無花果の回ー17
アテンナ西地区の地下街にある廃れた店が軒を連ねる通りにあるbar【灯火】の扉が開き客の出入りを報せるベルの音が狭い店内に響く
音に反応した店主が決まり文句を言いながら出入り扉に視線を投げる
「いらっしゃ…チッ、なんだよ、おい!ガキに売るものは何もねぇぞさっさと帰れ、おい!聞いてんのか!?」
棘のある口調に一人の男が反応し声を掛けた
「お~い、マスター?どうしたよ大声だして?」
「いや、客だと思ったらガキでして、出入り口から動かねぇんですわ」
店主に話し掛けた男は出入り扉を一瞥後に目を細める
「本当だ、どれ話してくるか」
「いやいや、ミリスさんにそんな事させられないですよ」
「まぁまぁここには一客として来てるんだから」
ミリスと呼ばれた頭部に角を生やした大男は少年に歩み寄りながら値踏みする(黒髪に黒い目か珍しいな、年は17、8って所か何だって子供が寄り付かない酒場にいるんだか)
さらに一歩踏み込み少年に近寄る。
「少年、ここは君のような子供が来る所じゃないぞ直ぐに帰り…」
肩に手を掛けようとした途端に少年が消えた、
ミリスが不可解に眉を歪めていると背中越しに聞こえた言葉を聞いて慌てて振り返り驚愕した
「おい!小太りの20代の男がカウンターの隅で飲んでいたと思うが、そいつは何処に言った?」
少年がいつの間にか自分の背後に立っていたからだ
(この俺が見失った、酔っぱらっているとはいえこの俺が…)
少年の声は思ったよりも野太く狭い店内には良く響いた
しばし呆然としていたマスターは
「あぁそいつならもう帰ったよ」
ミリス同様急に消えてまた現れた少年にどう対応していいか困ったからだ
「自分の事を殺人鬼とか言ってたからなガキは関わらない方がいいぞ」
めんどくさい奴だったのは覚えていたので忠告はしておく。
「ふぅん」とマスターに相槌を打ち踵を返す少年とミリスは正対する見上げる少年の顔は随分可愛らしい顔をしている
「邪魔だよオッサン」
「ん、あぁ、すまん」
ミリスは一歩下がり出入り口を開ける夜の街に消え行く全身黒色の少年を黙って見送った
ーーー
「あいつか…」
人が賑わう大通りをおぼつかない足取りで歩く小太りの男
ヤザイラの情報通りの格好なのを確認
茶色の髪はやや後ろに後退している。
汚い無精髭、緑色のアロハシャツは緩んだお腹が膨張しプリントの形を変えているベージュのチノパンも太もも辺りがパンパンの男は如何にも子悪党といった風貌だ
なんだろうあの体型を見ていると転生前の俺をみているようなこのせつなさ。
まぁ今は脇に置いておこう。
暫く後をつけていると男は辺りを世話しなく見回した後に都合よく路地裏に入り十メートル程進んだ行き止まりまで歩くと、立ち小便をしだす
街灯は無く月明かりだけが辺りをぼんやりと照らす
人通りはゼロ、余りの展開の良さに罠かと思うほどだが
関係無しだな。
腰に指すナイフを引き抜きゆっくりと男に迫る
「動くな」
事を終えた男の背にナイフの先端を当て穏やかに話しかける
「一ミリでも動いたらこのまま背中に穴が開く、俺の質問に正直に答えればそのまま返してやる分かったら頷け」
男はゆっくり頷いた。
「名前は?」
「名前?ネヅだ!お前誰だ!なんでって痛い」
背に当てていたナイフを少し押す
「おぉい、誰が喋っていいって言った?俺の質問にだけ素直に答えろ、次勝手に喋ったら根本まで刺すから分かったなら頷け」
ネヅは必死に首を上下に振り逆らわないという意思を表示
「お前さ、内臓キラーなの?」
「ーゥ、」
その言葉にネヅは下を向き聞き取れない独り言をブツブツと喋りだす。
一向に返答がないネヅに対しゆっくりとナイフを体内に進入させる
「痛いいたたたた痛い!」
「俺の質問には三秒以内で答えろハイ!三、二、一」
