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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
聖剣と聖鎧編
408/566

EP407 概念聖剣


 光の一撃を放ったセイジのエクスカリバー。

 《魔境創造クリエイション》で造られた世界を切り裂き、黄金の斬撃が天地を結ぶ。死霊勇者エイスケはそれに飲み込まれ、セイジは勝利を確信した。

 創造魔剣エクスカリバーを振り下ろしたまま、黄金の光が消えるのを待つ。



(これで……)



 《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》によって生成したエクスカリバーは神話や民話によって生み出された概念や思想、思念を具現化したつるぎだ。

 この【魂源能力】はそういった概念を束ねることで、力ある剣を創造することが出来る。

 それは異世界の思念にも及び、あらゆる聖剣魔剣を手に出来る。

 エクスカリバーは地球における最も概念の強い武器だ。

 多く人が信仰し、大量の思念が内包されている。

 そこから生み出される一撃は……恐ろしい。

 だから、セイジは扱いやすくするために思念や概念を分割した。エクスカリバーという剣を、伝承に沿ってカリブルヌス、カリバーン、カラドボルグ、エスカリブール、コールブランドに五本に分けた。同じ剣でありながら、別の名を持つ五本に分けることで、扱いやすくしたのだ。

 故に、五本が一本の剣……エクスカリバーへと戻る時、真の力を取り戻す。



(……終わりだ!)



 セイジの持つ最強の剣を《剣仙術》によって放った。

 この完璧な一撃で倒せないはずがないと思った。














―――黄金の光が消えた時、そこに死霊勇者の姿を見るまでは。





「くっ!?」



 油断していた。

 セイジはエイスケが振るう聖剣エクシスタで切り裂かれ、血を噴き出しながら吹き飛ばされる。《仙力》を纏っていたお陰で致命傷にはならない。そして《超再生》のお蔭で傷も修復しようとしている。

 だが、セイジ最高の一撃でエイスケを倒せなかったことに対する精神ダメージが大きかった。



(これでダメだなんて……)



 エイスケも《無限再生》で傷は再生しようとしている。エクスカリバーによる一撃は、確かにエイスケへと大きな傷をつけた。しかし、デス・ユニバースは消滅させない限り倒せない。

 《剣仙術》とエクスカリバーは確かに強力だが、あくまで斬撃だった。

 黄金の光が散っていたものの、あれはあくまでもエフェクト光に過ぎない。

 実際に攻撃力を持つのは細い斬撃だけ。故にエイスケを消滅させることが出来なかった。消滅させなければデス・ユニバースは無限に復活する。



「桐島!」


「セイジ君! 大丈夫かい!?」


「き、傷はなんとか……」



 セイジは起き上がり、二人の横に並び立つ。

 だが、動揺でエクスカリバーは消えてしまい、気力もほとんど残っていない。あれほどギリギリの戦いをしてようやく出来た隙も、活かすことが出来なかった。その落胆もあって、今のセイジには初めほどの意気込みは残されていない。



「こいつ……どんな再生力やねん!」


「諦めちゃダメだ。セイジ君が回復するまでは僕たちでやるよ」



 アヤトはセイジの様子から、暫く戦えないと悟った。

 そこで、回復までの時間稼ぎをすることに決める。

 絶望的な戦いだと悟り始めるも、三人は決して逃げようはしなかった。












 ◆ ◆ ◆












 クウの放った斬撃、幻剣、消滅の矢がアジ・ダハーカへと突き刺さった。全長が一キロを超える巨大な体ゆえに、全ての攻撃が余すことなく直撃する。

 斬撃はアジ・ダハーカの表面を切り裂き、幻剣が墓標のように突き刺さり、消滅の矢が体を抉る。

 その大きな体からすればかすり傷のようなものだったが、かすり傷でも数えきれないほどであれば致命傷となり得る。しかし、アジ・ダハーカの頭の上に立つオリヴィアは余裕の笑みを崩さなかった。



