15.地底の罠
それなりの経験を持つ探索者の間では、新人は地下四階層を踏破できる実力をもって、初めて初心者からの脱却を認めるという暗黙のルールがあった。
それぐらいの実力がなければ、まず地下五階層で死ぬことになる。それは熟練した探索者の手引きがあっても同じことで、ベテラン勢からすれば、そんなのは死体予備軍を連れて深部に潜るのと同じことだという認識がある。
この辺りが探索者として向いているかどうかの見極めにもなる。
探索者と言う特殊な業界で生き残って行くには、ただ腕っ節が強いだけでは無理だ。知恵も回らなくてはならないし、何よりも危険を察知する嗅覚が鋭敏でなければならない。
ここは太陽の光も届かない、地上とは理を別にする世界なのだから。
テウスに来てからおよそ一月が流れ、ジークとフィリンは初めて地下六階層に降り立っていた。
それは新人としては異例の早さで、この二人の基礎能力を窺い知ることができる。
身体能力もさることながら、二人とも直感が鋭く、危険を事前に察知する能力に優れていた。特にフィリンは大自然の中で暮らしていたためか、観察力に優れている。
とは言え二人だけでは、まだ地下五階層を突破することはできなかっただろう。知り合って以来、探索行を共にしているヨシュアとセドリックの存在が大きかった。
ジークとヨシュアの前衛コンビは鉄壁のブロックを提供し、後衛のフィリンとセドリックは速射力と殲滅力によってお互いの欠点をカバーしている。地下四階層では過剰、地下五階層でも余裕を持った戦力となっていた。
地下六階層に入ってすぐの広間には、何度となく使われた焚火の跡があった。この階層を探索するにしても、ここで休息を取るのがセオリーなのだろう。
「まあ、そりゃそうよね」
フィリンは汗に濡れた金髪をかき上げて、その重い質感にうんざりした。体中が汗まみれで、体力もかなり消耗している。ここに来るまでに激しい戦闘をこなしたわけではなく、その理由は地下五階層の環境が原因だった。
地下五階層は一言で言えば、灼熱地獄である。地下水脈で作られた川が流れているのだが、気温が異様に高いせいで蒸気が立ち込めるような環境だった。言わば天然のサウナである。その中を装備品をかついで行進していれば、それだけで体力を消耗するのは必然である。
「全員、大丈夫か?」
一行のリーダーを務めるヨシュアが確認した。全身鎧で固めているわりに元気そうだったが、その鎧下が汗でどうなっているのかは想像したくもない。
「俺、もう無理。ちょっと休憩しようや、キューケー」
とっくに地面に腰を下ろして足を投げ出している魔術師の青年が不機嫌そうに言った。汗が滴る顔は青くなっていて、ときおりえずいている。五階層の半ばから、ほとんど泣きが入っていたのは、最も体力に劣るこのセドリックだった。
「あんた、ちょっと体力なさすぎじゃない?」
「うるせー、頑丈なてめーらと違って俺は頭脳労働専門なんだよ」
「どちらにせよ、休憩するのが賢明だろう」
もう日常的になった感のある、嫌味を投げ合う間柄のフィリンとセドリックには頓着せず、ヨシュアはそう言って、「五人目」に声をかけた。
「ヴォール、すまないが歩哨に立ってくれ。貴公が最も余力がありそうだ」
「構わんが、どいつもこいつもこの程度で情けない」
応じたのは固太りの短躯が特徴的なドワーフの男である。部分鎧に身を固め、戦槌を肩に担いでいるが、あまり汗もかいていないようだった。
彼らは山岳部の洞窟に住む種族で、居住地から産する鉱物を用いた高度な冶金技術を持つことで有名である。優れた鍛冶師として都市部に住む者もいるが、このテウスに居付いたドワーフの大半が、『魔窟』の稀少な鉱石を目当てとした探索者である。
ヴォールによると、ドワーフの男には二つの派閥があるのだと言う。
一つは前述の冶金術に生涯を掛ける鍛冶狂いで、もう一つは素晴らしい鉱石を掘り出すことに執念を燃やす採掘狂だと言う。
「どっちにしろロクでもねー種族だな、そりゃ」
それを聞いたセドリックは一言で切って捨てたが、
「その鉱石狂いの話に乗ろうってんだ。てめえらも大差ねえよ」
ここはヴォールの主張が正論だった。
「隠された通路に、ミスリル銀鉱脈がある」
