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遺言  作者: 麻生あきら


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1/2

01

 叔父が死んだ。


 森の中の自宅で。

 通いの使用人が発見者だ。


 使用人が最後に別れてから四日後。

 だというのに、叔父の遺体はすっかり干からびていたそうだ。

 死因は今もって分かっていない。




 小雨の降る墓地。

 数人の参列者。

 遠くの糸杉が揺れていた。



 墓穴(シール)に花が投げ込まれる。

 ぼんやりと、ただ見ていた。


「マティアス。あなた、家を出たいと言っていたわね」

「え?」


 突然声をかけられ、視線を彷徨わせた。

 母が私を下から覗き込んでいる。


「遺言書。屋敷をあなたに譲りたいそうよ。あちらの弁護士さんと話しなさいな」


 母に促され、顔を向けた。

 帽子を目深に被り、厳重なほどきっちりと着込んだ雨よけのマント。

 薄い色の入った眼鏡から私を見ていた。



「すでに書類が出来上がっているのです。あなたのサインだけが必要です」

 バルタ・メニヘルトと名乗る弁護士はそう言った。


「⋯⋯何故? 私が?」

「あなたに屋敷をどうしても譲りたい。そう言っていました。ラザールが」


 形の良い瞳が憂いを帯び、伏せられた。

 それにしても、やけに親しげだが⋯⋯。


「友人でした。学生の頃から」

「ああ、それで」




 バルタ氏と共に屋敷へ赴いた。

 彼は少し気分が悪いので馬車で待つという。

 要らなければ売却の手続きをしても良い、と言うので一人で中に入った。


 玄関ドアを開いてすぐに、その家の異様さを感じた。

 長い廊下。

 左右にいくつもの扉が続く。一体何部屋あるのか。

 奥には階段。

 踊り場から両側に上階へと続く。


 手前からひとつずつ開けてゆく。


 内側から板が打ち付けられた窓。

 大きめのチェスト。

 寝台。

 机。


 そして何故か部屋の隅に人一人が通れる、鍵のついた小さな扉。



 一番右奥の部屋だけ、叔父の私物が散乱していた。

 その他はどの部屋を開けても同じだった。


 叔父の私室と思われる部屋の正面に、地下への階段。

 その階段脇に小さな浴槽と洗面台。

 地下には厨房と貯蔵庫があった。




 一階のすべての部屋を巡り、階段を上った。

 踊り場で上階を見る。

 左右とも壁があるばかりだった。


 ふいにアメリカにあるという、ウィンチェスターの屋敷を思い出した。

 霊障から逃れようと増築され続けた家。


 もしかしたら壁ではないのかもしれない。

 そんな気になった。

 面白い、と言えば面白いが。




 馬車で待つバルタ氏のもとへ戻った。

「この不可思議な家を私に?」

「小説を書くあなたならぴったりだろう。と、彼が」


「⋯⋯どういう理屈かわからないが、静かな場所が欲しかったのは確かだ」


 少し屋敷を回るのに時間をかけすぎたようだ。

 彼と共に闇が迫る街まで戻り、彼のオフィスに出向いた。


 バラージュ・マティアス

 書類にサインをした。




「これを」

 バルタ氏は蝋で閉じられた封書を差し出した。

 受け取り検分する。


「ラザールからです。あなたへ」

「後ほどゆっくり見ます」


 私の答えに少し不満が滲んだように感じたが、彼はすぐに取り繕った笑顔を見せた。

 墓地で会った時よりも少し尊大な態度に思える。

 彼の方が年長なのだから仕方のないことだ。


 思いの外時間がかかってしまった。

 宿を取り、翌朝帰途についた。


 こうして私は、不可解な屋敷を手に入れたのだった。

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― 新着の感想 ―
ゴシックホラー風の出だしで、続きも楽しみです。ゆっくり追いかけて行くことになってしまいそうですが、期待大!
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