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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫は揺るがない

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★★★★★つけて下さった方、ありがとうございます!


毎日午後八時に予約投稿の予定です。

下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

 美しく飾られて、最後の仕上げと真新しくも禍々しい黒に金の刺繍の入った眼帯をつけたエリザベッタは昔を思い出した。

 ぽつりぽつりと使用人が減って行く毎日の中で「これだけは守りなさい」と見知らぬ女性に言われた言葉がある。


〝外に出るとき、人と接するときは必ず右目に眼帯をなさってください。〟


 とはいえ、四歳時分の眼帯などとうにサイズアウトしていた。はて、どうしたものかと思ったときに見つけたのが医療用の包帯だった。故に、眼帯が入らなくなってからは右目を隠すように包帯を巻いていた。

 父親には母の死の床で、「魔の色は近づくな!」と怒鳴られた。即刻、使用人によって別室へ連れて行かれ、お陰で母を看取ってやることは出来なかった。葬儀にすら出席させてもらえなかった。対外的には悲しみに打ちひしがれて欠席となっていることをエリザベッタは知らない。


(父親とした最後の会話ってアレだったな〜。)


 などと思っている間に、国王がいる部屋へ通された。てっきり謁見の間のようなところかと思ったが、私的な空間のようだった。これはマナーを知らぬエリザベッタにとって少しだけ気が解れることだった。


「エリザベッタか?」


 自分を見据える王の視線に思わず唾を飲み込んだ。ここでの礼儀は知らないが、幼い頃、離宮で母が父を迎えるときにしていたお辞儀を記憶の底から引っ張り出して真似をする。

 が、言葉が出ない。この国の言語をほとんど知らないからだ。困った。


「エリザベッタ、デ、ゴザイヤス。お父様。ゴキゲンヨー。」


(あ、やべ、しくった。)


 発音の覚束ないエリザベッタなので、前世の言葉で言うならば「ございます」が「ございやす」になってしまった。羞恥に目を強く瞑る。しかし、この後はどうするのが正解なのか。また間違ってしまうことに恐怖するエリザベッタである。


(こういう時って許しが出るまで顔を上げちゃいけないんだよね!?)


 ハラハラドキドキ、エリザベッタは父王から声がかかるのを待った。けれど、待てども待てども声がかからない。


(あれ!?違ったの!?)


 上げるのも怖いし、下げ続けるのもつら……くはなかった。ヴィオランテの見解は正しい。彼女はサバイバルを生き抜いた野生児そのものである。多少の文化的生活はしていたが、日々の暮らしで身につけた体幹は前世の世界ではカーテシーと呼ばれていたであろう姿勢を保つことは容易であった。


「本当に……教育を受けさせてなかったのか?」


「畏れながら申し上げます。エリザベッタ殿下におかれましては報告書通りでございます。お会いしてから今まで、殿下がご理解なさったのは僅かな単語のみでございました。」


「ではこのカーテシーは誰に習った!?」


「ワタシ、ハ、アタマ、アゲル……イツ?」


 何だか長引きそうだと思ったエリザベッタは揺るがぬカーテシーのまま誰にともなく訪ねた。もう無礼と言われても構わない。殺されるのは御免だが、放逐してくれればいい。そんな心境だった。


「エリザベッタ殿下、頭をお上げになってよろしいですわ。」


「ハイ。」


 父の言葉ではないがお言葉に甘えよう。国王に対して毅然とした態度を取るヴィオランテの言だ、きっと父も文句は言うまい。そう思い、エリザベッタは姿勢を正した。かつて見た、母の立ち姿を思い浮かべながら。

 ピシリと背筋を伸ばした瞬間、父王と目がかち合った。その時に初めて、エリザベッタは父の名を知らぬことを思い出した。


「ジュリエッタ……。」


(そう。お母様はジュリエッタ。でも、お母様はこの人のことをいつも「陛下」って呼んでた。だから名前知らないんだよな。なんて言うんだろ。聞くのは失礼かな。まあ、知らなくても生きていけるか。)


