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32話 部活って難しい


「一浜ってバイト禁止?」


 遅く起きた朝、タイミングが偶然に合い妹と朝食をとっていた時だった。


「いや、届けがいるとかだった気はするけど、禁止ではなかったかな。届けを出さずにやってる人もいる気はする」


 生徒手帳でも引っ張り出せば書いてあるだろうけど、食べかけのパンを置いて調べるのは面倒くさい。


「ふーん」


「まぁ、うちでバイトが許されるかは疑問だけど」


 母親は恐らく許さないだろう。


「だよねー」


 妹に落胆したような様子はない。わかってますよと言わんばかり。


「バイトしたいの?」


 妹が労働に積極的なのは少し意外だ。


「別に。してる人が多いならしておいた方がいいのかなぁって」


 なるほど。その判断基準は妹らしい気もする。


「多数派ってことはないと思う。たぶん。一応進学校で、部活もあるし、加えてバイトってのはキャパオーバーなんじゃない?」


「ふーん。塾通いプラス部活が多数派?」


「塾は1年時点ではそこまで多くはなかったかな、どうだろ? 半数は超えてるかもしれない。

 部活は9割方入ってると思う。今の時期、いろんな部活が体験入部やってると思うけど」


 案外帰宅部というのはレアだ。幽霊部員と化していてもどこかしらに所属はしているというのが多い。佐伯さんとか、軽音の幽霊部員だった気がする。


「運動部はちょっとなぁって。男女別だし、女子のみのコミュニティって疲れそう。かといってマネージャーとかで男子多数のところに女子数名っても嫌だし」


 運動が嫌というよりは人間関係なのか。


「美月はそういうの得意そうなイメージだったけど」


「得意と好きは違うし。わざわざ好き好んで面倒なところには入りたくない。体育会系の一体感みたいなノリも苦手。私、取り繕えるだけで本質は怠惰だし」


「なら別に帰宅部でもいいんじゃない?」


「でも、相当少数派なんでしょ?」


「まぁ、うん。ただ、実質帰宅部というか、幽霊部員ってのは割といるかもしれない。いや、知らないけど」


 文芸部に幽霊部員はいないし、他の部活の実態など知りはしない。


「部活って難しい。場合によってはそれでスクールカースト左右するし。いっそのこと部活なんて制度なくなればいいのに」


「いや、それは暴論だと思うけど」


「別に学校でやらなくても良くない? 先生が顧問やらされて、教員はブラックだブラックだって、なら部活なんてやらなくていいよって。勝手にサークルでも作って放課後に集まればいいじゃん。大会とかも学校単位じゃなくて自由に参加できるようにして」


 まぁ、わからないではないし、現行の部活というシステムには問題があるだろう。しかし、だから無くせばいいというのはあまりに乱暴に感じる。


「まぁ、部活がどうこうというより、入る部活がスクールカーストとか人物評価に繋がるのはどうかと思うし、教員忙しすぎとも思うけどさ」


「なんかない? それなりのブランドがあるけど緩くてふわっとした部活」


「それなりのブランドがあるってのか曖昧だし」


 文芸部にブランドはないのだろう。漫研はどうだ? 軽音や吹奏楽は?


「入っても馬鹿にされないとか」


「別に文芸部だって理由で馬鹿にされたことはないけど」


 直接的に部活を理由に馬鹿にするほど幼稚な真似を高校生はしない、と思う。

 なんとなく心の中で序列があって、それが皆の暗黙の了解となっていても、それはあくまで暗黙の了解であって明文化はされない。明言する者もほとんどいないと思う。


「文芸部は兄さんがいる時点でない」


「まぁ、そりゃ。軽音はバンドごとに本気のところと緩いところがあるらしいけど」


「軽音かぁ。初期投資かかりそうだなぁ」


 楽器を買う必要がある。幽霊部員になる目算なのに数万円を支払うというのは些か躊躇わせるか。


「後はあんまり。文芸部を除いて、どこの部活も大会とか発表の場とかあって楽だって断言できるところはないんじゃないかな」


「あれは? ミステリー研究会? Twitterで見たけど」


「あー。それ、ないから。創作」


「そうなの? でも、ポスター見たってツイートいくつか見たし、ポスター現物の写真も貼ってあったけど?」


「え?」


 山城くんの仕業か、菜子さんか。秘密倶楽部作成実験は拡大しているらしい。


「ほら、やる気ないポスター」


 スマホを見せる妹。その画面には文字のみで構成されたシンプルなポスター。書かれているのは団体名『ミステリー研究会』、活動日『不定期』、活動場所『不定』、入部資格『審査有』とだけ。


「このポスターみた人はどこに行けと?」


「さぁ? ミス研らしく暗号とか?」


「これに?」


 そんな手の込んだ代物には思えない。この噂に信憑性を持たせるために間に合わせで作っただけだろうし。


「このポスターは好感持てるけどね。新入生獲得にやる気ないし、活動も緩そう」


「いや、実際はないはずだし、仮にあったとしてもどう入部するのかもわからないけど」


「今はないにしても、誰かが作ろうとしてるとか。で、これがその勧誘の一環的な?」


「さぁ?」


 万に一つもそんなことはないと思うが、でも、絶対ではない。こういう嘘から出た真というのもあるかもしれないし。


「部活かぁ。また帰宅部かなぁ。でもなぁ」


「まぁ、色々体験入部とかして内部の人間関係とかも見てみたらいいんじゃない」


「うん。そだね。文芸部は新入生来たの?」


 妹に山城くんの話をするのはどうなのだろう。隠すのも変な気はするけど。


「一応1人は」


「ふーん。よかったね」


 いかにも興味なさげだった。なら、その1人について詳しく伝えることもないだろう。


「まぁ」


「あ、そだ。先輩さんと映画行くよね、火曜日。文芸部に勧誘とかされる?」


「されるかも。でも、別に本気じゃないし無視していい」


「鍋さ、映像化、どうかな?」


 妹の懸念もよくわかる。作品を汚されたという感想になる可能性は大いにある。


「うーん。まぁ、実写ではないし」


 今回はアニメ映画。実写よりは原作に準拠されると信じている。


「でも、納得するものになると思う?」


「いや、原作ファンが納得するレベルに持ってくのは……」


 それが出来たら映像化として大成功なのだろうけど、そうなる作品は多くない。


「もう公開されてるけど、レビューとか見た?」


「見てない。見ない」


「わかるー」


 朝食を食べ終えても僕たちはしばらく雑談を続けた。


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