12.車内で聞くには壮大過ぎる話
ゆっくりと走り出した車の中、車内から見える景色はミルク色の山と雲、もし天国があるのだとしたらこんな美しい光景なのだろうか…って、ここは正に天の国じゃん…。
にしてもあの綺麗な黒い玉は何だったんだろう…。
現実味溢れたタクシーに乗り現実離れした風景を見るという不思議な状態で、ぼーっとそんな事を考えているとグラディアドさんがこれからの事を穏やかな声で色々説明し始めてくれた。
「本来ならばこれから生まれる既存の器に異魂者の魂を移すのですが、君には器が無いのでこちらで新たに用意しました。なるべく特出した個体にならない様慎重に作ったので、君が普通に暮らす分には支障はないと思います。本来の器の情報がないのでフォルムは君の生前の姿のままになります。」
「この…生前の姿…のままですか。」
「はい、多少変わる所はありますがほぼ同じになりますね。器の年齢は4歳からのスタートになります。本当ならば一人で生活できる年齢を造れれば良かったのですが…どうも成体を創るのが苦手でして…あ、安心してください、君の世話をある子にお願いしますので。それからあの黒竜の子と同じ年齢なので、うまく出会えればよい切っ掛けになるかもしれません。」
4歳スタートと言う言葉に不安を抱くが、あの子竜と同い年…推しと同い年に存在する事が出来る…と考えたら不安よりも嬉しさが勝って来た。
見た目に関しても特に目立ちたくも無いし見慣れない顔よりも長年付き合ったこの顔ならば安心して過ごせるだろう。
「黒髪黒目は私の世界ではとても珍しいですが、各色の中で黒と白持ちが最も力が宿る原初の色で私の最高傑作すからね。ふふ、それからこれは最重要項目なのですが…。」
少し真剣な声のトーンで異界から魂を呼び寄せている理由を説明してくれた。
「この世界を創った時に未熟な私の所為で同時に歪みを作ってしまい、その歪みから【バグ】と呼ばれるモノが私の意思とは関係なく生まれてしまいました。しかも最悪な事に【バグ】は私の世界の魂を食べ、成長する性質を持っている上に、この世界の者では封印する事が出来ても消滅させる事が出来ないモノになってしまいました。【バグ】への対処方が分からなかった当時は封印する事で事なきを得ていましたが、それも限界が来てしまい兄様…つまり君の世界の創造主に助けを求め、異界から強い魂を譲り受ける事で、私の世界とは違う世界の性質の魂を持った者を新たに生み出し、【バグ】退治が出来る様になりました。」
「【バグ】…。」
「ちなみに、ラードゥルラルドとルーンルシュレイは初代の異魂者でして、【バグ】退治の成功報酬としての願いで、本来地上での記憶を消して魂の回廊へと行くのですが、あの子達はあの黒竜を待ちたいと記憶を持ったまま再会する為に神へと神格化したのですよ。まさかあの地で捕らえられていたとは…しかし、無事再会できて安心です。」
「…そうですね。」
「それから【バグ】というモノはとても暴悪な性質を持っていてとても争いを好みます。強者へ寄生し、その者を魂を喰らった後、更に自分を強化させる為にありとあらゆるモノを捕食してしまう感情の無い破壊だけを求める恐ろしいモノ…ある程度の魂力があればそれに対抗する事が出来ますが、君の魂力では限界まで鍛えても恐らく多少対抗出来るくらいで直ぐ食べられてしまうでしょう。」
「えっ…そ、そんなに…ですか。」
「えぇ、そして私の世界の魂ではない異魂者である君の魂を吸収してしまったら…君の世界の特性を持つ強化された【バグ】が生まれてしまい、唯一の対抗手段である異魂者の力が通用しなくなってしまいます。」
「そ、それってかなりヤバいヤツじゃ…。」
「えぇ、かなりヤバいです。異界との交流は兄弟神である兄様とのみに行える最終手段でして、他の異界を頼る事は出来ません。なのでこの手段がなくなればこの世界は【バグ】に全て食べられてしまいます。なので、君はなるべく争いごとを避け、平穏に暮らしてください。あれらは争いの傍に在る習性を持ちますから。」
