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to decide  作者: 村瀬誠
第二章:進撃する希望
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第一話:集いし者たち

クレイス「皆、今日は集まってくれてありがとう、感謝する。」


レット、アキナ、メルティナはクレイスの呼びかけにより翌日王宮の客間へと集まっていた。

急を要する案件ではないが、三人とも快くそれに応じてくれた。


クレイス「では、まずは自己紹介からしていこうか。皆は知っていると思うが、一応私から。」


クレイス「クレイス・バーミリオット、この度勇者と名乗りを上げたものだ。この国の王子でもあるが、その肩書きは気にしなくてもいい。共に魔王を打ち倒す仲間として、これからよろしく頼む。」


クレイス「では次に私の付き人を紹介しよう、クロ。」


クレイスの声に頷き、立ち上がるクロ。


クロ「…クロ、レイのつきびと。」


レット「そ、それだけっスか…?」


メルティナ「まあまあ、そんな素っ気ないところも可愛らしいじゃありませんか。」


クロ「…っ、…よろしく。」


クロはすっかりメルティナの『可愛い』という言葉がトラウマになっているようで、元々の無愛想な性格と相まって早々に自己紹介を終わらせる。


レット「順番で行けば次はオレっちっスかね、それじゃ。」


続いてはレット。

今はそれほど根を詰めていないのか、その無駄に軽い口調で自己紹介を始める。


レット「レット・クラウディっス、今はクレイス王子のご要望で魔装装束を作ってる最中っスね。あんまし刀握ったことないんで、戦闘に関しては期待しない方がいいっス。そんな感じでよろしくっス!」


クレイス「ちなみにだが、装束の方は今どの程度作成できている?」


レット「そうっスねー、ようやく半分位ってところっスかねー。」


クレイス「ということは、あと三ヶ月はかかるか…。」


レット「ま、その代わり最高の仕上がりにするっスから、期待してていいっスよ。」


クレイス「ああ、楽しみにしている。」


アキナ「じゃあ次はあたしね。」


レットと入れ替わるように立ち上がり、同じくアキナも自己紹介を始める。


アキナ「アキナ・フォート、魔法使いよ。得意な属性は炎、クロに稽古をつけてもらって最近は苦手な持久戦も徐々に克服しつつあるわ。敵が来たら任せて頂戴、よろしくね。」


メルティナ「クロさんと組んず解れつの個人稽古ですか!なんて羨ましい!」


興奮気味に反応するメルティナに戦々恐々とするクロ。

その語彙の強さに一瞬ビクつき、恐怖のあまり小刻みに震え出す。


アキナ「なっ、変な言い方しないでよ!こっちは真面目にやってるんだから!」


一方のアキナはやはりというか、特訓を茶化されたことに激怒する。


メルティナ「王子からお聞きしました、クロさんはご自身の意思で手足を獣のようにすることができると…。クロさん本人にも見せていただきました。」


メルティナ「つまりは!アキナ様はあの太くて逞しいアレに必死に抵抗し、ですがなす術なく蹂躙されてしまうと…。」


メルティナ「太くて逞しいソレに、身を引き裂かれそうになるまで執拗に何度も責められていると!」


アキナ「ねえ、それって爪のことよね?なんでそんな…い、いやらしい言い方するのよ…。」


メルティナ「あら、わたくしはただどのように稽古しているのかを想像しただけですわ。アキナ様は一体今の発言からナニを想像したのですか?」


アキナ「なっ、待ちなさいよ!それじゃまるであたしがいやらしい子みたいじゃない!」


メルティナ「いいのですよ、性欲というのは人間の三大欲求の一つです。それを我慢することはありません、適度に発散させれば良いのです。ただ、このように人の目があるところでは控えた方がいいですよ。…見られた方が興奮するというのでしたら構いませんが。」


