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彼女は魔術と紅茶を楽しんで  作者: 賀来文彰
王都連続爆破テロ
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十五 黒幕の正体

「国王陛下。爆破事件の実行犯を発見しました。予想以上の抵抗にあい、やむなく殺害しております。また、依然として女は逃走中ですが、下半身を失っていることを鑑みると確保はそう遠くないかと存じます。

 詳細はこちらに控えております、主任特別捜査官のフランク・マーカスより述べさせて頂きます」


 全く、面倒事を押し付けよってと心の中で舌打ちしながらも、フランクは一礼すると前に進み出る。彼を見た国王が懐かし気に目を細めた。


「そなたがフランク・マーカスか。スペンサー本部長から活躍は聞いておるぞ。クライストン卿の人身売買を早期に暴いてくれたおかげで、被害者を増やさずに済んだ。改めて礼を言う」

「もったいなきお言葉、恐縮でございます」


 頭を下げつつ、自分の上司をチラリと見やる。手柄を独占していなかったことに感心しつつも、もう少し大胆に捜査の後押しをしてくれれば良いのにとも思う。


「さて、マーカス主任特別捜査官。詳細を聞かせよ」

「はっ。先程、逃走中の実行犯と特別捜査官並びに特殊戦術部隊が交戦し、一人を殺害、もう一人に致命傷を与えました。

 現在調査中ですが、殺害した対象は錬金術研究の中でも禁止されているホムンクルスの可能性が極めて高いです。また、逃走中の対象は指示を出していたとのことで、錬金術師であるか同じくホムンクルスである可能性が考えられます。

 逃走中の対象は下半身を失っており、そう遠くないうちに発見、確保できるかと存じます」


 国王はしばらくの間、考え込むかのように天井の方を見上げていたが、やがて視線を元に戻すとフランクをねぎらった。


「そうか。此度のそなたらの働き、大変嬉しく思う。その不逞の輩を確保した際は改めて報告するように。その時には合わせて活躍した者達のことも報告せよ。礼を言いたい」

「かしこまりました」


 国王は頷くと、身振りで下がって良いと伝える。フランクはできる限り平静を保って国王の執務室を後にした。


 扉が完全に閉まったのを確認すると、国王は大きなため息をつく。そして未だこの執務室に残っているスペンサー本部長を見やった。


「ゾーイよ。率直な意見を聞かせてくれ。もう一人は見つかると思うか?」

「正直に申し上げますと、見つかるとは思います。ですが、私達が見つけるのは死体かと」

「やはりな」


 ゾーイは続けて報告していく。


「今回の件はリーヴェン帝国による作戦と考えられます。この国の錬金術師は全員、誓いを順守しているのは確認済みですし、同盟国のガーネット王国にはそもそもホムンクルスを研究する程の資金力がありません。

 交戦中に女が「王国も大したことがない」と言い放ったことも状況証拠の一つです。

 また、これはつい先程判明したことですが、帝国のスパイ三名が脱走しておりました。ただ、刑務所の職員全員だけでなく他の囚人達までもがスパイ達の脱走を知らなかったことから、彼らは全員服従の呪文をかけられていたと思われます」

「では、全てはスパイ共を救出する為だけに行われたというのか?」

「そのことなのですが、他にも狙いがあるように見受けられるのです」


 国王が眉をひそめた。


「旧訓練場からオズワルド殿が本来の姿で飛び上がりました。それも飛行船が飛び上がってすぐのことでした。また、コーンウェル伯爵夫人のコウモリ達が王都内で多数目撃されております。