「平穏に…ですか…。」
その言葉に恐怖と申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
正式に呼ばれた人たちはきっと【バグ】との戦いで大変な思いをするのに僕だけ何もせずになんて…けど、僕は簡単に【バグ】に食べられてしまう…。
「お気持ちは分かりますが大丈夫ですよ。彼らには戦いに有利に動ける所謂チートスキルというモノを授けておりますから。彼らにとっては軽い虫退治の様なモノです。それに【バグ】は一定期間を置いて発生します。そして今回の【バグ】発生時期は異魂者達が生を受け、16年経った頃に発生すると出ているので、暫くは彼らも平穏に暮らすでしょう。」
「けど…その…サポート位は…」
「危ない事でなければ是非してあげてください。けれど君は【バグ】にとって簡単に最強になれる手段なのですから、決して無理はしない事。」
「は、はい。気を付けます…。」
「…君は、私にとっても返しても返しきれない恩があります。何もできないからと気を病まないでください。」
「恩て…僕は何も…。」
「私の可愛い純黒を助けてくれましたよ。君のお陰で私はあの子を見捨てずに済みました。」
「見捨てるって…でも、あの時助けてくれたのはグラディアドさんで…」
「私が助けたのは君だけです。私の力は創造と消滅のみ、多少の回復をさせる事は出来ますが、私の力ではあの子の魂を生かして救う事は出来ません。私の代わりに世界の管理をしてくれている子達も直接地上への干渉は出来ない。君がイレギュラーにこの世界に迷い込み、あの子の元へ行ってくれたお陰で私は君の魂を回収するという目的この地に来て奇跡的に何万年と探し続けていた純黒の魂を見つける事が出来、尚且つ穢れてしまい消すしか選択の無かったあの子の魂を君は浄化してくれ私は彼を在るべき場所へと連れていくことが出来ました。もし、君があの場に居なければあの子を見つけ出せず、すり減らされ魂はあのまま消滅し世界のバランスが崩れてしまっていたでしょう。」
「せ、世界のバランス…ですか?」
「私の世界は生き物の様々な魔力によってバランスを保っています。多種在る魔力のうち、主軸となっているのが私の最高傑作である白と黒の魔力、そしてそれを支える四色が有り、更に多色の魔力が支える事でバランスが取れるのですが、どれか一つでもかけると世界の魔力バランスは崩れ、増えてはいけない魔物が増えたり強すぎる魔瘴気が発生して魔力の弱い生き物が存在することの難しい世界へとなってしまいます。」
(つまり…修羅の世界になるのか…)
「各魔力色を持った魂がこの世界に存在する事で世界のバランスは保たれていますが、四色のどれかが欠けたとしても創り直す事は簡単なのであまり問題はないのですが、純白、純黒の魂を創れるのは世界を生む前の真っ新な状態でしか生むことが出来ないので今の私には再度創る事は出来ないのです。長い間世界に残った純黒の魔力が擦り減られていくことしか見る事の出来なかった未熟者の私のまさに救世主です。本当にありがとう。」
「いえ…そんな…僕は只、あの綺麗なドラゴンをもっと美しい状態で見たいって思っただけで…。」
「えぇ、その想いのお陰で世界の均衡は守られたのです。きっと君がこの世界に来てくれたのは純黒を守る為だったのかもしれませんね。兄様曰く、偶然は無い必然で物事は動いているのですから。」
「純黒を…守る為…。」
「創生以来、久しぶりに世界に下りましたが、創った時と倫理が大分変っていてとても驚きました。管理を任せているあの子達が頭を悩ませているのもうなずける…本来ならね、純黒のドラゴンは私の代わりに純白のドラゴンと共に生きる神として存在させていた筈なのです。が…あの子…コクシュの死を切っ掛けにバランスが崩れ始め、そのバランスを保つために新たに四神を創ったのですが…それがいけなかったのかもしれません…。」
なんだか話が壮大過ぎて僕が聞いていい話なのだろうか不安になって来る。
僕が普通に生きて居た世界なんて、神様なんて目に見えない存在を信じるかどうかすら曖昧だったのに…