アキナ「ちょっ、やめなさいよ!あたしはそんな変態じゃない!」


クレイス「あー、メルティナ、その辺にしておけ。でないと、金輪際クロに触れることは許可できないぞ。」


クロ「…!」


メルティナ「失礼致しました、クロさんと仲の良いアキナ様につい嫉妬してしまいました。」


ブンブンと何度も力強く首を横に振り涙目ながらクレイスに訴えるクロ。

ある程度そういった事が起こることは覚悟していたが、本人の意思に関わらずそれが承諾されるというのは流石のクロも納得できない様子。


クレイス「(すまないクロ、この場を収めるためにはああ言うしかなかったのだ…。)」


心を鬼にしクロの訴えをスルーするクレイス。


アキナ「なんなのこの変わり身の速さ…。」


クレイス「ま、まあ彼女はこういう性格なのだ、気にしないでやってくれ。」


アキナ「気にしないでって言われても…。」


横目でメルティナをちらりと見ると、先程の興奮した様子が嘘のように静かに笑みを浮かべていた。


クレイス「こ、こほんっ、では自己紹介を続けよう。最後は、メルティナ。」


メルティナ「はい、ご紹介に預かりましたメルティナ・バランマーです。人々をお救いするため様々な場所を渡り歩いておりましたが、この度クレイス王子に拾われその御恩をお返しするべく名乗りを上げました。皆様、どうぞよろしくお願い致します。」