「痛いいてぇ痛いよ!まだ三秒経ってないグリグリしないでくれ!」
ナイフ伝いにネヅの血が薄く地面に垂れる痛みに耐えかねたネヅはバカみたいに大声で叫ぶ
「俺は、内臓キラーじゃない!ほら答えだぞ!だからもう許してくれ!?」
ナイフを引き抜き振り向かせてからネヅの肩掴んで壁に押し込む
「でもお前がさっきまで飲んでたbarで【俺が内臓キラーだ】って言ってたのを聞いてるけど?どういう事なの?詳しく説明しろよ!?嘘吐いたら腹裂いて腸で蝶々の刑やるから」
ネヅは視線を泳がせたが目の前の少年の鬼気迫る迫力からは逃れられないと悟り口を開いた
「俺は、内臓キラーじゃ無い、これは本当だ!だけど、その。分かった話す!話すから!そのナイフを引っ込めてくれ」
ネヅはゴクリと唾を飲み込み意を決する
「最近人を殺したんだ、へへっ。
それで興奮しちまって、つい大きな事を言っちまったってだけだよ。
俺が内臓キラーだって言うと大概の奴は嘘つけって目で見てくるからそういう奴等の首を絞めて泡ふかせるのが好きなんだ」
ネヅはひきつりながら笑顔を浮かべている自分の犯行を思いだし興奮したのか下半身が膨らんでいる
「誰を殺した?」
「同じ会社の奴だよ、ムカつくんでつい殺っちまった」
嘘を言っていなければルウを殺した容疑者からは外れる、しばし目を瞑り思考する
「もしかしてお前が殺した奴って顔をズタズタに切り裂かれた40代位の男か?」
脳裏には五人目の被害者、内臓キラーに真似て無惨に殺害された人物が思い当たった
「ああ、そうだ。ほら正直に言ったぞ離してくれ!」
「じゃあお前がビッテル・ソロウを殺した犯人か…」
ネヅは顔を 顰める
「ビッテル?俺は」
「うるせー喋るな」
ネヅの声を遮り拳を振り上げ顔面に叩き込む「あべしっ」的な事を叫び気を失う
「とりあえず警察に連れてくか」
ナイフを腰の鞘にしまい後ろ襟を掴みズルズルと引きずる
気を失ったネヅを見た後になんかデジャブだなと思いつつ視線を前に戻すと唐突な既視感に襲われる
と同時に
ピリ
身体全体に報せがはしり足を止める
「むっ?」
静電気?って事は誰かが俺に敵意を向けているって事か…
前方、左右を見渡さした後に首だけを動かし後方を見る
………暗くてよく見えんが人がいる
歩いて十歩程の距離に人がいるのは分かるが月明かりがつれないので男か女か人間か亜人かが分からない
何かを喋った様な気配があるが衣服をも動かすビル風でその言葉はテトラの耳には届かない
動き出す状況
闇と影に覆われた人物が風切り音と共に此方に向かって走り出す
ネヅを横に投げ構えた後に驚きを隠せずに声を出した。
「おいおいマジかよ!」
ピリッピリッピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリ
自信に危険を報せる静電気は狂った様に鳴りやまず全身を駆け巡る
時間にして約一秒静電気に気を取られていると目の前には影
いや暗闇で以前性別も種族も不明の人物の右足が左脇腹を貫く
肘を下げるもしくは左足を上げガードをすることができず衝撃が走りネヅとは逆の方向に吹き飛び壁に衝突
尻餅をついたまま肺の中の空気が強制的に吐き出された
衝撃と痛みに驚くがそれよりも驚いたのは
「こいつ、全然スローじゃない…」
今までの戦闘では相手の攻撃は全てスローモーションになり躱す事は安易にできたのがこいつにはそれが通用しない
スローモーションの恩恵が切れたのか目の前の人物が速すぎるだけなのか混乱する頭を切り替え戦闘に集中する
「当たらなければいいだけだろぅが!」
退屈そうに向かってくる奴を見上げる
距離が近くなった為に朧気な輪郭が表れる
茶褐色のトレンチコートを着込みフードを被っているので顔は今だに暗く不明、身長は俺と同じ位か?
