EP406 三頭悪竜
世界そのものがクウの意思力で侵食され、運命の流れが出来上がる。
たった数秒の世界侵食だが、その力は絶大だった。
「いくぞ」
クウはそう言って神刀・虚月による居合を放った。
すると、そこから無数の斬撃が発生し、クウの視界全てを斬撃の嵐が薙ぎ払った。当然、範囲に入っていたザドヘルとオリヴィアも切り刻まれる。
幾ら超越者でも、これだけの斬撃を避けることなど出来ない。
「馬鹿な……」
「死霊たち! 盾になりなさい!」
ザドヘルは驚愕し、オリヴィアは即座に死霊を盾として召喚した。既に切り刻まれた分の再生は終わっているが、これが何度も続くのでは困る。早急に対策を立てなければならなかった。
「無駄だな」
だが、クウは無慈悲に二度目の居合を放つ。すると、その先から再び斬撃が発生し、無数に分裂しながら津波のように襲いかかった。
数百体のデス・ユニバースは無残に切り刻まれ、盾としての力すら発揮することなくバラバラになる。そして再びザドヘルとオリヴィアは全身を斬られた。
幸いなのは斬撃が超越者を切断する程の威力でないことだろう。そこそこ深い傷は付けられるが、その程度である。ただ、斬撃の数が問題だった。
「相手の能力が不明だ。まずは回避するぞ」
「く……相変わらず、私の能力で超越者を相手にするのは難しいわね」
デス・ユニバースはあくまでもステータスに縛られた存在であるため、超越者からすれば大した敵になり得ない。今のオリヴィアでは対超越者という点で、一段劣っているのだ。
愚痴を吐きたくなるのも分かる。
しかし、クウは問答無用で居合を連発するので、そんな暇すらない。
「さて、まだまだいくぞ」
クウはそう言って居合を連発する。
その度に空間を走る斬撃が発生し、増殖して津波のように襲いかかるのだ。
これは《月界眼》によって作り出された運命。斬撃は空間を侵食しながら増殖して前に進むという常識が世界に定着したのである。クウの意思力によって、今はこれが世界の常識となっていた。
故に、居合を放つたびにこのような現象が起こるのである。
ただし、これは敵側でも同じだ。
剣を握り、同じように振れば斬撃が増殖しつつ空間を侵食していく。今回はザドヘルもオリヴィアも剣を使わないので、クウだけが一方的に攻撃できた。
空間が裂け、大地が割れ、ザドヘルとオリヴィアは傷だらけとなりながら逃げる。
「舐めるな! 《紫帝滅炎焦》」
ザドヘルは紫の気を込めた獄炎を放つ。法則の力で押し潰そうとしたのだ。
しかし、斬撃が増殖して押し寄せるというのは運命で決まっている。ザドヘルがいくら力を使っても、世界に侵食された運命を覆すことは出来ない。
世界侵食発動状態では、これまでの能力的相性が一気に逆転することも珍しくないのだ。世界に意思力を侵食させるとは、そういうことである。
侵食領域下においては絶対的な力を得る。
「ならばこれでどうだ? 《紫皇封氷凍》」
今度は「沈静」の力で空間ごと凍り付かせようとしたが、それでも斬撃は止まらない。
全て、斬撃の津波に飲み込まれると運命で決まっているからだ。
世界が与える強制力に抗えない限り、ザドヘルの力も通用しない。
ザドヘルとオリヴィアは斬撃の津波に飲み込まれ、再び霊力によって修復した。かと思えば、今度はベリアルが放つ死の矢に貫かれてしまう。常に傷が絶えない状態だった。
(この程度の攻撃ならば再生にもそれほど意思力は削られない。だが……)
(……このままでは拙いわね)
逃げながらザドヘルとオリヴィアはアイコンタクトを交わし、意見を一致させる。
クウは適当に相手をするような相手ではないと結論付けたのだ。
故に、オリヴィアが隠していた切り札を使用する。
「コレは私の持つ死霊の中で最も特別よ。《瘴喰悪魔竜召喚》」
オリヴィアの背後に一際大きい渦が生まれ、そこから三つ首の竜が姿を現す。大きさは頭部から尻尾までが一キロを超えており、いつか見た神龍を思い出すほど大きかった。
