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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP468 総力戦㉙


 クウはただ《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》に集中する。

 権能【魔幻朧月夜アルテミス】を意思力によって発動し、魂の根底である意思次元へと干渉する。タダの幻術でしかない白銀の巨大太刀は、斬られると錯覚することで本当に斬られる。

 物質的に斬られるのではない。

 魂が引き裂かれるのだ。意思次元が直接攻撃されることで、超越者すら死に至る。



(クウ……やはりその術は発動に時間が掛かるようだな)



 アリアは権能【神聖第五元素アイテール】でオメガを抑え込んでいる。あらんかぎりの神聖粒子を操り、次々と現象変換でオメガを縛る。

 どれだけ権能【憤怒魔神サタナエル】で抵抗しても、アリアは災厄を以てしてオメガを封じた。



「時間は稼いだ! 放て!」


「言われなくとも!」



 クウは居合切りによって《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》を放つ。それは目にも捉えることの出来ない速さで魔王オメガを引き裂いた。

 身代わりでもなく、本体を間違いなく斬った。



「ぐ……がああああああああああああああああ!」



 魂を引き裂かれた痛みでオメガは絶叫する。長い髪が振り乱され、虚数次元から受け取っているエネルギーの一部が周囲に亀裂を生む。

 亀裂はすぐに修復されたが、オメガにダメージを与えたのは確実だった。



「があああ! はぁっ……がはあああああ!」



 意思次元を直接削り取られたオメガは足場にしていた魔素を維持できず、落下を始める。力のコントロールが上手くいかないのだ。

 リグレットが作り出した鏡の回廊は上や下の概念がないため、落下の起動は不規則である。

 しかし捉え切れないわけではない。

 クウとアリアはトドメを刺すべく天使翼を羽ばたかせた。



「はああああああ!」



 まずはアリアが神槍インフェリクスに神聖粒子を纏わせる。厄災の現象変換が込められ、オメガの真臓を突き刺した。

 意思次元を大きく傷つけられたオメガは、アリアの《現界災禍ワールド・ディザスター》で更に意思力を消耗させてしまう。

 だが、これだけでオメガは滅びない。

 クウの《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》は超越者を滅ぼせるだけの性質を持っているが、必ず一撃で殺せるわけではない。しかし、意思力を大きく損耗させる大ダメージを与えるのは事実。

 アリアの追撃でオメガは最早動けなくなった。

 そこでクウがアリアの槍に手を添えた。



「俺がアリアの術式を意思次元に届くように……干渉する!」



 クウはアリアの神装を通すことで、権能を重ね合わせた。

 アリアの現象変換で厄災を生み出し、クウの意思干渉でそれをオメガの意思次元へと届かせる。



「これで……」


「終われ!」



 魔王オメガは激しく呻いて絶叫を上げるが、意思次元が壊されかけたことでもはや声すら出ない。

 真っ白な光が放たれ、クウ、アリア、オメガを包み込んだのだった。












 ◆ ◆ ◆












 一方、リグレットの作り上げた鏡の回廊の第三回廊ではリアやミレイナが戦っていた。

 破壊の波動を竜の形へと押し留めたミレイナは、リグレットの世界侵食イクセーザ消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》によって作られた鏡の世界を利用し、破壊の力を自由に振りまく。

 世界を壊す心配がないので、その力を存分に振るって六王と対峙していたのである。



「はああああああああああああ!」



 ミレイナが権能【葬無三頭竜アジ・ダハーカ】が猛威を振るう。

 その身に纏う滅びの波動は、巨大なドラゴンの形となった。三つの頭部を持つ巨大な半透明のドラゴンが意のままに操られ、六王を簡単に食いつぶす。

 情報次元すら一瞬で滅ぼすミレイナの《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》。

 碌に眷能を使えないグリフォンは一瞬で噛み砕かれ、物理に長けたインペリアル・アントは返り討ちにされ、蜘蛛の巣を作って自身のフィールドを作り出そうとしていたアラクネ・クイーンは破壊のブレス《深淵波哮エンドレス》で崩壊させられた。

 滅びの竜を喰らおうと暴食の化身を出したフェンリルは逆に飲み込まれ、自身を昇華することで情報次元を強化したキングダム・スケルトン・ロードですら情報次元が崩壊させられた。「風化」があるので、昇華によって情報次元を強化したところで意味がない。

 弱体化フィールドを広げていたカースド・デーモンは慎重に戦っていたのだが、《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》の三つの頭部から放たれたブレス《深淵波哮エンドレス》が襲いかかり、塵となった。

 もはやミレイナ一人で六王を相手に出来る。

 正確には六神獣とリアがサポートしているため、厳密な一対六ではないのだが。



「カルディアさん」


”ええ”



 空間や時間を操ることに長けたリアとカルディアは、可能な限り六王を妨害してミレイナと一対一の戦いが出来るように調整する。

 特にリアは《時間転移タイム・シーフ》で運命を操る。

 六王は当たるはずの攻撃が外れ、回避したはずが攻撃されるのだ。

 ファルバッサ、ハルシオン、ネメア、テスタ、メロの神獣が包囲するように適当な攻撃を放つと、リアが攻撃が当たる未来に転移させる。これによって六王は防御すら儘ならない状態だった。



