最終話、リリーの能力
正面の女性の前に浮遊していたナイフ程の大きさの刃が、一斉に私に向けて飛んできます。
そこで私の目玉が飛び出たりはらわたが引っ張り出される、おぞましい未来の映像が垣間見えました。しかし私はマスターと繋がりし存在。そしてマスターは不死者の数十段上の存在である、静止の世界の住人。つまり私も流れる時間が遅い世界に身を置く、目の前の女性と同じ存在であります。だから一方的に攻撃をされる事はなく抗う事が出来ますが、私はマスターから力を少し頂いているような状態でもあります。そのため二人で立ち向かえば良いのですが、今の状態のマスターが協力してくれるかはかなり怪しいです。だから先ほどから、出会ってから今までの記憶をマスターに送り続けているのですが、もっともっと時間が欲しいのです。
そこで私はこの場から逃げ出そうと真横に飛びますが、瞬時に地面から生えてきた人骨で出来た壁に行く手を遮られぶつかってしまいます。
「逃がさないわよ」
マスター、思い出して下さい! 私との思い出を!
そしてこの破滅へと向かう世界から抜け出して下さい!
◆ ◆ ◆
先ほどから眷属が私に映像を送ってきている。これらは以前の私なのか? この映像の私は眷属と親しげに会話をしたり行動を共にしているが——
そこで紺のスーツに袖を通した女性が、私の背後から抱きしめてくる。
「ボウヤ、今は全てを忘れて祝いましょう。私とボウヤの世界の誕生に」
この世のものとは思えない美しい声が私の耳に届く中、眷属が目の前で抗い、傷つき片膝を折る。
「さぁ小娘、一度くたばりなさい」
くたばれ、か。私が侵入者たちに浴びせてきた言葉。いや、……以前の私は違った。極力無駄な殺生をしないため、私は『命のやり取りをしない事は出来ないか? 』と言っていた。だが私から見て外道には容赦なく接してきた。そこで、私は……少女に出会った。臆病で自身を殺した相手にも仕返しが出来ないへなちょこな存在。そして私の眷属となった。眷属になってからもへなちょこだった。くくくくっ、よく添い寝をしたな。
リリー。……そうだ、リリー。
そこで念動力を発動、リリーの瞳や腹に迫っていた刃が当たる寸前のところで静止させる。
「ボウヤ! 」
そしてこれからするべき事は、リリーの七つの魔力回路が全て機能する事によって発現した能力を、静止の世界の住人になってから完全に発動出来るようになった能力を、ここで使うのだ。
私とリリーの瞳が金色に輝き始める。
「ボウヤ、待って! 私を一人にしないで! 」
静止の世界の住人が追って来られない、遠い世界へ。
そこで私とシンクロしているリリーが同時に言葉を発する。
「発動、異世界転生! 」
そうして私とリリーはこの隔離された世界から飛び立つのであった。
◆ ◆ ◆
『キーンコーンカーンコーン』
本日全ての授業が終わった事を知らせるチャイムの音が鳴り響きます。ここは私が通っている高校です。そして園芸部に所属している私は、今日も漫画研究部の部室に向かいます。それは漫画研究部部長、六道先輩に呼び出されているからです。
そうそう、六道先輩の事はマスターと呼ばないと怒られてしまうのです。マスターは重度の中二病を患っているのです。
そしてなぜか私は、リリーと呼ばれています。マスターはインスピレーションでズバズバ決めちゃうのです。ちなみに純日本人である私、人前でリリーと呼ばれるのはかなり恥ずかしいのですがががガガ。
「マスター、入ります」
部外者に聞かれないよう小声で囁くように言って部室に入ると、私と同じように囚われてしまっている剣道部部長や演劇部の四人、それと弓道部部長、副部長たちの姿が見えます。みんなマスターの口車に乗せられて忙しい時間をやり繰りして、漫画製作の手伝いをさせられているのです。ちなみにマスターの漫画、SNSでちょっとバズっていて、結構ファンがいたりします。
「リリー、新作のアイデアが浮かんだとメールにあったが、どんな内容だ? 」
「実は夢に見たのですけど、片腕のネクロマンサーが、かくかくしかじかでダンジョンの番人をする話なんですけど」
「ほう、面白そうだな。そしたら先にタイトルを決めるか」
「インスピレーションですか? 」
「あぁ、ズバッとインスピレーションだ」
「それでどんなタイトルにするのですか? 」
「ずばり、『不死者のダンジョン』だ」
「うん、いい感じだと思います」
「それとこの作品には、みんなを出そうと思う」
「えっ、みんなを、ですか? 」
「あぁ、みんなをだ」
「それって私も出るんですよね? ……なんだか恥ずかしいです」
「くくくっ、喜べ。リリーはヒロインで登場だ」
そこで私の瞳から涙が出てきます。あれっ、なんで?
なにか懐かしい気持ちで心がいっぱいになっています。
「心が共鳴しているのだろう。それと安心するがいい。たとえ静止の世界の住人が来たとしても、私が守ってやるからな」
ドヤ顔のマスター。
「あー、はい。その時はよろしくお願いします」
そんな私たちのやりとりを聞いていた弓道部の副部長が話に加わってきます。
「えっ、お姉様、マスターとリリーが公開イチャイチャしていますよ」
「前々から、怪しいと思ってた。ついでに永遠の愛も誓う? 」
「そそっ、そんなんじゃないですよ! ねぇ、マスター」
「永遠か、そうだな、……その方が都合が良いな」
「えぇー」
「うわちゃー。お姉様、本当に愛の告白をしちゃいましたよ」
「リリー、返答を、早く」
私に詰め寄ってくる弓道部部長。その後ろで興味津々といった感じで見つめてくる副部長。
「あわわわ、その、……よろしくお願いします」
こうして私たちは付き合う事になるのでした。