「よく、似ている。」


「ワタシハ、お母様ノマネシタ、イマ。ジョウズ?」


 エリザベッタは知っている単語を並べた。父王が懐かしむような瞳でエリザベッタを見たからだ。きっと、かつての母を思い出しているに違いない。


「あ、ああ。出会った頃と見紛うほどにな。」


 「ああ」しか理解出来ないエリザベッタは首を傾げた。ボディランゲージは大事だ。でなければ誰ともコミュニケーションが取れないのだ。これくらいは許してもらいたい。というか、その他の無礼もお許し願いたい。今日で今生の別れだと思って色々疑問をぶつけてみようとエリザベッタは思った。……語彙力の許す限り。


「お父様、ワタシハ、魔の色。お父様、来るな。言った。ワタシハ、ヨブ。ナゼ?」


「陛下、殿下にそのようなことを仰ったのですか?」


 ヴィオランテの睨みにぐうと唸った国王は気まずげに視線を逸らしたが、机を叩くとすぐさま八つ当たりのように怒鳴り散らした。


「ジュリエッタの今際の際にこの娘が来たのだ!魔の色は死を呼ぶ色だ!当然のことだろう!!」


「娘なのですから母親を看取るのは当然の権利でございます。……まさか、葬儀に出席なさらなかったのも?」


「来る、ダメ。言った。シラナイ人ガオシエタ。お父様、王妃様、ダメ。言った。お母様が死んだ。ワタシノセイ。」


「まあ!なんてこと!!陛下!?」


「ええい、うるさいうるさい!!」


「わたくし、そのような非道な人間に育てた覚えはございませんわよ!?」


「いつまでも乳母面するな!私は国王だぞ!?」


「そんな意識でいるから妻に寝首をかかれるのです!少しはお改めくださいませ!!」


「正妃じゃない!正妃の実家だ!!あの家が悪いんだ!!!」


「同じことでございます!!」


 お互いに早口で捲し立てているのでエリザベッタには全く聞き取れない。ポカンとした顔を晒すのもみっともないと思い、ずっと微笑みのまま直立不動で立っている。「陛下」「乳母」「正妃」「少し」「悪い」聞き取れた単語をつなげても意味が分からない。だがその曖昧な微笑が父王の機嫌を損ねてしまった。


「さっきから何をニヤニヤと!やはり魔に取り憑かれた忌み子だな、お前は!!」


 男の大きな声で怒鳴られたので肩を揺らしたが、やはり意味は分からないので微笑み続けるエリザベッタ。激昂した国王に対し、ヴィオランテは冷ややかな視線を浴びせた。


「もう結構です。今までお会いにならなかったのですからこれからもお会いにならずともよろしいですわよね?殿下はわたくしが引き取り養育致します。エリザベッタ殿下。こんなところに連れてきてしまい申し訳ございません。伏してお詫び申し上げます。あの離宮からお引越し致しましょうね。では、陛下。御前下がらせていただきますわ。」


「待て待て待て!本題がまだ済んでない!!」


「このような状態の殿下に務まるお役目ではございません。幽閉中の正妃腹の姫でよろしいではございませんか。今更出し惜しみするような姫君ではないと存じますが?」


 とうとう国王は怒髪天を衝き、立ち上がって机を叩きつけるとその天板が割れた。エリザベッタは驚いて、それまで保っていた姿勢を崩してしまい、慌てて元の姿勢に戻ったがヴィオランテに手を引かれて退室を促された。


「待てと言っておろう!」


「お話になりません。お断り致します。」


「私は国王だぞ!?」


「無闇に怒鳴り散らすだけの小物では?」


「ふ、ふ、不敬だ!おい、そこの騎士!コイツを切れ!娘ごとだ!」


 エリザベッタは父王とヴィオランテの会話を顔を忙しなく動かしながらどうにか聞き取ろうとしたが無駄な足掻きだった。世の中には知らない方がいいこともある。この時ばかりはヴィオランテもエリザベッタが言語を理解しないことに感謝した。


「親の言葉とは思えませんわね。貴方がた。あの愚鈍な王の言葉などに耳を貸してはなりませんよ。せっかく助かった命ですもの。大切になさいませ。」


 「はっ!」と扉の前に立っていた二名の騎士は敬礼をしてヴィオランテに従った。国王は何やら叫び続けているが、静かに扉が閉められ、何かがぶつかった音はしたが追いかけて来ることはしなかった。

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