(まぁ、あんなマッチョダンディが僕たちの世界の神様だなんて想像しずらいよなぁ…普通)
「これから純黒であるあの子を無事回収する事が出来たので更に世界のバランスは良くなるでしょう。発生する【バグ】も恐らく今までよりも大分弱体化されるでしょうし、君が無意識とは言え魂を削り行った行為は既に他の異魂者の手助けになっているのですよ。」
「は…はぁ…。」
「さて、転魂の儀式場へ着きましたよ。長旅、お疲れさまでした。」
「あ、ありがとうございます。おいくらですか?」
「ふふ、お代は結構ですよ。お客様。」
「あ。」
つい癖で会計をしようとしてしまい、恥ずかしい思いをしながら静かに自動で空いたドアから外に出た。
車外へ出ると目の前に淡く光る1m位の卵が宙に浮いる。
「これが君の新たな器です。さ、これに触れてください。」
「あ…はい。」
随分と長い時間をこの空間で過ごした気がするが、転生の儀って随分とあっさりしてるモノなんだな…。
恐る恐る光る卵に触れると僕も卵と同じく発光し始め強烈な眠気が襲ってきた。
「次に目が覚めた時が君の新しい人生の始まりです。そして、ここで起きた事は時が来るまで大方の事は忘れるでしょう。君が生まれ変わって直ぐに困らない様最後の贈り物も送ります。ぜひ役に立ててくださいね。」
眠気で頭が回らない中、グラディアドさんが最後の言葉を聞くも徐々に理解する事が出来なくなり、ついには僕の意識はそこで途絶えた。
◆◆◆
淡く光る器、彼を全て受け入れた所で強く光り、無事に地上へと転送された。
「ふぅ、何とか無事に成功しました。あの子を作って以来でしたけど何とかなりましたねぇ。」
「主様!あぁ…もしやもう転送の儀は行われてしまいましたか…。」
「やぁ、ハクビャク。無事に済みましたよ。色々手伝わせてしまってすまないね、君も少し休みなさい。あぁ、新しく安息の地に出来た空間にまだ純黒の子がいるから会ってきては…。」
「主様、大変申し上げにくいのですが…こちらを…。」
現れたのは私の秘書をしてくれている人の姿をしているが純白のドラゴンであるハクビャク。純黒の魂が行方不明になった事もあり、純白種である彼も亡くなった後、神界にて魂を保護して以来、私の秘書の様な手伝いをしてくれるとても頼りになる子だ。
そのハクビャクに手渡しされたのは魂の記録登録をする大事なデータ。
「先ほど創られておりました器のデータと主様の言っておられた事が合わない箇所がありまして。」
「データが…合わない…?」
データを急いで展開させるとそこには送り出したばかりの器の情報。
「おやぁ…?これでは体力魔力が生まれたての赤子同然ではないですか…何故…。」
「…地上歴4年用のデータをきちんとご覧になりましたか?」
「はい、ちゃんと幼少期用のデータを…。」
ハクビャクが取り出りだしたのは魂の成長記録を記した大きな本。
そこには魂年齢0~5歳の文字。
5年事に作られた魂の平均データの載った資料。
「参考になさったページはきちんと参照ページを?」
「あ…。」
「あぁ…やはり…。主様が器とデータが合わないと仰っておられたので不躾とは存じますがデータを見比べさせていただきましたが…。」
「だからずっと器のレベリングが合わなかったのですね…あぁ…ど、どうしましょう…4歳児なのに体力魔力が新生児並とは…。」
「今からでもサポートアイテムを送るのは間に合うのではないでしょうか。」
「そ、そうですね。えっと…創造スキル…あぁ何を送りましょうどうしましょう!」
「落ち着いてください。大丈夫ですから…私も一緒にお考え致します。」
「ありがとうハクビャク…漸く救えた純色双竜の片割れであるあの子に君も会いに行きたいでしょうに…。」
「ご心配なく。今はまだ彼らとの時間を優先してあげたいので、私はもう暫く手が空いていますので。」
「そうか、では共に考えて下さい。」
「はい。」
◆◆◆
漸く転生前のお話は終わり。
この後からは転生後のお話になります。




