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14話 バランス取れてる系女子


「ブランコ、ひっくい。足つっかえて座りにくい」


「そりゃ対象年齢は小学生な訳だし」


 妹は文句に言いつつ軽くブランコを漕ぎ始めた。僕は足を伸ばして座り、そんな妹を眺める。


「ブランコって、安全装置とか何も付いてないけど、本気出すと結構危ないよね。今の世の中でよくこんなものが遊具として許されてるなって思う」


「いや、そんなこと言ったら、すべり台もジャングルジムもアウトだろうし」


「うん。だからアウトなんだよ。遊具ってもの自体が変なクレームを避ける上ではない方がいいんだし。実際、小学校からブランコとかって減ってるらしいよ」


「まぁ、子どもが怪我したらクレーム入れる親はいるだろうし、そういうものか」


 僕はブランコやジャングルジムで活発に遊ぶような子どもではなかったし、それが小学校にあったかどうかすら覚えていない。

 なくても問題ないし、あったらクレームの元になるのだから撤去されていくのは道理だ。小学校にはブランコが必要だと声高に唱える団体もあるまい。


「小学校から完全になくなったら次は公園からも消えるんじゃないかな。子どもが怪我して、市を訴えるなんて話も普通にありそうだし」


「まぁ、ブランコなんてなくてもいいものだしなぁ」


「私たちが親になるころには、公園はただの空き地みたいになってるかもね」


 妹はブランコを漕ぐスピードを上げた。


「フゥー!」


 何かにご満悦らしい。この公園、遊具と言えるものはブランコ、鉄棒、雲梯しかない。そのうち、これらもここから消え去るのだろうか。


 しばらくして満足したのか妹はスピードを落とした。


「高校入学の直前の時期、同じ高校に通うことになる先輩と一緒に、夜の公園で桜を見ながらブランコを漕ぐ。今、私、最高に青春してるね」


「青春する相手、間違えてるぞ」


「うん。致命的に間違えてる。あーあ、なんだかなぁ」


「なんだかなぁってなぁ」


「こんなこと言ってたって、現実はただ親の喧嘩が気まずくて家出してきてるだけだし」


 家出といえるほどのものではない。いわば数時間だけの避難。


「私の青春イベント、相手 兄さんばっかり。あーあ、どっかに王子様いないかなぁ」


「現代日本で王子様って」


「いや、比喩だから。その辺からオランダの王子とか登場したら怖いよ」


 まぁ、それは怖い。


「美月の思う王子様って?」


「なに、興味あるの? キモー」


「いや、美月にもそんな少女趣味あるのかって思っただけ」


「そりゃありますよ。これでも年頃の女子ですから」


「そう」


 別に興味ないですよと演出するかのように僕はスマホを弄る。親からの連絡は未だにない。


「例えば、あー、超ベタなっていうか、なんか、少女漫画とかにありがちな、そういう例えならさ。

 猫被ってる私が実は無理してるって気づいて、相談乗ってくれるとか、そういうの、とか。現実にはいないけど」


「いないか」


「私、ハイスペック中学生だったからね。うちでの様子だけ見てた兄さんからすれば、受験前とかめっちゃ荒れててぐちゃぐちゃに見えたかもだけど、学校だとあの頃ですら案外取り繕えてたんだよね。

 周りの方がピリピリしてたのもあって、夏実にウザ絡みされてブチ切れたくらいにしか思われてなかったと思う」


「そっか。すごいな」


「なにが?」


「いや、実際はあれだけ荒れてたのに、それを取り繕えるって。僕なら不機嫌さとか隠せない」


「カースト上位の女子中学生舐めないでくださーい。こっちは兄さんが思ってる100倍は政治してるんだから」


「面倒くさそ」


 率直な感想だ。ただただ、面倒くさそう。


「ほんと、面倒いよ。ふとした瞬間に、趣味全開のカースト下位が羨ましくなっちゃったり」


「そこまでして、カースト上位でいるメリットって?」


「……なんだろうね。もはや強迫観念みたいな。なんか、イケてる方だけどはっちゃけ過ぎてるわけでもないバランス取れてる系女子でいないといけないっていうの? 私ってそういうキャラだから」