それがヴォールのもたらした情報だった。同族の仲間意識の強いドワーフの情報網に引っかかったものらしい。
ミスリル銀は金属としての強度もさることながら、なによりエーテルを蓄積する性質は、武具の材質として重宝される。簡単に言えば、魔術師が詠唱によってエーテルを圧縮するのと同じ効果が得られ、武器なら威力、防具なら防御力を、通常では考えられない域まで高めることができる。
だが、その鉱脈は現存せず、既存のミスリル銀製品は神話と区別の付かない古い時代の遺物と言われる物ばかりだ。そのあまりの希少価値からミスリル銀製品は値が付かず、流通することがないほどだという。
一部では「幻の金属」のひとつに数えられている。その鉱脈が〈魔窟〉に存在した、というのは、ある意味で合理的な話ではあった。鉱脈の跡さえ発見されていない理由になるし、そんな金属がどうして現存しているかも説明が付く。
こうした「お宝」の情報を持って、一時的な仲間を探す探索者は珍しくない。目的地にたどり着くためにはある程度の面子が必要になるからだ。
「それで」
と、息も絶え絶えと言った様子のセドリックが、青い顔でヨシュアに尋ねる。
「ホントにこの層にお宝ってのはあんのかよ? 死ぬ思いして「なんにもありませんでしたー」ってのはカンベンだぜ」
口の悪い魔術師は場末のチンピラを思わせる。粗暴な口調だけでも改めれば、もう少しマシに見えるのだが。
そのチンピラ魔術師と長く組んでいるヨシュアは、お人好しなのだろう。
「そういう情報だが、空振りというのも、珍しくはない。その時はその時で、この階層ならそこそこの稼ぎになる物ぐらい見つかるだろう」
リーダーの当たり障りのないフォローを鼻で笑って、セドリックは周囲の警戒のために少し離れた場所に立つドワーフに顔を向けた。
「そもそも、アイツの話、信用できんのかっつーハナシなんだよな……」
うっぷ、と危うく嘔吐しかけたセドリックは口元を手で押さえた。
「アンタは黙って体力回復させときなさいよ」
フィリンが呆れて指摘すると、セドリックは舌打ちして、下ろした背嚢を枕代わりに寝転がった。
彼と比べて体力がありそうにも見えないフィリンだが、エルフと言うのは、どうも見た目以上に頑丈らしい。もっとも、見た目に反した規格外なのは、彼女の隣で汗を拭いているジークも同じだが。
「ま、情報が怪しいってのは、あたしも賛成かな」
こっそりとジークに言うと、彼は少し困った顔をした。
「じゃあ、なんで着いて来たんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。確実な情報は、だれでも知ってるってこと。それじゃ一攫千金にならないでしょ」
なるほど、とジークはうなずいた。財宝を得る権利は、怪しい情報の真偽を突き止めた者にのみ与えられる。正論なのだが、同時に真面目に働く気のない点では人として間違っている。
「六階層は突破されてはいるが、構造が複雑すぎて完全には探索できていない。可能性としては否定できない」
それがヴォールの話に乗ったチームの総意だった。
裏付けのためにリサに調べてもらったところ、地下六階層から七階層まで豊富な鉱石が産出される層だと分かった。現状では六階層は枯渇した鉱脈も多いが、七階層は手つかずの鉱脈も多いと言う。
可能性としては低そうだったが、ミスリル銀は一握りの鉱石でもとんでもない値が付くはずで、冒険するだけの価値はあった。
「魔術学院の調査じゃ、ミスリル銀っつーのは、どうも合成金属らしいって話なんだよな……」
寝転がりながら、セドリックが独り言のようにだらだらと言った。
「鉱脈がねえっつーのもトーゼンでよ、その練成方法が失われたっつーのが定説に……って、なんだよ、テメー!?」
がつんと枕代わりの背嚢を蹴飛ばされて、セドリックは加害者たるフィリンを睨み付けたが、それ以前に彼女のほうがセドリックを睨み付けていた。
「アンタねえ、ここまで来てそれを言うわけ?」
「あー、分かんねー女だな? 空振りでも落胆が少ねーようにっていう、俺様の気遣いなんだよ。ありがたく思えってんだ」
言い返そうとしたフィリンに、さっとにジークが右手を上げて遮った。彼は入口の方を見て、表情を険しくしていた。
