“マナ結晶”
南極大陸の昭和基地で歓迎された私達だけど、フェルとクレアも氷の大地に満足したみたいだし夜には月の居留地へ戻ることにした。本当はもう少し交流したかったんだけど、スペースが限られているし貴重な物資を使いすぎちゃ大変だ。
ただでさえ皆さん過酷な環境で頑張ってるんだから、邪魔はしたくない。それを言うなら最初から行くなって言われそうだけどさ。
ただ、折角歓迎してくれたんだからお返しをするのが礼儀だ。少しでも皆さんのお役に立てる何かをあげたい。
先ずは緊急時に使えるように、“医療シート”百枚を進呈した。
最初は資金繰りに苦労してたのに、女王陛下によって正式に交流を認可されてからとんでもない量の“医療シート”や“トランク”が準備されるようになったんだよね。
まあ、地球の食べ物が持ち帰った瞬間溶けるように売れちゃうのもあるけど。
その結果、私個人の資産がとんでもない事になっちゃって、取り敢えずお母さんに丸投げした。地球で例えたら、お城が建てられるくらいの資産なんだよ。前世から小市民な私にとって、そんな大金を管理するのは怖いし。
話を戻して、既に“トランク”は三つの基地で保管されているらしい。だからこれ以上渡されても困るだろうから、どうしたものか。折角なら、調査に役立つものが……あっ、そうだ!
「フェル、母艦とここを往復することになるけど大丈夫かな?」
「問題はありませんよ?ちょっと疲れるだけですから」
これは……無理をしてる笑顔じゃないな。月面と地球を往復してちょっと疲れる程度。親友の変わらないチートっぷりに今回は感謝だ。
椎崎隊長さんに断りを入れて、その場でフェルと一緒に月面へ転移した。クレアは皆さんとお酒を飲んでいたから、任せた。
飲みすぎないように……無理か。取り敢えず追加のお酒を美月さんに手配して貰おう。極地じゃお酒も数少ない娯楽の一つだろうし。
居留地へ戻った私達は、急いで目的の物を用意して直ぐに昭和基地へ転移した。時間にして三十分くらいで、皆さん驚いていたな。
「歓迎してくれたお礼として、“医療シート”とは別に此方を皆さんへプレゼントさせてください」
私達が差し出したのは、三センチくらいの菱形の赤い石が嵌め込まれた質素なペンダントだ。
「ティナさん、これはアードの首飾りですか?」
「綺麗……」
あっ、女性の皆さんは興味津々だね。まあ、石としても綺麗な赤い宝石に見えるからなぁ。微妙に光ってるし。
でも、これはただのペンダントじゃない。
「装飾品ではありませんよ。この赤い石は、火の魔法を閉じ込めた“マナ結晶”です。
まあつまり、マナ……魔法の源が結晶化した石なんです。着けてみてください」
「分かりました。では早速……これは……身体が暖まる不思議な感覚だ」
「わっ!暖かい!」
「身体がポカポカする!」
「足先の冷たさがなくなった!」
「これは良いな!」
皆さん次々とペンダントを着けて喜んでくれた。良かった。
「これは身に着けると、身体を適度な温度に保つ効果があります。これを着けたら、例えば裸で外へ出ても平気ですよ?」
まあ、ジャッキーさんじゃないんだからそんなことをする人は居ないと信じたい。
「それは凄いな!」
副次的な効果として冷え性の改善にもなるって聞いたけど、間違いはなさそうだね。
今回は交易品とは別に、ある程度の“マナ結晶”を持ち込んだんだ。
込められた属性に対応する効果を発揮する力がある。
アードじゃ“マナ結晶”は生活必需品。家具なんかにも利用されている。
今回プレゼントしたのは、“マナ結晶”に火の魔法を込めて、ペンダントにしたものだ。
魔法を使えない地球人でも魔法の恩恵を受けられるし、悪用するのも難しい……いや、無理だ。
着けた人の身体に合わせた快適な温度に保つ効果しかない。悪用しようにも、効果を変更するには魔法を使うしかないから地球人にはどうすることも出来ないし。
「これなら防寒着を少なくして身軽に動けるようになるな。ありがとうございます、ティナさん。こんなにも素敵なプレゼントを頂けて」
「感謝の印ですよ。これで少しでも皆さんのお役に立てるなら嬉しいです」
素人考えだけど、分厚い防寒着や装備を身に着けていたら動きが制限されると思ったんだ。
皆さん喜んでくれているし、これを選んで正解だったよ。
それから夜まで皆さんと交流して名残惜しくはあったけど南極の地を後にした。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ、クレア。ちゃんと直ぐに用意できたから」
ただ、クレアが基地にあるお酒をほぼ全部飲み干してしまう事件が発生しちゃった。
まあ予想していたから昼間の内に美月さんへ連絡していたから、直ぐにお酒の不足分を用意してくれた。
美月さんは手早く手配したお酒類を日本が持ってる“トランク”へ詰め込んでくれて、それをクレアがスターファイターに乗って取りに行った。
最初はフェルが転移で運ぼうとしていたけど、自分の責任だからってクレアが志願したから任せることにした。皆さん喜んでくれたし、これで良かったかな。
余談だが、ティナはクレアがスターファイターで受け取りに行くことを、当たり前のように連絡し忘れた。
だが日本政府もまた慣れたもので、領空内へ入ったスターファイターを自衛隊機が丁重にエスコートし、新東京国際空港へ導いて“トランク”を無事に手渡すファインプレーを見せた。
この際アリアが、スターファイターのステルス機能を停止して日本政府へ事前に連絡するフォローもあった。
度重なる胃痛爆撃は、地球側の対応力を引き上げていた。閑話休題。
「明日はドイツかぁ。お酒が美味しいって聞いたけど?」
「肉料理やジャガイモ料理でも有名だよ。ただ、最初はちょっとブラブラしたいかな」
政府の皆さんに会うのは当たり前だけど、一般市民と交流する機会も作らなきゃいけない。
もちろんパリみたいな失敗は繰り返したくないから、最初は国の代表さんと会うけどね。
「お酒!?」
「クレアはたらふく飲んだでしょ」
何が怖いって、昭和基地に備蓄されていたお酒をほぼ飲み干して素面なんだよなぁ。ドイツじゃ気を付けないと。
「新しい地域ですか、今から楽しみですね」
「明日は同行しますのであしからず」
「分かってる。頼りにしてるよ、アリア」
修理もアリアが必要な工程は終わってるし、パリの件もあるから彼女の同行は素直にありがたい。また私がやらかしても、リカバリー出来るし。
……フィオレとフィーレ姉妹を見掛けないことに気付いたけど、気にしないことにした。人これを諦めと言う。
……まあ……不利益なことはしないよね。私の胃が痛くなるだけだ。