”これは楽だな。我も驚きだ”


”ウチも同感やねぇ”



 ファルバッサとネメアは戦いやすさに驚いた。リアは運命を操り、望みの未来を実現させる。幾多にも分かれた未来の選択肢から、望みの未来を自在に選び取り、その未来へと世界を強制的に引きずり込む。

 クウの「意思干渉」にも並ぶリアの「意思誘導」。

 リアが権能【位相律因果フォルトゥナ】を使う限り、不利な状況にはなり得ない。

 常に『世界の意志プログラム』が味方をしていることの恐ろしさは計り知れない。



”儂の瘴魔で六王を抑え込んでくれよう。ミレイナ、瘴魔ごとやってしまえ”


「分かったぞ!」



 メロが権能【百鬼夜行】は瘴気から眷属を生み出すことが出来る。これは生物ではなく怨念が形となった現象であり、ステータスは存在しない。とはいえ、その強さはメロの意思力に準拠している。

 準超越者となった六王に瘴魔では荷が重いように感じるが、足止めとして大量に放出することで充分な効果を得らえるのだ。

 妨害によって単騎となった六王を瘴魔で抑え込み、ミレイナが《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》で食い潰す。その繰り返しによって六王を相手に圧倒的な戦いを演じていた。



「《負蝕滅アナイアレーション》!」


「《時間転移タイム・シーフ》!」



 ミレイナはマイナスエネルギーを凝縮することで滅びの暗黒球を作り出す。速度の遅い《負蝕滅アナイアレーション》は正面から撃っても当たらない。しかしリアが《時間転移タイム・シーフ》で直撃する未来へと転移することで、それを修正する。

 弱体化フィールドを張っていたカースド・デーモンは《負蝕滅アナイアレーション》の直撃を受けて消滅した。あらゆる情報次元を劣化させるカースド・デーモンにも《負蝕滅アナイアレーション》は容赦なく効く。

 何故ならカースド・デーモンの眷能【嫉妬魔神レヴィアタン】はマイナスエネルギーに満たされた空間を展開することで、対象の情報次元を劣化させる力だ。故にミレイナのマイナスエネルギーをぶつけた場合。カースド・デーモンの劣化空間が《負蝕滅アナイアレーション》をブーストしてしまう。



”弱い! 弱い過ぎるぞ! その程度か!”



 ハルシオンが権能【雷神】で無数の雷を落とす。それは法則に従って敵だけを打ち砕き、敵の攻撃を「電子変換」で分解する。

 ネメアは人型になってキングダム・スケルトン・ロードへと近接戦闘を仕掛け、蹂躙していた。体術を極めた彼女にとって、能力頼りで腕が多いだけのキングダム・スケルトン・ロードなど敵ではない。偶に九尾の姿になって毒を振りまき、リアの力で六王にだけダメージを与える。

 キングダム・スケルトン・ロードは毒で骨の体を劣化させられ、ボキボキと折られていた。



”確かに、眷能すら使いこなせない眷属は大したことがありませんね”



 そう言いながら流星群を降り注がせるのがテスタだ。

 通常は重力に従って落下し空気抵抗による減衰で終端速度へと達する隕石も、権能【天象星道宮ゾディアック】による力学操作で無制限に加速される。単純な物理エネルギーを権能で概念化し、インペリアル・アントへと叩き込んだ。

 怠けることで力を蓄えるインペリアル・アントの眷能【怠惰魔神ベルフェゴール】は、怠けなくては意味がない。連続して戦いを仕掛けることで、インペリアル・アントは弱体化していくのだ。

 本来【怠惰魔神ベルフェゴール】の特性は「吸収」「蓄積」「完全耐性」であり、上手く使えば相手のエネルギーを奪うことすらできる。しかし、怠けることでしかエネルギーを蓄えてこなかったインペリアル・アントにその発想がない。

 超越した存在としての年季が違いすぎた。

 眷能を上手く扱えない六王は六神獣の敵ではないのである。



「む?」



 《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》で暴れていたミレイナは、不意に違和感を感じた。

 戦っていた六王の潜在力、つまり霊力が急激に低下し始めたのである。動きも驚くほど鈍くなり、再生速度は殆どゼロになった。



「これは……どういうことなのだ?」



 驚くミレイナに対し、状況を理解したファルバッサが解説し始めた。



”ふむ。どうやらクウとアリアがやってくれたようだな。オメガの意思力が失われたのだ。故に眷属である六王は急激に力を失い、霊力も供給されなくなった。つまり我らの勝利だ!”