アキナ「なによ、ちゃんと真面目に自己紹介できるんじゃない。」


メルティナ「先程はただ、クロさんに対する思いが溢れてしまっただけです。」


アキナ「え、もしかしてあんたってそういう趣味なの…?」


メルティナ「いえ、ただ純粋にクロさんのことが愛しいだけです。邪な気持ちは一切ありません。」


アキナ「さっきの発言を鑑みるに、そうは思えないけど…。」


メルティナ「愛の形は人それぞれです。」


クレイス「さて、これで各自自己紹介は終わったな。」


レット「これで仲間は全員なんスね?」


クレイス「ああ、これで全員だ。今日は皆の顔合わせの意味もあるが、これからの大まかな予定についても話しておきたいと思ってな。」


クレイス「出発の日時だが、五ヶ月後にしようと思う。」


レット「それはなんででっスか?装束が出来上がればすぐにでも出発するんじゃないんスか?」


クレイス「私も当初はそう考えていた。だが、とある一つのイベントを考えていてな。」


アキナ「イベント?」


クレイスは何かを思い付いるようだが、三人はその理由の見当も付かない。

しかしクロだけは思い当たる節があるようで…。


クロ「…たんじょうび?」


クレイス「そう、私が十九となるその日に合わせて勇者一行旅立ちのセレモニーを行おうと思っていてな。」


レット「それはまた国中が沸きそうなイベントっスね。」


クレイス「良い案であろう、国を挙げてのイベントともなればその経済効果も計り知れない。」


クレイス「…と自信満々に言っては見たものの、まだ具体的な内容は決めていなくてな。」


クレイス「その辺りの事は、近々父上に進言してみようと思う。」


クレイス「そして我々はその日までに、魔王討伐に向けての準備を進めなければならない。」


クレイス「先の見えない戦いではあるが、ある程度の指針は必要であろう。…まずはこれを見てくれ。」


クレイスは巻物を一つ取り出すと、テーブルへとそれを広げた。

なにかの絵が描かれているようだが、劣化が激しく所々欠損している箇所も見受けられるが、どうやらそれは…。


アキナ「これは、地図…?随分と大雑把に描かれてるけど。」


クレイス「その通り、これは先代の勇者が施したとされる結界に関する書物だ。」


クレイス「先代は魔王を倒した後、またその力が蘇った時人間界まで魔物が進軍するのを防ぐため、自らの命と引き換えにこの結界を作り上げた。」


その巻物には結界の位置関係を表す地図に、その結界を施すに至った過程…そしてその結界の効力など結界に関する情報が事細かに記されていた。

完璧と言えるまでに、結界に関する『全て』が書かれていた。


クレイス「その結界のおかげで、我々は今日まで平和に暮らすことができていた。」


クレイス「だが、ここ数百年の時を経て徐々に結界の効力が弱まってきている。」


クレイス「結界が完全に消滅すれば、魔王が再び人間界へとその魔の手を伸ばしてくるやもしれん。」


レット「えっと…ちょっといいっスか?」


クレイス「なんだ?」


レット「今の話を聞いてていくつが気になるところがあったんスけど…。」


レット「まず、魔王は先代の勇者様が倒したんスよね?なのになんで先代は結界なんて残したんスか?」


レット「んで、ものすごい根本的なことなんスけど…魔王は倒されたんスよね?じゃあ今魔界に魔王はいないんじゃないっスか?」


それは当然の疑問であった。

今は亡き魔王を討伐する…そんな意味も意義もないことをする理由はない。

しかし、魔王が倒されたことと、現在魔王が生存していることは何ら矛盾してはいない。


クレイス「…魔王は必ず蘇るのだ。」


アキナ「え、どういうこと…?」


クレイス「かつて、数多くの勇者が魔王に挑み、そして勝利してきた。」


クレイス「だが、その度に魔王は蘇り、魔物を使役し人間界を襲った。」


メルティナ「それは単に、仕留め損なったということではなく?」


その疑問もありえないことではない。

死んだふりで戦場をやり過ごす者も当然いるだろうし、魔王ならば自らの死を偽ることなど造作もないだろう。

しかしクレイスはそれを否定する。


クレイス「ああ、確実にトドメは刺されている。」


クレイス「これについては未だに解明されていないのだ。」


クレイス「文献の中には、魔王は不死身の存在であるとされていたり、魔王の跡を継ぐ者が現れるなど様々な考察が書かれているが真意の程は定かではない。」


クレイス「ただ確実に言えるのは、魔王は必ず蘇るということ。」


レット「でもそれじゃあどうするんスか?このままだと同じことが繰り返されるだけっスよね?」


それが避けられない運命ならば、いくら魔王に歯向かったとしても同じことが繰り返されるだけ。

時の流れと共に魔王は再びこの地に蘇り、人間に厄災を齎す。


クレイス「そう、そこで私が目を付けたのが、魔王城だ。」


クレイス「文献には魔王についての事柄は数多く記されているが、その魔王が住まう城、魔王城についての記述はそれほど多くない。」


クレイス「歴代の勇者たちも魔王を倒すことに重きを置き、城の探索はそれほどしていないようなのだ。」


クレイス「なので私は魔王を倒すこととは別に、城についても調査しようと思う。」


魔王復活のヒントはその城に隠されているのではないか?