「ふふ……引っかかったわね」



 オリヴィアの言葉に呼応したかのように、アジ・ダハーカの体表から黒い液体が流れ出た。それはスライムのように蠢き、形を成して龍の姿となる。

 体中に棘をはやした邪悪な龍……いや、翼の生えた蛇と称した方が的確かもしれない。全ての傷から邪龍が生み出され、アジ・ダハーカの支配下に収まった。

 それを見てクウは驚く。



「傷口から……」



 クウが付けた傷は千どころではない。

 つまり、邪龍の数も相応にいるということだ。



「下手な手数は状況を不利に追い込むだけか……ベリアルは戻れ」


「いいの?」


「ここからは一人でやる」


「そう……わかったわ」



 ベリアルはクウが腰に差している魔神剣ベリアルへと戻った。クウは左手で魔神剣ベリアルに触れ、虚空リングの中に収納する。

 ここからは一人での戦いだ。

 黒い天使と三つの首を持つ邪龍。

 二つの「魔眼」と六つの瞳が交差する。



「勝負だ……」



 神刀・虚月を左手に持ち、クウは《因果逆転トリック》を発動させる。対象はアジ・ダハーカの体に刺さっている幻剣である。

 空間的距離の誓約を無理やり捻じ曲げたクウは、一瞬で移動してアジ・ダハーカの翼に刺さっている幻剣を手に取った。



「切り裂け」



 クウは《神象眼》を乗せて切り裂く。

 《因果逆転トリック》だけでなく《神象眼》まで同時発動となれば負担は大きいものの、アジ・ダハーカを相手にチマチマしたダメージは意味がない。

 幻剣による一撃はアジ・ダハーカの右翼を真っ二つに切り裂き、《神象眼》による「意思干渉」がそれを正常だと定義づける。アジ・ダハーカは意思次元のレベルで、右翼など初めからなかったと認識された。



「次」



 更にクウは二つ目の幻剣に飛び移る。そこはアジ・ダハーカの右首であり、即座に《神象眼》を乗せて斬撃を放った。アジ・ダハーカの首は切断され、それが自然なものだと認識される。

 ここまで僅かに一秒。

 一瞬にしてアジ・ダハーカはバランスを失った。しかし、元から魔法的な要素で浮遊しているため、落下することはない。

 そしてクウの姿に反応して邪龍も襲いかかってくる。



「邪魔をするなああ!」



 クウは数百の幻剣を展開し、周囲を覆う邪龍に向かって飛ばす。流石に視界を塞ぐ程の邪龍がいると、クウの「魔眼」を活用することが出来ない。そこで邪龍から先に始末することに決めたのだ。



(《因果逆転トリック》の連続発動は数分が限界だ。急ぐか)



 次の瞬間、クウは連続短距離転移によって幻剣の元へと移動し、幻剣が突き刺さった邪龍を切り裂いて一撃で仕留めていく。一秒にも満たない僅かな時間で数十の邪龍が消滅し、十秒もすれば周囲の邪龍は数百体ほど消え去る。

 アジ・ダハーカの傷から生まれた邪龍はそれぞれが普通のドラゴンに近い強さを持っている。しかし、クウからすれば一撃で仕留められる程度だ。元から邪龍は蛇に近い見た目なので、両断しやすいという理由もあるが。

 しかし、オリヴィアが真の切り札と称するアジ・ダハーカをその程度で倒せるはずもない。



「アジ・ダハーカの力は傷から邪龍を生み出すだけじゃないわよ?」



 その言葉通り、アジ・ダハーカの体から無数の魔術が発動する。

 元々、アジ・ダハーカはあらゆる世界で邪龍と呼ばれる存在を死霊に変えて融合した存在だ。その成り立ちはフォールン・デッド・カオスにも近いため、邪龍が保有していた魔術特性を受け継いでいる。

 それが眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】の特性「千死追憶」だ。

 この眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】は「吸生」「瘴魔」「千死追憶」の特性を内包している。

