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追い詰められた胆礬色の男爵令嬢~(逆)ハーレムを作る為に必要なもの~  作者: 紺名 音子


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第2話 因縁とトラウマ


 私達の故郷――このヴァイゼ魔導学院より、ずっと南東にあるアベンチュリン領は領地の半分を広大な森が占めている。


 その森の周囲にあるいくつもの村が、それぞれ小さな結界石で魔物を遠ざけながら、森の恵みを糧に慎ましく生活している。


 私がかつて住んでいた村も、シュゼムの村も、そんな村の一つだった。


 私が8歳の頃、私が住んでいた村の結界石の力が弱まってしまった。


 当時村長だったお父さんは『私達には新しい結界石を買う金はおろか、修理する金もない。力が少し弱まった以外に問題ないから他の村と合併し、2つの結界石で結界を強化した方がいいのではないか?』と合併を提案した。


 その案に賛同したのが隣村の村長だった、シュゼムのお父さん。


 シュゼムの村では数年前から魔物の活動期に入る度に熊のような魔物(グリーンベア)が森から現れては作物を荒らして困っていたらしく、お互いの利害が一致して私達の村は合併する事になった。


 お父さんとお母さんが村人達と引っ越しの準備をしている間、私はシュゼムの家にお世話になった。


 シュゼムの第一印象はちょっと癖っ毛の、ツンとした感じの無愛想な美少年で、仲良くなれるかどうか不安だった。


 でもある日、家の花壇に植えられていた花が凄く綺麗で触ろうとした時「その花、毒があるから触らないで」と教えてくれた。


「何でこんなに綺麗なのに毒があるの?」

「『綺麗だなー、ちぎって好きな子にプレゼントしちゃおう!』って奴を懲らしめる為だよ」


 その返しが面白くて、村に生えてる植物についていっぱい質問すると、シュゼムは一つ一つ面白く分かりやすく教えてくれた。


 『何で?』って質問したら面白い答えが返ってくるのも楽しくて、おまけにカッコ良くて、博識で――そんなシュゼムに淡い想いを抱いてたのは半年もなかったと思う。


 外でシュゼムと話してると、村の女の子達が間に割って入ってくる。

 シュゼムがいる時、その子達は私とも仲良くしてくれた。


 だけど、そしてシュゼムがいない時、彼女達は私に本音をぶちまけてきた。


「ねえ、シュゼム様に近づかないでよ」

「シュゼム様を独り占めしないでよ」


 そりゃあシュゼムはカッコいいし、頭いいし、面白い。


 そんなシュゼムを独り占めしてたら駄目だよね――と私も反省して、シュゼムが外に出た時はついていかないようにした。


 そうしているうちに魔物の活動期に入り、噂のグリーンベアも畑の方で見かけるようになり。

 外に出るのは危ないから、とシュゼムと家の中で過ごすようになった。


 村の外にでっかい包丁みたいな剣や槍を持ってる、傷や傷跡だらけのおばさんとおじさん達が村を歩きだして怖がってた時も、シュゼムは優しく教えてくれた。


「あの人達は主都にある冒険者ギルドの人達だよ。グリーンベアが現れる度にあの人達に討伐して貰ってるんだけど、毎年だと予算が持たないからヴィオラの村と統合しようとしてるんだ。あの人達が来たから、もうすぐ熊鍋が食べられるかもね。結構美味しいんだよ?」


 数日後、シュゼムの言った通り熊鍋が振る舞われたけど――深緑の体毛に覆われた大きな熊から作られたお鍋だと思うと、怖くて食べられなかった。


 そんな、誰にも邪魔されないシュゼムとの時間はとても楽しかったけれど――それも長くは続かなかった。


 魔物達が休眠期に入ると私の村の人達が合流して、以前遊んでいた子達が私を遊びに誘ってくるようになった。


「シュゼム様も誘おうよ」

「シュゼム様を紹介してよ」


 言われるがままにシュゼムを誘って、それだけじゃこの村の女の子達に悪いからとその子達も誘って、皆で遊んだ。


 楽しかった、なんて想いはない。

 ただただ、皆に嫌われないように必死だった。


 だけど、ある日。シュゼムが大人に呼ばれてその場を離れた時――


「ヴィオラといてもつまんない」


 シュゼムがいなくなると、村の子達は私だけ残して去っていった。

 元々この村にいた女の子達も。村に居た時は一緒に仲良く遊んでた子達も。


「シュゼムってヴィオラにだけ優しいよねー」

「私達の方がシュゼムと付き合い長いのに」

「本当、貴族様ってズルいよね」

「ちょっと可愛いからって甘えすぎだよね」


 なんて陰口から、色々あって――シュゼムが学院に入る為に村を出て、村中の子が私を無視するようになるまで、あっという間だった。


 私の周りは家族とシュゼムの家族以外、平民だ。

 だからほぼ平民と言っても過言じゃないのに。


 平民の彼女達は、ほぼ平民の私を仲間だと認めてくれなかった。


 村長の娘じゃなくなった私は、ほぼ平民の貧乏貴族にすぎない私は、シュゼムとの仲を取り持つ事もできない私は――あの子達にとって、何の価値もなかった。



(……悪い事ばかりじゃ、なかったんだけどね)


