くねくね
「ねえねえ、みっちゃん。くねくねの噂って知ってる?」
「くねくねの噂?」
「そう!田んぼで白くて細長いものがくねくねと動いているんだって。その正体を知るとその人もくねくねになっちゃうの!最近この辺の田んぼにも出るんだって!」
「え、怖い」
「ねー、でね、通学路に田んぼがあるでしょ?」
まさか。
「双眼鏡持ってきたから調べてみようよ!」
「やだよ」
「おーねーがーいー!この間、ゴミ屋敷探索もできなかったしさ!コトリバコは男子に抜け駆けされちゃったし」
「抜け駆けとは」
悲惨な目に遭ったらしいのに、その言い草は…まあその男子も、今では完治して元気にしているみたいだけど。
「ね、ね、だめ?」
「…しょうがないなぁ、もう」
まーちゃんを一人にするとなにをしでかすかもわからないので、とりあえず了承した。
「でもさー、この辺も田んぼまみれだったり公衆電話があったり商店街があったり、なかなかの古き良き土地だよね」
「田舎だからね」
「だからこそ怪異が集まりやすいのかな」
「そうかもね」
まーちゃんとそんなことを喋りながら、通学路の田んぼをくねくねがいないか探す。
…あ、あれは…かかしかな?
でもくねくねしてる…まさか本物のくねくね?
「!みっちゃん、見つけた!」
どうやらまーちゃんも同じものを見つけたらしい。
「双眼鏡、双眼鏡で覗いてみて!」
「私が先に見るんかい」
「みっちゃん、お願い!」
手渡された双眼鏡。
もし本当にくねくねだったら、私はおかしくなってしまう。
ドキドキしつつ、でもまーちゃんがおかしくなるのもそれはそれで嫌なので先に見る。
そして双眼鏡を覗き込んだ瞬間、頭が真っ白になった。
『みっちゃん、だーめ』
白い景色の中、茶髪のお兄さんが優しく私の目を手のひらで覆い隠す。
表情は見えなかったけれど、きっとゆーちゃんだと思った。
その後目を覚ましたのは病院。
熱中症で倒れたのだろうと診断を受けた。
目を覚ましたときにはもう回復していて、そのまま家に返された。
まーちゃんはみっちゃんをまた連れ回して、と怒られたらしい。
まーちゃんに後で謝られた。
結局くねくねの噂も曖昧なままそれ以上調べることはなかった。
「ゆーちゃん、今回もありがとう」
ゆーちゃんが助けてくれなかったら私もくねくねになっていたかもしれない。
それを思うとゆーちゃんには本当に感謝だ。
ふと背後に気配を感じる。
でも、それはゆーちゃんの気配だけではなかった。
ゆーちゃんの気配がどこか焦っているように感じる。
「あなたが、悠介に毎週献花してくれている子?」
そのおばさんは、優しい表情でこちらを見ていた。