それがクレイスの導き出した答えだった。

魔王を倒すことができれば、一時の安息を得ることはできる。

先代の勇者がそうであったように、今回も首尾よく魔王を倒すことができたなら『今』を生きる国民はその驚異から救える。

しかしそれはあくまでも一時的なもの…いずれ厄災が降り注ぐと分かっていて、それを見過ごせるクレイスではなかった。


レット「でもそれって、当てはあるんスか?」


クレイス「いや、単なる私の勘だ。城を調べて何もなければ、魔王復活と城の因果関係はないことが分かる。」


クレイス「そうやって一つずつ検証をし、二度と魔王が蘇ることがないよう対策を講じる。」


アキナ「けどそれって魔王を倒すことよりも下手したら大変よね。要は、魔界を調査するってことでしょ?それなら…。」


クレイス「ああ、長期間、魔界に滞在することになるだろうな。だが、君たちにそこまで付き合えとは言わない。私一人でも成し遂げてみせる。」


メルティナ「水臭いですよクレイス王子、わたくしたちは既に運命を共にすると誓いました。どこまでもお供いたします。」


アキナ「そうよ、もっとあたしたちを頼りなさいよ。」


レット「オレっちはまあ役に立てるかは微妙っスけど、出来る限りのことはしてみるっスよ。」


クロ「…クロも、いっしょ。」


唐突に明かされた魔界の長期滞在計画…クレイスはそれを単体で行う覚悟をしていたが。

どうやらここに集まってくれた友たちは、そんな覚悟を共にすることに全く抵抗のない、頼れる者たちであった。


クレイス「皆…ありがとう。この恩は一生忘れない。」


クレイス「魔物をこの世から根絶し、その驚異に怯えることなく民が暮らせる世界。」


クレイス「夢物語かも知れない、しかしそれでも私は諦めない。」


クレイス「誓いを新たに私は進む、皆、付いて来てくれ。」


クレイスの言葉に力強く頷く四人。


レット「それでとりあえず、その先代の勇者様が張った結界はどうするんスか?それをどうにかしないと、魔界には行けないんスよね。」


クレイス「ああ、そこでこの巻物だ。どうやら結界は大規模な砂嵐のようなのだ。」


メルティナ「砂嵐、ですか。」


クレイス「どの程度の範囲までかは分からないが、魔物を寄せ付けないための結界だ。相当な範囲に広がっているだろうな。」


巻物に記されている地図を見るに、結界は王都の西側に存在する。

その結界と王都の間には国壁があり、これを越えていかなければならない。

しかし王都は条例として原則、この国壁を越えることは許されておらず、その壁の向こう側に結界が存在している事自体知る者は少ない。

そのような条件下でどう国壁を越えるか…それは至って単純。

国壁の内外を行き来できる特例はその壁を整備する者、及び勇者一行。

つまり既に勇者となったクレイスとその仲間ならば、問題なく国壁を渡ることが出来るのだ。


レット「ちょっといいっスか。結界は砂嵐なんスよね、だったらどうしてそれが弱くなってるって分かるんスか?見ただけじゃ分からないと思うんスけど…。」


クレイス「…実は魔物が現れたのだ、この地に。」


メルティナ「その言い方からしますと、結界が張られるより前の出来事ではないのですね?」


クレイス「ああ、十数年ほど前にそのような報告があってな。」


クレイス「これは恐らく結界の効力が弱まっているのだろう。」


先代の勇者が結界を残しこの世を去ってからおよそ千年、魔物が人間界に侵入したことは一度もなかった。

完璧にも思えるその結界だが、ついに王都内で魔物の存在が確認された。

それは結界の効果が僅かだが薄れてきている…それがクレイスの見解であった。


クレイス「あの砂嵐を突破する魔物が現れた、これは非常にまずい状況だ。」


クレイス「私が魔王討伐を急いでいたのもこれが関係している。」


クレイス「些細な変化ではあるが、放っておけば後々取り返しの付かないことになる。」


結界が弱体化することが確認されたなら、いずれはその効力が完全に失われることも十分にありえる。

そうなれば魔王や魔物の進軍を許すこととなる。

例え魔王が完全にこの世から消えたとしても、本能のままに人間を喰らう魔物は野放しにされたまま…。

それらを完全に駆逐するまでに結界は必要不可欠。

そのためにもまずは、魔王の討伐が何よりも急がれる。


レット「じゃあその結界はどう突破するんスか?今の話を聞いてると、結界を解くわけにもいかないっスよね。」


