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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
聖剣と聖鎧編
405/566

EP404 死霊勇者


 その気配にはクウも気付いた。同時にベリアルも睡眠から目覚める。遥か上空から伝わってくる超越者独特の空間を侵食するような気配を間違えるはずもなかった。



「これは……オリヴィアだな。もう一つも覚えがある」


「どうするのマスター」


「向こうも俺には気付いているだろう。これは誘われているってことだな。まぁ、遠征部隊を巻き込むのはアレだし、こっちから出向くとしよう」


「罠はないかしら?」


「気にするだけ無駄だ」



 クウはそう言って立ち上がり、テントを出る。勿論、気配は極限まで消したので、他の冒険者が起き上がることはなかった。

 寝ずの番をしている者たちに見つからないよう、幻術で姿を隠し翼を展開する。



「行くぞベリアル」


「ええ」



 二人は音もなく夜空に飛び出した。ひしひしと感じられる超越者の気配を辿り、飛翔する。すると、クウとベリアルの視線の先で、巨大な竜の姿を見つけた。

 その竜の上には二つの影が見える。

 クウにも見覚えがあるオリヴィアとザドヘルだった。



「こんばんわ、黒い天使」


「久しぶりだなオリヴィア」



 まずは挨拶。

 そして同時にクウは二人を観察する。オリヴィアの権能【英霊師団降臨エインヘリアル】は既に攻略済みであり、クウの能力で簡単に潰せる。しかしザドヘルの権能【氷炎地獄インフェルノ】は厄介だと感じていた。

 まず、因果系の権能【魔幻朧月夜アルテミス】に対して有利な法則系権能であることが挙げられる。それだけでなく【氷炎地獄インフェルノ】は領域型能力だ。クウの能力は「魔眼」の力を使って視認した位置に効果をもたらすため、領域型能力で全域を支配されると厄介なことになるのだ。



「ここに来たということは、俺が目的か?」



 クウはオリヴィアとザドヘルが出現した目的を知らないので、まずはそう問いかけた。あまり回答は期待していなかったが、意外にもオリヴィアは素直に返事をする。



「ええ、そうよ」



 だが、当然のように嘘を返した。

 オリヴィアの目的は勇者セイジだ。そのために先代勇者エイスケをデス・ユニバースとして復活させ、聖剣エクシスタまで持たせたのだ。

 しかし、その目的を悟られないようにするため、敢えてクウが目的だと述べる。以前はクウに追い詰められたこともあるオリヴィアしかいなければ説得力もなかったが、今回はザドヘルもいるので疑われることはないだろう。

 クウも簡単に騙され―――



「嘘は良くないな」



 ―――ることはなかった。



「俺の前で嘘が通用すると思わないことだ。これでも裁きを司る虚空神ゼノネイアの天使だぞ?」



 その言葉に対してオリヴィアも表情を変えそうになる。だが、どうにか踏みとどまった。

 クウの権能における中心能力は「意思干渉」だ。それを利用すれば、相手が超越者であったとしても嘘を見抜くことが出来る。ただし、心が読める能力ではないので、本当のことを話さず相手に勘違いさせるテクニックを利用した話術ならば騙すことも可能だ。

 逆に言えば『はい』か『いいえ』で答える質問で嘘を吐けば、一瞬でバレてしまう。



「どんな目的が教えてもらえるのか?」


「止めておくわ。下手な情報は与えたくないもの」


「ま、そうだろうな」



 これ以上の会話は無駄になる。

 そう考えたクウは即座に視線をザドヘルへと向けた。



(広範囲型の能力持ちを相手に、普通の空間で戦うのは拙いか)



 近くには遠征部隊もいるのだ。超越者の戦いに巻き込むのは良くない。クウはそう考えるや否や、腰に刺した魔神剣ベリアルを抜いた。



「《黒死結界》」



 その瞬間、魔神剣ベリアルから死の瘴気が噴き出し、周囲を覆う。クウはその内側に幻術世界を展開することで、内部に無限の広さを持つ領域を作り出した。この内部ならば、超越者が暴れても外部に影響を及ぼすことがない。

