善人カメラマンとメロンパン編集者?
「こんにちはぁ、YOU☆で~す! 遅くなっちゃいましたぁ♪」
満面の笑みを浮かべながら、彼―大西夕は笑った。
何人もの人たちが、お疲れさまですと声をかけていく。
(なんじゃ……こりゃ……)
私は、自分が置かれている立場に戸惑いばかり覚えていた。
目の前に広がっているのは、夢にも見ていたテレビ局の内部だ。
そもそも信じられますか、皆さん!
どこからどう見ても不審者だったあの金髪少年が、まさかまさかの有名人ですよ!?
ていうかあの格好はだめだろ! どこからどう見ても不審者だったし!
変装のつもりなのかな。なんて趣味の悪い……
「直行でテレビ局連れてきて悪かったな。これ、仮パスな」
「えっ、あ、ありがとうございます」
なんか流れでここまで来ちゃったけど、大丈夫かな?私。
一応携帯で、家には遅くなるって連絡はしてあるけど……
しかし今日が休みで助かった! 講義関係なく休める!
終わったら即座に帰ろう、うん。
「それに名前書いとけ。許可証みたいなもんだから」
「は、はい」
「言い忘れてた。俺、上村衣鶴。あいつのマネージャーやってんだ。適当によろしくな」
そういうと衣鶴さんは、ほれと私にシャーペンを渡してくれた。
意外と優しい人なのかな。見た目的に怖い人かと思ったのに。
やっぱり人って外見で判断しちゃだめだな。
あれ? このシャーペン……
「あ、あの、これ芯が入ってないんですが……」
「ああ、わざと」
!?
「そういうのは普通、ボールペンで書くもんだからな」
馬鹿にしきったような声で、フンと鼻で笑い彼はすたすたと行ってしまった。
ま、まんまとはめられた!
前言撤回! あの人、全然いい人じゃない!
やっぱり人は見た目で判断するものだった!!
とりあえずボールペンをどこかで借りないと書けないよなぁ。どっかに落ちてたりしないかな……
「よかったら、このボールペン使う?」
ふいに話しかけられ、びっくりしてしまう。
そこには、見惚れるほどきれいな男性がいた。
美しいほど整えられた黒髪に、黒縁のめがねをかけた青年が爽やかに微笑んでいる、気品のある人だった。
「あ、わざわざありがとうございます」
「ごめんね、こんなのしか持ち合わせてなくて」
「い、いえいえそんなことは!」
「おっ、彼方じゃん! おっす、この前ぶり♪」
「お疲れさま、夕君。今日も仕事よろしくね」
「オッケー、まかせてよ!」
夕さんが親しげに話しているのを横で聞きながら、私はとりあえずパスポートに名前を書く。
やっぱり芸能人になると、顔見知りが多いのかな。
となると、この人もテレビ局の人とか?
カメラマンの人が私に気付くと、夕さんがすかさず口を開いた。
「あ、紹介するね彼方。えっと~……君、名前なんだっけ?」
「えっと、水鳥飛鳥です」
「飛鳥ちゃんかぁ。この人、滝沢彼方。ここのカメラマンで、僕とは長い付き合いなんだ♪」
「初めまして、水鳥さん。よろしくね」
こういうのを俗に、美青年というのだろうか。
カメラマンにはもったいないほどの美しさでいらっしゃる! 芸能人向けや!
モデルとかになったら絶対モテそうなのに、惜しい!
