1話 未来のことを考えるのは色々と面倒
6章スタートです。かなり見切り発車です。
実力試験。進学校だと謳っているくせに、年にたった1回しかない業者試験。それが、中間試験が終わって間もない今日行われる。
教師は、「試験で覚えたことを忘れないうちにあった方がいいでしょう?」などと宣うが、生徒側はせっかく試験が終わったというのにという考えのものが多いようだ。僕としては、実力試験が中間試験の直後だろうが、そうでなかろがどうでもいいけれど。
試験科目は国語、数学、英語、小論文で理社はなし。この試験はかなり多くの学校が実施するそうで、全国規模で見た自分の実力が知れるそうだ。ただ、成績には関わらないからか、周りの空気は中間試験の時よりも柔らかい。
「試験は1科目90分で、科目の間の休み時間は10分、数学と国語の間に昼休みが20分です。変則的な時間割でチャイムが鳴りません。皆さん、自分で時計を確認するようにしてください。最初は英語ですね。では、気を引き締めて試験に挑んでください」
HRで担任はそんなことを言い、HRが終わればすぐに英語の試験が始まる。
英語は開始10分後から20分ほどがリスニングにあてられる。つまり、実質試験時間は70分。大問はリスニングを除いて3問。長文を読む必要のある2問は後に回して、リスニングが始まるまでの10分間で小問集合の第2問を終わらせたい。
そんな具合に、実力試験が始まった。
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定期試験とはやはり違った。7割くらいはできたと思う。だが、8割できかと言われると自信がない。
試験はマークシートではなく記述。英語と数学は、自分がどれくらいできたかだいたいわかるが、国語の、特に現代文の記述問題はそれもわからない。
試験を受けての1番の感想は、時間が短すぎる。数学とか、90分で大問5つなんて解けるわけがない。二次関数の問題は面倒な場合分けがあるし、確率は階乗やら冪乗やらの計算がやたらとあるし。英語だって時間内に解き終わるにはそれなりのスピードで読まないといけなかった。
定期試験とも、高校入試とも、何もかもが違った。
「はぁ」
試験が終わると同時に僕は大きく息をはいた。最後の小論文は結構テキトーに書いたので、評価はあまり期待できないだろう。
答案が回収され、しばらくしたのちにHRが始まる。
「皆さん、高校に入学して、学校で行う最初の実力試験でしたが、感触はどうですか?」
担任の問いかけに、クラスメイトたちは口々に「疲れたー」だの、「死ぬー」だの、「早く終わろ」だのと返す。
「結果が返ってくるのは、12月の三者面談の頃になるかと思います。問題も回収してしまったので復習は難しいかもしれませんが、わからなかった範囲は総復習するといいですね」
結果が返ってくるのに2ヶ月もかかるのか。まぁ、記述式は採点も大変だろう。
「皆さん、高校生活の1/6がもう終わりました。今日の試験で、入試を少し意識したかなと思います。気づいたら3年生なんてことがないように、今からしっかり勉強しましょうね。その方が後が楽ですから」
一浜高校はなんちゃってはつくものの進学校だ。一応、4年制大学への進学率は(それを見据えた浪人も含めれば)90%程度はある。卒業後すぐに就職する人は、学年に1人か2人。このクラス内のほとんどが進学するはずだ。受験は2年後に間違いなくやってくるのだ。
受験か。受験勉強を早く始めるためには、受験科目を早く決める必要がある。受験科目を決めるためには、受験する大学、学部、学科をある程度は決める必要がある。
つまるところ、もう志望校を考えないといけないわけだ。
大学の名前は、母親が納得するという条件がかかるのだから、選択肢なんてほとんどない。それ故に、さほど悩む必要もない。
悩むべきは学部学科。僕は何を学びたいのだろうか? 勉強は嫌いじゃない。学ぶことは楽しい。でも、これを専門的にと思えるものは特にない。やりたい勉強なんてその日の気分による。数学が面白い日もあれば、英語が面白い日もある。
大学で何を学ぶのか。何を学びたいんだろう。さっぱりだ。
たぶんだが、文学部だろうと理学部だろうと、法学部、工学部、社会学部、経営学部、この辺ならどれだってそれなりに楽しめる気がする。医学部とか神学部とかだと、僕向きではないと感じられるが、それだって気の持ちようによっては楽しめるのではないだろうか。
僕は人の役に立つとか、そういうことにはまったくもって興味がない。大学で知識を得て、それが社会の役に立てばいいなんて思いは微塵もない。自分が学びを楽しむために進学するのだ。他人のことなんて知ったことではない。そんな思想を持っているからかは知らないが、就職に関する意識も低い。
なりたい職業なんてない。将来の夢なんて、 子どもの頃からずっとなかった。将来の夢を訊かれるたび、テキトーにでっち上げたものを言っていた。
まぁ、それでも、働くことは必要だ。稼がなくてはならない、食べるために、生きるために。生きるために働くのは仕方がない。働くために生きるのはごめんだが。
未来のことを考えるのは色々と面倒だ。明日は明日の風が吹くというほど気楽になれるわけもないが、まぁ、早急に将来のことを考える必要もない。
とりあえず考えるべきは受験科目で、そんなのは国立を受けなくてはならない以上、5教科7科目だ。とりあえず理系ということにはしておく。僕の思考様式は文系より理系に向いている気はする。なら、理科2つと社会科1つ。これは、物化日本史でとりあえず勉強して合わないなら変えればいい。
選択肢が少ないというのは、なんとも気楽なものだ。




