EP459 総力戦⑳
アジ・ダハーカを宿したオリヴィアは、その力が馴染むことで龍の力を表出させた。手に持っている黒い剣はアジ・ダハーカを宿した武器。神装にこそ届かないが、かなりの力を持っている。
まずはアリアが先手を取って神槍インフェリクスを突き出す。
するとオリヴィアは龍刀を操って槍を受け止めた。元から近接戦闘が苦手な彼女は、アリアの一撃を止めることなど出来なかったはずだ。だが、龍の力を宿し、その記憶を宿したことで戦闘経験値を手に入れた。
「動きが変わった?」
「ええ、ここからは私が自ら戦うわ」
オリヴィアは龍刀を振る。
するとその力でアリアが押し退けられた。龍刀からは悍ましいほどの瘴気が溢れ、空間ごと薙ぎ払う。同時に千の魔術も発動し、爆炎や雷撃や氷結、更には毒や幻惑といった追加効果が吹き荒れる。
全てが現象系の概念攻撃であるため、相反する効果すら共存する。
それらがすべてアリアに襲いかかった。
しかし、ミレイナが権能【葬無三頭竜】で千の魔術を無効化する。あらゆる現象に対して特性「無効化」の「波動」が効果を及ぼした。
黒い瘴気すら消え去った。
「助かったぞミレイナ」
「問題ないぞ」
ミレイナがアリアを引っ張って下がった瞬間、リアが「聖炎」で攻撃を仕掛ける。真っ白な炎がオリヴィアを包み込み、聖なる力で浄化する。
だが、オリヴィアも負けてはいない。
超越者の力は意志の力だ。
その魂に秘めた意思力があれば、聖なる炎ですら温い。
「効かないわねぇ!」
龍刀で炎を切り裂き、瘴気で聖なる力を飲み込んだ。
そして右手をリアにかざすと、空間すら切り裂くような嵐を引き起こした。風の摩擦力によって空気が電離し、プラズマの発生に伴って帯電する。
リアは空間を遮断すると同時に、《時間転移》で完全に防御できる未来へと転移した。本来は空間すら引き裂く概念攻撃の嵐。だが、防御成功の未来へ転移したことで、遮断した空間が切り裂かれることはなかった。
「おかしいわね。防御ごと切り裂くと思ったのだけど……」
「考え事をしている暇はないぞ」
背後に転移したアリアが神槍インフェリクスを突き出す。すると、龍鱗を思わせる防御結界が出現し、自動でアリアの攻撃を防いだ。
「ふむ。直接攻撃を防ぐのか」
そう言ったアリアは権能【神聖第五元素】を発動し、槍に纏わせる。そして特性「事象発現」により竜殺しの性質を付与した。「発散収束」で濃密に槍を纏っている特異粒子が、竜殺しの力として変換される。
更にアリアの周囲を小さな風が渦巻いた。
これは大量の大気を圧縮した極小台風であり、これにも竜殺しの概念が含まれている。
「ミレイナ。私の攻撃に巻き込まれるなよ」
「常に無効化の力を纏っているから問題ない」
「なら無効化の力は常に纏って消すな!」
ミレイナは竜の力ゆえにアリアの纏う竜殺しの力を悟った。しかし、ミレイナは権能【葬無三頭竜】の力で無効化できる。
「破壊」と「無効化」の力を「波動」として体に留め、「竜」の力で形にする《深蝕》が発動している限りは竜殺しの力も効かない。
そして同じく龍の力を宿しているオリヴィアもアリアの竜殺しに気付いたのだろう。厄介だと言わんばかりに舌打ちした。
「的確に弱点を突いてくるわね。厄介な力だわ」
「これが私の強みだ。喰らえオリヴィア!」
アリアが槍を差し向けると、竜殺しが付与された極小台風が一斉にオリヴィアへと殺到する。全方位から迫っており、回避は難しい。隙間を縫って避けようとすれば、アリアが意図的に炸裂させることだろう。
オリヴィアも回避できないことは一瞬で悟っていた。
(回避できないなら、斬ればいいのよ)
刀身に龍鱗のような紋様のある龍刀。
