15.呪い
「ここがあなたの部屋よ、必要なものは予め揃えていると思うけど……何か欲しいものがあったら言って。」
彼女から案内され、俺はギルドが用意してくれた部屋に入る。
部屋は大体六畳程度だろうか、備え付けのベッドと机があるせいで少し狭く見えてしまうものの、人ひとり生活する分には問題ない広さだ。
「案内してくれてありがとう、助かった。」
「……私は頼まれたことをやっただけだから。そんなこと言われる義理はないわよ。」
そう言って、彼女は俺の部屋にあるベッドを椅子代わりにして座る。
「ま、それに別に頼まれなくてもどのみち私の方から出向いてたしね。ちょっとあなたのことについて────色々と聞いておきたかったから。」
「そ...そうか......」
なんか、大違いだ。
人形の中にいた時は大人しそうな人だなって思っていたのに、いざ中身と対峙すればこんなだったなんて。……いや、人形の中にいる時の声の通りが悪かっただけで常時彼女はこんな調子であったのかもしれないが。
「で、話って一体なんだよ?」
「……そりゃ、あの手のことついてに決まってるじゃない。単刀直入に聞くけど、一体あれはどんな魔術なの?魔術は人が人ならざる力を使用できる技術だけど、それにしても限界がある。あなたが使ったような身体の構造を根本から変えてしまう魔術は魔道という学問において前例がない。」
「う...それは......」
言うべきなのだろうか。
実は俺は記憶喪失で、この魔術かどうかも分からないものも、前の俺が持っていたものが偶然今の俺にも使えて────みたいな。
「俺にも、何がなんだかで──それに実を言うとあの魔術を使ったのもあの時が始めてなんだ。」
……いや、このことは言うべきじゃないだろう。どうせ話した所でその魔術?について分かるようになるわけでもないし話を更にややこしくさせるだけだ。
……別に、そのことを隠して罪から逃げようとしている訳ではない。俺は、俺がやったことの全てを知った後に、このことについて言うべきだと思う。俺は犯した罪と向き合い、そして償って、自分がして来たことへの侘びをしたいのだ。
「そう、分からないなら別に良いのだけど……これだけは忠告しておくわ。あの魔術、乱発するとあなたの身体が死ぬわよ。」
「...え?」
「そりゃそうでしょ。たった一回の使用だけで魔力が切れて気絶だなんて、相当危ない。あの魔術をこのまま使い続けていたらいつか身体が耐え切れなくなって崩壊する。身体が崩壊したらあなた、制御か利かない暴れ馬のように自身の生命魔力をまき散らして最後には……まあ、こんなことにはならないよう肝に銘じておいて。」
そう言うと、彼女は席を立つ。
「私がしたかった話はそれだけ。それじゃ、長居をするものでもないし私はこれで失礼するとするわ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
部屋から出ようとする彼女を、俺は呼び止める。
「……どうかした?」
「名前...名前は何と言うんだ?」
俺がそう聞くと、彼女は不思議そうに俺を見つめて、
「あら、知らなかった?私の名前は人形────
「違う、そんなんじゃなくて。ギルドで使ってる名前じゃなくてもっとこう......」
気軽に呼び合える名前を。
「……なに、あなた私の本名が知りたいわけ?私はクリス、クリス・リーデクラストよ。これで満足した?」
「クリスか......良い名前だな。──うん、人形使いよりかよっぽどいい名だ。」
「っ────とにかく私はもう行くから!それじゃ!!」
照れ隠しのように彼女はそう言うと、部屋のドアノブに手をかけそれを回す。
「最後だから言っておくけど、あの時私を助けてくれて……ありがとうねレイン。」
そう言って、クリスは部屋から出て行ってしまった。
今の……お礼だったのか?
大分強引でその場じゃ聞き流してしまったけど、多分それだろう。クリスも中々にヘンな奴だ、最初俺のところにふらっと来て忠告をしに来たと思えば最後にゃお礼を言われてしまうなんて。
「はぁーーなんか疲れたわ。」
俺はさっきまで彼女が占領していたベッドに倒れ込む。さっきまで寝ていたと言うのに、身体はやけに重い。きっと最近色々なことがありすぎて身体が順応出来てないのだろう。
「取り敢えず今日は部屋の整理してギルドのみんなに挨拶してからリアに会って......」
やる事が山積みだ。
……でも、今は少し休息を取ろう。
「ちょっと休憩したらまた部屋でねぇとなぁー」
俺のギルドでの生活が、今始まったのだった。