なにごとかと思ったフィリンの耳にも、通路から響いてくる幾つもの足音が聞こえた。魔物――ではないように思われる。鉄板で補強されたブーツが石を蹴る、ガツガツという音が聞こえていた。
「だれか来たの?」
問いかけると、すでに相手の姿が見えているはずのヴォールは、相変わらず戦槌を担いだままで、ちょっと振り返って答えた。
「なに、待ち合わせの相手が来ただけさ」
「待ち合わせ?」
怪訝に問い返したフィリンに、ヴォールはにやりと笑いかける。
「まあ、おまえさん方にとっちゃ、敵だがな」
それと同時に、ばらばらと広間に踏み入ったのは、不揃いな鎧に身を固めた戦士が六人、後方に顔を見せたのは、魔術師と思われる杖を構えた男が一人だった。
入口のヴォールに乱入者たちは見向きもしない。距離を詰めざまに撃ちかかってきた長剣を、ケインの盾が弾きあげる。フィリンはその隣の男に足払いを食らわせて、倒れこんだ男の無防備な背中に踵を叩き込んだ。そうしながら、やっと武器を構えた三人の背後で、セドリックは跳ね起きるや呪文を詠唱しようとしてえずいた。
ジークはフィリンが転ばせた男の首を剣で貫いて即死させる。事実確認などしない。襲って来たのだから、殺すだけだ。その余りの躊躇のなさに、襲撃者たちはいったん距離を置いて、体勢を整えた。
「なんだァ!? コイツら、ヤベーぞ……?」
有利な襲撃の勢いをいきなりそがれて、乱入してきた内の一人がわめく。
その血走った眼に、驚きはあっても仲間を殺された動揺はないと見て取って、ジークは舌打ちした。連中もヤバい状況に慣れているのだ。
「ハメられた……ってわけね」
忌々しげにフィリンが呟く。
よくある、と言うほどではないにせよ、耳にすることぐらいはある話だった。探索者狩りをする探索者だ。なるほど、ここは格好の狩場だろう。消耗しきって降りてくる探索者を狩るのは、楽なはずだ。
しかも、手頃な獲物を地上で物色して、わざわざ引きずり込んでいる計画性からしても、この「商売」をやって長いのだろうと思えた。凶暴なだけの犯罪者よりも、よほど質が悪い。
「なに、お嬢ちゃんがハメられるのはこれからだぜぇ」
気の利いたジョークでも言うように発言したのは、のっしのっしと重たげな身体を揺すって、襲撃者たちの後ろから現れた、禿頭の男だった。脂ぎった肌はぬめったカエルに似ているし、顔はそっくりだった。念のために言っておくと、一応、人間ではある。
「うえ……あたし、ああいうの生理的に無理……」
「そーいうジョーダン、好きじゃねーんだよな。女にモテねーぞ、カエル野郎」
青い顔で呼吸を整えていたセドリックが言ったが、カエル男は気にも留めず、ヴォールに布包みを渡した。
「案内料だ。取り押さえるのを手伝ってくれるなら、もう少し報酬ははずむぜ?」
「いいや、遠慮しとこう。危険は避けるのが信条でね」
今度はセドリックが舌打ちした。彼らはヴォールという釣り針に、ものの見事に引っかかった哀れな獲物というわけだが、分かっていても目の前でこうやって「取引」を見せつける悪趣味は許せない。
弓を構えながら、フィリンはちらりと階段の方を見たものの、すでに体力を消耗した三人が、これから灼熱地獄を抜けて逃げきれるとも思えなかった。消耗しきった所を追いつかれて嬲り者にされるのが関の山だろう。
ヴォールとの商談を済ませたカエル男が、フィリンたちの方を見て、部下に命じた。
「男は殺せ。女は生かしとけよ。エルフは珍しいから高値で売れる」
それを合図に前衛の戦士たちが蛮声をあげて押し寄せてくる。
「セドリック、後衛を狙え。フィリンは一人を抑えてくれ」
手早く指示したヨシュアは前に出て、盾で左の戦士の斬撃を防ぎながら、剣で右の戦士と切り結ぶ。左右の戦士を一人で抑え込む技量は生半可なものではない。
その隣で、ジークは別の戦士と斬り結んでいる。相手は軽装で、武器は一振りの剣だけだ。おそらく最も腕が立つという自負があると見て取って、ジークは抑えに回ったのだが、なるほど自負するだけの腕はあるようだった。
「ガキの手習いにしては、なかなかだな」
ジークの打ち込みを受け流して、剣士が嗤った。ジークは答えず、流された剣筋を変化させて、さらに打ち込む。
「むっ!」
予想以上の剣速だったのだろう。剣士は表情を険しくして、辛うじてそれを防ぐ。今度は受け流すほどの余裕がなく、刃が噛み合った。