その正体は異世界で邪龍と呼ばれていた存在たちをデス・ユニバースとして蘇らせ、それを大量に融合させた特別製の死霊だ。加えて特性「死の祝福」によるオリヴィアからの加護を三百年以上も浴びせ続けており、ステータスの縛りからも解放されている。
「真の切り札、アジ・ダハーカよ。本当は使うつもりなんてなかったのだけど……ね」
「実戦投入は初めてだったか?」
「そうね。本当は最後の決戦まで隠す予定だったわ」
二人は召喚されたアジ・ダハーカの持つ三つの頭の内、真ん中の頭の上に乗っている。
そしてオリヴィアはアジ・ダハーカの上に乗り、後の戦闘は全て任せるつもりだった。このアジ・ダハーカは常にオリヴィアの霊力をごっそりと吸い取っているので、召喚中は極端に戦闘力が下がる。既にオリヴィアには他の死霊を召喚する余裕がないほどだ。
その代わり、アジ・ダハーカの戦闘力は凄まじい。
これが権能【英霊師団降臨】の正しい使い方なのだ。
長い時間をかけて死霊に「死の祝福」を注ぎ込み、ステータスの枠から外れた眷属を生成する。戦闘では眷属を召喚することで、超越者に対しても充分な戦闘が行えるようになる。
デス・ユニバースを大量に召喚する方法は、権能を表面だけしか扱っていないため、超越者に対しては効果が薄いということである。
「なんて瘴気してんだよ……」
「私が使う死の瘴気よりも濃いわね」
「ますますベリアルでは歯が立たないか……面倒な」
攻撃を中断したクウとベリアルは、アジ・ダハーカの威容を見て警戒を強めた。あれは今までの死霊と同じだとは思えない。そんな雰囲気を放っていたのである。
三つ首の竜頭はクウとベリアルを敵と認めており、六つの瞳でジッと静かに見つめていた。
「よし……解析完了」
《真理の瞳》でアジ・ダハーカの情報次元を探っていたクウは、それを整理して視界に映し出す。
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アジ・ダハーカ
種族 超越エインヘリアル
眷能 【霊瘴喰】
「吸生」「瘴魔」「千死追憶」
【加護】
《英霊主の祝福》
――――――――――――――――――――
完全に準超越者級の能力を持ったドラゴンだ。
種族がエインヘリアルとなっているあたり、オリヴィアが魂を込めて創造した死霊なのだと思える。真の意味でオリヴィアの眷属となった死霊こそが、権能【英霊師団降臨】に相応しい、種族エインヘリアルへと至れるのである。
「本気でヤバい奴だな。《黒死結界》を張っておいてよかった」
クウは真面目にそう考える。
仮に《黒死結界》無しで戦っていたならば、このアジ・ダハーカが遠征部隊の真上に出現していたことになる。そうすれば、アジ・ダハーカから放たれる瘴気で誰もが狂っていたことだろう。
あの瘴気にクウが耐えられるのは、一重に超越者だからに過ぎない。
無意識で張っている魔素の防御、そして気による耐性が瘴気を弾いているのである。
「本腰入れてやらないと拙いな」
「どうするのマスター?」
「あれがステータスに縛られない準超越者なら、《幻葬眼》で消滅させるのも難しい。だから斬る」
「シンプルね」
「作戦はない。取りあえず力の限りやる」
そう言ったクウは両目に浮かぶ黄金の六芒星を輝かせた。すると、周囲に大量の幻剣が浮かび上がる。さらに消滅エネルギーを大量生成して矢の形に変形した。
《無幻剣》を利用した猛攻に加え、《魔神の矢》での力押し。今のクウに取れる最善の戦法だった。
「まずは初手だ」
神刀・虚月で居合の構えを取り、クウは一瞬だけ集中する。
次の瞬間には神速の抜刀術が放たれ、同時に斬撃の津波が発生した。更にクウは全ての幻剣と消滅エネルギーの矢を飛ばし、一斉攻撃する。
だが、オリヴィアは不敵な笑みを浮かべつつ、それらの攻撃を待ち構えるのだった。
◆ ◆ ◆
勇者たちは先代勇者の死霊エイスケに対して有効な攻撃を加えられずにいた。セイジが《魔神》スキルによって《魔境創造》を発動し、エイスケを結界内部に閉じ込めたまでは良かった。
