無花果の回ー9
攻性ギルド課のパソコンで巷でホットな、連続猟奇殺人事件について調べる。
ふむふむ。
先月の終わりにアテンナ工業街の一区画で、人通りの少ない廃ビルにて死体が発見される。
第一発見者は廃ビルをたまり場としているアテンナ第三工業高校の生徒達。
死体は足が切断され、腹を裂かれ内臓が全て摘出された状態で床に転がっていたとの事。
被害者は20代営業職の女性、発見された際、被害者の顔は穏やかな表情していることから、薬か魔法で眠らされた後に殺されたのでは無いかと予想される。
次に似たような事件が起きたのは10日後、二度目は商業地区のゴミ箱の中で遺体が発見された。
エルフの女性、先の事件同様足が切断され、内臓が全て摘出されていた。
手を縛られた状態でゴミ袋の中に押し込まれていたとの事。
三度目は13日後に女子高校生の被害者が同じ方法で殺害され
四度目は20日後、5日前に会社員の30代の女性で同じように足と内蔵無い遺体が発見された。
「昨日で5件目の発見か」
40代の男性の遺体が人通りの少ない裏路地にて発見
同じように足と内蔵が無い状態の男は苦悶の表情を浮かべていたとの事。
詳細は現在調査中との事。
これは俺が思ってる以上にやべぇ事件だな。
ガチガチのサイコパスやん、関わらない方が良さそうだな。
「テトラはその事件に関わるのかい?」
「気になって調べてただけですよ」
後ろから声が聞こえたので振り返るとコウ君が眉根を寄せ厳しい顔をしている。
何故コウ君はこんなにも俺に絡んでくるんだ。
「そうか、ならいいが攻性ギルドと言っても馴れるまでは簡単な仕事の方が良いと思うよ。行方不明の犬や猫の捜索や害虫駆除なんかオススメだぞ小さいことからコツコツとだ!」
出た!満面の爽やかスマイル!
もうそれは見飽きたので大丈夫です。
それに犬猫の捜索とか見つけて報酬5000エーンとかやん!安いやん。見つからなきゃ金にならないし。
そんなんやってられへんやん。
「それに……」
一瞬の戸惑いを見せるコウ君、顎先に手を添え、斜め下を向いて何かを考え出す。
これは言おうかどうか迷ってる表情だな、日本で養われた15年間のアルバイターとしての感がそう告げている。
「犯人はそれなりに剣術を学んでいる者の犯行らしいからね、切り口からみても一般人では無いことは明らかだそうだよ。殺害に迷いがない、何らかの訓練を受けている筈だ」
俺も顎先に手を添え、それとなくポーズをとる。
この世界は剣と魔法が存在しそれが常識の世界。
日本の感覚でいると常識が非常識に飲み込まれる世界
その道のプロが頭おかしくなって人を殺しても普通のパンピーには止められないって事でもあるもんな
「犯人は何かの目的の為に犯行を繰り返しているように感じるな、内臓を抉りだし、足を切る行為には釈然としない者を感じる、只の快楽殺人犯はこんな手の込んだ事はしない。
計算された殺人犯はやっかいだ、目的を果たす為なら、なりふり構わないから」
「なるほど」
コウ君は恋愛バカだと思ったら色々考えてるのね。
「まぁ俺も夜道には気を付けますよ」
コウ君が心配顔を此方に向けてくる。
攻性ギルド課を出て。
携帯を見る、電話帳の二件目にはコウ・オリゼの名前、半ば強引に番号交換。
コウ君はグイグイくるなぁ~。
そういやと思いだし電話帳一件目に電話を掛ける。
五度目のコール後に
「何だい?昨日の今日でババアの声でも聞きたくなったかい?」
「黙れババアころすぞ」
本気でイラッとしてしまった。
「お~怖い怖い」とバカにしてる感満載の返事が帰ってくる。
とりあえず無視で
「昨日新たに発見された連続猟奇殺人事件の事だけどなんか知ってる?」
情報屋なんだから何か知っているだろうと期待を込め、
電話をしたロリータばあさんは一瞬の沈黙があった。
「なんだい偉く物騒な事件に首を突っ込むんだね」
電話口からでもババアのニヤリとした笑いが見えてくる。
「内臓キラーって呼ばれてるようだよ犯人は。その事件に関しちゃ私より詳しい奴がいるから、そいつに聞くといいよ。メールで住所を教えるから詳しく聞いといで」
「詳しい奴ってだれだよババ──」
「ツーツーツー」
なんて一方的な電話の切り方だ。
だがここは大人しく従うのが吉だろうな。
アテンナの東側は危険地帯と言われる場所
犯罪者、荒くれ者、仕事を無くした攻性ギルド、闇組織、マフィアやらが蔓延る場所。
基本的には一般人は立ち寄らないらしい。
その中心よりやや外れにある場所にある、ジャック診療所がババアが教えてくれた場所だ。
まず辿り着くのにメッサ時間がかかった。
電車やバスを乗り継いで2時間掛かってしまった。
さらにジャック診療所を見付けるのにもメッサ時間がかかった。
一時間程うろうろした後にようやく発見。
東側に入った瞬間に怖そうなお兄さんにメッサ絡まれたけど
その都度全力ダッシュで逃げ切る。
前途多難だな。
にしてもジャック診療所って。
続く名前がブラックだったらどうしよ?
やっぱつっこんた方がいいのかな?
