2話 「みんなは大学で何やりたいとかあるの?」
「明日の予定を説明しまーす」
先輩はいつも通りのハイテンションでホワイトボードの前に立ち、『元治祭』と、先輩の身長で届く範囲で高い位置に書いた。
元治祭。正確には、元治大学学園祭。元治大学は先輩が来年から通う大学で、その学園祭に付き合わされることとなったのだ。
「10時に元治大学第2キャンパス前駅で待ち合わせ、以上!」
予定も何も、あったもんじゃなかった。
「待ち合わせはそれでいいですけど、その後の予定は?」
「わかんないよー。その場で見たいものを見るだね。少なくとも、うちの文化祭より面白いんじゃないかな。あー、研究室紹介ブースみたいなのがあるらしいからそこには行きたい」
予定を説明するって前口上はなんだったんだよ。まぁ、学祭なんてふらふらと回るのがいいのかもしれないけれど。
「研究室紹介っすか。そういえば、菜子先輩って何学部に進学するでしたっけ?」
「理学だよー。理学部の生命科学科。ゆくゆくは自分のクローンを作りたいって思ってる」
冗談かどうか判断できない言い方だった。まぁ、どうにしろそれは違法だ。
「生物をいじるってマッドサイエンティスト感して良くない? みんなもどう、生命科学」
「動物愛護団体から怒られますよ」
「怒られても、動物実験はなくならないんじゃないかな。モルモットたちに同情してたら、化学とか生物学とか医学とか進んでいかなくなっちゃうよ」
『万物の尺度は人間である』とは、プロタゴラスの言葉だったか。人間様のために尊い犠牲になる動物は膨大だ。食べるためというある種自然な犠牲を除いたって、その数は膨大だろう。それは現状、人間が全動物の中でトップに君臨しているからできる暴挙なのだろう。
「尊い犠牲は、それに意味がなくては許されませんけど。マッドサイエンティストになりたいなんて理由は、許されるわけもないですね」
「そっかぁ。でも、わたし、社会の発展とか、人間の繁栄とか、そんなのには興味ないなー。知りたい、だから調べる。やりたい、だからやる。そんな感じかなぁ」
まぁ、先輩が、世界の中心は自分だと当たり前に宣う先輩が、社会やら人間やらのためを思っているわけもないか。
「みんなは大学で何やりたいとかあるの? 蒼くんと紅ちゃんはまだ早いとして、大くんはもう志望校とか決めてる?」
「俺は工学か建築っすね。志望校もなんとなくは。元治も受けるかもっす」
「おぉ、いいね。蒼くんと紅ちゃんは?」
さて、なんと答えたものか。
「私はまだ。文系理系すら、まだ迷っています。来年の進路希望は理系で出しましたが、文系の方がいいと思う自分もいて。でも、これがやりたいというものもなくて」
「紅ちゃんは大体なんでもできるからねー、悩んじゃうよねー」
それを先輩が言うのか。紅林さんは先輩の言葉に苦笑のようなものを返すにとどめた。さて、僕も答えなくては。
「僕もまだ決めかねてます」
「よーし、じゃあ明日の元治祭で色々見て回ろっか。研究室紹介、かなりたくさんあるみたいだから」
その後詳しく話を聞くと、学祭と言いつつオープンキャンパスも兼ねているようで、大学の紹介は色々とあるらしい。その中には整理券が必要なものもあるようなので、予定は未定というわけにもいかず、なんとなくはどのように回るかも決めることになった。
「第2の11時と15時が見たくて、第1の13時が見たいんだよね。11時の見たら第1に向かって、終わったらすぐに第2に戻る?」
元治大学は第1キャンパスには文系の学部集まり、第2キャンパスには理系の学部が集まっている。第1キャンパスと第2キャンパスはバスが出ていて30分ほどで行き来はできるものの、行って戻っては面倒だ。しかし、時間が指定されている研究室紹介もあるわけで、見たいものを見ようとすると、先輩の言うスケジュールになってしまう。
「ハードですね……」
「でもぉ、『現代文学に見る空想生物のあり方』ってすごく面白そうだよ。外せないよ。でもでも、『遺伝子改変による難病治療』は何が何でも行くからね! 譲らないから!」
先輩としては、ハードだろうと強行するつもりのようだ。
「あー、なんでわたしの体は2つないんだよー。やっぱりわたしのクローンは必要だー」
クローンがいたとして、そのクローンと記憶の共有ができるわけでもなかろうに。
「なかなか大変な1日になりそうですね」
「がんばろー」
それからなんとかどう回るかを決定し、今日は解散となった。
元治大学に特定のモデル校は存在しません。なので、大学の描写が雑になるかと思います。ご容赦ください。




