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第146話 チャンス



「チャンス、でございますか?」


 今ひとつ俺の言った意味を計りかねている様子のシーナさん。

 彼女は普段ゲームをしないっぽいし、この反応は予測済みだ。


「うん。邪神の眷属と闘って、弱点とか攻撃パターンなんかを探ろうと思うの。そうすればどの程度のプレイヤーなら対処できるかもわかるでしょ? もしかしたら邪神そのものの力を推し量れるかもしれないしね。そしたら本番に備えて戦略も立てやすくなるよ。つまり、データ取りも兼ねての前哨戦ってこと(解析は頭でっかちのハカセたちに任せるけどね)」

「……後々のことにまで気を回せるなんて……アキお嬢さまはなんと賢い子なのでございますか!」

「むぎゅううう」


 振り回すように俺を抱きしめるシーナさん。

 思いのほか力強い、と言うことはかなりSTRに振っているのだろう。

 ヒナはしたり顔で『さすが私のアキきゅんです』と何度も頷いているが、早く助けて欲しい。このままでは乳の暴力で圧殺される。

 まさかヒナのヤツ、今や俺より胸が小さいからその腹いせにわざと放置してるんじゃ……?


「で、どうするんですアキきゅん? 一応みんなにもメールは送りましたけど、待つんですか?」

「へっへっへー」

「……ですよねー。アキきゅんですもんねー」

「???」


 シーナさんはまたもや訳がわからないと言った顔をしている。

 しかし、ヒナがインベントリから杖を出したことで状況を察したようだ。


「もしや我々だけですぐに始めるのでございますか?」

「うん!」


 ニッコリ笑顔でキッパリ返事した俺に面食らったシーナさんであったが、彼女も格闘技を嗜む者。瞬時に戦闘モードへ頭を切り替えたらしい。

 武道家……いや、修道僧は話が早くて助かる。それに、そろそろ俺たちのゲーム脳に慣れてきたと言うのもあるのだろう。


「腕が鳴りまくりでございます。じゃらじゃら」

「オッケー、決まりね。じゃあ、わたしが宰相さんと話を付けてくるから」


 シーナさんのベアハッグを脱け出し、囚われのクレオを注視しながら宰相へ近付く。

 クレオは時折顔を上げて俺を見つめるが、どうやらこれはルーチン的な行動のようだ。

 そんな部分だけは普通のNPCらしくプログラミングされているあたり、【OSO】の開発陣は本当に悪趣味である。


 宰相は宰相で大仰な言い回しに、悪いのは自分たちではないと言い訳も長々しい。

 なので、鬱陶しい会話をとっとと打ち切り、現れた選択肢から『眷属に立ち向かう』のボタンを連打しまくってやった。

 ちなみにもう二つ選択肢があって、『自らが生贄となる』と『見捨てる』があった。

 『二択じゃなかったんかい!』と思いつつ、どちらも押したらどうなるか気になったものの、試す勇気があるほどの鬼畜ではない。相手がNPCとは言え、クレオと俺は友人なのだから。


 ────しかし、確かに押下したはずだが、なにも反応がない!


 まさかと思ったが、『自ら生贄となる』のボタンも反応しなかった。

 おいおいおい!

 強制一択とか冗談だろ!?

 ふざけんなクソ運営!

 選べるかそんな選択!

 バーカバーカ!!


 心中で全力罵倒をしていた時、いつの間にか眼前に立っていた宰相役のNPCが────ポチッとな。

 妙な幻聴と共に『見捨てる』のボタンを勝手に押しやがったのだ。


「!? おいぃぃい! なにしてくれてんの!?」

「採決は下された! 女王を捧げて神の怒りを鎮めよう!」


 バカげたことを抜かすクソジジイ。もしやバグっているのだろうか。邪神なんかよりも先にコイツを始末するべきかもしれない。

 ともかく、そんな望んでもいない採決は糞くらえだ。

 

 俺は目の前に突っ立つ邪魔なジジイを蹴飛ばしざま、インベントリから聖剣エクスカリバーを引っこ抜く。

 そして瓦礫の山に向かって高々とジャンプ。

 宙を舞いつつ、蒼い軌跡を残して剣は三度閃いた。

 斬ったのは憎きジジイ……ではなく、クレオをいましめる手枷足枷である。

 着地と同時にはりつけ台から落下してきたクレオを受け止めた。

 嗚呼、美しい。我ながら惚れ惚れするようなヒロイックさだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴ


「アキィー!」

「よしよし、もう大丈夫だよ。クレオ」


 さぞ怖い思いをしただろう。

 俺は慰めるようにクレオの背を撫でた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ


「アキィィィ!」

「大丈夫大丈夫。安心して」

「違うってばアキ! うしろうしろ!!」

「へっ?」


 ドゴォォォオオ


「なっ、なにこれえぇぇ!」


 慌てて振り返ると、瓦礫を盛大に撒き散らし、地面から飛び出すニョロニョロした物が!

 見た目だけなら白っぽい蛇のようだが……手足がある!

 異常に胴の長いリザードマンとでも言うのだろうか。しかし、どう見ても直立出来そうにない。

 全長に対して足が短すぎる。それに、あんな手では武器すら握れまい。

 大きさは7、8メートルはありそうだ。


 ってか、さっきからゴゴゴゴ言ってたのは、こいつが地中を移動する音だったのか。

 うわ、ベロも異様に長ぇ。しかも三つ又かよ。キメェ。

 ……ん? 俺をジッと見つめたままベロの出し入れが止まって……いや、俺じゃなくクレオを見ているのか……?

 やべっ! こいつ、クレオを食う気だ!

 そういや生贄だったな!


 牽制するためにエクスカリバーを突き出して構えると。


「ダメよアキ! ここではみんなを巻き込んじゃう!」


 クレオは女王らしく民を気遣った。

 あんな薄情な連中、どうなっても構わないだろうに。

 そうもいかないのが為政者なのだと頭で理解していても納得は出来ない。

 誰かの犠牲で成り立つ国など……いかん、これはゲームだった。


「ヒナ! シーナさん! 街の外でやるよ!」

「了解です!」

「かしこまりました!」


 皆まで言わずとも察してくれた二人に感謝し、俺はクレオを抱えたまま駆け出すのであった。


 ズルリズルリと眷属が追ってくる恐ろしい気配を背に感じながら。



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― 新着の感想 ―
[一言] 結局鬼畜設定だった
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