EP405 法則系の権能
セイジは聖剣を両手に持って飛び出し、暴れるエイスケに斬りかかった。勿論、《仙力》と《明鏡止水》を発動させて最大強化をしている。加速されてスローになった世界の中で、セイジの一撃が振り下ろされた。
しかし、その一撃はステータスの暴力によって弾き飛ばされる。
接近するセイジに気付いたエイスケは、聖剣エクシスタを振るった。それだけで、セイジ渾身の攻撃を圧し潰す。
「くっ……!」
両腕が痺れてセイジは聖剣を手放しそうになる。だが、それを意地で耐えて着地した。
そして続くレンとアヤトが遠距離攻撃を加える。
光の銃弾と光の矢がエイスケに迫った。しかし、やはりそれは聖剣エクシスタで弾かれる。ステータス平均二十万とは、その領域なのだ。音速を超える戦闘が可能となり、《無限再生》のお蔭で無茶な動きをしても問題ない。
これのレベルとなると、銃で攻撃するよりも直接斬った方が速い。
「こいつ……強過ぎや!」
「飛び道具は通用しないと考えた方がいいね」
光速の数パーセントにまで達する光の銃弾、光の矢でさえ効かないのだ。これでは、実質レンとアヤトが戦力外となっている状態に等しい。
セイジは一度レンとアヤトの側まで下がり、二人に手早く告げた。
「とくかく援護を続けてくれ。僕が抑えるから、他の人には避難の指示を」
「任せとき!」
「頼むよセイジ君」
セイジは頷き、再び飛び出した。そして今度は《聖魔乖星崩界剣》による魔剣を伴ってエイスケに斬りかかる。
カリブルヌスとカリバーンがエイスケの頭上まで飛び、カラドボルグとエスカリブールが背後へと回り込む。そうして逃げ道を塞ぎ、最後のコールブランドを正面から飛ばした。
当然、エイスケは亜音速で飛来するコールブランドを弾き飛ばす。
しかし、その一瞬で隙は出来た。
頭上のカリブルヌスとカリバーン、背後のカラドボルグとエスカリブール、正面からはセイジが聖剣で同時に攻撃した。
「光よ纏え!」
《魔神》スキルで聖剣に光を纏わせることも忘れない。相手はアンデッドなので、光属性が有効だと考えたのだ。
だが、エイスケはその場で回転しつつ、力技で聖剣を振るう。
同時に斬撃飛翔も発動し、エイスケを中心として同心円状に斬撃が広がる。それが背後から迫るカラドボルグとエスカリブール、そしてセイジ自身を吹き飛ばした。セイジは反射的に聖剣で防御するも、威力の高さを殺しきれない。
(なんて力だよ……!)
セイジは勇者として破格のステータスを持っているし、《仙力》や《明鏡止水》のスキルによってさらに底上げされている。ステータス値として換算すると、十万に相当する。
しかし、二十万のステータス値に加えて《剛力》や《神速》が発動しているエイスケには大きく劣ってしまうのだ。
エイスケの剣技に技術など欠片も見当たらないが、それを覆すほどのステータスがある。
「ぐぅっ……」
吹き飛ばされ、地面を転がったセイジは力を受け流しつつ飛び上がって再び聖剣を構えた。これほどの相手に対しては一瞬も気が抜けない。
すると、エイスケの背中にカリブルヌスとカリバーンが刺さっていることに気付く。先の回転切りでは、上空から迫る二本を避けることが出来なかったのだろう。
ただし、痛みを感じている様子はない。
「そこや!」
「当たれ!」
レンとアヤトは連射で光を撃ち込む。弾丸と矢になった光は全てエイスケへと突き刺さり、エイスケの動きを止める。
その隙を突こうとしたのか、冒険者たちが斬りかかった。
「今の内だ! かかれ!」
「ぶっ殺せ!」
「見た目は人間だが躊躇うな!」
まだ冒険者たちはエイスケが死霊だと気付いていない。しかし、暴れまわる姿を見て敵だと判断したのだろう。彼らは躊躇うことなく攻撃を仕掛けた。
だが、セイジはそんな彼らを見て思わず叫ぶ。
「ダメだ! そいつは―――」
セイジは制止を呼びかけようとしたが、もう遅い。
武器を突き立てようとした冒険者たちは、エイスケが滅茶苦茶に振り回す聖剣エクシスタの餌食となった。鮮血が闇夜に飛び散り、彼らの武器も真っ二つになる。Aランク冒険者の使う高級な武装ですら、聖剣エクシスタの前には紙切れ同然の耐久力だった。
