第二話 予定調和のアーキタイプス ⑫
さて、軟禁されたカナタは、暗くて大きな部屋の隅っこで体育座りをしていた。
傍から見るといじけているようにも見えたが、トーテムの躯体は身じろぎ一つしない。
『……………………』
よく見ると、躯体の電源をほとんど落としている。
唯一作動状態にあるのは、サブカメラセンサーだけだった。
しばらくすると、家具一つない大きな部屋が騒がしくなりはじめた。
ジジジジ……という、何かが焼き切れるような音が壁から響く。
やがて壁がレーザーバーナーによって切り抜かれ、五メートル大の抜け穴が出来た。
そこから現れたのは、レシーバーであるリュシストラテだった。
彼はぽつん……と体育座りを続けるカナタに、控えめに声をかけた。
『もし、カナタさん』
『……………………』
『あの、すみません』
『……………………』
『雲野カナタさん、お迎えに上がりました』
『……………………』
『雲野カナタさん?』
『えっ! ああっごめんなさい! 今片付けます! 片付けますからぁ!』
カナタは身じろぎ一つせず、大いに慌てた声を発した。
デュアルアイセンサーが発光し、紫に染まった外装に例の文字列と着物模様が浮かび上がる。
子供のように慌てる(声だけだが)カナタの姿に、リュシストラテは微笑ましげに苦笑した。
『わたくしにはあなたのバーチャルコクピットの中は見えてませんよ、安心してください。――ちなみに何をしていたのかは興味本位で伺ってもよろしいですか?』
『西暦時代のキネマを観ていました。映画館を積んできたので、退屈しません』
『わたくしも活動写真は好きですよ。この国の人々は創作活動を嗜みませんが』
『でも、素敵な彫刻とか建物とか、いっぱいありますよね?』
『それについて説明するには、少し時間がかかります。先に本題に移ってよいでしょうか』
『どうぞ』
『では――さて、これからあなたは逃げるべきだと考え、お迎えにあがった次第です』
リュシストラテは片腕を大仰に広げ、今さっき自分の作った抜け穴を示してみせた。
カナタは不審げにリュシストラテを上目遣いで睨んだ。
『どうして助けてくれるんですか?』
『どうしてだと思いますか? それには先ほどの質問の答えも関係しています』
カナタは少し考えてから、恐る恐る訊いた。
『……あの彫刻や建造物は、彼らが作ったものじゃない?』
『正解です。続けてください』
『フェリブリージュ人が棲み着く前から、ここにあった?』
『少し正解から遠くなりました』
『は? でも彼らはフェリブリージュ人なんじゃ――』
そこまで疑問を口にして、カナタは口を噤んだ。
『いや違う、そうじゃない……そうか! 彼らはホモ=サピエンスだったのか……!』
カナタは、現在の地球上には存在しないはずの生物の学名を持ち出した。
リュシストラテは満足げに頷いた。
『ええ、正解です。本来なら人工単子としてデータ冬眠させられているはずの旧人類です』
『それがどうして生身で……』
動揺と混乱を隠しきれないカナタの声。
リュシストラテは恭しく一礼しながら、抜け穴へと彼女を先導し始めた。
『長くなります。歩きながら話しましょう』




