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銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:照らす火、継ぐ炎
23/50

尾行



 ◆




「ぜぇ……ぜぇ……。ディスト……クラークス。到着しま、した……」


 息を切らしながらリーダーの招集時間前に到着すると、ほかのみんなは既に集まっていた。同行していたルサールカはなんてこともない様子でぶんぶんと尾を揺らして、悪びれもなくセーフセーフとのたまっている。


「おい。ルサールカ……お前飲んだだろ。はぁ、ほら、お前ら二人とも水でも飲んどけ。給料から引くけどな」


 リーダーはこうなることを予期していたみたいにボトルの水を投げ渡してくれた。極夜の街を荒む風と凍えた砂塵で喉を傷つけていたのか、僅かに血の味が滲んだ。


「それで……要件はなんですか。ミルシャは……その、ルーディオといっしょに新しい画材を探していたんですが」


 ミルシャの問いかけを受けると、リーダーは押し黙った。ほんの数秒だ。それだけで、締め付けられるみたいな威圧感を覚えて、全員がピタリと口を閉ざした。


「……砂嵐の影響で街は出入りに規制を掛けている。……が、既にウルルクにいる敵は俺達を襲撃することができるだろう。よって以降はツーマンセルで行動してもらう」


「そんな可能性は初日からあっただろ? なんで今になってなんだ」


 反対しているわけではなかったが。ディストは怪訝そうに尋ねた。


 知りたいのは理由だ。急に不安になった。


「そうだ。初日からいた可能性もある。なにせ尾行されてたからな」


 レーニャの目つきが変わったのがわかった。咄嗟に周囲に警戒を巡らせて、緊張するように強張る。


「はは、呑んだくれたり惚気てる間に襲われてる可能性あったってのか? 大丈夫かよこの組織……」


 不安をごまかすように自嘲すると、レーニャの鋭い視線が突き刺さる。


 険しい表情。彼女は自らを律するように郵便帽を深く被り直していた。


「フフ……フハハハハハ!! そりゃ傑作だな。一番荒くれ者らしい死に方になるだろうな。まぁ、語るには恥ずかしいか? けど生憎、オレ達は軍人じゃねえからな。ゴロツキ共にはしっかりガス抜きがいるんだよ」


 レーニャのクソ真面目な態度に反してリーダーは適当だった。開き直るみたいにバカ笑いすると、息を切らし涙を拭う。


 レーニャの睥睨が向かうと、気圧されるみたいに肩を竦ませていた。


「あーいや、そうだな。レーニャは真面目だ。お前はずっと頑張ってくれてる。ディストに何かあったときすぐに介入できる距離にいたもんな。悪かった」


 コクコクと、少ししおらしくレーニャは頷くと、思い出したかのように瞳孔を細めた。険しい目つきでディストに詰め寄ると、軍刀の柄を腹部に押し付ける。


「うぐッ――」


「ディスト、間違っても火の探知を隠すようなことはやめろ。骨をへし折るぞ。……ルサールカもこれを甘やかしたりたぶらかさないでください」


「全部聞いてたのかよ……っ、悪かったって!」


 ディストが教育を受けるのを眺めながら、リーダーは空咳をして話を取り直した。


「ルーディオはミルシャと、オレはルサールカと。レーニャはディストとつねに行動するように。レーニャも言っていたが炎は隠すな。砂嵐が晴れるまであと数日だが。警戒は怠らないように。以上! 何か意見要望はあるか?」


 瞬間、真っ直ぐ手が伸びる。ルーディオは真摯な態度で一歩前に出た。


「リーダーがディストを。オレが一人で女の子全員を担当するのはどうだ? なに、敵がこまるなら砂嵐がなくなるまでオレと長い夜を――」


 言い終える前に、スクラップになる勢いで文字通り一蹴されていった。


 ミルシャだけが手を出す様子もなく、ただ不安そうに周囲に怯えていて、ルーディオはため息をつきながら小さな手を握った。


「大丈夫だ。安心しろ。お前はチビだから抱えて一緒に飛べる」


「ルーディオさん……ほんとうにいろいろ最低ですね」


 二人を眺めながら、言った通りでしょ、とでも言いたげにルサールカが尾を揺らし、したり顔を浮かべてくる。


 呆れていると、グイと視界全面にレーニャが映り込んだ。


「ボサっとするな。リーダーが追いかけなかったほどの敵がいるという意味を理解しろ。狙いは最終的にはお前とワタシになるんだぞ。わかっているのか? 現状のお前は……才能だけの憎い素人だ」


 ディストの体格を確かめるように、無遠慮にレーニャは体を撫でた。上腕、首、胴体。華奢な手がこそばゆい。


「……わ、わかってるよ。だからずっと走ってるし。襲ってきたやつの義体も売って内臓用の強化インクも買ってつけたんだ。少し慣れがいるけどな」


「それが無警戒だと言っているんだ。どこの闇医者に掛かった? なぜ相談しない」


 ジトリと碧の双眸が顔を覗き込む。表情が大きく変わることはなかったが、誰がどう見ても不満げだった。


「いや、医者は受けてない。俺が自分で手術した」


「正気か? まだ闇医者で受けたと言われたほうがマシだな。自分で自分の腹を掻っ捌くなら、なおのこと相談しろ。事故があったらどうするつもりなんだ? 二度と一人でそんなことをするな」


 真剣に身を案じてくれる言葉だった。勝手にしろ、とでも言われるかと思っていた自分が少し嫌になる。ディストはたじろぎながら小さく俯いた。


「わかった。それは俺が悪かったさ。……お前がそんな心配するとは思ってなかったんだよ」


「お前の心配ではない。……«秒針»の心配だ。たわけめ。調子に乗るな」


 辛辣な物言い。真に受けて少しばかりショックを受けていると、一層鋭い眼差しが向けられる。


「……ボサっとするな。今日のランニングはまだだろう?」


 レーニャはふんと、鼻で笑うと長い銀の髪を靡かせた。灯される銀の炎が地を蹴って、二人で走った道を駆けていく。


「…………それならそう言えっての」


 ディストは悪態をついて、レーニャの背を追った。

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