更にエイスケは左手で背中に刺さったカリブルヌスとカリバーンを気にした様子もなく、無作為に斬撃を飛ばし始めた。
「ぐあああっ」
「がっ……俺の左腕が!」
「くそっ、引け! ヤバいぞ」
「強過ぎる。なんて奴だ!」
「ベルザードさんを呼べ! ユークリッドの奴でもいい!」
いや、SSランク冒険者ベルザードでもSランク冒険者ユークリッドでも無理だ。
セイジはそう悟っていた。
「僕がやるしかない!」
このままでは余計な被害が出てしまうと考えたセイジは、スキル《魔神》を使用する。この強力すぎるスキルは、セイジも扱えるようになるまで時間がかかった。
しかし、それだけに内包された効果は絶大と言える。全属性を自在に組み合わせ、他者の魔法すら奪い取ることを可能とする最高位の魔法スキル。それが遺憾なく発動された。
「『魔を統べる領域よ来たれ
《魔境創造》』」
時空間属性、結界属性を組み合わせ、そこに基本七属性を込めた小規模世界の創造。全て魔法によって創造され、管理された異空間がエイスケを包み込んだ。
マーブル模様の球面が広がり、セイジはそこに飛び込んでいく。すると球面に波紋が生まれ、その奥へとセイジの姿は消えた。
「俺らも行くで!」
「勿論だ」
レンとアヤトもそれに続き、《魔境創造》の結界球面へと飛び込んだ。その直後に波紋が浮かび、二人の姿も消える。
同時に結界表面が固定化され、誰も出入りできなくなったのだった。
◆ ◆ ◆
同時刻、砦上空にある漆黒の結界内部でも激しい戦いが繰り広げられていた。
「消えろ、《幻葬眼》」
クウは「魔眼」の力でザドヘルの炎を消し去る。数千度の炎がガラスのように砕けて消え去り、しかし次の瞬間には再び周囲は燃え盛った。
既に空間が法則で支配されているので、たった一度の因果改変では、改変した現象が法則で押し流されてしまう。
「無駄だ! 俺の炎を消せると思うな!」
「ちっ……」
襲いかかる炎を回避したクウは、天使翼を展開して空中に逃れる。そして今度は飛行タイプの死霊がクウに攻撃を仕掛けるが、それは全て《幻葬眼》で破壊した。
その間にベリアルが死の矢を放ち、ザドヘルを攻撃する。
瘴気を操るベリアルでは、同じく瘴気を操れるオリヴィアに対して相性が悪い。そこで、クウがオリヴィアを攻撃し、ベリアルはザドヘルを攻撃するようにしていた。
「凍結しろ」
ザドヘルがそう言って氷の力を使うと、死の矢は速度を失ってその場で止まる。権能【氷炎地獄】による「沈静」の特性だ。
運動量を含めて、あらゆる現象を沈静化させることが出来る。空気分子の熱振動を「沈静」させれば、絶対零度まで操れるということだ。
「またか……」
クウはザドヘルに止められた矢を見て呟く。
法則系能力というのは、ある意味で流れを作り出す能力だ。自分自身の法則を周囲に強制させる力だと言えるだろう。現象系はこの流れの中でも問答無用で現象を発現させるので、法則系に対して優位に立てる。逆に因果系は唐突な別の流れに飛び移る力と言える。しかし、飛び移った直後に法則系が再び押し流してくるので、因果系に対して優位に立てるのだ。
そしてクウもベリアルも因果系寄りの力を行使する。
よってザドヘルに対して決定的な攻撃を与えられずにいた。
「世界侵食を使うにしても慎重さがいるな……」
クウの《月界眼》は、新たなる運命の流れを作り出す力である。その流れには絶対に逆らえないという制約を世界に押し付ける究極の催眠だ。
しかし、ここでどのような運命を作り出すかが悩みとなる。
仮に炎を封じようと低温化させれば、ザドヘルは氷の力を使う。
逆に氷を封じようと高温化させれば、ザドヘルは炎の力を使う。
二つの矛盾した力を操るので、精神力を酷使する《月界眼》を安易に撃てなかった。
「ふふ、隙だらけよ!」
そしてクウがザドヘルの方を睨みながら思案している内に、オリヴィアが新たな死霊を召喚した。数万にもなるデス・ユニバースが全方位からクウに襲いかかろうとする。