 ただし、空間転移を使えば簡単に脱出できるので、牢獄としての力は低めだ。オリヴィアが空間移動の使える死霊を繰り出せば、普通に脱出される。



「これは……結界?」


「……だが、好都合だ」



 展開された領域は荒野だ。

 この平坦な世界では、地平線が丸みを帯びず、真っ直ぐになっている。幾ら壊れても幻術効果で勝手に修復するので、オリヴィアやザドヘルとしても都合が良かった。

 何せ、勇者セイジ、レン、アヤトを超越者の戦いに巻き込むのは不本意だからだ。また、この遠征に集まっているのは人族の精鋭であり、あまり死なれるといずれ起こす予定の戦争で困ってしまう。

 利害が一致した結果、オリヴィアとザドヘルも脱出の意図を見せず、戦いの意思を見せた。



「蘇れ、【英霊師団降臨エインヘリアル】」


「罰を与えよ、【氷炎地獄インフェルノ】」


「開眼、【魔幻朧月夜アルテミス】」


「ふふ、狩りの始まりね!」



 クウとベリアル、オリヴィアとザドヘルが身に宿す力を解放する。

 もしも地上で開放すれば、周囲数キロの動物・魔物は逃げ出し、人は恐怖で腰を抜かすことだろう。圧倒的な超越者の畏怖が《黒死結界》の内部で荒れ狂った。

 即座に《無幻剣ファントムソード》を展開したクウの周囲には無数の剣が浮かび上がり、ベリアルは瘴気を矢をつがえて狙いを定める。

 オリヴィアの周囲には赤黒い渦が出現し、大量の死霊が湧き始めた。ザドヘルからは冷気と熱気が同時に漏れ出し、空間そのものを法則で侵食する。



「ここで仕留めるぞベリアル!」


「任せなさいマスター!」



 三体の超越者、そして一体の準超越者が衝突を始めた。










 ◆ ◆ ◆










 ズズンッ! という地響きで眠っていた遠征部隊は皆起こされた。まずは見張りをしていた騎士たちが音の方へと走り、何が起こったのか確かめる。



「なんだ?」


「魔物かもしれないから気を付けろよ」


「まずは様子見だな」


「分かっている」



 ここは人魔境界山脈にも挟まれ、魔族領に近い場所だ。強力な魔物が出現してもおかしくはない。騎士たちは最大限に警戒を強め、それぞれの武器を構えた。

 片手に剣を持ち、もう片方の手で持った盾を突き出しながら、少しずつ接近する。

 音の発生源では土煙が待っており、夜という条件もあって、騎士たちは目を凝らしながら何が出てくるか待った。



「っ! 来たぞ!」



 土煙の奥で影が揺らいだ。

 同時に、そこから一人の人間が現れる。黒髪黒目であり、手には装飾の施された剣を握っていた。これには騎士たちも動揺する。



「誰だ? 冒険者か?」


「あんな奴いたっけ?」


「俺は見てないが……」


「少なくとも魔族ではなさそうだな」



 魔族は耳が少しだけ長く、眼球が黒いという特徴を持っている。土煙から現れた人物にはその特徴がなく、少なくとも人族であると思われた。

 そこで、縦を構えた騎士の一人が警戒を解き、近寄って話しかける。



「お前は冒険者か? 迷惑になるから、あまり大きな音を立てるなよ」



 別の場所で見張りをしていた冒険者が、魔物を倒す際に大きな音を立ててしまったと考えたのだろう。騎士は完全に油断していた。

 そして次の瞬間、何の前触れもなく騎士の首が飛ぶ。



『なっ……!?』



 見ていた他の騎士も驚き、同時に唖然とした。

 冒険者と思っていた男がいきなり剣を振るって仲間を殺したのだから当然である。



「くそっ! あいつを仕留めるぞ! 可能ならば捕らえて尋問する」



 仲間の仇とばかりに、騎士たちはデス・ユニバースと化した勇者エイスケへと突撃した。一方で、エイスケは無言のまま聖剣エクシスタを最終解放する。

 レベルという概念の無いデス・ユニバースでは解放の意味も半減するが、残り半分は効果を発揮するため、エイスケは大幅な強化を受けた。

 切断増大、斬撃飛翔、《剣術 Lv10》、《剛力 Lv10》、《思考加速 Lv10》、《神速 Lv10》、《魔法反射》の内、スキル異常によって《剣術 Lv10》、《思考加速 Lv10》、《魔法反射》は使えない。しかし、デス・ユニバースとしての凄まじい再生能力、そして《限界突破》の【固有能力】があれば、殆ど関係なかった。