 単純にオメガが虚数次元と接続できなくなったことで、準超越者となった六王を維持できていない可能性もあるにはある。しかし、そうだったとしても六王の相手をする必要がなくなったリア、ミレイナ、六神獣でオメガを叩けばよい。

 この鏡の回廊を管理しているリグレットも、それぐらい気付いているだろう。

 リグレットは第二回廊でオメガの世界侵食である魔神アラストルを相手にしているが、他の回廊に目を向けるだけの余裕はあるはずだ。そして気づけばリア、ミレイナ、六神獣をオメガの元に送り出すはずである。



「兄様とアリアさんが勝ったのですね!」


「そのようだな」



 《深蝕竜顕アビス・ドラゴン》を解除したミレイナはつまらないといった様子でリアに答えた。激しい戦いの末にミレイナは超越化を果たし、権能【葬無三頭竜アジ・ダハーカ】を獲得した。それは非常に感慨深い。

 しかし、濃密な経験をした時間というものは、終わってみるとあっという間に感じてしまう。

 今のミレイナはその喪失感を味わっていた。



”これで終わりですね。千年以上続いた私たちの戦いも終わりですね”


”そう考えると長かったな”



 カルディアとファルバッサは感慨深さを感じて語り合う。

 かつて文明神アカシックに送り込まれた巨人族と戦争し、結果として敗北した世界エヴァン。最終的には運命神アデラートの手によってエヴァンは二つに分かれた。裏世界と呼ばれる嘗てに世界エヴァンに邪神と光神は封印されている。

 そしてオメガさえ倒せば、邪神カグラと光神シンを裏世界に完全封印できる。



”これで終わりとは呆気ないですが”


”ふん。物事とはそういうものじゃよ”



 テスタとメロは粒子となって消滅していく六王の姿を眺めつつ呟いた。

 グリフォン、インペリアル・アント、アラクネ・クイーン、フェンリル、キングダム・スケルトン・ロード、カースド・デーモンの六体はオメガから霊力を供給されなくなり再生力を失った。更には眷属としての繋がりすら消えているため、仮想の意思次元を維持することも出来ない。

 情報次元と仮の意思次元が消滅し、声を上げることすらなく六王は消滅してしまった。



「終わりましたね。リグレットさんからの連絡を待ちましょう」


「うむ……分かったぞ」



 リア、ミレイナ、六神獣はしばらく待つことにしたのだった。












 ◆ ◆ ◆










 ベリアルが展開した《黒死結界》はリグレットの世界侵食イクセーザ外部にあった。

 《黒死結界》内部で超越神種妖精シャヌと戦っていたユナは、まだ神祖剣メルトリムノヴァを振るうことでシャヌを斬撃の檻に閉じ込めていた。

 超越者の身体能力は霊力の限り無限であり、霊力体が疲れるという概念はない。



「はああああああああああああああ!」



 権能【聖装潔陽光アポロン】を込めて最後に振り下ろす。

 すると空間すら燃やし尽くす炎熱の斬撃が発生し、神祖剣メルトリムノヴァの力で複製され、シャヌは粒子レベルに分解されてしまった。

 斬撃の檻が消え、そこに粒子が集まり始める。

 シャヌが意思力をかき集め、情報次元を再構築して霊力体を復活させているのだ。

 しかし、その再生速度は明らかに遅くなっていた。



”うぅぅ……うぅぅぅ……!”



 シャヌは悔しそうな表情を浮かべる。

 だがその時、再びシャヌの体が薄くなり始めた。勿論、ユナは何もしていない。シャヌも何が起こったのか理解していないようだ。

 それも当然である。

 オメガとの契約が途切れてしまったのだ。



「あれ? 倒した……の?」


「そうは見えないのだけど……どうしたのかしら」



 ユナとベリアルは戸惑う。

 オメガとの契約が途切れてしまったという発想はないらしく、困惑するばかりである。

 裏世界の超越者を呼び出す《神格降臨ディセンダー》は、光神シンからの加護を利用した契約によって裏世界の超越者を強制召喚する仕組みだ。故に、契約が途切れた瞬間、呼び出された超越者は元の世界に引き戻されてしまう。

 『世界の意志プログラム』という名の運命によって、存在を拒否されるのだ。

 超越者ゆえに存在が消滅することはない。

 しかし裏世界へと引き戻されてしまう。

 そうこうしている内に、シャヌは消えてしまった。



「えっと……どうしたらいいかな?」


「私に聞かれても困るわ……」


「じゃあ、ちょっと休もっか。それまで《黒死結界》の維持はお願いね」



 特にユナは権能を全力で使用した。

 少しだけ休む必要がある。

 そこで、ユナは「武器庫」に神祖剣メルトリムノヴァを収納したのだった。
















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― 新着の感想 ―
[良い点]  ついつい読み返したくなるくらい面白いです。特に権能のバリエーションが多くて、こういう能力あったらいいなぁみたいなものの宝庫のような感じでした。 [気になる点]  《素戔嗚之太刀》の発動に…
[気になる点] 超越者の目にも捉えられない速度ってどのくらいですか? 雷速は見てからでも反応しているような描写はあるから、少なくともクウとユナの居合いは雷速よりも速いってことですよね?超越者でも知覚で…
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