死霊自体は大したことのない相手だが、こうも連続して大量に来られると鬱陶しい。
「邪魔だ。《銀焔》」
クウは魔素と気を圧縮して銀霊珠を作成し、それに「意思干渉」で燃やし尽くす意思を与える。それを放つと、白銀の炎が燃え広がって全ての死霊を焼き尽くした。
しかし、死霊はあくまでも囮であり、目隠し。
本命の一撃は、既にザドヘルが準備を終えていた。
「消し飛べ! 黒い天使よ!」
ザドヘルは「熱支配」によって炎を発生させ、「活性」で超高温に変えた後、気すら混ぜ込んで放つ。ただ、炎を放つだけの一撃だが、それは紫の炎となって全てを焼き尽くす。
数億度という炎が空間を蹂躙した。
高温すぎるせいで人間の可視光領域を超えてしまい、普通の人には透明に見えてしまうほどの炎。しかし、ザドヘルの持つ紫色の気によって着色され、世界は紫一色に変貌した。
「ふん……これで少しは削れただろう」
「そうね。流石はザドヘルと言ったところかしら?」
オリヴィアもザドヘルの側に降り立ち、並んで紫の炎を見守る。数億度の炎は今も空間を燃やし続けており、クウがいた場所は揺らぐ紫に染まっていた。
ザドヘルが法則を掌握しているので、二人のところまでは熱気が襲ってこないものの、あの炎の中では恐ろしいほどの熱量が吹き荒れている。超越者であったとしても、気が込められた炎なので確実に大ダメージを追っている。
そう確信していた。
しかし、次の瞬間、二人は驚愕の声を上げる。
「何ッ!?」
「炎が割れたですって……!?」
オリヴィアが口にした通り、紫色に揺らぐ炎が真っ二つになった。それと同時に炎が消滅し、中からは神刀・虚月を手にしたクウが現れる。
今の現象は、刀によって炎が切られたことで起こったのだと推察できた。
翼を広げて空中に留まるクウの側に、ベリアルも近寄る。
「流石マスターね。私の使い手だけはあるわ」
「まぁな……俺もザドヘルのことは分析し続けていたけど、やっぱり能力で対抗するのは難しそうだ」
そう言ったクウは、右手を神刀・虚月の柄にかけながら言葉を続ける。
「だから斬ることにした」
同時に、居合の『閃』を放つ。
《神象眼》が乗せられた居合の一撃は、拡張されて世界すら切り裂く。クウが振るった神刀・虚月の先から斬撃が伸び、大地を割いてザドヘルに直接攻撃を降す。
斬られたという錯覚をした結果、「意思干渉」によって意思次元が捻じ曲げられ、副作用として情報次元に改変が生じ、本当に斬られてしまう。
「ぐぅ……っ」
上半身と下半身を綺麗に分けられてしまったザドヘルは、思わず呻き声を上げた。今の一撃はザドヘルに直接干渉された結果であり、法則系権能を持っていたとしても関係ない。防ぐには、純粋な意志力でクウを遥かに上回らなければならないのだ。
クウの「意思干渉」を意思力または潜在力で撥ね退けられるならば、今の一撃は防ぐことが出来る。出来ないならば、避けるしかない。
「まだだ! 《無幻剣》、《因果逆転》」
トドメとばかりに、ザドヘルの上半身の周辺へと幻剣を出現させ、《因果逆転》でその場所まで跳んだ。
そしてクウは幻剣の二本を両手で掴み、同時にザドヘルを切り裂く。
これで両腕を切断した。
「ぐおぉ……舐めるなあああああああああ!」
それでもザドヘルは意地で爆炎を生じさせる。
しかし、クウは天使翼で上空へと回避する。
この《因果逆転》は遠距離にいる敵の近くに幻剣を浮かべ、それを使って相手を斬ったという結果を確定させることで発動する。本来ある空間的距離は、斬ったという結果を確定させた時点で都合よく無かったことにされるので、まるで転移しているかのような動きが出来る。
「攻撃は最大の防御。法則系権能を防ぐことを考えるなんて面倒だ。ここからは攻め続ける」
クウは莫大な霊力を注ぎ、スッと右目を閉じた。
それと同時に、周囲が闇に覆われ、満月が浮かび上がる。
「ここから反撃だ。《月界眼》」
輝く月は赤く染まり、黄金の六芒星が浮かび上がるのだった。
法則系能力は因果系能力で防げない?
だったらずっと攻撃すればいい。
とんでもない脳筋思考ですね。





