眼帯姫と歴代最強魔王
「こちらとしましては、一度聖国を訪ねて頂きまして、眷属の方と面会をお願いしたいのですが。」
「あ、はい。そうですよね……。」
「気が重いのですか?」
「あ、すみません。多分、話だけ聞くと捕まったのはおじじだと思うのですが、」
「おじじ?」
「祖父の眷属です。何代前の魔王だったかな?五代?」
「若者の姿だとお伺いしておりますが。」
「眷属は歳を取りませんから。魔族もですけど。」
(なにそれうらやましいっ!)
チェレステの感想である。
「今まで連れ去った聖女は?」
「不老長寿にして今でも生きている人と、発狂した後に衰弱死した人と自害した人がいます。生きてる人でも、まともなのって一人くらいなんじゃないかな。前回の代表が連れ去った聖女の方なんですが。」
百年前の聖女が今でも魔界で生きている。彼女は記録によると身元の分からない孤児で、魔力量も聖力量も豊富。悲しいかな、彼女に足りないのは身分であった。他国の者であるが、当時は相当コキ使われたと聞いている。もしかしたら喜んで自ら魔界へ行ったのかもしれない。
「その方はお元気なの?」
「はい。今回も来る時に激励に来てくれて。可哀想な力のある聖女がいたら連れて来いって言われました。聖女なんて超絶ブラックだし、神殿内部も腐ってるから、絶対にこっちにいた方が幸せだって説得してあげるって。」
チェレステは頷いた。平民で力のある聖女というのはまずいないので、彼女は恐らくその国の王家筋の御落胤なのだろう。割と性に奔放なお国柄であるから、あり得なくもない。
高貴な身分の聖女はきっとプライドが許さないのだろう。魔界では聖女は子を成す以外は自由で贅沢が出来るというが、無理矢理攫われて辱めを受ければ精神が崩壊するのは当然のこと。その聖女は相当母国と神殿への不満を溜め込んでいたのだろうとチェレステは思った。
(私も不満だらけだけどね!)
先輩に同調して頷くチェレステを横目で見るアルフォンソは僅かに眉根が寄っている。彼もまた世渡り下手が影響して、出自の割にコキ使われている方の聖者であったが、理性の方が優っている。
「絶対、おじじに怒られるぅ〜!」
「ドシテ?」
「だって、お嫁さんも見つけられず、勝手に和平交渉しようとしてただなんて、絶対怒られるよ!うわぁ、帰りたくない!」
「ですが、代表である貴方の意向に従うという不文律があるのですよね?」
「はい。それは絶対です。絶対ですが、反対意見を言うことは違反にはなりません。眷属や部下の魔族に説得されて方針を変える場合もありますから。」
「貴方もその可能性が?」
「ないとは言い切れないです。いや、ないはないんですけど押し切られるというか、言質を取られるというか……。」
「しっかりしてください。貴方だけが頼りなんですよ。今後魔界からの侵攻がなくなるのであれば、これまで防衛にかけていた予算を削ることが出来ますし、貿易が開始すれば互いにより一層豊かになるでしょう。いいこと尽くめなのですから、ここは己の信念を曲げずにですね。」
「そうは言ってもおじじなんですよ!?何でチェンじゃないの!?おじじ、俺の軍勢でもないのに!チェンが頼ったのか!?くっそぉ、裏切ったな、アイツ!!!」
魔王はとうとう頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。悩める魔王のうめき声をBGMに、チェレステとアルフォンソの会話が始まった。
「魔族は皆美しいと言うわ。魔界へ嫁入り志願する聖女もいるんじゃないかしら。」
「ご自分と他の者を同じく考えないでください。」
「わたくしは顔で選んでるわけじゃないわ!」
「魔族は基本的に暴力的で野蛮です。この方が特殊なだけでしょう。」
「でも、花嫁になった聖女は大切にされるって言ってたじゃない!」
「廃人や自殺者がいるのに大切にされているとどうして言えますか。」
「それは戦争の捕虜として捕まってるからでしょ!ちゃんと交流すれば、行ってもいいと思う子だっているはずよ!」
「希望的観測に過ぎませんね。」
「頭でっかちの分からずや!」
この二人はいつもこんな感じなので騎士はほったらかしにするのだが、エリザベッタたちはそんなことを知らないので口論を止めようとアワアワしている。
「あの、俺のためにケンカなんかしないでください……。」
「ですが」
「ケンカはよろしくありません。」
「でも!」
「お見苦しいことこの上ないですよ。」
アルフォンソも元は貴族の一員。ヴィオランテの一言の重みは身に染みている。二人は押し黙った。
「それと彼を王宮に連れて行かれるつもりのようですがおやめなさい。」
「なんでよ!?」
「何かあったときに武力的対処しか出来ないからです。あそこの人間が大半吹っ飛んだとしてもなんとかなりますが、神殿に滞在してくださった方が我々で抑え込むことが出来る。」
「王宮にはわたくしがいるのだから問題ないわ!」
「貴女しかいないでしょう?貴女は彼に絆される可能性がある。今の発言が偽証だった場合、人間世界を裏切ることになりますよ。魔王に騙された間抜けな聖女として歴史に名を刻みたいですか?」
「クワンさんは嘘なんかついてないわよ!」
「神殿本部との交渉の席が整うまで、こちらにいらしてくださいますか?」
「は、はい。殿下、神官長の仰る通りですよ。疑惑が晴れるまでは神殿でお世話になります。それに……。」
「それに?」
「明日からも仕事が入ってるんで。こっちからの方が通いやすいです。行かなかったらゾーエおばばに殺されます。」
「ゾーエオババ?」
「近所で最高齢のお婆さんです。怒るとメッチャ怖いんですよ!」
人間のお年寄りに怯える魔王など、魔王を名乗っていいのだろうか。エリザベッタはそう思ったが、差し入れをよくくれるというので彼はなんだかんだでおばばに懐いているのだろうと思った。
そろそろ一度王宮へ行って騎士団長と話をしようと席を立とうとしたとき、アルフォンソが最後に一つだけ、と魔王に尋ねた。
「金の月が昇らないのは何故ですか?」
「ああ、アレは魔族のための魔力の外部電源ですから。アレがあると皆さん怯えますでしょう?俺は別にそんなことしなくても元の器が大きいんで、やんなくてもいいんです。」
「外部電源?」
「バッテリーなのね。」
「そんなたくさんの魔力があるのに、魔力を抑え込めるの?」
「コントロールは得意なんです!強い人と戦うときに相手を油断させられるでしょ?俺の魔力を全力で放ったら、魔界にいる魔族全員平伏するレベルらしいんで。歴代で最大量の魔力なんだそうです。小さい頃はそのせいで誰も近寄ること出来なくて、何とか耐え切ったおじじと祖父に面倒見てもらったんですよ。この前は月に魔力を半分以上注ぎ込んだんで、何とか互角で戦えましたね!全力でいけば殲滅戦になったんですけど、それでチェンに怒られて。交渉しようって相手を殲滅してどーすんだよって話ですよ、ホントに。アイツら、昔のやり方に固執しすぎですよ。」
チェレステは血の気が引いた。あのとき、最後まで立っていたのはチェレステとランベルトだけ。次にピエトロ。その次がピエトロとランベルトの全回復をして倒れたアルフォンソだ。
(私と師匠でも太刀打ち出来ないじゃない!)
師を見れば、同じように青褪めている。
「マオーハツヨイ!」
「あんまり使い所ないんですけどね。」
不安は募るばかりであった。
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