それを構えたオリヴィアは、超越者の身体能力と、アジ・ダハーカから吸収した戦闘経験値を使って神速の刀術を見せつけた。千の魔術を纏わせ、無魔術による魔法無効化で極小台風を切り裂いた。
だが、竜殺しの力が含まれていたが故に龍刀は砕けてしまう。
「戻れ」
オリヴィアが砕けた龍刀に手を翳し、滑らせるようにして刀身を撫でた。すると、一瞬にして龍刀が復活して元に戻る。オリヴィアの身長を遥かに超える刀が再び現れた。
壊れたのはあくまでも器の刀であり、再び器を形成してアジ・ダハーカの情報次元を宿らせれば簡単に復活させることが出来る。この辺りはデス・ユニバースと変わりない。
両手で龍刀を構えたオリヴィアは体を回転させつつ、全周囲を薙ぎ払った。
黒い瘴気が膨れ上がり、周囲の全てを飲み込む勢いで放たれる。
”ふん。温い瘴気じゃな”
だが、瘴気を操る天妖猫メロが権能【百鬼夜行】を持って瘴気を吸収した。そして瘴気を元にした妖魔を作り出す。出来上がったのは八つの首を持つ龍の姿。
今のオリヴィアの瘴気には龍の因子が含まれているため、メロはそれに沿って妖魔を形成したのだ。瘴気で模られた八岐大蛇がオリヴィアの絡みつく。それに対し、オリヴィアは達人の如き刀さばきで八岐大蛇を切り裂いた。
だが、瘴気は消滅したのではなく形を失っただけに過ぎない。
メロは再び瘴気を操り、多数の触手を持つ不気味な妖魔を作り出す。見るだけで発狂するような気持ち悪さこそないが、異様なことに違いない。
「面倒ね!」
そこでオリヴィアは伸びてきた触手にわざと捕まる。そしてアジ・ダハーカの力を使い、瘴気をその身に吸収した。しかし、瘴気を吸収する時間が一瞬だったとはいえ、超越者の戦いでは十分な隙となり得る。
”時間を緩めます。やってくださいファル!”
”任せよ!”
カルディアが時間を操ってオリヴィアの動きを阻害したと同時に、ファルバッサが大きく息を吸い込む。そして全ての法則を、概念を込めて霊力と共に圧縮した。
”ガアアアアアアア!”
光速の息吹が一瞬でオリヴィアを飲み込み、貫く。
あらゆる法則を内包した《神・竜息吹》が世界を削り取る。ブレスそのものが世界を表すほどの情報次元を帯びており、触れることは世界との衝突を意味する。
当然、超越者であっても一瞬で固有情報次元が消し飛ばされる。
「ぐ……」
”簡単に再生させるかよ”
そして再生しかけていたオリヴィアをハルシオンの雷撃が穿つ。
「く……あああああああああああ!」
電撃の概念攻撃により、オリヴィアは全身が麻痺する。アジ・ダハーカの持っていた千の魔術で瞬間的に中和したが、あくまでも瞬間レベルの隙が存在していた。
そこにミレイナが飛び込み、《深蝕》による破壊の竜爪でオリヴィアを切り裂く。無効化の力で龍鱗防御を突破し、更に破壊の力でオリヴィアの情報次元を直接壊した。
波動の力で情報次元を侵食し、超越者の再生能力すら阻害する。
意思力によって常に再生しているが、同時にミレイナの意思力が侵食して破壊しているのだ。再生と破壊が拮抗し、回復が進まない。
アリアはその隙に術式を整えた。
「来たれ、竜封じの刻印。その紋章を楔とし、弔いの杭を以て施錠せよ!」
特異粒子が凝縮して合計十二の杭が現れる。その杭には竜封じの刻印が刻み込まれており、白い光を放っている。その杭は規則正しく並び、正二十面体の立体魔法刻印陣を形成する。
この立体魔法刻印陣の中心にはオリヴィアがいる。
竜封じの牢獄に捕らわれたことで、オリヴィアの力は大きく削ぎ落された。
アリアの使った封印は竜や龍の因子を含む情報次元を強制的に停止させる。特定の情報次元を時間停止の応用で停滞させる高度な術式である。
「な、これは!」
