赤リンゴの回ー9
集落近くの川で身体を洗い流す。オークの血や肉片は何かの呪いのようにへばりついて俺を離さない自分の行動を再認識する。
夜は静かに訪れた。
「俺はこの先どうなるんだろ?」
誰に言うわけでもない言葉は暗闇に消えていく。
今は様々な亜人の代表がゴブリン集落に集まり話をしている。
篝火がゆれ亜人達の真剣な表情を照らしていく。
家の中からその様子をぼんやりと眺める、隣にはヘイヌが武士のように控えているが
何故コイツは俺の近くから離れない…ほっとこう。
どうやらオーク達はこれから他部族で奉仕活動を行い罪を償うという方向で話がつきそうだ。
まぁそこら辺は亜人同士お任せしよう。
それよりも…
「ハァ~」
盛大にため息を一つ悩みはまたループする
これからの事と殺してしまったオーク達の事、
それと恨み顔で俺に向けられたあの言葉。今日だけで色々ありすぎて自分自身ついていけない
「ハァ~」
「旦那」
ん?
慇懃無礼とまではいかないが慎重に顔を見せにきたスネオーク
「寛大な処置をありがとうごぜえます。我等豚鬼族必死に罪を償おうと思いやす。」
「あぁ、うん」
「それとできればですが旦那に暴言を吐いたオークを許してやって下さい。アレにも色々ありまして、可哀想な奴なんです。」
俺に叫び襲いかかろうとしたオークを思い出す。
あのオークにも人生があってそれをバンターと俺が壊した色々思うところはあるが
「別に気にしてないよ。俺が殺しちゃったのは事実だしさ」
気にするとそれこそ何処までも続く無限ループに陥りそうになるのであえて自分を誤魔化す。
返す言葉を聞いてスネオークはホッと胸を撫で下ろす
「お前はアッチの会議に参加しなくていいの?」
「へぇ、オークの代表はアッシじゃねえので、それよりも違ってたらすいやせんが旦那は召喚者の方ですか? 」
!!!!?召喚者?初めて聞くワードだ!
「黒い髪に黒い目はこの星では珍しいしですからね、それにあのバンターを倒す強さ!もしかしてそうなんじゃないかなって」
「スネオーク詳しく聞かせてくれ!!」
「へっ?スネオークってあっしの事ですか?あっしの名前は…」
「俺以外の日本人がこの世界にいるのか!!!」
「旦那近いです、揺らさっ、、、ねぇでください!そんっ、なっ、、喋れませんぜ旦那!」
いかんつい興奮してしまった。
一旦落ち着こう。
「すまん、スネオークまぁ座ってくれ。村長の家だけど」
「………では失礼しやす」
微妙な雰囲気になってるが話を続けよう
「でっ、召喚者ってのは何だ?」
「へぇ、あっしの知ってる情報だけなんで片寄ってるかも知れやせんが召喚者ってのはこの星意外から来た神、魔神、英雄とかの事を言いやす。違う星からこっちの星に呼ぶことを神召喚と呼ぶみたいです」
ふむふむ
「神召喚をする目的は不明ですがまぁあっしの予想では大体は戦争を有利に進める為なんじゃないですかね」
「お前の意見はいらん!何処でその神代召喚をやっているんだ!」
「旦那そんな怒らなくても、ヒィ…すいやせん睨まねぇでくだせぇ」
もう怖いな等と独り言を呟いた後
「あっしの知ってるのはこれくれぇです」
「少なっ!ウソだろ!ここはデフォで色々情報getする所でしょ~が」
「ん~とっ、、すいやせん、旦那が何を言ってるかサッパリ分かりやせんが、召喚者に関しては軍の内部でもSクラスの最高機密情報なんですぜ、あっしはバンターの側に長く居たので色々情報は回ってきたんです。バンターは亜人帝国ではそれなりの権力を持ってやしたから。なんで本来なら知らないのが普通ですぜ」
「そうなの?」
ヘイヌがうんうん頷いてる、えっ?お前人族の言葉知らないはずだよね。
「あっ!あっしが知る限りで召喚者は三人いやす」
「ほぅ」
「まず一人目は魔王ヤマダ。
こいつはヤバいですぜ超有名です。今から100年位前に独立国家ラスカで神代召喚されたんですが召喚されて直ぐにその場にいた魔術士や騎士、戦士を皆殺しにしたらしいです。
さらにラスカの王様まで殺してたった一人で大国ラスカを潰しちまったんですわ。逃げるラスカ軍人や民を笑ながら殺してたそうですよ。
んであっという間に大国ラスカはヤマダの城になったんでさぁ」
「………100年?」
「ヤバいのはこっからなんですよ、ヤマダの行為を許さんとして立ち上がったのが当時最強と唱われていた勇者オリオ。
勇者オリオがヤマダを討伐しにいったんですが。
数日後には勇者オリオの生首が城の門前に飾られていたと、それから有名な実力者達がヤマダに挑むんですが次々に生首が増えるだけでした。
誰か呼んだか魔王ヤマダ今では近づく者もいませんぜ」
何だろう、エピソードよりも魔王っていう響きとヤマダっていう響きが全く噛み合わないから全然凄さが伝わらない。
それに100年前って…まだ生きてるのか?まぁやべぇ奴だと言うことは分かった。
魔王ヤマダはサイコパスと
「二人目は50年位前に中央大陸セレイラの中心都市神聖アグニカ国で神代召喚されたって事くらいしか分かりやせん。今何処に居るのか、何をしているのかも不明です。もしかしたら死んでるかもしれやせんね」
あら。二人目は消息不明か。
「三人目は英雄リョウ・シンザキ。10年程前にアグニカ国で神代召喚されやした今もアグニカの軍にいるはずです。人族同士の戦争を止めたり、魔族や異形の者やら亜人との戦争でも大活躍。強く弱者に優しく困っている者は助ける、そういった行いから英雄と呼ばれるようになりやした。あっしが召喚者で知ってる情報はこれ位です」
「なるほど…」
リョウシンザキはマトモな感じかするな。しかし神代召喚された奴らはどうやってコッチに来たのか話を聞いてみたいな。俺が地球から来たと分かれば何らかの手助けはしてくれるはずだ、
やっぱ誰かに襲われたのかな…
「スネオよ」
「……恐らく、あっしの事だと思うので返事しときます、何でしょう?」
「とりあえず俺をアグニカ国とやらに連れていけ」
「えっ!?」
「そのリョウシンザキという人に会ってみたい」
「旦那…無理だと思いますが」
「こっからアグニカまでどういくんだ?」
「ここは果ての果てマーゴ大陸ですぜ」
「やっぱ船とかで移動すんの?」
「まぁそうですけど誰もこのウーゴ大森林で船を持ってる奴は居ないですぜ、」
「そうなの?ちょっとあっちの会議してる奴らにアグニカ行きたいから何とかしてって行ってくる!」
「旦那って……」
「ん?」
「話聞かないタイプですね…」