、趣味で行っているような物ですね」
(確かに薬問屋は薬草採集は必要だろう。でも、自らやらなくても。相変わらず山や自然が好きなんだ。
前世も冬山を登る本格的な山ガールだったし。
今世は薬問屋なんて!訪問看護師をやってた友子にぴったりじゃない!)
心は友子の話を聞いて、ワクワクしていた。
「異国まで行くなんて、凄いですよ。お友様」
どうやら松江、かなりお友様が気に入っている様子。
うん!互いに分からなくても、うちら前世の学生時代からの親友なんだから!そりゃあ気に入るよねぇ
心は嬉しく思っていた。
「いやぁ〜お恥ずかしい。好きな事をやってきただけなんですけどねぇ」
お友は照れている。
「なんて素敵なんでしょう。私、そういうの凄く好き!もっと異国の事、色々聞かせて下さいな、お友様!」
「ははは、『私はこれ、好きでありんす』だな!心花魁よ」
宮様も嬉しそうである。
その時、お友の懐から何かが飛び出した……
飛び出してきたのは、二羽の可愛らしい小鳥だった。全体的にはうぐいす色でくちばしと羽根の先が赤橙色。顎下からお腹にかけては薄い黄色から山吹色のグラデーション、とても鮮やかで美しい小鳥である。
「こら!美桜!雅」お友は慌てて二羽を懐に戻そうとする。
「あら、なんて綺麗な小鳥でしょう! こんな鳥は初めてみます。
どうかよく見せて下さいな。
別にまるちゃん、孔ちゃんも食べたりしませんし。ねぇ宮様」
「構わん構わん。しかし江戸で見るのは初めてだ。相思鳥かね?」
「はい、宮様。私が異国に行った時、採集した木の枝に、卵が二つ残った巣がありまして。その卵から私が育てたんですよ。
なのでこの美桜と雅は姉弟です。仲が良くていつも一緒です。
植物採集に行く際、美桜と雅がいると山道に迷いません。私はとても頼りにしてるんです」
お友が美桜と雅を腕に乗せ二羽の小さな頭を撫でながら答えた。
◆
お友は薬問屋の一人娘として生まれた。
小さな頃は喘息があり、江戸から少し離れた村で育った。喘息の調子がいい時に山に行くと、いつも山神様がお友を迎えてくれた。
「山神様、こんにちは。これから山に入ります」
「入ることを許そう。今日は午後から雨が降るから気をつけての」
山神様は、お友に山の事や気候の事を教えてくれた。
「お友久しぶり」「元気だったの?」
「しばらく見ないから心配したよ」
山の木々や花々も、サワサワと葉を鳴らし嬉しそうにお友に話しかけてくる。
薬草を取る時は、いつも山や草木の精霊が次々に、
「この先にあるよ」「今丁度採り頃だよ」
と、欲しいもののありかや旬を教えてくれていた。
「いつもありがとう 助かるよ」
と皆と話しながら植物採集をしていた。
その為、お友はどんなに貴重な薬草も必ず採集する事が出来た。
(植物採集も異国の山神様や、植物達とお話できてまた楽しいのよね……)
◆
そんな事を考えていると、美桜と雅がお友の手元からいなくなり、まるちゃんと孔ちゃんの二匹に向かっ
て飛んでいった。
「あ!こら!大人しくしてなさい」
お友が言うのも聞かず、二羽の小鳥は二匹の周りを何回か飛ぶと、いつの間にか、美桜と雅は、二匹のふわふわな毛にうもれて、そこでくつろぎだした。
「わぁ何て可愛らしいの!動画撮りた〜い!」
「は?何ですか心花魁?」
お友が言った。
「いや 可愛いすぎてどうにかしたい…って言ったの」
(危ない危ない 二人がいるとつい前に戻ったみたいで。気をつけなきゃ。)
心はヒヤヒヤしながらごまかした。
「まぁまぁ せっかくだからもう少しお友様の異国での話を聞こうかね」
宮様の一言に、お友が続きを話そうとしたその時、
「う〜ん…」
治助様が目を覚ましそうになった。
「これはいかん、時間が無くなってきている。
では本筋から話そうかな。実は私から折り入って御三方に頼みたい事があってな。
今日はこれが目的で三人に会いたかったのだ」
「何でございましょう。宮爺から頼みなんてめったにないことでありんす。わっちに出来る事は何でもしますよ」
「私達も同じです」
松江とお友も同意した。
既に三人は息がぴったりだった。
「皆ありがとう。では治助が目を覚ます前に、話すとしよう」
心花魁は禿二人に、松江様は仲居の輝に、それぞれ席を外すよう言った。
「それはな。私の孫のえり姫の事なんだよ」
宮様が話し出した。
宮様に孫の姫がいたなんて……。
皆は全く聞いた事が無かった。