今のを受けるか。ジークも眉間にしわを寄せた。技量もそうだが、反射も一級品だ。剣術家としての素質があるのだろうし、相応の努力もしてきたのだろう。
「いい腕だ。が、外道に堕ちて悪党の下で使うようでは、その力と技が泣くぞ」
「ガキが! 知った風な口を利いて!」
なにかしら思うところがあったのだろう。剣士が怒りに任せて、噛み合っていた刃を弾き上げると、猛烈な連撃を仕掛けてくる。が、その連撃の組み立てから、一撃一撃の精密なモーションまで、地道な鍛練の跡が窺える攻撃だった。
ジークは受け、外し、切り返すが、そう簡単に隙を作る相手ではなかった。負けはしないにしても、これは長期戦になると覚悟せざるをえない。
その後方で、フィリンはヨシュアに向かおうとしていた三人目を狙撃する。しかし、その一撃は盾に突き刺さっただけで、牽制以上にはならなかった。
「ああ、もう!」
苛立ちをあらわに、さらに射撃を加えるが、それがどのていど有効なのかはフィリン自身にも不明だった。
前衛が過密状態で、うまく射線が通らない。加えて、ジークもヨシュアも出入りが激しく、そちらを援護することもままならなかった。
その傍ら、セドリックは呪文を組み立てていく。大気に満ちる万能の元素――エーテルを詠唱で捕らえ、圧縮し、望む形に成形する。それが魔術の初歩であり、奥義でもある。
それゆえ、魔術師の基礎は発声術にある。体力を限界まで使って疲労困憊しているはずのセドリックの朗々たる詠唱は、チンピラにしか見えない男が優秀な魔術師である証左だった。
セドリックの手にした杖の先端に、渦巻く炎が現れた。さらに詠唱でマナを圧縮、積層。高温の炎の色が青く変わる。
「喰らえ!」
杖を振る動作が術式の最後のトリガーとなって、渦巻く蒼い炎が一直線に飛ぶ。前衛の隙間をすり抜けて、敵の魔術師に向かった炎弾は、爆発的に燃焼して、蒼い火の粉を撒き散らした。
直撃したかに見えた魔術師は、焼け焦げたローブの隙間から赤く焼けた皮膚を見せていたが、それでも深手を負った様子はない。
「クソが! 防御術かよ」
うなったセドリックは、込み上げた嘔吐感を抑えきれず、吐瀉物を吐き出した。
防御付与は初歩的な術だ。概念的に言えば、圧縮したエーテルを加工せずに貼り付けるだけだが、それゆえに展開が早い。こちらの術を把握してから対応されたのだ。
「いいから、さっさと次を撃ちなさいよ!」
フィリンが横でわめくが、セドリックは冗談じゃないと思う。エーテルの制御は精神力を消耗する。先ほどの一撃は渾身と言って良かった。だからこそ、多少なりと魔法の防壁を貫通できたわけだが、そのせいでいまや立っているだけで精一杯だ。
クソが、と胸中でもう一度うめいた。ハメられたせいでキレすぎて、後先も考えずに最大級の魔法を使ってしまった。
フィリンは物の役に立っていないし、前衛は数で不利だ。本来なら、前衛を安定させるべく、彼らに防御なりの付与魔術をかけるべき状況だ。それで稼いだ時間で、敵の魔術師と術比べをすればいい。
そんな当たり前のことも頭から吹っ飛んでいた。
血反吐を吐く思いで、セドリックは詠唱を開始する。敵の魔術師が術を組み上げているのが見えていた。聞きとった詠唱形式から判断して、属性は水、系統は散布――おそらくクラウド系の〈麻痺〉か〈眠り〉。対抗術式を構築しなければならない。
焦る気持ちとは裏腹に、呂律が回らない。体力ねぇなあ、俺はよぅ……。そのせいで、何度となくヨシュアの足を引っ張っていた。今もそうだ。新参のエルフ女に言われるまでもない。
「分かってんだよォ、そんなこたァ」
セドリックは詠唱を切り替える。多重詠唱。捕らえたエーテルを回路状に編み上げ、その中で新たに取り込んだエーテルをドライヴさせる、セドリックの属する魔術流派の秘奥。緻密な構成が破綻すれば、エーテルが暴発して術者を灼く危険な奥義だった。
こめかみに血管が浮き上がり、喉の組織が裂けて、呪文とともに血が吐き出される。通常の詠唱よりもはるかに複雑かつ高速な詠唱に、心身が耐えかねて悲鳴を上げていた。
だが、その甲斐はあって、恐るべき速さで術式は編み上げられていた。
「行くぜ、〈六合法衣〉――」
