無花果の回ー7
「デカっ!」
オッサンを引きずりながら歩くこと20分
広い敷地のど真ん中に攻性ギルド課はあった。
2階建てだが横に広く城塞のような雰囲気、外壁がレンガ調の為か時代を感じるな。
とりあえずオッサンを引き渡してさっさと宿にでも行こう!
いやにデカイ正面入り口から突入。自動ドアが開くと
中の全容が見えてきた。
目の前は待ち合い室スペース多種多様な種族の男女の一団が笑いあったり、怒鳴りあったり、深刻な顔で相談したりと。
様々な人間模様を描いている。
エルフ、色んな獣耳、見た目明らかに獣の人、無駄に身体デケー奴に、無駄に身体が小さい奴等
まぁ無駄ではないか。
これまた様々な種類の人間達がいる
あっ、人間だけじゃなく亜人とかもいるから人間模様って言葉は正しいのかな?
どうでもいいや。
奥にはえらく長いカウンターに受け付け嬢の的な服装の美人のお姉さん、可愛らしい女の子が等間隔で並び電話対応や書類仕事、攻性ギルドの人達と話したり忙しく動き回っている。
右側のスペースにはパソコンが20台程並び腰に剣、背中に槍、斧を装備している集団が必死にパソコンとにらめっこしている。
中には三人でパソコンを除き混む奴等も、せまくね。
パーティーメンバーも様々な種類の人間達がいる
見た目蜥蜴、人間×3、エルフ、獣耳男のパーティー、
巨漢の男×2、ホビット、ドワーフのパーティー
見た目狼、見た目猫、獣耳女、人間のパーティー。色々だな。
左側には巨大なモニターが設置され、今日のニュースや更新された賞金首のリスト、オススメ依頼等が写し出されている。
ん~誰に泥棒オッサンを渡せばいいんだろ?
取り敢えず目の前の受付のお姉さんに聞いてみよう。
出入口付近で前から歩いてきた巨漢の男とすれ違う。
「チッ」っと明らかに舌打ちされ不躾な視線を貰ってしまった。
えっ?何故?俺何もしてないけど。
2メートル以上ある巨漢の後ろ姿を眺める。なんか俺不味いことでもしたかなぁ。
「邪魔だガキ!」とまたまた乱暴な言葉のプレゼントを受けちまった。
声の主を見ると。
全身赤色の肌に見た目が完全な蜥蜴が鋭い目で睨らんでくる。
身体を纏っている鎧の傷が以下にも俺強いっすよアピールをしているようだ。
「出入口を塞ぐな」
あっ!なるほど確かに出入口の真ん中に突っ立ってたら邪魔だよね。
「さーせん」
と平謝りしオッサンを引きずりながら受付に行く。
なんだか色んな場所から視線を感じるが日本にいた時に鍛えられた他人の目を無視スキルを発動!
とりあえずは受付のお姉さんに話しかける。
「あの、すいません」
「はい、何の御用でしょうか?」
犬や猫よりも気持ち大きめの獣耳が可愛らしく動く。
………良い!
この獣耳だけでも異世界に来た甲斐がある。
顔を上げた獣耳受付嬢は、獣耳動揺に可愛らしい見た目で大きい目を薄く半月にし、どんな男でも一ころの笑顔が向けられた。
俺の心は一瞬で鷲掴の笑顔だ。
やはり時代は獣人だな、エルフはダメだ!大体彼氏がいるからダメだ!
