無花果の回ー19
「いってぇぇぇえ!!」
クソが!!
ベネットが脇腹に短槍を流そうとするので左手で柄を握って阻止
右手のナイフでベネットに斬りかかるが虚しく空を斬るのみ
体内警報音、確認するまでもない、今まで何故気付かなかった!
ベネットの左手が緑色に光っていることに
無機質な何かが全身をなめる
ベネットの唇が動いたと同時に俺の身体のあちこちを切り裂く何か
たまらずまた絶叫
何だ!風か?もしかして魔法?
腹に穴を開けられ身体のあちこちは新品の刃で深く切り裂かれたような傷
腹から生える短槍、全身からは桃色の肉が服の下からこんにちはしてやがる。
ついでにどうぞ的なノリで赤黒い血もこんにちはしてるよ、おい!
俺の身体はまるで前衛芸術のような作品になっちまった
痛みで身体から力が抜け膝をつく、やべぇ力が入らない
「呪いをみるのは初めてかな?」
俺が動けなくなった事を確認するとベネットは短槍を離し胸元から凡庸なナイフを取り出すと苦笑しながら俺を見据える
クソが余りの痛さに目が眩む、中腰のまま立ち上がれない
見上げるとベネットのにやついたムカつく顔
FACKさっきからそのラリってる目が気持ちわりぃんだよ!!
「呪いも使わないし君、やる気あるの?」
わざわざ俺の目の前でナイフを見せつけ次に左の薬指が赤く光る
その指でナイフの腹を優しくなぞると凡庸だったナイフは赤々と輝く
高温の炉にでも入れられたナイフは薄く肌を焼き、水分を奪い、加速度敵に呼吸を浅くさせる
痛いだろうね、とビッテルが悲しい仮面を張り付け言葉を落とす
あんた性格わりぃよ
「テトラ君は速いだけで全然だな、あんな大口を叩くからてっきり強いのかと思ったけど」
言葉尻と同時にナイフが真っ直ぐ振り下ろされる
危険信号はさっきから鳴りっぱなしだ、うるせぇから少し黙ってろ!
身体と頭を右横に振りナイフを左の鎖骨で受ける
骨を滑り体内に異物が侵入、否が応でも左鎖骨に意識が集中する。
肉が焼ける匂いが鼻を犯す、この匂いが自分自身の肉が焼かれていると思うと尚更気が狂う何よりいてぇいてぇいてぇいてぇいてぇ…
いてぇ…くそっやべぇ
意識が……
おい俺…
どっか動け
寝るな…
このままだと……
死……ぬ
ルウ
ごめん
パリン! ハンマーでガラス玉を砕くような音が鼓膜を突き刺し脳内に響く
黄色い光が強制的に意識が覚醒させていくような……
何だ!今一瞬…いや!探るのは後だ今は目の前の事に集中しろ俺!
べっとりと血がへばりついてる左手でベネットの右手首を掴む
「んだらぁぁぁぁぁぁあ!!!」
気合い一発ここで踏ん張らなきゃ男いやっ!漢じゃねぇだろ!
片膝を付いたままタックル
ベネットは読んでいましたとばかりに左手で俺の頭を押さえ付け膝蹴りの体勢に入る
阿呆か!そんなんこっちだって予想済みじゃ通信教育で週一回総合格闘の授業受けてた俺をなめんな!エステル戦での失敗を今に生かす!
身体を捻り膝蹴りを回避
右手のナイフが早く早くとばかりに夜の大気を吸ってより黒く輝く、分かってるよ。
ナイフと会話した訳ではないがなんだかそう答えたかった ズブリ 久々の感触が右手の掌に伝わり前腕屈筋群、上腕三頭筋、三角筋にまで響く
そういや鎧オークとやった時以来か、と場違いな思考が過ったので強制切り替え、今はクソビッテルに集中!
ビッテルの顔が衝撃に歪む腹から生えた真黒なナイフを信じられないといった表情で見詰めてる
「お揃いだねパパ(ハート)」
ちょいとおとげた後に空いた右手で水色のネクタイを掴む、次の行動にはエリートには想像つかないだろうよ!
ライオンさながらの咆哮を上げ全身の筋肉という筋肉全てに力を入れる。
顔と全身に刻まれた深い傷口から血が吹き出す、痛い、なんでこんな痛い思いをしてるんだ、意識を失う痛みは今は引っ込んでろ!
このチャンスは逃せねぇ
再度上がる咆哮と共にビッテルを空中に投げ飛ばす!!