物理・魔術に対する複合防御の高位付与魔術。多少のダメージはすべて張り巡らされたエーテルの鎧に吸収される。エンチャントを受けて、ヨシュアは守勢から攻勢に転じた。同時にジークも防御の比重を減らして攻撃回数を増やす。
だが、セドリックの術式はまだ生きている。これが多重詠唱の多重たる所以だ。高位術式を高速詠唱しうるとともに、回路そのものに使ったエーテルに手を加えて、別の術を発動できる。
後手に回る対抗魔術は使わない。
セドリックは杖をかざした。詠唱を続けていた敵の魔術師の顔に焦りの色が浮かぶ。それを見て、彼はにやりと口の端をゆがめた。
「取って置きをくれてやらァ――」
がさがさとしゃがれた声で呟いて、セドリックは術式を発動させた。
キュンッ、と大気を切り裂く音がした時には、詠唱の最終段階に入っていた敵の魔術師が、血を吐きながら驚愕の内に倒れていた。その胸に、硬貨大の穴が開き、血が噴きこぼれている。形成されていたはずの防御魔術は、一瞬の拮抗も許さず貫通されていた。
円環状に形成したエーテルの回路で砲身を形成し、純粋圧縮されたエーテルの弾丸を亜光速まで加速して射出する。一瞬の光にしか見えない弾丸は、それゆえに太陽神エイオーンの持つ光の槍に喩えられる。その意味する所はすなわち、必中にして必殺。
それと同時に、セドリックも倒れ込んだ。手にしていた杖は、術の負荷に耐えかねて、真っ黒に炭化していた。
「仕事はしたぜ、クソリーダー……」
がらがらのしゃがれ声が呟く。
「よくやった。あとは寝てろ」
ヨシュアの返事を聞くより先に、限界を超えたセドリックは気絶していた。
「クソが、無駄な抵抗しやがって」
戦局を見守っていたカエル男がうなった。苛々とした様子で、腰に吊るしていたメイスを手に取る。
「ヴォール、てめぇも手伝え。共犯なんだからな」
「馬鹿言え……と言いたいとこだが、そろそろ頃合か」
と、ドワーフ族の戦士は担いでいた戦槌を構えた。
ジークたちは表情を険しくした。〈六合法衣〉の付与で反攻に転じたものの、静観を決め込んでいたヴォールが動くとなれば事態はまた逆転を余儀なくされる。彼らの見る所、このドワーフ族はかなりの手練だった。
しかし、ヴォールがフィリンたちに向かっていく様子はない。どころか、獲物を構えてぎろりと睨み上げた相手は、カンヘル族の男だった。
「なんの積もりだ? 裏切ろうってのか、コウモリ野郎!? それが通るとでも――」
「最初っから、てめえの仲間にゃなってねえのさ」
ヴォールがにやりと笑ったその時、
「全員、動くな!」鋭い声が入口から聞こえた。「査察局である! 手向かえば命の保証はしない!」
がしゃがしゃと金属鎧を打ち鳴らして雪崩れ込んで来たのは、蛇を踏みつける獅子の紋章を縫い取ったサーコートの一団だった。城砦騎士団のエンブレムだ。
「抵抗は無意味だ。全員、武器を収めよ!」
先頭に立つ男が再度命じると、呆気に取られて固まっていた探索者たちは、のろのろと地面に武器を落として両手を挙げた。
「ど、どういうことだ……? なんで騎士団が?」
カエル男はまだ事態が信じられない様子でうめいていたが、戦槌を突きつけたヴォールが疑問に答えた。
「俺は騎士団査察局の密偵でね。てめえみたいな外道を釣るのが仕事なのさ。……てめえがゆっくり観戦してる間に、後ろでちょいと細工をさせてもらった」
ヴォールの置いた呪石を目標に、城砦騎士団の高位魔術師が用意した転移術で局員を送り込む。特に凶悪な犯罪者を現行犯で確実に捕殺するために、査察局が行う強襲作戦だった。
査察局の団員が、カエル男の手下を捕縛していくのを横目に、部隊長が首領の前に歩み寄った。
「バズ・カーン、誘拐・人身売買・殺人・強姦・略奪の容疑ならびに謀殺の現行犯で逮捕する」
重装備に身を固めた局員に威嚇されて、カエル男も諦めざるを得なかった。
一方で、状況に取り残されていたジークたちは、一転二転する状況に、すっかり気疲れして座り込んでいた。
「セドリックが寝ていて助かった」
ヨシュアが疲れ切った顔で言うと、フィリンはうんざりした顔でうなずいた。
「キレまくってたでしょうからね」
「君は冷静だな?」
「まさか。怒るほどの元気もないだけよ」
そのフィリンの言葉には、ジークもヨシュアも同意せざるをえなかった。




