11話 仕事はしなくてもいい
長い文化祭前日の始まりです。
文化祭前日は授業がなく、全日が準備時間だ。
さて、買い出しだの教室の装飾だの、やることは色々あるようなのだが、僕に振られた仕事は、あの忌々しい彼の作成。
ポップくん作り。
結局、美術部員にも設計の経験者はいなかったようで、ポップくんは床に鎮座することになった。
僕の仕事は設計図に基づいてポップくんを作ること。もちろん1人でだ。
ものすごく小さかったころは、おじさんとゴリラが工作をする番組とかを見て実際に作ってもいたのだが、工作をするのは何年ぶりだろうか。
ポップくんの作り方。
胴体、映画館で売ってるようなポップコーンのカップに顔を取り付ける。終了。すでに誰かによって作成済み。
僕が作るのは無駄に長い脚だ。
紙コップを少し余裕を持たせながら連結していって脚を作る。同じ要領で紙コップで蛇を作るのをやった記憶がある。
キリで穴を開けて、紐を通して結ぶ。これをひたすら繰り返す単純作業。1人で黙々とやるのに合っている仕事ではある。
クラスメイトがワイワイと盛り上がりながら準備を進める中、1人で黙々と紙コップに穴を開け続ける。
これ、傍から見たら僕はどう見えるのだろう?
ひたすらに単純作業をしていると、どうでもいい思考が始まる。
このポップくん、完成したらどんな感じになるだろうか。
胴体はいわば大きな紙コップで、脚は紙コップの集合体。なんか、幼児向け番組に登場するコップのお化けみたいなルックスになるのではなかろうか? その名もコップくん。
うん。実にくだらない思考だ。もっとマシなことを考えよう。
確か、文化祭が終われば2週間後に中間試験だ。2週間もあるのだから余裕はあるが、文化祭が終ったら試験勉強を始める時期だろう。
文芸部、また何かやるのだろうか。何かやるか否かは、部長が何か言い出すか否かだ。
部長、もうあと半年で卒業か。あの人がいなくなったら、文芸部はどうなるのだろう。大白先輩が部長になって、僕と紅林さんが2年生になる。新入生が入るかは不明だが、1人くらい入ればいいと思う。
部長のいなくなった文芸部は、何をするのだろう。今の文芸部は、部長のための集団と言っても間違いではない。活動目的は部長を楽しませること。そんな集団であると言ってもいい。
その中心たる部長がいなくなる。誰もあの人の代わりはできない。ただ黙々と読書をする部活になるのだろうか。まぁ、それでもいいか。トランプや試験勉強のために文芸部に入るものもいないだろう。
いや、トランプも試験勉強も、やろうと思えば部長がいなくたってできる。今年やったことなら、それと同じように来年もできるだろう。
だが、部長がいなくなれば新しい何かは行えない気がする。コロンブスの卵、何事も始めに行うのは難しい。少しのことにも先達はあらまほしきものなり、とはよく言ったものだ。
しかしまぁ、理由もないのに新しい何かを始めることもない。別に残りの2年、今のままの文芸部でいいのだ。
滔々と文芸部の今後を考えていると意外に手が進み、ポップくんの脚は完成に近づいていた。あとは先端に足になる部分をつければ終了だ。
ポップくんを作る作業は1時間ほどで終わった。今日、僕に与えられた仕事はこれだけなのだが……。現時刻は10時半ほど。さて、14時半までの4時間をどう潰すか。……4時間も潰せるのか?
手が空いたところで周りを見渡すも、まぁ、僕に合う仕事があるわけもない。どうしたものか。
とりあえず、ポップくんが完成した旨を報告しておくか。
完成したポップくん、これが可愛いとは思えない。なんか変に装飾してあるゴミ箱にしか見えない。
これでよかったんだよな……?
「これ、一応完成しました」
報告を黒崎さんに行う。今日は教室に佐伯さんはいない。前日とあって実行委員が忙しいようで、朝、大まかに仕事を割り振っていなくなった。
「ん? なにこれ?」
ポップくんだと宣言しても仕方がないだろう。僕としても、これが何なのかはよくわからない。
「なんか、マスコットとして作れと言われたものです」
「あー、あれ。これが、えっと、もうちょっとどうにかならなかったの?」
僕としてもそう思わなくもないが、一応、設計図通りのはずだ。
「渡された設計図通りには作ったはずです」
「そう。まっ、デコればなんとかなるか。OK、その辺に置いといて。別に蒼井に頼む仕事はないから、部活とか行っていいよ」
仮に部活の仕事があるなら、許可などもらうまでもなく部活に方に行ったことだろう。そんなことは言えるわけもないが。
「わかりました」
さて、仕事はしなくてもいいという御達しをいただいた。
どうするか。教室にいて何もしていないというのも居心地が悪い。今はいないが、担任がやってきたら仕事を振られかねない。そう思い、とりあえず教室から出た。
教室から出たものの、目的地はない。パソコン室に向かっても、さすがに誰もいないだろう。いや、部長ならいてもおかしくない気もする。
ふと、隣の教室に目をやった。1年1組、廊下で作業している生徒もいて、外装も完成に向けて着々と進んでいるように見える。聞いていた話より随分と順調そうだ。
なんとなくそちらに歩みを進めると、ちょうど教室から出てきた初老の男性と目があった。おそらく、この人が松田先生だろう。
「ん、君あれだよね、文芸部1年その2の、そう、蒼井だ」
なんか話しかけられた。こちらは相手のことをほとんど知らないのに、向こうは知っているらしい。
「君もクラスの仕事ないの? なら、図書室に行って図書委員の手伝いをしてきなよ。紅林もそっちに行かせたし、君もそっちの方が合ってるんだろ?」
僕が困惑しているのをよそに、話を進める松田先生。暇を持て余していることを一瞬で看過されたようだ。まぁ、見るからに暇そうにしていたのだから当然なのだが。
「えっと、はい」
「あっ、ごめん、初対面だよね。1組の新担任の松田ね。で、真白の元担任。君たちのことはなんか色々聞いてるから、うん、そんな感じ。あっ、図書室行っても暇だったら、これやるといいよ」
渡されたのは確かに数学の問題だった。そして漂うテキトーな雰囲気。部長が好むのもなんとなくわかる。
「受験生用なんだけど、君ならできないとは言い切れないかな。わからなかったら真白にでも訊いて。僕、それ解けないから。じゃ」
それだけ言うと、松田先生は去っていった。
1組が混乱なく準備できているように見えるのは、あの人が何かしたのだろうか? しかし、部長の言っていたことを思い出しても、そうは思えない。
まぁ、そんなことを考えることもない。とりあえず図書室に行こう。
蒼井くんがいかに退屈な1日を過ごすのか、無駄に長い文章で実感していただければと思います。本当に無駄に長いんですよね、前日。必要だったのか感がすごいです。