 切断増大と斬撃飛翔だけで無双できる。



「ぎゃっ!?」


「ぐ……が……」


「強……過ぎる」


「敵襲だああああ! うぎゃああ!?」



 次々と騎士は倒され、血の海に沈む。

 遠征部隊の陣地が騒ぎになるまで、殆ど時間はかからなかった。












 ◆ ◆ ◆










 騒ぎには勇者たちも気付いた。眠っていたセイジ、レン、アヤトは飛び起きて即座に気配を探り、状況を把握する。それなりに冒険者をしているお陰で、そんな条件反射が身についていた。



「戦いが起こっている?」


「そうみたいやな」


「苦戦しているようだ。僕たちも行こうか」



 三人は手早くテントの外に出る。リング・オブ・ブレイバーのお蔭で装備の脱着は即座に可能だ。そこで、移動しながら三人は武装を終えた。

 陣地の中で叫び声が上がっている。

 それは殆どが悲鳴であり、断末魔であることが理解できた。



「急ごう!」



 セイジの言葉に残る二人も無言で頷き、速度を上げる。

 陣地はそれほど大きなわけではないので、すぐに現場へと辿り着いた。そして三人はそこで、暴れまわる一人の人間を見つける。アレが犯人だとすぐに理解できたので、セイジは《霊眼》を使った。







―――――――――――――――――――

エイスケ・オオヤマ 27歳

種族 デス・ユニバース ♂

Lverror


HP:――

MP:――


力 :204,912

体力 :183,939

魔力 :218,393

精神 :193,839

俊敏 :206,381

器用 :203,848

運 :0


【固有能力】

《限界突破》

《無限再生》


【通常能力】

《光魔法 Lv10》

《土魔法 Lv10》

《闇耐性 Lv10》

《鑑定 Lv10》

《HP自動回復 Lv10》


【加護】

《光神の加護》

《英――祝―》


【称号】

《異世界人》《光の勇者》《聖剣の担い手》

《死者》《オ――アの―属》《歪――》

―――――――――――――――――――



 見えたのは絶望的なまでのステータスだった。

 セイジも初めて見るデス・ユニバースに言葉を失う。そして固まっているセイジに気付いたのか、レンが問いかけた。



「どうしたんや桐島?」


「え? あ、ああ……ごめん。ちょっと信じられないものを見てしまって」


「信じられない?」



 不思議そうな顔をするレンとアヤトに見えたステータスを説明する。

 エイスケは聖剣エクシスタを最終解放した状態で死んだので、復活したときにはLv200相当を十倍した値となった。スキルレベルも最大となり、暴力的なステータスとなっている。

 だが、ここで注目するべきなのは《光神の加護》、そして《異世界人》《光の勇者》だった。



「俺ら以外の勇者なんか……?」


「いや、そうじゃない。《死者》の称号があるから、あれはアンデッドなんじゃないかな? 一番目に召喚された勇者は、確かこの砦で死んだって聞いたから」


「セイジ君の言うことも一理ある。つまり、勇者のアンデッド……」


「なんやて……!?」




 平均ステータスは二十万。

 スキル異常で《光魔法 Lv10》《土魔法 Lv10》《闇耐性 Lv10》《鑑定 Lv10》は役に立たないとは言え、ゴリ押しで全てを薙ぎ倒せるほどの能力値だ。

 セイジは苦い顔をする。



(それに……加護と称号に《霊眼》で見えないものがあるってのも気になるんだよね)



 イリーガルスキルとはいえ、超越者オリヴィアの仕込んだ情報防御は破れず、中途半端にだけ開示される結果となった。

 しかし、セイジはそれを気にしている余裕もない。

 こうしている間にも、デス・ユニバースとなったエイスケは暴れている。



「行こう。僕たちで止めるんだ」


「当たり前や!」


「援護するよ」



 セイジは聖剣を構えて《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》を発動し、カリブルヌス、カリバーン、カラドボルグ、エスカリブール、コールブランドを空中に浮かべる。

 レンは聖銃を取り出して《破邪の光弾》を装填した。

 アヤトも聖弓を構え、《虹の聖弓》に光属性矢をつがえる。

 先代勇者と今代勇者たちとの戦いが始まったのだった。












本日から毎日更新します。

がんばりますよー

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