復活した魔王ですらその結界を乗り越え人間界へ進軍してくることはなかった。

あるいは単純に、単騎で乗り込むことのリスクを避けたたけなのか…。

理由は不明だが、それでも魔物を寄せ付けない強力な結界…おいそれと突破することはできないだろう。


クレイス「いくつか方法を考えてはいるが、実際に確かめてみないことには何とも言えないな。」


アキナ「つまり出たとこ勝負ってわけね…。」


クレイス「そうなるな。ここまで話しておいてなんだが、結界より先は何があるのか、何が起こるか予測できない。」


クレイス「その場で臨機応変に行動していかなければならない。」


レット「分からないことの方が多いってわけっスね…。」


レット「でも、案外知らないことも多いもんスね。勇者の事とか魔王の事とか。」


メルティナ「ええ、わたくしも初めて耳にしました。」


クレイス「知らないもの無理はない、なにせ先代の勇者がいたのは千年以上も前のことだ。文献に関しても、そう多く記述が残っているわけでもないからな。」


それに今の時代、魔王や勇者に関しての国民の関心も薄い。

千年という時が経っている今、それも無理はないのかもしれない。


レット「先代の勇者様が張った結界って凄いんスねー、千年以上もまだ効力が続いてるんスから。」


クレイス「ああ、命を賭して我々を魔物の驚異から守ってくれたのだ。その思いを無駄にしないためにも、我々が跡を継ぎ未来へ繋げていかなくては。」


クレイス「…と、長々と話していたらもうこんな時間か。」


何気なく視界に入った時計を見ると、十八時を過ぎようとしていた。


クレイス「では今日はこの辺りにしておこう。」


クレイス「このあとは、ささやかではあるが親睦会を兼ねた立食パーティを開こうと思っている。皆是非参加してくれ。」


レット「元から今日はそのつもりだったっスからねー。オレっちは当然参加するっスよ。」


アキナ「王宮の料理なんて滅多に食べられないからね、しっかり味わわなくちゃ。」


メルティナ「命に感謝し頂戴いたします。」


クロ「…いっぱい、たべる。」


クレイス「ではクロ、皆を会場へ案内してくれ。私は先程の件を父上に伝えてくる、話が終わり次第そちらに向かう。」


クロ「…ん、わかった。」


レット「では、また会場で。」


…。


クレイスは一旦皆と別れバルレイの元へと向かった。

そこでセレモニーの概要を伝え、パーティの開かれている会場へ向かい、その扉の前に立つ。


バルレイ『良かろう、後のことは私に任せ仲間の元へ行け。』


クレイス「(父上には感謝してもしきれないな、近々なにか礼でもしなければ…。)」


父バルレイに思いを馳せつつ扉を開ける。

そこには、和気藹々と食事をする皆の姿が…あるはずだった。


クレイス「な、なんだこれは…。」


アキナ「ぅおらぁっ!もっと飲みなしゃいよ!あたしのしゃけが…にょめないっての!」


レット「も、もう勘弁するっス、な、なんか酒の回りがいつもより早く…む、むぐっっっ!!!」


クロ「…っ、…っ。」


メルティナ「あっ、あぁっ!もっとぉ、もっと激しく足蹴にしてくださいまし、クロさん!」


クロ「…ふっ、へんたい…。」


メルティナ「あぁ、その見下した眼差し…ゾクゾクしてしまいます…っ。」


アキナはレットにウイスキーのボトルをそのまま口に突っ込み、クロは笑みを浮かべながらメルティナを足蹴にしていた。

そんな異常な光景を繰り広げる彼らの顔は赤みを帯びていた。

その場にいた使用人たちも、飲み比べをしていたり酒を頭からかぶっていたり、中には床に寝そべっている者もいた。


レット「うっく…アキナっち、もっと飲ませるっス!」


アキナ「いいわよぉ…じゃんじゃん飲みにゃさーい、ほーら口開けてーっ!」


レット「んあーっ。」


天井に向かって大きく開かれたその口にボトルを突っ込まれ飲み干していくレット。


アキナ「んふふ…いい飲みっぷりじゃにゃいのあんたぁ。」


レット「ンクッンクッンクッ…ぷはっ、…うきゅー…。」


アキナ「んー?ちょっとぉどうしたのよぉー起きなしゃいよー、もっと飲みにゃしゃいよぉーねえってばぁ。」


クロ「…ん、ちゃんとあるく。」


ペチペチ。


メルティナ「あふん。も、申し訳ありません、力が入らず…。あひんっ!」


ベチンベチン!


