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第四十一話 未完ノ刻

朝。


京の空は、

やけに白かった。


雪弥は火鉢の前に座っている。


右目はまだ痛む。


見える。


けれど、

前と同じではない。


火鉢の赤が、

少し滲んでいた。


咲は隣で、

雪弥の袖を握っている。


「……雪弥」


「……いる」


それだけで、

咲は安心したように目を閉じた。


障子が開く。


澪が立っていた。


いつもの包み。


握り飯。


味噌汁。


漬物。


今日も同じだった。


でも、

澪の目は少し赤い。


「おはようさん」


声は明るかった。


無理に作った明るさだった。


雪弥は何も言わない。


澪も、

何も聞かなかった。


その時。


外が騒がしくなる。


壬生浪士組。


刻議衆。


長州。


人斬り。


禍津。


京のすべてが、

少しずつ同じ場所へ流れ込んでいく。


篠宮朔夜が現れる。


黒羽織を揺らし、

淡々と言った。


「久世雪弥」


雪弥は顔を上げる。


「……なに」


「時代が動きます」


それだけで、

十分だった。


遠くで鐘が鳴る。


どこかで人が叫ぶ。


別の場所で、

誰かが笑う。


そして。


人ではないものの気配が、

京の奥で膨らんでいた。


雪弥は山刀を取る。


咲の背から、

源蔵の猟銃を外す。


咲がぼんやり雪弥を見る。


「……いくの?」


雪弥は少し黙る。


それから。


「……一緒」


咲は小さく笑った。


長屋の外。


京の通りには、

いくつもの影が立っていた。


人間。


化け物。


そのどちらでもないもの。


遠く、

井戸の縁に紫苑が座っている。


退屈そうに足を揺らしながら、

雪弥を見ていた。


「やっと、始まるね」


雪弥は眉をひそめる。


「……うるさい」


紫苑は笑った。


「いい顔」


雪弥の右目の奥に、

白が差す。


山刀の刃に、

音もなく白い筋が走った。


澪が息を呑む。


朔夜が目を細める。


咲はただ、

雪弥の背を見ていた。


幕末は、

まだ喰われている。


白河も。


京も。


人の記憶も。


歴史そのものも。


すべて、

まだ終わっていない。


雪弥は一歩踏み出す。


この先に待つものが、

勝利ではなく、

喪失だということを。


自分の目が失われることを。


腕が動かなくなることを。


脚が壊れていくことを。


最後には、

一人で飯を食うことすらできなくなることを。


まだ知らない。


それでも。


雪弥は前を見た。


「……終わらせる」


白炎は、

静かに刃へ宿った。


京の空は、

赤く染まり始めていた。


物語は、

まだ未完のまま。


栗原先生の次回作をお楽しみに。

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