無花果の回
「バンターが死んだか…」
自身の顎髭を撫でながら呟き記憶にあるバンターの情報を思い出す。
狡猾と言う言葉がピタリと当てはまる亜人だったと思い出す。自身の勝利の為ならなりふり構わずといった印象だった………はず。
執務室の一室ただ広い室内の中には豪奢な机と椅子。
腰掛ける男は高級スーツを見に包みリラックスしながらも癖である自身の顎髭に手をやり思案する。
年齢は40代後半、歴戦の勇者を思わせる顔付きに鋭い眼光スーツの上からでも分かるほど鍛えられた胸骨下骨筋、大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、全鋸筋等が膨れ上がっている。
書類が山のように積まれた机を見た後に入り口上の国旗を一瞥
黄土色の国旗の真ん中には蒼い鳥が翼をはためかせ此方を睨んでいるようにも見える、 蒼い鳥を覆うように蒼の炎がまるで見るもの全てを焼きつくさんと言わんばかりに存在を主張する。
「バンターが死んだのがどうかしたのか?」
男はバンター死後の報告をしに来た部下に質問をする。
金属同士が擦れる音が室内に響く騎士甲冑を身に纏った部下は端整な顔立、長髪をかきなでつつ手元の資料を眺めた後発言する。
「はい、バンターは奴隷商を仕事としておりました。亜人奴隷は我が国も定期的も購入しておりその煽りは少なからずあるかと思い報告した次第です」
(なるほど経済に少なからず影響があるか…現状に置いてバンターが死んだのは然程重要ではないと思うが。
いや奴隷か…バンターが定期的に亜人の奴隷を流していたのは聞いていたが、奴隷商のバランスが崩れる…か。この国でも奴隷商を生業にしている者に関しては注意した方がいいか。奴隷商が下手な事をしないとはおもうが)
「この件上はしっているか?」
「いえ、まだです」
「ふむ、下手に騒がれるのも厄介だなこの件はここで止めておけ。」
「かしこまりました」
「貴族や王族達の相手を一々しては身がもたんからな」
男は鼻から盛大に空気を吸い込み一拍置くと吸い込んだ以上の盛大さで鼻息を吐き出す。
本来なら小さな案件でも経済が動くのなら何らかの処置をとらなければいけないのだか……
部下達と自らの立場を考える。
只でさえ忙しい身の上だ、亜人や異形の者、賊といった武力で解決する問題に王族や貴族から差し出される依頼や腹の探りあいが行われる国家議会等々。
自身の騎士団への負担を少しでも減らそうと男は思う。
三都市同盟国レペッツェリオン騎士団長兼レペッツェリオン王国顧問という立場を思うと
男にしてみればこれ以余計な問題は増やさないで欲しいと願うばかり。
「アグニカ国とレテルスオード龍王国にはこの件は如何いたしました?」
「ふっ」
男は不意に笑みが出る
「レテスルオード皇国にはあの枢機卿がいる既にこの件は知っているだろう。何しろあの方には噂の方が歩み寄るからな、アグニカ国は放っておけ。」
レテスルオード龍王国の枢機卿を思いだし。この件で何かを仕掛けてくるかとも思ったが一瞬にして考えを改めた。こんな小さい事であの方は動くまい、と。
「他はないか?」
「はい」
「そうか」
「では失礼します」
部下の男は一礼し部屋から出ようとするが
「アルトス」
名前を呼ばれた部下の男は振り返る。
「この仕事には馴れたか?」
急な話題転換に部下の男アルトスは少々面を食らう。
「まぁ、それなりに。今はシウガ様と共に仕事を出来ることが何よりの誇りです」
「ふむ、相変わらず堅いな。少しは肩の力を抜いてみたらどうだ?」
男は部下のアルトスの真面目さに多少の不安を覚える。
20代前半の顔立ちの整った所謂美青年のアルトスは貴族の士官学校を卒業後に本人たっての希望で自分の下に配属された。
淡々と職務をこなすが人付き合いは下手な方だ。派手な遊びもしないと聞く、一度戦争に連れていけば何かが変わると思ったがいつも通り淡々と敵兵士を組伏せてた。
できる男故に一度躓くと脆い。
アルトスのようなタイプは自身とは真逆の自由奔放な奴を相手にした時が問題だな…とまた髭に手を当てながら考えに耽る。
「シウガ様?」
「ん?あぁすまんとにかく報告ご苦労」
確実な情報ではない為報告を迷ったが言わないよりはと思い報告を続ける
「シウガ様バンターが死んだのはウーゴ大森林だと言われています。」
「ウーゴ大森林?あそこには穏健亜人しかいないと思ったが?」
「はい。私もその様に認識しております」
「バンターは将軍と呼ばれていた筈だが。ウーゴ大森林の穏健亜人が殺せるとは思えんな」
穏健亜人が新たな勢力を作るような事はない、そもそも荒事事態に興味が無いはずだが。バンターを倒すような強者があの森にいたのか…
自分達の種族が奴隷になるのが耐えられなかったが故にバンターを殺したという仮定は辻褄があうが…
では一体誰がバンターを殺した?
ウーゴ大森林には森の加護があるから穏健亜人以外は森に入れない筈だが…
「気にはなるな…」
「はい。確かな証拠はありませんがバンターはウーゴ大森林で死んだようです。確実では無い情報ですので報告を迷いましたが」
「なるほど、情報の筋は?」
「壁龍の影からです」
「そうか…」
壁龍の影はレペッツェリオンの隠密部隊その情報は常に間違いない筈だが。
「どこか動くやもしれんな。バンターの件は少し探りをいれてみてくれ」
「かしこまりました、では失礼します」
顎髭に手をやりながら盛大に鼻息を吐き出す。
「手間にならなければいいがな…」
その声は室内に消えていく。
最後までお読み頂きありがとうございます(__)