 バランス取れてる系女子ってなんだ? いまいちわからない。


「キャラねぇ。僕の知り合いに自分のキャラにとても忠実な人がいるんだけど」


「先輩さんでしょ。傍若無人キャラ。本当は案外周りも見えてるくせに」


「いや、まぁ、聞けって。その人、そのキャラでいるの、本心では面倒くさいなって思ってるわけ。ふと、このキャラやめたいなとか思ったり」


「へぇ。そうなんだ」


 俄然、妹は興味あり気にこちらを向いた。


「で、その人、今年の春から環境が変わるんだよね。ちょうど色々変われるタイミングではある。で、同じくキャラを意識してる美月としては、どう思う?」


「私に訊くの、それ? 別に先輩さんのしたいようにすればいいんじゃないの。今のキャラがそんなにしんどいならやめればいいし、そうでもないなら続ければいいし。

 決めたキャラを演じるのって、辛い時もあれば楽な時もあるから、辛い時の方が多いんだったらやめたらいいんだと思う。大学入学でちょうどいい機会だっていうなら」


「でも、一度作ったキャラってやめるのは難しいだろ?」


「別に一気にやめなくても、本当にしんどいなってところから徐々にやめてくとか。先輩さん、何にしんどいって思ってるの?」


「その人は、周りの人とのやりとりでキャラの維持に気を使うらしい」


「それは、まず兄さんが気を使わなくていい相手になりなさい」


「いや、その人、僕にはたぶんそんな気を使ってない」


「ふーん。そうなんだ。ちゃんと恋人してるじゃん」


「茶化すなよ」


「楽に話せる恋人がいるなら、その人にたっぷり寄りかかって、他ではちょっと気を張るくらいでもいいのかなって私は思っちゃうな。

 まぁ、兄さんにたっぷり寄りかかって、他では気を張っている身としての意見なわけですが。

 この話を兄さんから先輩さんにするのはちょっとだけどね。「僕にたっぷり寄りかかって」はキモい」


「でも、他で気を張ってたら、結局キツいのは変わらなくないか?」


「その分を兄さんが癒すんでしょ。まぁ、あとは気を張らなくてもいい相手を兄さん以外にも1人か2人作るとか。恋人だけだとさ。同性の友達も欲しいよね。なんなら私が立候補する?」


「たった2, 3人の気を張らなくていい相手がいるだけでいいもの?」


「まぁ、そこの人数を増やしすぎるとそれはそれで疲れそうだし。3人もいれば、「ねぇ、聞いてよー」って毎日誰かしらに言えるから」


「そっか。ありがとう。ちなみに、そのキャラに忠実な人って、僕の妹なんだけど」


「……は?」


「いや、誰も菜子さんの話だなんて言ってないし」


「は? はぁー? なに? 私の話でしたっオチ? はぁ? いやいや、私の相談を私にとかないでしょ? は? なに? マジありえない、真剣に考えて損した。ほんと、なに?」


 予想以上に怒っていらっしゃる。いや、そんなに怒るか?


「菜子さんのことより自分のことの方が真剣に考えて然るべきだと」


「うっさい。なんなの。私が王子様とか言ったから、じゃあ自分が相談に乗ろうとか、そういう感じ? キモっ。キモい、キモい、キモい。なんで、私を落としにかかってんの? 兄さんはもっと先輩さんのこと考えなさいよ、このシスコン!」


「いや、落としにかかってないし」


「ほんと、キモい」


 そこまで罵倒しなくてもいいじゃないか……。傷つくとかより、夜桜見物に来ている他の人からの視線が痛い。


「兄さんに口説かれたって先輩さんに言うから」


「いや、どう考えても口説いてないだろ」


 抗議の声は届かず、妹はスマホに高速でフリック入力していく。

 妹がキャラのことで悩んでいるようだったから、自分を客観視させたかっただけなのだが……。


『真っ白最高: 妹ちゃん、どうしたの?』


『真っ白最高: 妹ちゃんからのお兄ちゃんは渡さない圧がすごい……』


『真っ白最高: 蒼くん、なんか、とっても愛されてるね』


 数分後、個人LINEで送られてきたそれらのメッセージが冗談なのか本気なのか、僕にはわからなかった。


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