なんやかんやで到着したのはいんだけど。
ビルの一階にド派手な看板で
【ジャック診療所】と書いてある。
だせぇ~
意を決して中に入る。
町の診療所のようにこじんまりとした空間だが中には誰もいない。
くすんだ壁紙がより不安を大きくする。
こわい
どうしよ、やっぱ帰ろうかな。
などと迷っていると奥の扉が開き
「君がロリータさんの紹介で来た攻性ギルドの人かい?」
と全く場にそぐわない明るい声が室内に響く。
出てきた人物はこれまた全く場にそぐわない子供。
どう見ても俺より年下の男の子、幼い顔立ちに身長130㎝程度、浅黒い肌に妙に白い歯が光っている。
「そ、うです。ロリータから言われてここに来たんですけど、えっと」
誰?この小僧?どうすればいいの俺?
「私がジャック診療所の代表ジャックです、よろしく」
あ、代表の方ですか。でも只の子供にしか見えないけど。
「君は思ってることが顔にしっかりと出るタイプだね。こんな見た目だけど年齢は56歳、君の倍は生きてるはずだよ。内蔵キラーの話だよね?
隣の部屋で話そうか」
「………うっす」
まぁ異世界だから有りなのか。
見た目は子供、中身はオッサンのジャック先生に案内され、隣の診察部屋に移動。
椅子を進めてきたのでジャック先生の対面に座る。
どうしよ、色々聞きたいけど深く踏み込んでいいのかな?
とりあえず無難に見た目若いっすね。かな?
うん、そうしよう。人見知りスキルを発動してる場合じゃない。
「先生、見た目若いっ──」
「とりあえずこの資料を見てください」
よし、大丈夫だ俺、言葉が被っただけだ無視された訳じゃあない。
支えろ俺の精神力
「うっす、拝見します!」
資料の写真に顔が歪む、グロいな。
渡された資料には今まで内蔵キラーに殺害にされた人達の写真がズラリ。
どの遺体も産まれたままの姿だがそれよりも目につくのは胸部から鳩尾まで大きく広げられた、穴。
助骨弓に沿うように皮膚、皮下脂肪、筋肉が観音開きのように開かれ内側が丸見えの状態。
裂け目は丹田で止まっているが本来あるべき臓器がそこには無い。
あるのは背骨背中側の筋肉や皮下脂肪のみ、空気の無い風船のように腹部が萎れている。
だかこれは風船ではなく人間のお腹。
腹を裂かれ内臓を取り出された状態で虚ろな目をしている。
足は太腿辺りから真っ直ぐ伐られ。
赤黒い血と桃色の筋肉の断片を見せている。
異常だな。これが俺の率直な感想だ。
どの写真も同じような状態。
殺された4人はヒトとは思えない狂気の殺され方をしている。
「この写真を見てどう思います」
ジャック先生の問いに素直に答える。
「異常っすね。頭沸いてますはこりゃ!」
「いや、そうじゃなくて」
ん?俺間違えたの?
「この写真というか、遺体を見てどう思いましたか?」
「えっと。犯人はサイコパスかなと」
「美しいでしょ?」
ん?今何て言った?
「美しいと思いませんか?一種の芸術のように」
あっ…この医者
「医者の私から見ても、とても綺麗に内臓摘出が行われている。この遺体は初めから内臓という器官が無いかのような状態です。
非常に美しい、摘出された内臓がどのような保存方法なのかが気になるところですな」
「……うっす」
帰ろう、熱いシャワーを浴びて今日は寝よう。
「周りの筋肉や脂肪に傷が見当たらない非常に丁寧な仕事だ、間違いなく医療に携わった者の犯行でしょう。それに太腿の断面も丁寧。抉られた痕も無い、刃物の扱いをよくわかっている。
この朦朧とした表情は危険薬物の一種、MeO-DMT5が使われたのでしょう。
被害者達は苦しまずに亡くなられたはずだよ、それが唯一の救いかな。
この事から犯人は、被害者に敬意のような、何かの感情を持って接しているように思うんだ」
急に解説し始めた、しかも真面目に。
ジャック先生のプロファイリングだと、医療詳しくて刃物を扱い慣れてる人間との事。
「まぁ犯人探しはするつもりはありませんけどね。私は純粋に死体に興味があるので
五人目の異体はまだ拝見してませんが初めての男性らしいですよ」
白い歯を輝かせ少年オッサンの全然爽やかじゃないスマイル。
ここでふと疑問に思った。
この書類って絶対重要書類だよね、警察とかしか見れない書類だよね。
いくら医者だからって、そうそう見ることができないと思うんだが……
何でこの人こんな大事な書類持ってるの?
なんでこの人こんなに詳しいの?
こんなボロい、しかも治安が悪い地域の医者が。
「君は本当に内心が顔にでるね。一度内臓を見てみたいな、とても綺麗で素直そうだか」
「やっ、遠慮しときます、大丈夫です。さりげなく腹を触るのやめてください。今すぐ手をどけて下さい。ちょっ、マジでやめて、離せ殺すぞコラァ!!」
サイコパスジャックは残念そうに手を引っ込め、今度は俺の顔をじっと見てきた。
「いやぁ、ロリータさんの言ってた通り面白い子だなぁ。まぁ私の死体愛好家の仲間が軍と警察、それから、騎士団に何人か居てね。
そこからこういった資料を横流しして貰えるんだよ」
あっ、今サラッととんでもない発言しやがった!
「だから私が考えたような事は当然警察も考えているはずだよ。犯人を捕まえたいなら急いだ方がいいね。私が知ってるのはこれくらいかな」
「うっす、ありがとうございました」
席を立ち出口に向かう、最初からずっと気になってた事を聞いてみよか。
「先生って医者なんだよね?」
「……」
何の沈黙だよ!
「医者だよ、免許は剥奪されちゃったけどね」
テヘッと舌を出して可愛らしく笑っても一切可愛くないぞ、ロリータのババアといいこの少年オッサンといい、この街の癖の強い人間はどうにも人を苛立たせる能力が高いな。
「なんで見た目そんな若いんすか?」
「まぁ、色々とね」
「……うっす」




