01 転生先はか弱い美少女(自己申告)でした
私の名前は冷泉アヤメ。かつて「魔王」と呼ばれた存在。
一言でいえば転生術は成功した。ただ性別は指定しておくべきだったかな。まさか女子に生まれ変わるとは……。確率は2分の1だからね。
前世の記憶はそのままあって、気が向けば魔界やら神王に連絡をとる事も可能だけど一切してない。
絶対にあの人たちは、私の転生先が判明したら色々として来る気がする。でも、私はそれを望まない。
前世の因果によるトラブルは避けたい。なんてったって私はか弱いから! そう。私はか弱いから(重要)。
魔王の時のような面倒な事は今いい。
「お嬢。起きてますか」
「うん、起きてるよ。マサ」
私の部屋に入ってきたのは、藤堂将継。42歳、髪に白髪が混ざってきた、少し顔は厳つくて恐いイメージを抱く人が多いが、侠気溢れるダンディな人。
私が転生した先は、関西最大規模の暴力団組織、阿修羅刃王会直参冷泉組。構成員は約20名ほど。数ある直参の組の中では、下から数えた方が早い位置づけ。
マサはおじいちゃん……現冷泉組組長、冷泉京滋を支える若頭だ。
両親はいない。あ、死んでないよ。きちんと生きている。
国内だと暴力団って事で肩身の狭く、就職も上手くいかないとかで、今は海外へ行っている。
私はついて行くかと聞かれたけど、冷泉組に残ることにした。
だってこの国のマンガ・アニメ・ゲーム・ラノベは非常に楽しい。それに海外に比べたらこの国は平和だ。このご時世、銃でドンパチする抗争なんて滅多に起きない。
「オヤジさんがお呼びです」
「おじいちゃんが? ……なんだろ」
基本、おじいちゃんはあまり私に干渉してこない。
娘であるお母さんが、親が暴力団ってことで色々とあって、その関係でちょっと拗れているため、あまり接触してこないんだけど。
お母さんとは色々とあって拗れているけど、今のところは私とは特にない。たまにお小遣いをくれるおじいちゃんって印象しか無い
私はマサの言葉に頷いて、部屋を出た。
日本家屋らしい木造造りの廊下を進み、障子を開けた。
「おじいちゃん、何か用?」
「ああ」
座敷の部屋に鎮座しているのは、私のおじいちゃん。
冷泉組組長、冷泉京滋。御年60歳。
若い頃はかなり武闘派の荒くれ者だったらしく、名前が京滋だから「阿修羅刃王会の狂死」とか呼ばれていたらしい。
今は歳の所為もあって落ち着いている。たぶん。
私はおじいちゃんの正面に座り、マサさんは私の後ろへ座った。
「アヤメ。お前は歳の割には賢いから伝えておこうと思う。本来なら、12歳そこらのガキに言ったところでなんだろうが」
「?」
「阿修羅刃王会が割れる。いや、もう、割れたと言うべきか」
「――そうなんだ。これから騒がしくなりそうだね。色々と」
「ふ。その歳で、そういう反応ができるのはお前ぐらいだ」
さて、おじいちゃんから聞かされた話を纏めると、こういうことらしい。
阿修羅刃王会の現三代目会長、桐生宗吾に変わってから、上納金やら何やらで一部の直参組織に不満が溜まっていたようだ。で、そこを突いて謀反を起こしたのが、阿修羅刃王会直参・二代目天竜会会長、真田竜一だ。
不満をため込んでいた阿修羅刃王会の直参組織を幾つも連れて、新しく組織を結成。その名は帝釈天雄会。
物語で阿修羅に勝っているから、帝釈天っていう名をつけて組織したのだろう。単純だなぁ、と、思う。
「それじゃあ、これから阿修羅刃王会と帝釈天雄会と戦が始まるの?」
「いや……ことはそう単純じゃねぇんだ」
どうやら帝釈天雄会は、阿修羅刃王会以外の広域指定暴力団である、愛知を中心とした中部地方最大組織五十旗頭連合、関東最大で東京を拠点としてる獅子王会。その両方と、五分の杯を交わして同盟を結んだようだ。
……これって絶対に五十旗頭連合か獅子王会が絵を描いてるよね。
二代目天竜会会長はそもそも中堅の組だったはず。それが五分の杯でするってことは、初めからそのつもりと考えるのが妥当。
それより気になるのは。
「おじいちゃんはどっちに付いたの?」
「――阿修羅刃王会に決まってるだろ。俺ぁ、先代に世話になった身だ。喩え暗愚だと分かっていても、仁義は通す」
「そっかぁ。じゃあ、しばらく身の回り気を付けるね。早まった人がどうするか分からないからね」
「……嬉しそうな顔でいう台詞じゃねぇだろ」
嬉しそうな顔? いやいや、おじいちゃん。節穴ですか?
もしも、何か仕掛けてこられたられると思うと恐くて恐くて仕方ない。かつて魔王と呼ばれた魔道の数々の術を喜々として使って応戦してしまいそうな自分が恐い。やっぱり、私は「か弱い」ってイメージを大切にしたい。
とりあえず此処はアピールしておかないと。
「いやいや、もう、恐くてしかたないです。私、か弱い系少女を目指してますから」
「……・か弱い系美少女は、ウチの若衆を力でフルボッコにしねぇよ」
何年前のことをいうんだろう。
転生した為、「魔王」と呼ばれた時から言えば、全ての能力が0.1%ほどまで減退している。今、できる魔力による身体強化が、この世界の人達にどれくらい通じるんだろうと思って、冷泉組の武闘派と呼ばれる人達は割とマジで戦ってみた。
結果。問題なく瞬殺でしたとも。
「魔王」の時も、全力でバトったことは無かったのを、その時に思い出した。そもそも引き籠もって全力バトルする機会はなかったのである。
「下手に護衛をつけて、足手まといになっちゃ困るから、敢えてつけてねぇぞ」
「そっちの方がありがたいです」
私1人なら生存率は問題なく100%。ただ、周りに護るべきものが居た場合は、周りの人達を含めて生還率は99%程度となる。1%は不測の事態を想定している。世の中にはラスボスを斃したにも関わらず、ヒロインが槍に貫かれてバッドエンドになることもある以上、何が起きても不思議じゃない
魔王だった時と違って能力は月と蛍並に違う以上は、なんにでも対処はできない以上、気を付ける所は気を付けない。
私は、決意を新たにした。
それから三日後。私はあっさりと誘拐されました