第147話 守護戦
「よーし、ここらへんでいいかな」
クレオを背負い、脱兎の如く全力疾走で街を駆け抜け、南門を蹴破って突破。
そのまま突っ走り、見渡す限りが砂漠になったところで足を止めた。
断っておくが、ただ闇雲に走ったわけではない。
俺たちの拠点は南にある。つまり、援軍となるハカセらに近い方角を目指したのだ。
もっとも、その援軍が間に合うかどうかは神のみぞ知る、だ。
窮地に陥った場合、都合よく味方が現れるなどと期待してはいない。
最初から自らの手で決着をつけるつもりだ。
なんて格好付けてみたものの、一応メ-ルを送ったとは言え夕方にログインできる社会人は少ないであろうと思っただけである。
背中に驚きの吸着力で張り付くクレオを下ろして振り返った時、眷属を大きく引き離していたことに気付いた。
……ついでにヒナとシーナさんも。
うーむ。
さすが高AGI。
我ながらすごい逃げ足だよ。
眷属はヒナたちのすぐ後ろまで迫っているが、二人に攻撃を仕掛ける気配は微塵もない。
ヤツのターゲットは完全にクレオだけのようだ。
あれ?
ってことはだよ。
俺はクレオを守りながら戦わなきゃならないのか。
……げ、じゃあ守護戦じゃん!
守護戦とは、いわゆる防衛戦だ。
この場合、クレオが食われたり殺されたらミッション失敗となる。
勝利条件は眷属の撃破とクレオの生存ってところか。
うわ! いつの間にかクレオがゲストとしてパーティーに強制加入してる!
彼女のHPゲージを可視化してやるから気を付けて戦えってか!
ご親切にどうも、クソ運営さん! せめて説明くらいしやがれってんだ!
正式版の【OSO】だろこれ!? プレイヤーをテスターとでも思ってんのか!?
ともあれ、このふざけた事実を二人にも伝えねばなるまい。
俺はまだ遠くにいるヒナに向かって叫んだ。
「ヒナ! これは守護戦だってさ!」
「はーい、了解です! シーナさんと私で迎撃しますから、アキきゅんはクレオちゃんを!」
「頼んだよ!」
「守護戦、でございますか?」
「えーとですね。クラーケンと闘った時に船を……」
察しのいいヒナにはそれだけで伝わり、走りながらシーナさんと打ち合わせを交わしている。
その間に俺はインベントリから聖剣エクスカリバーと【ヴァルキュリア・リュストゥング盾形態】を取り出してそれぞれの手に握った。
こんな小盾では心許ないが、それでも盾は盾。
これでなければ騎士系のシールドスキルは使えないのである。
それに、今回は【戦乙女】にチェンジするよりも、パーティー全体にバフをかけられる【姫騎士】のほうが適しているはずだ。
あぁぁ……ここにツナ姉さんがいてくれたらどれほど心強かったことか……
アタッカーからシールダーへ転向した彼女は、今や盾スキルをほぼ極めつつあるのだ。
こう言った防衛戦こそ彼女の真骨頂なのに。
仕方ない、届いているはずのメールを見てくれることに期待しよう。
「……アキ」
「うん?」
「迷惑かけちゃってごめんね……私が大人しく生贄になれば……」
「なに言ってんのクレオ。わたしたち、友達でしょ?」
「……!」
「友達が困ってたら助けてあげたいなって思うのが当たり前だよ」
「アキー! 好き好きーーー!」
「うわっと」
空々しいセリフになるかと思ったが、意外や意外、すんなり自然に言葉が出てきた。
つまりこれは俺の本心だったのだろう。
だが打算的な部分もないわけではない。
重要NPCであるクレオの好感度を上げることは、後の報酬に繋がるかもしれないのだ。
やはり俺は根っからの、どうしようもないゲーマーらしい。
はっはっはー!
鬼畜で結構!
とあるゲームで『彼』と『アイスソード』を天秤にかけ、迷わずアイスソードを選んだ俺だぜ?
あとで後悔したけどな!
そうこうしているうちに、ヒナとシーナさんは左右に別れ、戦闘準備を整え始めた。
「魔力集積! ファストスペル! ダブリング・ソーサリー!」
「錬気! 硬気功! チャクラ・アクセル!」
二人は己を高めるスキルを次々に発動していく。
よーし、俺も二人にバフをかけちゃおっかなー。
クレオも非戦闘NPCとは言えパーティーメンバーだし、クレオと一緒に【大声援】を……いや、ダメだダメだ!
アレは危険すぎる! ヒナとシーナさんを赤ちゃんにするわけにはいかん!
それはそれで可愛いかもしれんが却下だ!
他には……うーむ、消費SPが激しいスキルばっかりだな……
オッケー、ここは様子見!
悪党と言うなかれ、SP管理も重要なテクニックのひとつなのだから。
……もっとも、SP回復アイテムは山ほど所持しているのだが……
「シーナさん! 準備はいいですか!」
「いつでもどうぞ」
ヒナは頷くなり魔法を放った。
高スキルレベルのアイスボルトである。
取り敢えず牽制の軽いジャブからか。
あれはきっと『探り』だな。
昨日闘った砂鮫は氷結系が弱点だった。
つまり、砂漠に出現するモンスターは全体的に氷結系が効くのではないか、とヒナは考えたのだ。
頭の良い彼女らしい作戦である。
だが、ブスブスと氷の刃が突き刺さったものの、眷属はものともせずにこちらへ向かってくる。
あれでは効果があるのかすらわからない。
それを見たシーナさんは、すかさず眷属の前に回り込む。
あの8メートルはあろうかと言う巨体を前に、全く臆した様子はない。
「崩拳!」
ズドンと眷属の鼻面に拳を撃ち込むシーナさん。
非常に綺麗な型であった。
さすがに多少怯んだようであったが、それでも手足の生えた大蛇状の眷属は腹ばいの歩み(?)を止めない。
俺はクレオを後ろに庇い、小さな盾をかざした。
ガッギィ
頭から突っ込んできた眷属が盾に接触した瞬間。
「シールドスルー!」
俺は『いなし』のスキルを発動した。
これは敵の攻撃を別ベクトルに逸らすものだが、クールタイムが微妙に長く、連発は出来ないのが玉に瑕。
いなされた眷属は、自らの突進力で大きく左に曲がっていった。
しかしすぐに戻ってくるのは軌道からして明らかである。
おー、痛ぇ。
邪神の眷属ってのは伊達じゃないんだな。面白くなってきたぞ。
さてさて、どうしたもんかねぇ。
まだ痺れる左手で盾を握り直し、つい薄く笑ってしまう俺なのであった。