クロ「…おうまさん、ゆーこときかないとおしおき。」


メルティナ「はぁはぁ…。ど、どうかこの卑しいメス馬にご慈悲を、ご慈悲をぉ。」


クロ「…だめ、おしおきする。」


こちょこちょこちょ。


メルティナ「ああぁあぁァァダメですぅ、そ、そんなことをされては…支えきれなく、なってぇ。」


ドサリ。


クロ「…ん、おうまさんうごかなくなった。」


クレイス「(…これは、一体どういうことだ?ここにいる全員が酔っ払っている…?)」


その異様な光景に目を奪われてしまったが、会場に足を踏み入れるのと同時にクレイスはその違和感を感じ取る。


クレイス「(僅かながらに魔力を感じる…誰かが魔法を使ったのか?)」


クレイス「(しかしそれならなぜこんなことに…とにかくまずはこの状況をなんとかしなくては。)」


原因の究明は後回しにし、まずはこの状況を収めようと魔法を放つ。


クレイス「魔法解除プリフィケイト・ライティア!」


会場に充満する何らかの魔法が、白い光が降り注ぐと同時に消えていく。

そうして魔法が解けると、そこにいる者たちは次々と倒れ込んでいく。

見ると皆一様に眠りに就いているようで、そこかしこから寝息が聞こえてくる。


クレイス「ひとまず他の者を呼んで皆をそれぞれ部屋に移動させるか…。」


その晩、その会場にいた者は朝までぐっすりと眠り続け、目を覚ますことはなかった。


…。


翌日、クレイスはあの時会場で何があったかのかを確認するためメンバーを集めていた。


レット「うー、頭がガンガンするっス…。」


アキナ「あたしも、まだちょっと気持ち悪いわ…。」


メルティナ「うふふ、昨日のことは朧げにしか覚えていませんが、とても良いことがあった気がします。」


クロ「…きもちわるい。」


案の定顔色の優れない面々であったが、なぜかメルティナだけはやけに肌の血色が良いようにも見える。


クレイス「それで、昨日は一体何があったのだ?」


レット「それが、アキナっちが酒を飲んだことないって言うもんスから、少し飲ませてみたんスよ。そしたら…。」


アキナ「なんかあたしフワフワしちゃって、多分、魔法を使ったんだと思う…。」


メルティナ「そうですね、なにやら呪文のようなものも唱えていましたね。」


クロ「…そしたら、みんなよっぱらった。」


クレイス「…推測だが、その魔法は恐らくバフ効果の魔法だったのだろう。」


クレイス「そのアキナの魔法にかかった者は、アキナと同じく恐ろしいまでに酒に弱くなった…。」


アキナ「う…ごめんなさい。あたしのせいで…。」


クレイス「アキナが悪いわけではない、というか、誰の責任でもないさ。」


クレイス「たまたま運悪くああなってしまっただけだ、そう気を落とすな。」


レット「そうっスよ、アキナっちは悪くないっス。」


アキナ「うん、ありがとう。」


レット「でも、あれっスね。こういうこと言っちゃあダメかも知れないっスけど、あれのおかげで結構お互い遠慮がなくなったっスよね。」


メルティナ「そうですね、クロさんとの距離も縮まりましたし。」


クロ「…それは、ない。」


アキナ「そうね、お酒の力があったからかもしれないけど、あれはあれで楽しかったかもね。」


クレイス「予想外のハプニングだったが、どうやら良い方向へと進んだようだな。」


レット「けどちょっともったいなかったっスねー…、酒ばっか飲んでたんで料理あんまり食べてなかったっスから。結構腹減ってるっス。」


アキナ「あたしもお腹すいたな…。」


クレイス「では朝食にしようか。昨日の料理ほど豪勢ではないが、料理長に腕を振るわせよう。」


アキナ「やった!」