「どうかなされましたか?」
「えっと、えっと。この人が賞金首らしいので届けに来たんですけど、何処に行けばいいか分からなくて」
お姉さんの素敵スマイルの効果か妙にテンパってしまった。
「賞金首ですね此方で大丈夫ですよ。少々お待ち下さい」
獣耳お姉さんは電話で何処かへ連絡
直ぐに紺色の軍服を着た男二人が来て泥棒オッサンを何処かへと連れ去って行く。
「では身元確認の為ギルドカードの提出をお願いします」
「ん?」
「ん」
「ギルドカードですか?」
「はい、手続きに必要になりますので」
「すいません持ってないです」
「えっ?」
「えっ」
そんなドリフなやり取り後にギルドカードを作成する。
名前の欄には手嶋虎雄とは書けなかった、
ガチガチの日本名だから何処で情報が漏れるかも分かんないし。
ロリータばあさんが言ってた女の子みたい連れ去られたくないしね。
なので幼き頃のあだ名テトラにしておく。
「では今お使いの携帯端末をお借りします。ギルドカードの情報を送るので確認お願い致します」
「分かりました」
携帯を渡した後数分で返却される。
確認の為携帯を起動し画面内に新しくギルドと書かれたアイコンをクリック
立体光学映像が起動。
A5サイズのプレートが青い粒子によって表れる。
━━━━━━━━━━━━━
テトラ:1階級
職業:未設定
能力:未設定
━━━━━━━━━━━━━
と表示されている。
「技能検定は二階に窓口があるので必ず受けるようお願いします」
技能検定?何かめんどくさそうだな。
「技能検定を受けることで何の分野が得意かが判明しそこから自分自身どう戦えば優位に戦闘できるかが分かります。
なので必ず技能検定を受けて下さいね」
あれ?明らかにめんどくさがってたのがバレたかな。可愛らしいお姉さんの言うことは素直に従っておこう。
「分かりました」
獣耳お姉さんは俺の返事を聞くとニコリと眩しい笑顔をした後に賞金の説明をし始める。
「今回の賞金首ゾッツの報酬額は20万エーンになります」
賞金首のわりに安いなと思ったが、ゾッツに殺された家族からの個人依頼なので妥当な値段との事。
それを聞いたら安いなと思った自分の浅ましさに反省。
国からの賞金首だと桁が違うらしいがそんな危険な奴と戦う気は無いのでどうでもいい。
金を受け取り、近くのホテルの場所を聞き帰ろうとした時に
「技能検定受けて下さいね」
と念を押されてしまった。
そんなにサボるように見えたのか?まぁ実際気が向いたら受けようと思ってたから当たらずとも遠からず。
軽く会釈をして攻性ギルド課を後にする。
ーーーーー
アテンナの西地区の片隅にあるマリオン通り。
通称:歓楽通りと呼ばれる通りは。
娼館、賭博所、場末の酒場が軒を連ね、裏通りには六畳程の一軒家がビッシリと隙間なく並び立ちんぼをする様々な種族の女性が通りを埋め尽くしている。
アテンナの歓楽街は今日も今日とて観光客やら常連で賑わい騒音は夜の闇に吸いとられていく。
マリオン通りの外れに一人の男が管を巻きながらおぼつかない足取りで歩いている。
「どいつもこいつも…クソっ!」
男の名前はビッテル・ソロウ
給料日にはいつもの風俗店に行き、いつもの居酒屋に行き。
フラフラになるまで酒を呑んで家に帰るのが一連の流れになっているが今日に限っては全く上手く事が運ばなかった。
いつもの風俗店には空きがないとの理由で入店を断られ、仕方なく隣の店に行くとまた空きがないと断られる。
時間を潰してから行こうと思い近場の酒場に入り酒を呑んでいると。
会社からメールが届く。
車両工場で日雇いとして働くビッテルはいつ首を切られてもおかしくない状態。
恐る恐るメールを開くと、どうやらミスをしてしまったらしく次は無いとの告知メール
内心で安心した後にふざけんじゃねぇよと毒づくが次は無いの文面に脅え自分自身の小心さに嫌気がさす。
ビッテルは四角い顔を赤く染めながら酒場を飛び出す。