オリヴィアは龍刀が崩壊していくのを見て驚く。更に体から力が抜けていく感覚すら覚えた。アジ・ダハーカの力が停止したことで、千の魔術すら使えない。千の魔術には解術に特化した属性もあったのだが、それが使えないとなればオリヴィアは本当に封じられたことになる。
そしてダメ押しとばかりにリアが封印に強化をかけた。
「聖なる炎をここに。世界を切り取り、時間を切り取り、魔に属する者を封じてください」
正二十面体の封印を囲うように空間を切り取り、時間を隔離し、オリヴィアを閉じ込めた。更に「聖炎」の力を付与することで、アンデッドの力も削り取る。
オリヴィアの権能にとっては毒のようなものだ。
封印の内部に聖なる炎が充満しているため、オリヴィアは水に溺れているような感覚を覚える。尤も、超越者は溺死と無縁だが。
(力を使いにくいわね……《英霊屍装》も使えない)
使えないこともないのだが、聖なる炎に阻害されてしまう。そんなことに時間をかけていては、隙をついて攻撃されてしまう。
今のオリヴィアは、権能の力を阻害されている。
アリアは今のうちにオリヴィアを倒せる術式の構築を始めた。
「私の権能はあらゆる現象を司る現象系最強クラス。故にこんなことも出来る」
真上に右手をかざすと、そこに特異粒子が集まり始めた。特性「発散収束」により限界を超えて密度が上昇していく。特異粒子は現象を発現する力の源だ。それが形を成し、一本の光る槍となった。
「この槍は権能【神聖第五元素】そのものだ。この槍を受ければ、その存在は時間の概念すら消滅した世界で無限とも思える災害の力を味わう。超越者を滅ぼすために作った、私の切り札の一つだ」
(拙い……)
「滅べ。『死霊使い』オリヴィア! 《現界災禍》!」
アリアは光る槍《現界災禍》を封じられたオリヴィアに向かって投げつけた。この槍は現象変換により透過が発生し、アリアとリアの結界をすり抜ける。そしてオリヴィアの胸に深く突き刺さった。
(ま、拙いわ!)
オリヴィアは意識が暗くなるのを感じる。そして体が溶けるような感覚を覚えた。足元に目を向ければ、真っ赤に煮えたぎる溶岩が溢れている。それがオリヴィアの足を溶かしていた。超越者の情報次元を侵食していることから、この溶岩は概念攻撃ということになる。
次は左腕が凍り、激しい暴風が体をねじ切る。
津波に飲み込まれて息苦しさを感じたかと思えば、地割れに飲み込まれて体をすり潰される。
(いつ終わるのこれは……)
オリヴィアはもがき苦しみながら術式が消えるのを待つ。
しかし、《現界災禍》は時間すら操る。更に次元を隔離することで、外から見れば槍が突き刺さっているだけだが、術式を本人は無限の時を災いによって苦しめられている。
災禍という現象を槍に込め、それを対象に突き刺すことで現象によるダメージだけを与える。故に周囲への被害はない。別次元で災害が発生し、槍を基点としてその次元と融合した対象は槍の特異粒子が尽きるまで災いの力に晒される。
対超越者を想定した術式なのだ。
勿論、封印が弱まったわけではないため、権能が上手く使えないオリヴィアは槍が刺さったまま、次々とダメージを受けている。
「この術式の良いところは、《現界災禍》を受けた相手は動きを止めてしまうことだ。その間に私は二つ目の《現界災禍》を展開できる!」
アリアは再び右手を天にかざし、《現界災禍》を発動した。
輝く槍がアリアの手に握られた。
「終わりだ!」
ミレイナは些か不満そうにしていたが、オリヴィア討伐が優先である。アリアは槍を投げるべく構えた。
だがその時、近くで空間が割れる。
「くはははははははは! やってやりましたよ!」
そこから現れたのは白衣を纏った魔人ラプラス。割れた空間の向こうに数百体のバハムートを従え、現れたのだった。





