01
叔父が死んだ。
森の中の自宅で。
通いの使用人が発見者だ。
使用人が最後に別れてから四日後。
だというのに、叔父の遺体はすっかり干からびていたそうだ。
死因は今もって分かっていない。
小雨の降る墓地。
数人の参列者。
遠くの糸杉が揺れていた。
墓穴に花が投げ込まれる。
ぼんやりと、ただ見ていた。
「マティアス。あなた、家を出たいと言っていたわね」
「え?」
突然声をかけられ、視線を彷徨わせた。
母が私を下から覗き込んでいる。
「遺言書。屋敷をあなたに譲りたいそうよ。あちらの弁護士さんと話しなさいな」
母に促され、顔を向けた。
帽子を目深に被り、厳重なほどきっちりと着込んだ雨よけのマント。
薄い色の入った眼鏡から私を見ていた。
「すでに書類が出来上がっているのです。あなたのサインだけが必要です」
バルタ・メニヘルトと名乗る弁護士はそう言った。
「⋯⋯何故? 私が?」
「あなたに屋敷をどうしても譲りたい。そう言っていました。ラザールが」
形の良い瞳が憂いを帯び、伏せられた。
それにしても、やけに親しげだが⋯⋯。
「友人でした。学生の頃から」
「ああ、それで」
バルタ氏と共に屋敷へ赴いた。
彼は少し気分が悪いので馬車で待つという。
要らなければ売却の手続きをしても良い、と言うので一人で中に入った。
玄関ドアを開いてすぐに、その家の異様さを感じた。
長い廊下。
左右にいくつもの扉が続く。一体何部屋あるのか。
奥には階段。
踊り場から両側に上階へと続く。
手前からひとつずつ開けてゆく。
内側から板が打ち付けられた窓。
大きめのチェスト。
寝台。
机。
そして何故か部屋の隅に人一人が通れる、鍵のついた小さな扉。
一番右奥の部屋だけ、叔父の私物が散乱していた。
その他はどの部屋を開けても同じだった。
叔父の私室と思われる部屋の正面に、地下への階段。
その階段脇に小さな浴槽と洗面台。
地下には厨房と貯蔵庫があった。
一階のすべての部屋を巡り、階段を上った。
踊り場で上階を見る。
左右とも壁があるばかりだった。
ふいにアメリカにあるという、ウィンチェスターの屋敷を思い出した。
霊障から逃れようと増築され続けた家。
もしかしたら壁ではないのかもしれない。
そんな気になった。
面白い、と言えば面白いが。
馬車で待つバルタ氏のもとへ戻った。
「この不可思議な家を私に?」
「小説を書くあなたならぴったりだろう。と、彼が」
「⋯⋯どういう理屈かわからないが、静かな場所が欲しかったのは確かだ」
少し屋敷を回るのに時間をかけすぎたようだ。
彼と共に闇が迫る街まで戻り、彼のオフィスに出向いた。
バラージュ・マティアス
書類にサインをした。
「これを」
バルタ氏は蝋で閉じられた封書を差し出した。
受け取り検分する。
「ラザールからです。あなたへ」
「後ほどゆっくり見ます」
私の答えに少し不満が滲んだように感じたが、彼はすぐに取り繕った笑顔を見せた。
墓地で会った時よりも少し尊大な態度に思える。
彼の方が年長なのだから仕方のないことだ。
思いの外時間がかかってしまった。
宿を取り、翌朝帰途についた。
こうして私は、不可解な屋敷を手に入れたのだった。




