30話 主体性評価
リアル多忙にて、31話の更新を1週間遅らせます。すみません。
「塾長に割と本気で怒られたので、普通に大学入試で求められる作文とか小論文向けの授業します」
授業開始すぐに倉間氏はそう言った。まぁ、金銭契約が発生している塾で突如内容を変更するのはマズいものだとは思う。
「まず、最近多くの大学で主体性評価とか言って軽い作文が要求されるようになってきてるのは知ってる?」
一応頷く。そんなものが要求されるのは知っているが、具体的にどんなもんなのかは知らない。
「知ってはいるか。で、それなんだけど、それは基本的にダメじゃなきゃいい。つまり、減点対象にはなっても加点対象にはならない。
そもそも提出しないとか、字数制限が守れてないとか、文章構造が支離滅裂だとか、そういう致命的なことがなければ、文章そのものがどれだけチープでも合否には影響しない。
ざっくり言うと、薄っぺらいどこかで聞いたことあるような話を要求字数に合うように書いておけばいい。ただそれだけ。でも、世の高校生は案外それだけのことができない」
口振りから察するに「なんでその程度のことができないのか理解に苦しむ」くらいのことを倉間氏は思っていそうだ。
「AOとか推薦で要求されるちゃんとした作文ではなくて、そういう緩いやつをここではテーマにするよ」
倉間氏は昨日の方が生き生きと授業をしていたように感じる。
「君たちはそういう本当に何も書けないってタイプではないと思う。そもそもそういう生徒は作文なんて講座取らないし。でも、そういう書けるタイプの生徒でも陥りがちなことがある。真面目にやりすぎてしまうってこと」
つまり、適度に手を抜けとそういうことだろうか?
「まず、この受験時期に主体性評価に時間を割くこと自体馬鹿らしい。10校受験して、例えば5校でこれが要求される。その度にそれを書くのは時間の無駄。何よりもプラス評価にはならないんだから、さっさと終わらせて試験のための勉強に時間を使うべき。
なのに真面目な生徒はそれぞれの大学にしっかりと作文する。いらない。同じでいい。
だから、使い回すための鉄則がある。
①大学名は入れない。貴校をつかう。
②校風や設備なんかには言及しない。
③わかりやすいエピソードを使う。創作でもいい。
④複数種類の学科を受験する場合、基本的に大学生活には言及しない。しかし、設問にその旨を述べるようにある場合はその限りでない。
とか、そんな感じ。いい加減だと思うだろうし、そんなのでいいのかとも思うだろうけど、そんなのでいい。
各大学、一体1年で何人の受験生がその作文を提出すると思う? それを全部しっかり読んで評価するなんて無理だ。
企業がESを見るのとは規模が違う。そもそもが試験の点の方がずっと優先されるんだから、あんなものは形式が整ったものを出してさえいればそれでいい」
身も蓋もない。書き方を教わる講座かと思ったら、いかに書かないかを教わるらしい。
「君たちに要求されるのは、どんな大学でも、どんな学部でも、どんな学科でも問題がない、当たり障りのない駄文を用意すること。主体性評価という名目だから、自分が主体となったエピソードを作っておけばOK.
1つ書いたら、200字バージョン、500字バージョン、800字バージョンを作ること」
具体的な大学、学部、学科の想定がないというのは書きにくくなる。使い回すために1つ書くのに時間をかけるのは本末転倒な気もする。
「まずは500字くらいを想定して書くのが書きやすいと思う。200字だとエピソードが入らないから結構難しい。800字になるならそれはそれでもいい。骨組みさえ作れば、加えるのも削るのもある程度はできるものだから。
ってわけで、折角この講座を取ってくれたから、この講座で3年生になった時に使い回せる作文を作っちゃおうって思ったんだけど、君たちって全員がまだ高校生活を半分も終えていないから、エピソード不足なんだよね。
だから、本当に使えるものを今回の講座で作るのは難しいけど、練習としてちょっと作ってみよう。真面目に書くんじゃなくて、テキトーにまとめる練習」
昨日よりテーマはかなりつまらない。でも、たぶんそういうのは得意分野だと思う。
「じゃあ、テーマは『高校生活で自らの主体的行動によって課題を乗り越えたこと』。高校生活ってのが難しかったら中学でもいいよ。時間取るからちょっと書いてみて。
あ、データとして残してコピペで使えるようにした方が実用的だからスマホで書いて。持ってるよね?」
塾内でのスマホの使用は禁止だとルールで聞いた気がするのだが、この授業ではいいらしい。
とりあえずテキトーに書くことにする。主体的な行動で何か課題を乗り越えた経験など思いつかない。僕の行動なんて受動がほとんどだ。
ないわけだから創作する他ない。課題は何にするか。高校生活というと、文化祭や体育祭が定番。後は部活の大会とか。
まぁ、でも、完全に創作だと書きにくいし、定期試験ってのもアリかもしれない。いや、定期試験って乗り越える課題としてはあんまりか。
高校生活で何かを乗り越えるっていうと、そのニュアンスの中に『仲間と協力して』っていうのが勝手に入るイメージがある。
1回目の定期試験攻略の時の記憶を脚色して、文化祭とかの話っぽくするとか。
僕が書く文章は結局嘘八百を並べるものになっていくのだった。




