EP476 勇者の修行
人族領の東平原にある城塞都市ルーガード。
そこから更に東へと進んだ場所で、二人の人と魔物が戦っていた。
「レイン。そちらに誘導するわ」
「助かるよ」
絶世の美女ベリアルが矢を構え、瘴気を纏わせる。一見すると《闇魔法》と《魔法弓術》のように見えるが、その本質はもっと恐ろしいものだ。
そして矢が鋭く放たれ、討伐対象の魔物、ネクロス・タイタンの左目を掠める。するとアンデッド系の魔物であるネクロス・タイタンも、反射的に右側へと避けた。そこへレインの《細剣術》が迫る。
「トドメだよ」
レイピアに魔力を纏わせ、それを濃密に凝縮。そして突きと同時に放ち、ネクロス・タイタンの心臓部に巨大な穴をあけた。そこは魔石のある場所であり、アンデッド系のネクロス・タイタンも呻きながら倒れる。
これで討伐完了だ。
Sランクの魔物と言われるネクロス・タイタンも二人にかかれば瞬殺である。
「討伐証明部位は目玉だよ。腐った巨人のネクロス・タイタンも、両目だけは決して腐敗しないと言われているらしいね。それとネクロス・タイタンの骨は闇属性と親和性が高い。骨粉にすると錬金術にも使えるみたいだよ」
「詳しいのね」
「長く冒険者をやっていれば、自然と身に付く知識さ。僕が目玉を取り出すから、君は適当に骨を採取してくれないか?」
「ええ、いいわ」
レインはナイフを片手に取り、死んだネクロス・タイタンの頭部へと近づいていく。一方でベリアルは、死の瘴気を放った。それによってネクロス・タイタンの死体を滅ぼす。上手く手加減したお蔭で、骨だけ残り、肉や皮は消滅した。
それを剣でスパスパ切り取って、アイテム袋へと収納する。
一方、レインも手際よく目玉を採取したのか、すぐにベリアルの方へと戻ってきた。
「便利だね《闇魔法》。肉体を風化させたのかい?」
「ええそうよ」
「僕の実家は闇属性を得意とする家系なんだけど、残念ながら僕は恵まれなくてね。少し羨ましいよ」
レインの実家、ブラックローズ家は闇の精霊と親和性が高い一族だった。そして当主は必ず闇の精霊と契約しており、凄まじい精霊魔法使いである必要がある。そしてブラックローズ家はエルフ国家【ユグドラシル】を統治する七長老家の一つでもあるのだ。
だが、残念ながらレインは精霊と契約できなかった。
今でこそ、全ての精霊が消滅してしまったが、当時は精霊と契約できないイコール出来損ない。蔑まれた人生を送ってきたのである。
努力によって魔力系最高位スキル《魔力支配》を獲得し、SSSランク冒険者という唯一の地位を手に入れたのがレインだったというのは皮肉な話だが。
「ふふ。私は滅びの力しか使えない闇魔法使いだけど、やっぱり魔法は便利よ」
「だろうね。僕もせめて普通の魔法が使えれば良かったんだけど」
「こればかりは才能よ。でも、あなたには魔力操作の才能があるじゃない」
「人のものは羨ましく、良く見えるものさ。さて、無駄話もこれぐらいにして帰ろう」
「そうね」
ベリアルは再び死の瘴気を集め、今度は本気でネクロス・タイタンへとぶつける。すると、瘴気によって滅ぼされ、その死体は完全に消え去った。
「さ、処理も終わったわ。帰りましょう」
二人はルーガードへの帰路に就いた。
◆ ◆ ◆
その頃、神都へと生まれ変わった【ルメリオス王国】の旧王都にて。
中央部の神殿に勇者セイジが呼び出され、光神シンとの面会が始まろうとしていた。
「緊張します。パトリックさん」
「勇者殿でも緊張なさるのですね。しかし安心してください。光神シン様は貴方様に加護をお与えになった方です。悪いことは起こりません」
「で、ですよね!」
ここにはリコ、エリカ、レン、アヤトはいない。