 彼らは、私達が知らない何かを察知して独自に動いているようです」

「ふむ」


 一度、ルーシーを呼び出さねばなるまいと国王が思案していると、執務室の扉がノックされた。


「入れ」


 国王の言葉に込められた魔力に反応して、扉が自動で開く。その向こうには伝令が片膝をついてかしこまっていた。


「申せ」

「はっ。コーンウェル伯爵夫人の屋敷付近で爆発が発生。負傷者はおりません。また、本件に関し、伯爵夫人が直接国王陛下にご報告申し上げるとこちらへ向かわれております」

「そうか、役目ご苦労」

「はっ。失礼致します」


 伝令が速やかに退出する。国王が左手を上げると扉がひとりでに閉まっていった。


「色々と動き始めたようですね」

「ゾーイよ。伯爵夫人が訪ねてきた時にそなたにも立ち会ってもらいたいのだが?」

「かしこまりました」

「念の為、不可視の呪文を使うように」

「はっ」


 ゾーイは一瞬の間に素早く考えを巡らせる。姿を隠す必要があると陛下が判断されたということは、伯爵夫人を疑っているのかも知れない。

 確かに伯爵夫人の動きは自分も気になっている。彼女に限って何もないと思うが、油断は禁物だ。そして自分を側に控えさせるということは、いざという時に伯爵夫人を始末させるおつもりなのだろう。


 ゾーイは軽く一礼する。


「御意のままに」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 王城の中は静まり返っている。だが、その原因は爆発事件によるものではなく、城を訪れた者の身なりの汚さ故だった。

 ドレスは皺が寄っており、露出している肌のそこかしこに煤が付いている。また、小さな怪我も無数にあり、血がにじんでいる箇所もあった。


 彼女に出くわした者は皆、身なりを整えるようやんわりと注意するが、その度に彼女の怒りがこもった威圧を受け、口を閉じる他なかった。

 偶然姿を見かけたエリカですら、今の彼女にかけるべき言葉が見つからず、ただ見送るだけだった。


 国王の執務室まで来た彼女は扉をノックする。国王の言葉と共に扉が開かれたが、さすがにそのまま入室することはなく、その場で控えたままであった。


「どうした、伯爵夫人」

「恐れながら国王陛下。このような状態故、陛下の御前を汚したくありません」

「今更ではないか。この部屋だけ綺麗なままでも始まらんだろう」


 国王は軽く笑みを浮かべると、ルーシーに手招きする。それを受けてルーシーはようやく執務室内に足を踏み入れる。


「報告は聞いておる。屋敷で爆発があったそうだな。大事ないか」

「問題ございませんのでご安心ください。ただ、庭園が吹き飛んでしまったのは大きな痛手ですわ」

「あの見事な庭園が失われたというのか……」


 国王は肩を落とす。かつてはお忍びでよくルーシーの元を訪ねていたものだが、スタンピードで夫を亡くしてからは一度も足を運んでいなかった。

 かつての家族の数少ない想い出の地が一つ失われたショックは大きく、国王の落胆ぶりは激しかった。

 悲しみに暮れる彼女を友として抱きしめてあげたい気持ちをぐっとこらえると、ルーシーは告げる。


「原因は帝国です。二人の男が手を引いていました。一人はクリス・ジェファーソン。ガーネット王国の錬金術師だった男です。もう一人はブライアン・マディソン。魔術師であること以上の情報はありません。

 この者達が牢に繋がれていたスパイ達を操っておりました。スパイ達は爆発で死んだので目的は分かりませんでしたが、旧訓練場にあった補給物資用の飛行船に一人ずつ乗り込んでいたことを考えると、飛行船の奪取、或いは爆破を狙っていたのではないかと」

「何たることだ……。して、その錬金術師と魔術師は?」

「行方は知れません。多くの人をかばいながらだったとはいえ、オズワルド殿と互角に戦う相手です。もう帝国領へ逃れていたとしても不思議ではありません」

「そうか。そなたには世話になった。感謝する」


 国王は礼を述べると、身振りで扉の方を指し示す。だが、ルーシーは動かなかった。


「ん?如何した?」

「国王陛下。敵はまだ残っております」

「実行犯のことか。それならRCISの精鋭達が引き続き捜索にあたっているが」

「いえ、その者とは別です」


 国王はそっと立ち上がると、ゆっくりとルーシーを見る。


「それはどういうことか?」


 ルーシーは国王の視線をまっすぐに見返すと静かに言った。


「陛下のお側にずっと控えている者です。近衛騎士団長、ジーナ・ローリーも今回の件に関与しております」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 交替を終えるとジーナは即座に地下道へと向かう。怪しいと疑われるのは承知の上だが、刺客達の動向が分からない今、じっとしている訳にはいかなかった。

