7話 僕は渋々と黒板に向かった
夏休みは終わった。今日と明日で課題試験だ。
夏休み開け初日から1日に4科目も試験があるというのも、なかなかつらい。
中間試験が3日間だったのに対して、課題試験は同じ科目量を2日で消費する。問題は簡単にしても、体力は消耗するだろうな。
教室に入ると、夏休み明け初日ということもあり、いつも以上にざわめいていた。
だが、夏休み明けであっても僕に話しかける奴はいない。
誰と挨拶を交わすこともなく、僕は自分の席についた。
今更参考書など開いて焦らなくても、課題試験には余裕がある。余裕のないクラスメイトをよそに、僕は文庫本を取り出し、HRまでの時間を潰す態勢に入った。
が、HRまでの10分間、本を読むための時間は霧散した。
HR10分前にして、担任が教室に入ってきたのだ。
「みなさん、おはようございます。元気そうでなによりです」
教卓に立った担任は、いつも通りの無表情でそう挨拶をした。
「先生はやーい。まだ40分!」
佐々木、いや、佐伯、えっと……クラスメイトその1がそう言った。
「はい。先生が早く来ただけなので、みなさんは勉強していて大丈夫ですよ」
そう言った担任はなぜかこちらを見た。
「蒼井くんは読書ですか?」
僕は文庫本に目を落とし、そして閉じた。
「ええ、まぁ」
「テストは大丈夫なんですか?」
「ええ、まぁ」
「なるほど」
担任はそれだけ言うと別の生徒のところへと向かった。
長くなるかもしれないと身構えたのだが、そんなことはなかった。
僕は文庫本をもう一度開いた。
「佐伯さんはテストは大丈夫ですか?」
「全然ダメ。もうわかんないのばっかり」
「例えば、どれがわかりませんか?」
「先生生物なんだし、数学もできるよね! この問題教えて!」
「なるほど。蒼井くん」
担任とクラスメイトその1もとい佐伯さんとの会話を聞き流していると、突然名前を呼ばれた。
担任の方に顔を向けると、佐伯さんは怪訝な目で担任を見ていた。
「なんですか?」
「この問題、解けますよね?」
そう言って見せられた問題は数学の課題に出ていた問題。当然解ける。先に試験は大丈夫だと答えた手前、できないと言うわけにもいかない。
「まぁ、そりゃあ」
「ちょっと黒板に解いてください。できれば解説もして」
「いや、なんで」
「そんな手間ではないでしょう?」
そりゃあ、解くのに5分もかかりはしない。はぁ。まぁ、いいか。
僕は渋々と黒板に向かった。
*
「問題文からmは0より大です」
黒板にm>0と書く。
「よって、m=-2は不適。したがって答えは2です」
よって、m≠-2 ∴ m=2 と書いて、解説も終了だ。
僕はそのまま自席へと戻ろうとするが、その前に担任が口を開けた。
「ちょっと待ってください。佐伯さん、今の解説でわかりましたか?」
「えっと、たぶん?」
「では、どうしてここでこの式が出てくるんですか?」
「えーっと」
佐伯さんはフリーズした。
「蒼井くん、もう一度この部分を解説してください」
内心ではえぇーと思いながら、「はい」と答えて、再び解説をする。
「解の個数に関する問題なので判別式を使います。判別式の符号によって、解の個数が判定できるからです。具体的には――」
解説を終え「わかりましたか?」と訊くと、佐伯さんは今度は「うん!」と答えた。大丈夫そうだ。
「今の蒼井くん、先生みたいだった! あと、これもわからないんだけど」
再び問題を振られる。「いやいや今度は自分で」と言うのは、どうも担任が許しそうになかったので、面倒に思いながらも解説を始める。
HR開始まで後5分弱。読書には戻れなさそうだ。