足元は黒のブーツ膝竹から伸びる黒のボトムスは長く細身の体型を連想させる
「俺に何の用だよ?」
返事はない
「あっそ…」
言葉を吐き捨て立ち上がり様にお返しとばかりに右足を上げ素早い中段の蹴りを放つ
が当たる寸前に両腕で掴まれ勢いと威力は殺される
残った左足で地面を蹴り上げテトラの身体はふわりと舞い地面に対して平行になる
左足の勢いは止まらず敵の顔面に迫る
フードが傾き左の蹴りは空を切る
トレンチコートが掴んでいた右足を離し
地面に落ちると同時に顔面にブーツの靴底が襲う
ギリギリで顔を横に振って回避、ブーツがコンクリートを踏みしめる音を聞いて肝を冷やすと同時に衝撃
腹部を蹴り飛ばされ身体をくの字に折る
くそが顔面踏みつけはフェイントかよ!
立ち上がる間もなく顔面に雷の如き膝蹴りくらい豪快に仰け反り芸術的なまでに鼻血が空中を舞う
そのままた倒れこもうとするテトラにトレンチコートは終わったと悟り集中を四散させた瞬間
「づがまえだ」
膝蹴りをしたまま上げていた右足のブーツを掴み仰け反った体勢だが顔を正面に戻した叫んだ
「ヂね!ギョラァァァァァァァ!」
鼻血のせいで何を言ったのか不明っぽく聞こえたのはそっと無視しておこう
そのまま転ばしてマウント取ってボコボコにしてやる!
引き寄せたトレンチコートの胸元に手を伸ばすと
むにゅ
という擬音が俺の掌に伝わる
「!?」
一瞬の戸惑いを見逃さずトレンチコートは左足で地面を蹴り上げ空中で縦回転と同時にの顎を蹴り上げられる
蹴りの衝撃に思わず右足を離す
再び距離が開く
左脇腹と顎がずんずん痛むこりゃあ卑怯とか言ってられんな
腰から真黒のナイフを引き抜き構える
「逃げるんなら今のうちだぞ?」
相手は丸腰これで少しは有利になるだ…ろ……マジ?
炎が舞う
巨大ミミズのような炎が四つ意思を持つ動物のように地面からうねうねと動きトレンチコートの身体をまさぐる
炎が踊り収束したのは掌
主人を守らんとばかりに蠢いていた炎がゆっくりと歪なナイフへと変貌する真っ赤なナイフを手に取りトレンチコートはゆっくりと歩を進める
「ひ…卑怯だぞ!」
己の理不尽は横に預けトレンチコートに飛び掛かる
お互い獲物を手にしての第二ラウンドは一方的な展開
俺の攻撃は掠りもしない最大スピードで切りかかるも余裕で躱され弾かれ体勢が大きく崩れてもる敵に背を見せ冷や汗が流れるがトレンチコートはさっきの様に襲ってこずじっと立たすんでいる
攻めあぐねどうしようかと悩んでいると今度はこっちの番とでも言うようにトレンチコートの流れるような攻撃が始まる
躱せず弾けず痛々しい切り傷が顔や身体に刻まれる
心なしかトレンチコートからの攻撃は先ほどよりも一手一手に怒りを感じる
くそっ完全に遊ばれてるな
ナイフが当たる気がしねぇぞ、どうする!?
一歩二歩バックステップで距離をとる
再び距離が開き正対する
これは逃げた方が良いんじゃないかどうしようかと悩んでいると
「惜しいな」
清涼な声が耳に届く
声の発生源はフードを脱ぎ顔を晒す