レット「朝だからさっぱりしたものがいいっスね。」


メルティナ「人間は体が資本、命に感謝し、我が糧と致しましょう。」


クロ「…おなか、すいた。」


クレイス「では食堂へ向かおうか。」


いつもより歩みは遅くメンバーは食堂へ向け歩き出す。

ハプニングが起こった時その場にいられなかったクレイスは、仲睦まじげに話すメンバーを見て、少し寂しさを覚える。

だが、そんな己のそんな気持ちを振り払いクレイスは普段通りに振舞う。

その繋がった絆を、無駄にしないために。


…。


それから三ヶ月後、レットから装束が完成したとの報告を受け、性能テストも兼ねて王宮の闘技場へとやって来た。


クレイス「これが新しい紋章か。」


レット「クレっちが軍資金をたんまりくれたおかげで、コスパを気にすることなく全力で作れたっスからね。オレっちが作った中で最高のものが仕上がったと自負してるっス。」


クレイス「軍資金の方はともかく、魔少鉱石を十個用意して欲しいと言われた時の方が大変だったがな。」


レット「ちょっと試してみたいことがあったんスよ、こんな機会でもないと中々試せないじゃないっスか。」


クレイス「その分期待していいのだな。」


レット「もちろんス、仕上がりはばっちりっスよ。」


クレイス「では、早速試してみるか。」


クレイスは紋章を付け替え、新たなる魔装装束ケティクル・セパフィールを展開。

身に付けたその装束はとても煌びやかなもので、所々に加工され埋め込まれた魔少鉱石もあしらわれている。


クレイス「ほう、あまり着ているという感覚はないのだな。」


レット「そうなんスか?んー、多分装束とのシンクロ率が高いからじゃないっスかね。」


クレイス「よし、ではまずは軽く…。」


手の平を空に向け詠唱を始めるクレイス。


クレイス「万物形成メイキット・サンテルミ!」


詠唱すると一瞬の間に、空中に闘技場にすっぽりはまりそうなほど巨大な白い球体が出現。


レット「うおっ、なんなんスかこれ!」


クレイス「魔力を物質レベルまで押し固めたものだ。それにしても、これだけの物体を生成するのにほぼタイムラグがないとは…。しかもかなりの魔力を消費したはずだが全くと言っていいほど疲労感を感じない。」


レット「ああ、それは多分先に魔少鉱石の中の魔力が使われたんだと思うっス。もったいなくて魔力抜きしてなかったんスよね。」


レット「あと、今回はその魔少鉱石に色々な回路を中継してもらってるっスから、処理スピードが大幅にアップされるんスよ。」


クレイス「一体いくつくらい回路を繋げているのだ?」


レット「んーっと、そうっスねー。魔力吸収回路、魔力排出回路、魔力変換回路、対物理衝撃拡散回路、回路処理速度上昇回路、回路循環速度上昇回路…まあ後二十個くらいあるっスけど、全部言ってった方がいいっスか?」


クレイス「いや、そのくらいで十分だ。」


レット「まあ中には言葉で説明するのは難しい回路もあるんで…それにしても魔少鉱石はやっぱ便利っスねー、これだけ回路を組み込んでも魔力貯蔵のスペースは十分有り余ってるっスから。魔鉱石だとこうはいかないっスよ。」


クレイス「私にはよく分からないが、そんなに違うものなのか?」


レット「もちろんっスよ!魔鉱石だと、大体簡単な回路を五つ積んだらそれでおしまいっスから。それ以上積むとなると魔力がため込めなくなるっスから、魔鉱石を使う意味がなくなるんスよ。」


クレイス「そうなのか。」


レット「魔少鉱石だと、その辺りの回路全部ぶち込めるんで作る方としても楽なんスよ。オレっちはどっちかっていうとプログラムを組む方が得意っスから、それを管理するコンピュータの役割を担ってくれる魔少鉱石はホントありがたいっス。」


