無花果の回ー16
「何してるんだい?」
室内でもハッキリと聞こえる蝉の鳴き声を聞きながら答える
「俺の故郷の習わしでさ、亡くなった人がちゃんと天国に行けるように神さんにお願いしてるんだよ」
「へぇ、呪いみたいなもんかね?じゃあ婆も真似しようかね」
目を瞑り両手を合わせて小さい木箱を拝む
遺骨入れるには安っぽい木箱だが無いよりはましだ
「じゃあ俺行くわ」
婆さんの家、厳密に言うならばプレハブ小屋だがこの辺りにはあまりいたくはない、数メートル先でルウが殺されたかと思うと。
あの時無理矢理にでも一緒に行動していたらと思うとやりきれない
自分で自分を殺したくなっちまう
「お兄さん、よくない顔してるよ。
あんまり変なこと考えちゃ駄目だよ、あとルウちゃんは何時でもここにいるから会いに来てやって」
何も答えず笑顔だけを向け外へと歩き出す清々しい程晴れ渡り今日もいい天気だなと呟きこの場を後にする。
あれから一週間立った
ルウを殺した奴を探す為に情報を集めたり、攻勢ギルド課で調べたが何の進展も無し
だがこの一週間ほぼ寝ずに調べ回ったおかげで色々掴んだのも事実
目の敵の弱味を握れた
それを餌に犬のように使い回した結果一つ分かった事は
今日もしくは明日には内臓キラーは捕まるはずだ…
警察に捕まる前に何としてでも俺が捕まえるこれは俺の――
熱を冷ますように体内通信に着信が入る胸の高さに青い粒子が一ヶ所に纏まり形が作られていき泣き笑いをする仮面のディスプレイが表示される
「ヤザイラだがデリ・マイオ家で分かったことがあったぞ」
電話の主は情報屋。
「何がわかったんだ?」
「お!?」
俺の返答にヤザイラは素っ頓狂な声をあげる
「話を聞いてたから落ち込んでると思ってたが大丈夫なようだな」
内心で舌打ち、顔も会わせたことのない奴にまで気を使わせてたのかよ、まぁいいや
「デリ・マイオ家のべネットの方だが元軍人だっていうのは前に言ったのを覚えているか?」
「あぁ、覚えているよ」
べネット・デリ・マイオ
コルティの親父でガタイの良いオッサン。
コルティと爺さんが何も言えず大声で怒鳴り家の歪みを作っているであろう男
「べネットは軍人時代は優秀な奴だたったそうだ剣と銃の腕は一流、本人が戦争で傷ついた兵を救いたいと希望し医療班に所属、そこでも助からないと言われた兵を助けたりとかなり人望もあり優秀な奴だったそうだ」
ほぉ~腕も立って、人も救えて人望もあってか、エリートって感じか
「だが重度のPTSDになっちまったらしい、べネットは精神を壊し軍を去った、そこからは荒れた人生だったらしいぞ」
PTSDか、確か精神的に大きなショックを受けるとなる心の病だったか…エリートが転落とは絵に描いたような展開だな
「荒んだ生活を送っていたべネットは一人の女と出会って環境が逆転したべネットは女に似合うべく真面目に生きその姿に女も惚れたようでやがて二人は結婚し子供を授かる」
………
「まぁ察しの通りそれがコルティだ、まぁここからは前に伝えた通りだべネットは妻に逃げられた奴が今どういう心の状態かは分からんが」
「あまり良いとはいえないか…」
思わず口を挟んでしまった。
この話はこれ以上聞くのが辛いな
暫しの沈黙の後に青い粒子の泣き笑いの仮面が言葉を続ける
「まぁべネットに関してはこんなもんだ問題はノーマン・デリ・マイオの方だな」
「ノーマン?あ~あの好好爺になんか問題でもあるのか?」
脳裏に描かれるのは腰が曲がり人の良さそうな笑みの爺さんの姿
「この情報に関してはかなり手こずったぞ、料金を倍とってもいいくらいだ危ない橋の一つや二つ渡った俺をまず誉めろ!」
「お~スゴいスゴい流石アテンナ一の情報屋だぁ~、で何があったの?」
嵐の様な称賛だったがヤザイラは気に入らないらしく舌打ちを一つした後に「クソガキが」と呟いた
「まずノーマン・デリ・マイオだが」
声は随分と不服そうだ
「奴はとんでもない天才だ」
天才?前の説明の時は凡庸だったと聞いたはずだけど
「この情報を掴むのに時間がかかった尻尾を掴みそになる度に情報がするりと逃げちまうこんなことは始めてだっだぞ」
「まぁ、そこはどうでもいいとして爺さんのどこら辺が天才なんだ?」
苦労話は聞く気がないのでスルーして本題を聞くとヤザイラはさらに不服ですけどと言った調子で話しだす
「全てがだよ」
「全て?」
「あぁ、全てにおいてノーマン・デリ・マイオは天才だ」
あの人の良さそうな爺さんが天才?あまりも天才という言葉と爺さんの笑顔が掛け離れていたので結び付かない、どゆこと?