ただ、セイジだけが呼び出された。その理由は全く不明である。しかし、セイジは一つだけ心当たりがあった。
(たぶん、眼で見てしまうだけで圧を感じるんだろうね)
超越者の存在感。それはステータスに縛られた者からすれば、恐ろしく強いものだ。相手は神なのだから、当然、超越者だろう。セイジはそのように予想し、既に聖剣エクシスタの力でLv200まで強制解放している。
魂の封印が完全開放され、今のセイジは超越者となっていた。
奥底から力が溢れ出る全能感を抑えつつ、パトリックの案内で大扉の前に立つ。
「この奥に……」
「はい。我が神はいらっしゃるのです」
王都を一瞬にして神都へと造り替えてしまった神。荘厳な神殿の奥で待ち受ける神の存在感は、既にここまで伝わっている。
超越者となったセイジですら、思わず尻込みしてしまいそうな圧力だった。
しかし、逃げ帰るわけにはいかない。
勇者に背中を見せるなんて選択肢はないのだ。
「では開きます」
パトリックは持っていた杖を使って、地面を突いた。するとカーンと音が鳴り響き、神殿内部を木霊する。それがカギとなっていたのだろう。大扉が自動的に開かれた。
既に隙間からは白と金で装飾された神の間が見える。
「……っ!」
セイジは思わず唾を飲み込んだ。
完全に開かれた扉の奥には、壁や天井と一体化した神の座が置かれており、そこに黒髪の青年が座っている。六つの光輪が周囲に浮かび、神々しい気配を放っていた。
セイジの持つ聖剣など、それに比べればマッチの炎以下である。
「良く来た。会いたかったぞ勇者。近くに寄ることを許す」
「は、はい」
緊張した声色で返事をし、セイジは前に進む。
一歩進むたびに緊張は増し、足が重くなる感覚すら覚えた。神の潜在力に圧倒され、意思力を保たなくてはならないのである。普段は光神シンも霊力を抑えている。だが、今回はセイジを試すために霊力を放っていた。
そのせいか、パトリックなど入口から一歩も動くことが出来ない。
(ふん。まだまだこの程度か)
セイジの様子を見て、光神シンは少し落胆する。
(超越者になっていると聞いて期待したが、この程度では天使クラスに大きく劣る。駒として使うなら、鍛える必要があるな)
この神殿と神の間は、光神シンの力によって世界が壊れないよう作られた結界の一種だ。この場所から出てしまうと、神の力によって世界に多大なダメージを与えてしまう。ただ、存在するだけで世界が悲鳴を上げてしまうのだ。
だから、この神殿の神の間でならば、ある程度の霊力を解放できる。勿論、それも限度があり、本来の力からすれば百分の一以下だろう。
セイジはその力にすら圧倒されているのだ。期待外れと思ってしまう光神シンに間違いはない。
「そこまでで良い。どうやら俺の圧に耐え切れていないようだ」
「は……い。すみません」
「まぁよい。これが人と神の差だ。埋まることのない絶対的な力の差を恥じることはない」
尊大な口調で諭されても、セイジは不思議と嫌な感じがしなかった。それは、相手があまりにも大きすぎたからだろう。既に光神シンに逆らうという意識はなかった。
その態度を感じ取った光神シンは続ける。
「今から勇者、お前を鍛える。これより訪れる人魔大戦では、お前よりはるかに強い超越者が十二体いるのだ。決して今のままでは勝てぬぞ」
「じゅ、十二!? そんな!」
「そうだ。故に俺が超越者の戦いというものを教えてやろう。来い、神書・海淵現」
光神シンは左手に神書・海淵現を呼び出し、術式を組み立てた。これは神書・海淵現内部に組み込まれた因子を自動的に組み合わせ、光神シンが望む術式を発動させてくれる神装である。
そして光神シンが望んだのは隔絶された空間。
それも神界のように情報次元密度が高く、神の力を使っても崩壊しない特別強固な結界空間である。