 元はと言えば自分のミスである。名を残したいという思いが先行して、本来の自分の役目を忘れていた。


 転生したとはいえ、ジーナ・ローリーは近衛騎士団団長だった。


 地下道を進んでいく。一番近いのは旧訓練場だ。そこから王都に出て、自らの手で探し出す。

 そう決意するジーナの前方から男達の声が聞こえてきたので、慌てて近くの窪みに身を潜める。


「全く……。エンシェントドラゴンが出しゃばってくるとは……。あいつのせいで王城はびくともしとらん」

「刺客達が捨て駒になったわ……。忌々しいオオトカゲめ。第三王女と繋がっておったというのか」


 二人の声にジーナは聞き覚えがあった。それらは紛れもなくジェファーソンとマディソンの声だった。

 ここにいるはずのない二人の存在をジーナは訝しがりながらも、彼らの会話に耳を傾けていく。


「だが、奴らもさすがにこれは防げまい」

「ああ。手駒は最後まで取っておくものだ」


 二人の不穏なやり取りは段々と大きくなっていく。ジーナは更に身を縮こませた。


「あの夢見る近衛はどうするかね?」

「ふん。放っておけば良い。どうせ国王を守れなかった近衛など、王国の連中がいくらでも始末をつけてくれるさ。まして、自分の部下が守るべき相手を手にかけるのだからな。それに、服従の呪文を使っていたのは事実なのだから言い逃れもできまいよ」


 ジーナの背中を冷たいものが走り抜けた。二人は最初から自分をハメるつもりだったのだ。それ以上にジーナは彼らが国王陛下を狙っていることに戦慄した。


 急いで王城に戻ろうとするジーナだったが、地下道は狭く、分岐点に至るまでは道も一本だけなので彼らよりも先に戻るのは普通なら不可能だった。


「……」


 ジーナは覚悟を決めると鎧に仕込んだ魔法陣に魔力を込めていく。慎重に行ったつもりだったが、どうしても溢れ出る魔力の残滓にマディソンが気付いた。


「ん?これは……」


 振り返ろうとするマディソンにジーナは躍りかかった。


「国王陛下に手出しはさせない!」

「なっ!?」


 ジーナの奇襲は完全に意表を突いたはずだった。だが、迫り来る刃を防いだのはジェファーソンだった。


「ふん。今更正義感を振りかざしたところで何の意味がある?」


 ジェファーソンは振り返ることなく、自分達の背後に盾を生み出していた。その盾の強度はすさまじく、防がれた衝撃で思わず後退してしまう程だった。


「盗み聞きとは感心しませんな、団長殿」


 落ち着きを取り戻したマディソンがじろりとジーナを見やる。


「二人でベラベラ喋ってる時に出くわしただけよ」


 油断なく剣を構えるジーナにジェファーソンが語りかける。


「なら、分かっているだろう。君も重罪人だ。君の居場所はこの国にはない。それならば私達と手を組まないかね?」


 思わぬ話の流れにマディソンまでもが眉をひそめた。それに構わずジェファーソンは話し続ける。


「君の蒸気機関に対する知識と構想は非常に素晴らしい。そして私達にはそれを形にする資金力がある。

 私達の主もこの国とは違って新しいものは積極的に受け入れていくから、長い時間をかけて小細工を弄せずとも、すぐに実現できるだろう。

 君は蒸気機関を世に広めたいのだろう?ならば私達と共に参ろう」


 ジェファーソンの話はジーナの功名心をくすぐった。だが、一瞬でもその可能性を考えそうになった自分を斬り捨てるように剣をその場で軽く振るう。そして、まっすぐにジェファーソンの目を見返すとジーナは宣言した。


「私はマクファーソン王国近衛騎士団団長、ジーナ・ローリー。最後まで国王陛下を守り抜くことこそ我らの使命!」


 ああ、これが元の人格の思いなのかと()()は感じ取る。だが、その思いは今の自分も同じだった。


 ジェファーソンは溜息をつくと、振り返りざまに無数の矢を生み出してジーナに放つ。致命傷になるものだけを避けて、ジーナは矢を受けながらも二人に肉薄し、剣を横に薙ぎ払った。


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