この魔法は広い空間を内部に形成し、対象を隔離することを目的として発動している。
内部ではセイジの趣味で平原が再現されており、広さは半径数キロの半球状だ。
セイジはこの魔法を利用することで、《聖魔乖星崩界剣》や《剣仙術》や《魔神》などの力を扱う訓練をした。そして、同時にセイジが何の制限もなく力を扱える場所でもある。
「そこだ!」
セイジが《剣仙術》を利用して聖剣を振り抜くと、斬撃という概念が発生する。それによって遥か遠くにまで斬撃が届き、大地にすら深い傷跡を残す。
しかし、エイスケはそれを回避した。
そこで《魔神》による攻撃を加える。
「捕らえてくれ!」
セイジが右足で大地を踏み鳴らすと、大量の植物が生えてエイスケに襲いかかった。四方八方から襲い来る植物に対して、エイスケは聖剣エクシスタを振り回す。
切断増大と斬撃飛翔によって太い蔦や草木は切り刻まれてしまう。
何の技術もなく、ただのステータスでこれを成してしまうのだから驚きだ。
「《仙力》込みの一撃や! 喰らえ!」
「次こそ当てる!」
とはいえ、植物を相手にする間はエイスケでもその場を動けない。レンとアヤトにとっては的も同然だった。二人も取得しているイリーガルスキル《仙力》を込めた一撃を放つ。
外なる気と自分自身の気を混ぜ合わせることで、概念化した攻撃だ。
まるで光線のような二撃がエイスケの体を穿つ。
だが、即座に《無限再生》で修復してしまった。
「くぅ~。なんやねん!? アンデッドやったら光属性が効くはずやろ!?」
「常識が通用しないアンデッドだね」
せめて牽制ぐらいにはなると思っていたレンとアヤトも、これを見れば嫌でも理解できる。自分たちですら、このアンデッドには敵わないと。
【魂源能力】を持つセイジが唯一の希望だった。
「うおおおおおおおおお!」
セイジは《聖魔乖星崩界剣》でカリブルヌス、カリバーン、カラドボルグ、エスカリブール、コールブランドを操り、エイスケを全方向から攻撃する。更に《仙力》を身に纏い、《明鏡止水》で強化して、《剣仙術》も発動した上、《魔神》による時間操作で加速してようやくエイスケとまともな戦闘が出来ていた。
「はああああっ!」
セイジの《剣仙術》がエイスケの脇腹を吹き飛ばすが、《無限再生》で修復する。
エイスケの斬撃がセイジを袈裟切りにするが、《超再生》で修復する。
「あああああああっ!」
スキルを何重にも並列使用するのは大きな負担だ。しかし、セイジは精神力を限界まで削って、極限の戦いを続ける。
どれだけ切っても、どれだけ切られても、セイジは止まらない。
偶にレンとアヤトが援護することで徐々に有利になっていくものの、一瞬でも気を抜けば逆転されてしまうだろうと理解していたからだ。
故に最後の一撃を降すまで、気を抜くことは許されない。
(そこだ!)
そしてセイジは加速された思考の中で、僅かな隙を見つける。
(この一瞬に全てを賭ける!)
セイジは《魔神》による空間固定を発動し、エイスケの背中と腰を固定した。人体の中で、腰や背中は重要な部位であり、ここを固定されるとまともな行動が出来なくなる。
それによってエイスケが降った聖剣エクシスタは空振り、大きな隙となった。
(来い! カリブルヌス、カリバーン、カラドボルグ、エスカリブール、コールブランド!)
いつもの聖剣は指輪に収納し、《聖魔乖星崩界剣》で出現させている五つの魔剣を呼び戻す。
五本の剣はセイジの右手へと収まって重なり、一本の剣となった。
刀身は純白で黄金の粒子が纏い、柄には青い布が巻かれ、鍔には赤い宝石が嵌めこまれた剣。
セイジはその名を叫びつつ、《剣仙術》を込めた一撃を放った。
「エクス……カリバーーーーーーーー!」
振り下ろされた一撃は黄金の光を纏い、死霊勇者エイスケを包み込んだのだった。
※ビームは出ません
オリヴィアの能力(真)もでました。
超越者の中でもオリヴィアが一段弱い理由がこれです。単純に使い方が間違っていたってことですね。