「うああああああ!?」
あまりの眩しさに、セイジは思わず目を閉じる。超越者ならば、意思力を高めて霊力を使うことであらゆる環境に適応できる。眩しさでもはっきりと景色を認識できるはずなのだ。それが出来ないということは、まだ未熟な証である。
そしてセイジが目を開くと、そこは何もない真っ白な空間だった。
「ここは……」
「疑似的な神界だ。ここでは外部との時間が隔絶され、更には俺も自由に力を振るえる。例えば――」
光神シンがサッと腕を振るう。
すると、何もなかった白い空間が、一瞬にして険しい山岳地帯へと変化した。
「――こんな風に景色も自在だ」
「凄い」
「この程度で驚いて貰っては困るぞ。今からここでお前の力を試すのだ。鎮まれ、【伊弉諾】」
唐突な権能の解放により、光神シンの圧力はさらに増す。
そして右手に神剣・天霧鳴を顕現させた。クウに折られたはずの神剣は、既に新しく作り直していたのである。神装を作り出すことを得意とする光神シンだからこその所業だった。
光神シンは神剣・天霧鳴を振り下ろす。
するとセイジの背後にあった巨大山脈が消し飛び、塵となる。
「わああああああああああああ!?」
「これこそが権能の基本、意思顕現。これが使えなければ超越者として話にならない。俺の場合は因子を組み合わせ、神装を自在に作り出す力だ。そして勇者よ。お前の権能【破邪覇王】は神剣を作り出すことの出来る珍しい希少な権能。有意義に扱うため、まずは俺の神剣をコピーして見せろ」
「ぐ……」
吹き飛ばされたセイジは立ちあがり、意識を集中させる。そして叫んだ。
「【破邪覇王】! 僕に力を貸してくれ!」
光神シンの聖剣はこの眼で見た。コピーできないはずがない。
そう自分に言い聞かせた。
何故なら、自分には剣に関する特化した力が与えられているのだから。
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セイジ・キリシマ 18歳
種族 超越神種人
「意思生命体」「英霊」
権能 【破邪覇王】
「神剣創造」「勝利」「抗体」
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この権能は本来あり得ぬ「神剣創造」を可能としている。
セイジは聖剣エクシスタを腰に差し、両手に霊力を集中させた。今までのようにただ、力を解放するだけではいけない。目で見た神剣を解析し、理解し、支配する必要がある。
光が集まり、白い影となってセイジの前に神剣・天霧鳴のシルエットが現れた。
「そうだ。その調子だ」
「く……うおおおおおおおおおおおおお!」
セイジは更に気合を入れる。
だがしかし、次の瞬間にはパキリと音を立てて霧散してしまった。どうやら何かが足りなかったらしい。神の神剣をコピーするには至らなかった。
「ふむ。第一ステップでまず躓くか」
光神シンはまた少し落胆したが、ここは時間の概念すら捻じ曲がった神界。幾らでも練習する時間はある。気を取り直してアドバイスした。
「もっと権能を支配しろ。力を貸してもらうのではない。支配だ。それによって剣という概念を支配し、勝利を掴み取る絶対の力を意識しろ。それがお前の権能なのだ。その第一段階として俺の神剣をコピーさせている。ここで躓くようでは、先が思いやられるぞ」
「はい。はあああああああああああ!」
セイジは再び霊力を込め、神剣・天霧鳴のコピーを始めた。
この力で魔王を打ち砕く。
その意思力で鍛練を積んでいく。
「ああああああああああああああああ!」
うまく利用されているとも知らず、セイジは光神シンの言いなりとなって権能を会得するため、修行を重ねるのだった。