 そう、けして悪い人達ばかりじゃなかった。

 例えばシュゼムの10歳上のお兄さん――アトモスさんは、物凄く良い人だった。


 シュゼムがいなくなった後、女の子達にはぶかれて男の子達に敬遠されて一人ぼっちの私に、アトモスさんはあれこれ世話を焼いてくれた。


「俺もシュゼムとしょっちゅう比較されたり、橋渡し頼まれたりしたからなぁ。ヴィオラちゃんの気持ち、よーく分かるぞ」


 アトモスさんは凄く体格が大きくて、おまけに魔物とか獣とか追い払う際にできたらしい顔や腕の大きな古傷から怖い印象を受けるけど、穏やかで優しい人だった。


 近くで取れた果物を分けてくれたり、花をくれたり。以前のように家に招いて本を読ませてくれたり。

 遠出のついでに本を買ってきてくれたり、ゴツゴツの腕に乗せてくれたり。


 そんな優しいアトモスさんに、私もべったり甘えるようになった。

 村の子に相手にされなくなっても挫けずにいられたのは、間違いなくアトモスさんのお陰だ。

 

 だけど、それがマズかった。

 私が12歳になる年、アトモスさんの両親が縁談を申し込んできた。


「アトモスは気も利くし優しい奴なんだが、あの容姿だ……あまりいい縁談は見込めそうにない。それにアトモスが村長になる事を考えると、2人が結婚すれば結界石の所有権がキャクタス家(こちら)サイアン家(そちら)で別れてるのもまとまるし、ヴィオラちゃんもアトモスに懐いてるし、どうだろうか?」


 そう言われた時、ずっとアトモスさんに甘えていた事を後悔した。


 アトモスさんはすごく良い人だ。でも、恋愛対象として見た事はなかったし結婚したいなんて気持ちは全くなかった。


 何より、アトモスさんと一緒になるって事は、私はこの村で一生を過ごす事になる――それが物凄く重苦くて、逃げ出したくなるくらい怖かった。


 幸い、私の両親も縁談には消極的だった。


「アトモス君は良い男だが、私達はヴィオラにもっと広い世界を見せてやりたくてね。ヴィオラも、シュゼム君と同じ様に魔導学院に行かせるつもりだ。そこで素敵な出会いがあれば私達はヴィオラを応援したい」


 縁談の場でそう返したお父さんの言葉はそこで終わっていたら良かったのだけど、


「しかし、そちらにも恩があるのは確かだ。ヴィオラが特に出会いもなく返ってくるようなら、そちらにヴィオラを嫁がせよう。この提案を飲んでくれるなら、どちらの結果になろうともこちらが所有している結界石をそちらに譲渡する」


 まるで罰ゲームのように扱われるアトモスさんがその場にいなくて、本当に良かったと思う。


 この時ばかりは縁談を提案した村長夫妻を恨んだし、そんな返し方をしたお父さんも恨んだ。


 そして、提案を飲んだ村長夫妻が帰った後――


「いいか、ヴィオラ……アトモス君と結婚するのが嫌なら、全力で金持ちにぶら下がれ。お前が良い家に嫁いで私達を招くなり仕送りなりしてくれれば、力が弱まった結界石の所有権にすがる必要はない。お前も、無視してきた子達にクスクス笑われ続ける人生なんて嫌だろう?」


「私達が合併という道を選んでしまったばかりに、貴方にはとても辛い思いをさせてしまったわ……貴方が中等部に通う3年間分のお金は、私達の私財を売る事で何とか用立てる事が出来たから、後は貴方の頑張り次第よ」


 一人ぼっちでいる時も両親に心配をかけたくなくて『アトモスさんがいるから平気ー!』と強がっていた私の心を、両親は見抜いていた。


 アトモスさんに比べて何も買ってくれない、食事も味気ない物しか出さない両親に対してケチだなんて思っていた事をちょっと反省した。


 他の意図もあるにしても、娘をこの村から出してやりたいと思ってお金を融通してくれた気持ちが、純粋に嬉しかった。



 皇都に行くにはまず|アベンチュリン領の主都サイ・ヴァルトまで行って、そこから皇都行きの乗り合い馬車に乗る必要がある。


 主都までは、アトモスさんが馬で送ってくれた。


『シュゼムから年に1回手紙が届くんだが、魔導学院にはヴィオラちゃんと同じ歳のの男女がうじゃうじゃいるらしいぞ。ヴィオラちゃんは可愛いからなぁ。良い出会いがあると良いなぁ』


 アトモスさんは、嫌な顔ひとつせずに笑って見送ってくれた。


 こうやって思い返してみても、本当に何処までもいい人で――でもやっぱり結婚となると『ごめんなさい』になってしまう自分に罪悪感を覚える。

 


 ――そんな長い回想の末に、現実に戻る。眼の前の幼馴染はそんな私の事情を知っている。



 主都についた時にアトモスさんから『これシュゼムに渡しといてくれ、薬学部ってところにいるはずだから』と託された手紙に、私の事情が書いてあったらしい。


 それを読んで『ヴィオラを「義姉さん」って呼ぶのは絶対嫌だなぁ……』と頭を掻きながらぼやいてから3年間、この男は一度も男を紹介してくれなかった癖に、今更何を――


(でも今、そんな事はどうでもいい……今はとにかく、何でも良いからこの状況を切り抜ける方法を見つけないと、私に明るい未来はない……!)


 後2節の間に私と結婚――いや、交際してもいいって言ってくれる人を見つけないと、私はあの村でアトモスさんの奥さんとして、村の皆にクスクス笑われる一生を送る事になる。


 そう。今の私は元凶の天敵にすら縋りたくなるほど、追い込まれていた。


「こんなところで話す事じゃないから、こっちおいでよ」


 私が興味を示すと、シュゼムは口元を緩めた後、背を向けて歩いていく。


 人っ気のない建物の裏まで歩かされた末、シュゼムは白衣のポケットから小さな布袋を取り出し、念話テレパシーを使って頭の中に語りかけてきた。


『この惚れ薬を、ヴィオラにあげるよ』



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「婚約破棄された桃色の~」や「選ばれなかった紫色の~」ではアルマディン女侯やラリマー公が、「馬鹿にされた萌黄色~」ではアベンチュリン侯が登場しています。

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