 特性「千死追憶」は融合された全ての邪龍の情報次元を記録しているという特性になる。ここから情報次元を発現させると、邪龍時代に保有していた魔術を発動できる。

 そして「瘴魔」は自身の傷から邪龍を生み出す際にコアとなる特性だ。「千死追憶」に記録された邪龍の情報を元に、最適化された使い魔を生成するというわけなのだ。。



「あらゆる異世界から集めた千の魔術を味わうと良いわ」



 炎、水、風、土、雷、光、闇、回復、時空間、結界、付与、召喚はエヴァンに存在する属性だ。しかし、異世界にはこれとは異なる属性が存在している。

 爆、氷、嵐、樹、聖、呪、虚、力、冥、天、紅蓮、紺碧、深緑、琥珀、極光、深淵、破壊、創造、星、反転、腐敗、蝕、霊、分解、廻輪、病、血、変異、塵、毒……

 挙げていけばキリがない。

 しかし、アジ・ダハーカの「千死追憶」にはこれらの属性が全て記録されている。加えて言えば、それらの属性を全て操ることが出来る。

 合計して千の属性を操る。

 つまり千の魔術を操る三つ首の邪悪竜、アジ・ダハーカ。

 クウにその暴威が襲いかかった。



「ぐっ……きつすぎだろ」



 クウの全身に呪縛の呪印が浮かび上がり、行動を阻害させられる。更に空間、時間、重力などが操られ、クウは自分の体勢を保つことすら難しい。炎や氷、土などの属性槍が飛び、雷鳴がとどろき、雹が降り、空気に毒性が生じる。

 物質は腐敗し、塵となり、再び結合し、破壊と創造が交差する。

 当然、「千死追憶」による魔術発動は情報次元に作用する概念攻撃だ。超越者クウにも通用する。



「ちっ……消えろ!」



 仕方なく、消滅エネルギーを大量に生成して《神象眼》で操る。消滅エネルギーを全方向に球状展開し、全ての魔術を無効化した。情報次元の情報を消し飛ばす力であるため、どんな魔術でも効果を失う。

 クウは霊力を消滅エネルギーへと注ぎ込み、周囲を消し飛ばした。

 アジ・ダハーカの体表付近に居たので、ついでにその体表を抉り取る。



「《夢幻》」



 そしてクウは最強幻術を展開し、その場から消えた。意思次元に干渉することで発動するため、意思力でクウからの干渉を撥ね退けない限り、幻術からは逃れられない。

 アジ・ダハーカもクウを見失ったからか、自身の修復に専念する。傷から生まれた邪龍はそのままに、オリヴィアから徴収した霊力を使って自身を再生するのである。

 切断された右翼と右首が元に戻り、体中の傷も全て元通りになった。《神象眼》が乗せられた傷は、その状態が正常だと決定づけられているため、再生に時間がかかったが。



『ウオオオオオオオオオオォォォ……』



 アジ・ダハーカはクウを見失ったことで、魔術発動を止める。そして邪龍を操り、クウの居場所を探知し始めた。

 三つの首を様々な方向に動かし―――



「《月界眼》」



 ―――上空にクウの姿を見つけると同時に、世界は夜で覆われる。天で輝く月は深紅に染まり、黄金の六芒星が輝いていた。

 同時に、アジ・ダハーカは強い力で引き寄せられるような感覚を覚える。

 引力でも働いているかのように、何もない空間が周囲の物体を引き寄せ始めた。荒野に転がっている石や枯れ木が一番初めに引き寄せられ、邪龍も次第に引力の影響を受けていく。



「これは重力?」


「対処させろオリヴィア」


「分かっているわ」



 アジ・ダハーカの上に乗るオリヴィアは、謎の引力に対抗する命令を出す。千の魔術を操るアジ・ダハーカの力をならば、引力にも抵抗できると考えたのだ。

 だが、甘い。



「その程度でこの力に抗えると思うなよ……」



 夜空で六枚の翼を広げたクウが呟いた。同時に、その背中越しで輝いていた深紅の月も消え失せる。夜の世界も終焉を迎え、一つの運命が完成した。



「俺が侵食したこの世界では……その一点・・・・に重力が集まり、無限に増幅される。新しい常識・・だ」



 そしてクウは重力が集中する一点に手を翳し、一言告げた。



「さて、どうなる? 《崩黒星ブラックホール》」



 月属性による重力操作で、更に重力を集める。

 一点に収束した引力が徐々に増幅され、あっという間に限界を超える。光を捻じ曲げ、時間の概念すら捻じ曲げる究極の物理状態。既存の法則が役に立たない『事象の地平線』が定義された。

 分かりやすく言い換えるならば―――

















 ―――本物のブラックホールが出現したのである。













 セイジの使う《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》はこんな感じです。めっちゃ強くて扱いにくいから、普段は五本に分けてるってことですね。


 あと、アジ・ダハーカは大元の伝承をそのまま能力にしています。


 そして遂に本物マジブラックホール出しました。これまでは『使えるけど使わない』って何度か記述していたと思いますが、遂に解禁です。

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