6話 勉強と読書を兄さんから取ったら何が残るの?
長期休暇後には、大抵課題試験とかあったと思います。
夏休みが終わるとあるものがある。課題試験だ。
この課題試験、実施される科目は中間試験と同じ。つまり、英語I、国総、数IA、物理基礎、生物基礎、世界史、道徳。このうち、課題試験という名前なのに課題が出ていないものがある。
もちろん、道徳だ。
課題が出てないのに課題試験とか意味がわからない。部長曰く、他の科目は課題から完全に同じ問題が出るらしい。
そして、道徳については、
『真っ白最高:なんか、夏休みの思い出みたいな感じだった気がする』
とのこと。それって道徳なのだろうか?
試験対策、道徳以外は簡単だ。課題を全て解けるようになっていればいい。何を勉強すればいいか明確にわかっているのなら、できない道理がない。
逆に、道徳は何を対策すればいいのかさっぱりわからない。
夏休みの思い出って……夏季合宿(仮)、母方の祖父母宅への帰省、これ以外だと書店やコンビニに出かけるくらいしか家から出ていない。
そもそも使える題材が少ない。
まぁ、課題試験に関しては特にイベントがあるわけでもない。部長は「消しゴムがもらえないからいいや」と言っていた。部長にとっては消しゴムをコレクトすることが大事らしい。名前は忘れたが、作っている先生の努力が報われているわけだ。
イベントがないのだから目標もない。頑張る理由もないわけだから、まぁ、テキトーにやろう。道徳以外は大丈夫なわけだし。
そう結論を出して、僕は主要教科の勉強を開始した。
*
「兄さんの圧力がすごい」
夕食時に妹からそう言われた。しかし、両親に比べれば僕は「勉強しろ」なんて言っていない方だ。それとも勉強以外の話だろうか? 何にしても、身に覚えがない。
「何の話?」
「なんで高校1年生がそんな勉強してるの!? 受験生の私への圧力としか思えない! 私は一浜に決めたから、余裕あるの。そんなに必死に勉強しなくていいの。大丈夫なの」
妹は結局第1志望を一浜にした。まぁ、落ちることはないだろう。妹が後輩とか、嫌だ。部長と被らないのが不幸中の幸いだ。
「いや、課題試験があるからな」
「どうせ勉強しかやることがないんでしょ。このガリ勉」
なんか、八つ当たりされている気がするのだが。ともに食事をしている母親は終始無言。
「僕って、勉強以外何もない奴に見えるのか?」
「違うの? 勉強と読書を兄さんから取ったら何が残るの?」
ほら、勉強以外にも読書があるじゃないか。いや、口には出さないけれど。
「何だろう。何か残るんじゃないか、たぶん」
「兄さん、もう夏休みも終わるけど、その間に何冊本読んだ?」
週3,4冊ペースだったはずだから……。
「15冊くらいかな?」
「ほら、絶対おかしいって。それ以外やることなかったの疑いようがないって」
そうか? 部長なんて1日で3冊読むこともあるって言ってたが。
「本にも読みやすいとか読みにくいとかあるし、読みやすい本なら1ヶ月ちょっとで15冊は別に多い方じゃ」
「それ、四六時中読書してる人の感覚だから。普通は月に1冊か2冊か、そんなもんだから」
いくらなんでも月に2冊は少なすぎないだろうか。夏休みで、学校ないんだし。
「兄さんって、友達いるの?」
「その話は夏休みが始まる前にもしたな」
「あー、兄さんの同類らしい文芸部は除いて、兄さんって友達いるの?」
文芸部で一括りにするのは大白先輩に悪いですよ。妹は、大白先輩はもちろん文芸部の面々を僕以外には知らないわけだが。
さて、文芸部のメンバーを除いて学校で1番話す相手は誰か。
……担任。
「担任とはけっこう仲いいかもしれない」
その答えに、妹は「うわぁ」とドン引きした。母親は話を聞きながら、ただ食事を進める。
「兄さん優等生だもんね。先生とは仲いいだろうね」
呆れるような物言い。しかしだ、同級生と仲がいいよりも、担任と仲がいい方がメリットは大きいはずだ。
「いいだろ、別に」
「お母さんは子供がこんなんで心配じゃないの?」
母親に話を振る妹。実の兄に向かって「こんなん」ってのはひどくありませんか?
「陸斗はちょっと個性的なところもあるけど、自慢のわが子よ。それに、優等生だもん。今から2学期末の三者面談が楽しみだわ。仲がいいっていう担任の先生からどんな話を聞けるのかしら」
母親はこんな僕を育てのだ。妹の思う普通にはおそらく該当しない。それは妹もわかっていただろうに。
「1学期はなかったんだっけ、三者面談」
「そう。だから母さん今からワクワクしてるの」
2学期末って12月なんだが。母親は4ヶ月間ワクワクし続けるのか。母親なら、そんなことにワクワクし続けるのかもしれない。
「兄さんの担任ってどんな人? あだ名とかないの?」
「あだ名、ロボットとか」
「一瞬で伝わる兄さんの同類臭……」
いや、担任は絶対に同類ではない。僕の同類なら教師になんてならない。
「綺麗な顔の人よ。写真があるわ。えっとね」
母親が持ってきたのは4月に配られた校内向け広報誌。なんで未だにそんなものがとってあるんだ?
「この人」
そこに写る担任は、ショートカットに整った顔立ちの女性。そして、いつも通りの無表情。
「綺麗だけど、写真とか苦手な人? 表情が死んでる……」
「いつもその表情だからあだ名がロボット」
「へぇ、なんかもったいないね。綺麗なのが台無しだ」
写真を見られただけで妹から台無しだと言われる担任。たぶんいい先生なんだが。
「いい人だよ。たぶん」
「兄さんと仲いいんなら、人間性もどうなのかなぁ……」
その言い草はいくらなんでも酷い。なぜ会ったこともない人のことをそこまで言えるのか。
「お前、口悪くなってないか?」
「受験生はストレス溜まるの。もっといたわってよ」
「余裕あるんだろ。気楽にやれ。一浜ならどうせ受かる」
「それ、ちょっとプレッシャーなんだよね。万が一落ちたらって」
妹は自信なさげに言う。こいつ、変な所で不安症なんだよな。
「万が一、1/10000って0.01%だぞ。そんなのいちいち想定してたらきりがない」
「さすがに合格可能性99.99%もないよ」
模試の判定でそんな値はそもそも出ない。
「なんにしろ、落ちるのは万が一なんだろう? なら、気にするな。万が一なんて起こらない」
実際には、0.01%だろうが、0.001%だろうが起こるときには起こる。確率0でない限り安心はできない。
しかし、まぁ、案ずるより産むが易しだ。
「そっか」
妹はそう呟いた。
「美月なら受かるわよ。絶対に。それより、兄妹仲がよくて母さん嬉しいわ」
「別に仲よくない」
そりゃあ、兄さんと仲いいなんて人間性がと言った直後だ。即座に否定するのも当たり前。
「ごちそうさま」
雑談をしつつの食事を終え、食器を片付けて部屋に戻る。
「兄さん、この後何するの?」
「勉強かな」
「兄さんからの圧力がすごい……」
今更な担任の外見描写でした。