「よぅ彼方。悪いな、来るの遅くなって」
「ううん、大丈夫だよ。相変わらず忙しそうだね、二人とも」
「そうなんだよぉ~もう寝る暇もなくてさぁ~」
「どっかの誰かさんが逃げたりしなきゃもっと早く来れたのにな」
「衣鶴は黙ってて!」
職業はバラバラなはずなのに、なんでかはわからないが無性に仲がよさそうに見える。
知り合い、なのかな。
そりゃYOU☆って芸歴長いって聞いたことあるけど……
「YOU☆さん、スタンバイお願いしま~す」
「あっ、は~い! そんじゃ、行ってくるね飛鳥ちゃん! 僕のとっておき! 見せてあげる♪」
彼はそういって、用意されたステージの方へ歩き出して行った。
そこからはもう、説明したくても語り切れないようなものだった。
今日の仕事の内容は、彼が歌手としてリリースしているCDのPV撮りだ。
音楽番組でよく目にすることはあったが、こんな風に撮っていたとは……
何より、夕さんが完璧すぎるのに驚いた。
ダンスが激しい部分でも、軽々と踊ってしまう。
曲も口パクなんかじゃなく、生歌だ。
楽しそうに歌うシーンもあれば、真剣に思いを伝えようとするシーンもある……
まるで、映画を見てるように思えた。
中でも驚いたのは、カメラのアングルまでもを彼が指示していたことだ。
彼方さんを中心としたカメラマンに、的確なイメージを伝える。
私からしてみれば、どこがだめでなんて分からないしむしろ全部同じに見える。
それでも何度も取り直しては、自分が納得するまで完璧なものを目指そうとする。
(これが……YOU☆の本当の姿……)
すごい。すごすぎる。
なんで人気なのかがすごい分かる。
なんだか、人をあっという間に魅了させてしまうような……
「あれ、もう始まっちゃってる……おはよ~ございま~す」
「また遅刻か、奈緒。なんでパンなんか食ってるんだよ」
「メロンパンだよ。食べる?」
「いるか!」
のっそりと入って来たのは、私とさほど身長が変わらない少年だった。
見るからに若そうな子で、年齢も同じくらいに見える。
その少年はメロンパンを片手にもぐもぐしながら、私を見ると怪しそうに目を細めた。
「君、誰?」
「あっ、えっと、わけ合ってテレビ局を見学させてもらってる水鳥飛鳥と言います」
「名字と名前に一個ずつ鳥っていう文字が入ってるなんて、変わってるね」
「うう……よく言われます」
「まあ僕には関係ないけど。僕は宮下奈緒、じゃあね」
奈緒と名乗った少年はそう言うと、すたすたとパソコンが置いてある机に座る。
自分が持ってきたバッグの中から次から次へと食べ物を出したかと思えば、さっきまで食べていたメロンパンを口に頬張る。
(……職場にあんなに食べ物持ってきていいものなのか……?)
やはり理解不能だ。ここの人たち、変な人ばっかりだ。
ついてきて大丈夫だったかな、私……
「君だけを愛してるよ~♪ ずっと永遠に~♪ ふぅ~どうだった? いい感じに撮れてる?」
歌が歌い終わると、夕さんは一直線に彼方さんのところへ行った。
彼は自分が動かしていた録画用のカメラを、「はい」と言って夕さんに見せる。
「アングル完璧だよ。さすが夕君だね」
「いやぁ、それほどでもないよ~」
「ただサビの部分は、一回背景を入れてからにしてみたらどうかな?」
「背景?」
「ここのセット、すごくきれいだから一回ぼかしてみて……」
とてもではないが、ついていけるような話の内容ではない。
なにより私が驚いているのは、彼方さんの指摘がものすごく細かいからだ。
カメラの撮り方の技術を交えて話しているからか、内容が全く入ってこない。
これが、芸能界って世界なのかな。
とかなんとか考えているうちに、夕さんは間にいるスタッフをはねのけて一直線にある人のところへ向かった。
そこには、食べ物に囲まれている奈緒さんがいる。
「な~おちゃぁぁぁぁぁん!」
「ん?」
「うまく編集できそう? サビの部分で相談があるんだけど」
「背景にぼかしを入れる、でしょ」
「さっすが奈緒ちゃん、分かってるね~」
「任せて。三十分で終わらせるから。あ、あと帰りになんかおごって」
「いいよ、いいよ! パンでよかったらいくらでもおごっちゃう!」
今食べてるのにまだ食う気なのか、あの人は……
ていうか編集の人だったんだな、奈緒さん。
三十分で終わらせるって、そんなことできたりするのかな?
う~ん、とてもじゃないが想像つかない……
「そういや奈緒君、彼から原稿あがってる?」
「? 今日はまだ行ってないけど」
「困ったな。打ち合わせがこれからなのに、間に合うかな」
「つっても奈緒ちゃんはまだ仕事あるしぃ。僕達で行っちゃう?」
「お前にはまだ仕事があんだろ。……あ」
そのとき、なぜか目がばちっとあってしまった。
なんだか嫌な予感がして、そっと目線をそらす。
すると衣鶴さんはにやりと笑い、他の三人に言った。
「そうだ。こいつにいかせりゃいいじゃねぇか」
「え? 水鳥さんに?」
「衣鶴~いくらなんでもそれはやりすぎじゃね?」
「そうするしか手はねぇだろ。奈緒、住所」
衣鶴さんがそういうと、奈緒さんがこくりとうなずき立ち上がる。
どこから持ってきたのか、一枚の紙を取り出して食べ物をもぐもぐさせながら
「それ、ある脚本家の住所。高松真尋っていうんだ、聞いたことあるでしょ?」
「あ、はい。たぶん……」
「もしいなかったら連絡して」
「あの子、変わってるから。会うときは気を付けてね」
と私に言ってその紙を渡す。
何も把握できないまま、私は脚本家の家へ行くことになってしまったのだった。