「まず、子供の頃のノーマンは神童、悪魔の頭脳等と呼ばれていてだな天才という言葉が安く思える程の頭脳の持ち主という事が分かったぞ具体例だと
6歳のとき、電話帳を使い8桁の割り算を暗算で計算することができたり
8歳の時には『微積分法』をマスター12歳の頃には『関数論』を読破。
ちなみに『関数論』は、大学の理工系の学生が1、2年次に学ぶ数学で、
高校時代に数学が得意で鳴らした学生でも、完全に理解できる者は少ない。
数学者が3ヶ月の苦心惨憺の末、ついに解いた問題をノーマンは脳内だけで一瞬で解いたり、同じく12歳の時に魔法における発動の基礎理論という論文を発表して大きな話題になった程だ。
因みにこの論文は現代魔法の基礎と呼ばれているほど今の魔法にはなくてはならない考え方だ」
最早訳が分からん……
「それだけに留まらずノーマンは芸術方面や政治方面にも飛び抜けた素質があったそうだ」
「……なるほど、でもそんな天才ノーマン爺さんは何で今は凡庸になっちまったんだ?前の調査でハッキリと凡庸だって言ってた気がするが」
「それはだな、ある時を境に正確には13歳を境にノーマンは考えられなくなった。思考できなくなったと言えばいいのか……これまでの天才的な発想も閃きも一切鳴りを潜めて年相応の頭脳になったと言われている」
「それは何かの病気とか?」
「いや、原因は不明だがそこは何をどう調べても明確な情報は無かった。
話を戻すぞ、13歳という年相応の頭脳に戻ったノーマンは相応の学校、大学に通い卒業。
卒業後はデリ・マイオ家を継ぐが才覚は現れず後は前の情報と同じく凡庸と呼ばれたノーマンはデリ・マイオ家を衰退させる」
ヤザイラは続ける
「だがノーマンが天才という情報を掴もうとすると何故か邪魔が入る基礎魔法の論文でさえ最初はノーマンの名前が出ずに違う人物の名前が出た位だビリー・アルトという名前だが
どこをどう調べてもビリー・アルト・何て言う人間は存在しない。
アテンナの街の人間もノーマンが天才だったという事を最初から無かったかのように忘れているのも気になる。
これはあくまで俺の推理だがノーマンが天才だと困る人物がいて、そいつがアテンナの街全体にノーマンは凡庸という認識阻害の魔法をかけているのかも知れない」
俺が考える暇を与えずヤザイラは矢継ぎ早に喋りだす
「後気になるのはべネットの祖父、ノーマンの父でもあるシロン・デリ・マイオの事は覚えているか?」
「んっ?あぁ今際の際の言葉が【デリ・マイオ家は貴族たれ】って言った人だろ?」
「あぁ子供の教育には相当厳しかったみたいでな小さい頃のノーマンは虐待をよくされていたなんて噂も聞いた」
「………」
「身寄りのない孤児の子供達の教育にも積極的だったが一つキナ臭い話題があってな勉強会と表して月に一度大勢の孤児やら難民の子供がデリ・マイオ家で勉学を学ぶ会があったんだがその翌日に参加したうちの何人かの男の子が消えるという事があったらしい。
世間では所詮孤児や、難民の身元の知れない子供だからと、たいした噂にはならなかったが、勉強会の翌日には消える事から当時の警察なんかはシロン・デリ・マイオを疑っていたらしいが。
これといった証拠も見つからずシロン自信も容疑を否認していることから事件事態はそのまま流れていったらしい」
確かに神隠しにしては随分とキナ臭いな
「以上がデリ・マイオ家について分かった事だ。
もうこれ以上の情報無いと思ってもらって構わないぞ」
「別件の内臓キラー関連の件だが、ビッテルに関してはこれといって特に情報は無いな、生まれや生い立ちなんかも調べたが特に変わった所は無し、ずっとマークしているHLAは今までの共通通り同じタイプだな」
「共通?」
「あぁ、これで内臓キラーは同じHLAの奴のみ殺害しているって事」
「…………」
同じ?
「どうしたテトラ?何か気になることでもあったか?」
「ん?あぁちょっと考え事してたわ流石アテンナ一の情報屋だわ!」
「まぁざっとこんなもんか。
言っとくが今回は料金倍もらうぞ!デリ・マイオ家の情報は高い秘密保護に守られていてこっちは相当危ない橋を渡った――ん?」
ヤザイラが急に押し黙り何かを確認するかのよにキーボードを叩くタイピング音が体内通信越しに聞こえる。
「たった今入った情報だが」
ヤザイラは逡巡しながらも言葉を続ける
「西地区のマリオン通りの飲み屋街で俺が内臓キラーだと言っている奴がいるそうだが…」
「ふ~ん、あっそ」
「まぁこの情報は無料でいいがデリ・マイオ家に関しては倍貰うからな」
その言葉を最後に体内通信が切れる胸の高さにあった泣き笑いの仮面が青い粒子になって消えていく。
「西地区ね」
一週間前に闇市で買った真っ赤な大型スクーターに股がりエンジンを掛ける
ヘルメットを被り右手のアクセルを全快に回してトップスピードで西地区に向かう
とりあえず今は目の前の事から片付けますか