クレイス「なるほどな、王宮の宝物庫から魔少鉱石を調達した甲斐があったということだな。」


レット「すごいっスよねー、貴重な魔少鉱石が五百個以上も管理されてるんスから…。」


魔少鉱石は魔鉱石のおよそ千分の一しか採掘できず希少価値が高い。

魔鉱石も他の鉱物に比べたら高価な方で、採掘量が少なく膨大な魔力を保有できる魔少鉱石はほとんど市場には出回らない。


クレイス「といっても、王宮の者なら誰でも持ち出せるというわけでもないからな。父上に事情を話して一緒に管理人を説得したくらいだからな。」


クレイス「っと、まだ試運転の途中だったな、続けるぞ。」


クレイスは宝剣シュビルト・フォーンを手に持つと自身の強化を始め…。


クレイス「よし、では最後に…。」


クレイス「光魔法付与シャイニング・チャージメント!フル・コンプレッシア!」


通常の何倍もの魔力をその宝剣へと注入し、球体に向けて飛び上がるクレイス。

そして地面に着地するまでの間に球体へ剣撃を放つ。

地面に足を付けた頃には球体に無数の切れ目が入り、瞬く間に光を放ちながら崩壊していった。


レット「はー、すごいっスねー。」


クレイス「よし、続けていくぞ。」


それからクレイスは、球体を形成しては破壊するという作業を続けた。

時には無数の光の槍で串刺しにし、時には内側から爆発させ、時には拳一撃で粉々に吹き飛ばしたりとその装束の性能を確かめた。


クレイス「ふぅ。かれこれ三十分ほど続けているが、魔力が消耗する気配がないな。」


レット「魔力変換回路のおかげで、最小限の魔力で魔法が発動できるっスからね。」


クレイス「魔法の発動までのタイムラグもほとんどない。これはいいな。」


レット「気に入ったみたいで良かったっス。」


クレイス「これならば十分に魔王に対抗できるだろう。」


レット「これでオレっちの仕事は一段落っスねー。他のみんなはどうしてるんスか?」


クレイス「アキナとクロはいつも通りどこかで訓練しているだろうな。」


クレイス「メルティナは相変わらず王宮の外に出ては道すがら人々を助けているようだ。」


レット「そうっスか。それじゃあオレっちは一旦工房に帰るっス、これでようやくゆっくり休めるっス。」


クレイス「しばらくはこれといってやることもないだろうから、しっかり体を休めてくれ。」


レット「そうするっス。まあまた何かあったら、その時は呼んでくださいっス。」


クレイス「ああ、ではまたな。」


無事にテストを終え、自らの工房へと向かい歩き出すレット。


クレイス「(…本当に、皆には感謝しなければな。)」


魔王討伐に向けての準備が着々と整っていく。


クレイス「(あと二ヶ月…あの日、勇者となる誓いを父上の前でしたあの日からもうすぐ一年…。)」


クレイス「(…旅立ちは近い、準備を万全にし魔王に挑まなくては。)」


仲間の協力により新たな力を得たクレイス。

旅立ちに向け、高揚する気分を押さつつ闘技場を後にする。


…。


そして二ヶ月後、今日はクレイスの生誕を祝う日…つまり旅立ちの日である。

この日は王都主催のイベントが各地で模様され、国中がお祭り騒ぎとなっていた。

勇者一行を一目見ようと多くの観光客が押し寄せ、かつてないほどに賑わっていた。


レット「いやー、どこもかしこも人ばっかでここまで来るのに苦労したっス。」


アキナ「ホント凄いわよね、…あたしなんて迷子扱いされたし…。」


レット「アキナっちは背低いっスからねー。」


アキナ「うっさい、気にしてんのよこっちは。」


メルティナ「あぁクロさん、ここしばらくの間お会いできず寂しゅうございました。」


クロ「…こっち、くるな。」


メルティナ「…最近、クロさんに蔑まれるのが妙に心地よく感じるのです。あぁ、新たな扉が開けそうです!」


アキナ「そしてあんたは相変わらず変態してるわね。」


レット「というか、以前に比べて悪化してないっスか?」


クレイス「歓談しているところすまないが、そろそろ謁見の間へ行くぞ。」


レット「いよいよっスね。」


アキナ「えっと、これからどうするんだっけ。」


クレイス「これから謁見の間で父上に挨拶をし、その後馬車に乗って王宮から王都の外へと向かう。」


クレイス「特別何ををするわけではないから、肩肘張らず気楽にな。」


アキナ「そうは言っても緊張するわよ…。」


クレイス「なに、もしもの時はフォローしよう。安心して私を後を付いてくれば良い。」


アキナ「…うん、分かった。」


クレイス「では行こう!この世界の平和を、取り戻すために!」


三人「「「おーっ!!!」」」


クロ「…おー。」

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