ネクタイで一本背負いのような形になり背中からコンクリートに打ちつけられたビッテルは状況がのみ込めないのか、あうあう言いながら大の字に倒れたまま立てないでいる
やられたらやり返す、それだけ。
動かないビッテルに馬乗りになり顔面を殴る、上手く力が入らないがそれでも殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、全てがお前のせいだと思うと自然と力も戻り強く殴れる、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
左手が上がらない、見ると左側の肩口と鎖骨辺りは炭化している
千切れたネクタイの片割れを捨て下を見る、
腹から短槍が生え血が止まらない、全身からも血が止まらない
血の宝石箱やぁ!ってな具合に池を作っちまってる。
いかん意識が飛びそうだ…どうみても俺の方が重症だ
ビッテルの顔は大分男前に仕上がった満身創痍だが聞かなきゃいけない、口を開くと唾と血が混じりあって上手く言えないが、それでも喋る
「ビッテル・デリ・マイオはどうして内臓キラーなったんだ!?」
ラリっているビッテルの目を見つめる。
ビッテルは無言
遠くからはパトカーのサイレンが聴こえる、チッ。もう来やがったか
「勝負に勝った方の願いを聞くのは古今東西どこでも決まってる約束事だろ、早く答えろ」
厳密には俺の方がダメージでかいしもうすぐ倒れる
ビッテルが起き上がって止めを刺される流れになりそうだがそこは一旦無視しよう
俺が倒れたらどうせビルの角から見てるアイツが何とかするだろうし
「コルティの為か?元医者のあんたなら分かる筈だコルティの病気は莫大な金を掛けてアテンナよりも大きな病院で治療――」
「違う…」
蚊がなくような声でビッテルが呟く
違うって?コルティの為じゃないのか。
「コルティの身体を治すのはあくまで通過点に過ぎない」
「通過点?」
おいおいちょっと待てちょっと待てクソ野郎!痛みを怒りが包む、痛がってなんぞおられんぞ!
「てめぇに今まで殺された人達も通過点なのかよ」
「被害者の方々には申し訳なく思ってる。せめて苦しまずにと薬を使って命を奪った」
今さら申し訳ないとか言ってるんじゃねぇよクソ野郎!
「申し訳なく思うんなら、五人目の被害者には何で薬をつかわなかったんだ、とびっきりの苦痛な表情をしてたぞ」
「……」
「おい!何急に無視しやがんだクソ野郎」
サイレンの音が大分近づいてきたな
まだ色々聞きたいことがあるが意識を保つのが厳しい…
くそっ、時間がねえな。
「二つ聞かせろお前は獣人を殺したか?あとお前のゴールってのはナンなんだ?」
「……獣人は殺していない、手にかけたのはエルフとヒューマンのみだ」
一呼吸置きビッテルが口を開く
「全ては貴族の誇りのためだ」
貴族の誇り?
「貴族の誇り? お前が貴族に拘ってるのは知ってるよ!だからっててめぇのオナニーの為に人を殺すのは道理が外れすぎてんだろ!
意味わかんねぇよ!ちゃんと説明しろよ!」
何考えてんだビッテル・デリ・マイオ、お前は何を考え、待て。貴族?
何だこのワードが妙に引っかかる貴族?貴族が何だって言うんだ
怒りとは別の思考が何か組み立てるが
「貴族じゃない奴には理解できんさ!」
素早く崩れる
空気が割れんばかりの大声を出すと同時にビッテルが動く
鈍重ながらも立ち上がり周囲のパトカーの音に耳を傾け次に廃ビルの一角を睨み付ける。
俺は動くこともできない、もう動けないのにビッテルが動いたという絶望感に襲われ尻餅を付く
ヤバいこっちはもう何もできねぇぞ
ゆっくり近づいてくるビッテルはお伽話の英雄ように凛々しく見える
冗談が過ぎる
顔を蹴り上げられ豪快に吹っ飛ばされる
今度は俺が地面に倒れる奇しくもビッテルと同じ大の字で
ビッテルが胸ポケットから小型のナイフを取り出し躊躇うことなく自らの喉元に深く突き刺す
俺は精一杯顔を上げその光景を見ることしかできない。
最早指一本も動かない
ビッテルが空を見上げる。
こいつはお伽話の英雄なんかじゃない、こいつはただの人殺しだ決して美化される存在じゃない。
なのに……どうしてビッテルはこんなにも生き生きしているんだ
「あどぱ、だぉぴ。ぁづっ」
喉から空気と血が漏れ、服と地面を血で染める途中正確には聞き取れないが何かを喋った
その時廃ビルの一角から赤い軌道が走る
「くそっ!見謝ったか」
清涼な声が無機質な工場地帯の一角にはよく響いた。
あの女やっぱいたのかよ…
そこで俺の意識は途絶える。