立ちんぼの獣人の女を抱くが【次は無い】の言葉が頭を過り、行為の途中でガックリと肩を落とし座り込む。
獣人の女に甘えてみるが
「やらないなら金置いてさっさと出てってくれる」
と冷たくあしらわれる。
いっそ仕事を辞めてしまえばと考えるがそれは出来ない。
離婚した娘の養育費や妻への慰謝料。何より寝たきりの親の世話がある為どうしても金がいる。
考えると不安になり、自分でもどうしていいか分からない気持ちになる、酒を呑んで紛らわす。
「クソっ!なんで俺がこんな目に…」
店から出た後そう呟くが言葉は闇へと落ちる。
どこで人生を間違えたのか…
ビッテルは誰も通らない路地裏の通りに腰を下ろし考える。
「なんなんだよっ」
何故自分がこんな路地裏で座り込み憤りを感じなければいけないのか。
何故自分だけがこんな辛い目に合わなければいけないのか。
全てが腹立たしい。
「分かってんだよ」
弱々しく言葉を落とす。酒を飲み過ぎたせたか情緒不安定になってしまう。
だがビッテルはこんな状況に陥ったのが自身が蒔いた種だということを充分に理解している。
面白くないからと親の言い付けを破り高校を中退、
定職に就かず仕事を転々とする日々、貯金もせずダラダラと遊び呆け気づけば三十歳手前。
周りの結婚に焦り付き合っていた女と結婚、自分にも子供ができたので変わると思ったが。
酒とギャンブルに溺れ、小言を言う嫁と子供に暴力、
愛想を尽かされ嫁と子供は家を出る始末。
ますます酒に溺れ仕事も無断欠勤が続き当然のようにクビになる、
ダラダラと怠惰に生きていると親が病気で倒れビッテルが養うことに、
だが手に職も持たず40代前半の男には良い職などあるわけもなく日雇いの仕事につくのが関の山。
「どうしようもねぇな」
自分の人生を客観的に捉えると録でもないことが分かっている。
こんな状況も全部自分のせいだということも。
…………
立ち上がり深呼吸をする
「変わらねぇと…」
ビッテルは思ったこのままじゃダメだと今からでも間に合う
真面目に生きようと。
このメールが良い機会だ、真面目に仕事しよう。
別れた女房に頭を下げてよりを戻して欲しいと言おう。
勝手かもしれないが誠心誠意謝ろう。
酒もタバコも風俗も止めよう。
真っ当に生きないとダメだ。
決意新たに一歩踏み出すと。
後ろから来た何者かに身体ごとぶつかられ前方につんのめるが何とか立ち止まる。
「すいません」
これまでのビッテルなら怒鳴り
「慰謝料を寄越せ!」だなんだと叫んでいたが、これが第一歩だと自身へ言い聞かせる。
(こんか狭い路地裏だ、ぶつかるのもしょうがないだから怒る筋合いもない)
「いえ、大丈夫で……」
突然身体の力が抜け膝が落ちる。
立っていられず地面に手を突く
頭の中でパニックになっていると背中の右側に痛みと熱。
右手を回しその箇所を触るとぬちゃりと嫌な擬音が聞こえてきそうな感触。
右手が黒々と濡れている。
鼻孔につく古くさい鉄の匂い、これは明らかに血、それも自分の血。
この間にも満水のグラスに異物を突っ込んだようにビッテルの身体からは血が流れ続ける。
「なっ!」
顔を上げた瞬間に右目に激痛、
絶叫、痛み、恐怖、混乱
唯一分かったのはぶつかってきた相手の手にナイフが握られていたこと
ナイフが自分の血で赤黒く染まり
刃先から雫を垂らしている事。
右目、背中からはダラダラと血が流れる縦に刺された傷口は桃色の肉を覗かせる、片目に至っては眼球が二つに裂かれ血や眼房水等が液となって滴り落ちる。
ビッテルは痛みと恐怖と混乱に陥りながらも護身用ナイフを胸元から引き出す。
このままでは確実に殺されると思ったからだ。
立ち上がろうとするが上手く立てない、ゆっくりと何かが近づいてくる音。
逃げようと身体を強引に動かそうとした次の瞬間ビッテルの視界は闇にのまれる
アテンナの夜はうっすらと闇の色を濃くし一日の終わりを告げる。




