哀愁歌by朝霧さん
四月!新年度が始まりました。学生の皆様はよい青春を!社会人の皆様は……ある意味憂鬱ですよね、分かります(  ̄- ̄)
日本外交官兼異星人対策室出向職員兼在米大使館特別調査員の朝霧だ。なんだかどんどん肩書きが増えているんだが、気にしたら敗けだから気にしないことにする。
アード側の外交団を伴って地球へ帰還し、数日が経過した。
アードで過ごした日々は色々濃密であり、特に息子である誠に関してはとんでもない未来が確定してしまったが、父として出来ることはただ頑張れと色んな意味を込めて応援するだけだ。
幼い二人の恋路が無事に実った場合を考えると恐ろしいが、妻は意外とノリノリだからなぁ。
いつの間にかティアンナさんと交友関係を作り上げているし、順調に外堀を埋められつつある息子にエールを送ることしか出来ない。
さて、ザッカル氏を無事に合衆国へ送り届けても私の仕事は終わらない。本国への連絡と平行して、各国の外交官と情報共有を行う必要がある。
膨大な仕事量であるが、幸い駐米総領事館が大半の業務を負担してくれたから潰れずに済んだ。感謝だな。
外交官としての仕事から僅かに解放された時間を利用して、私はアードから持ち帰った品物を異星人対策室本部へ送り届けた。
その中には、パトラウス政務局長殿から紹介されたアードの鯛のような巨大魚が含まれている。
十メートルを超える巨体は流石に管理するのが難しいと話したら、あっさりと小型化してくれた。二メートル程度、鯛としては非常識な大きさではあるがこれなら管理もそう難しくはない。
何せ水と太陽光があれば後は放置していても問題ないらしいからな。
……とは言え、我々も遺伝子組み換えや交配によって人為的に動植物を改良してきた歴史はあるが、まさか一日足らずで小型化したものを用意するとは思わなかった。
改めて隔絶した技術格差を目の当たりにしたな。
「ふむ、これかね?確か日本では祝い事の時に食べる魚だったかな?」
「はい、めでたいと言う言葉に掛けたものです。改めて見ても、良く似ていますね」
異星人対策室本部研究棟に用意された巨大な水槽で泳いでいるのは、今回試験用にと提供された鯛に類似した二メートルの魚類。
正式名称はまだ決まっていないが、取り敢えずアード鯛と仮称されることになった。
安直なネーミングではあるが、分かれば良いと細かいことは気にしないことにした。
私はここの主であるドクター、或いは主任と呼ばれるエドワード博士と一緒にアード鯛を眺めている。パトラウス殿から聞かされていたが、本当に地球の海水でも問題なく過ごせている様子には衝撃を覚える。
規格外の適応力を持つ生物なのだな。
「ふむ、オリジナルは十メートルを優に超えると聞いた。流石にそのサイズでは管理も難しいが、この程度ならばちょうど良い」
「ありがとうございます、博士。味についても保証しますよ」
「日本人は味にうるさいと聞くからね。味については心配していない。実際に旨かったしね。
それよりも、このアード鯛の生態が非常に興味深いな」
「はい。高い適応能力と繁殖力を持ちながら、エネルギーは光合成のみだとか」
「光合成のみで全く別の物質を産み出しているのと同義だ。それが何を意味するのか、今一ピンと来ないだろう?」
「まあ、ぼんやりとしか」
私は外交官であって、生物学は門外漢だからな。違う惑星の生き物に、地球の生物学が通じるかは分からないが。
「まあ、端的に言えばこの魚類の存在は地球の生物学にとって、常識外れなのだ。
自然へ解き放つには研究が必要になるな」
「はい。ですが、地球の食料事情の改善に大きな意味を持つかと」
有史以来、常に我々人類を悩ませてきた食料問題解決への大きな一手になる筈だ。
「うむ。アード側から提供されたデータには目を通したし、君が持ち帰ったうちの一匹を実際に捌いてみたが、旨かったな。
しかも栄養が豊富と来た。サンプルはこの十匹だけかね?」
私が懸念していたのは、アード由来のモノである以上私やケラー室長のような変化が起きることだ。
目の前のエドワード博士と有志数名が志願して食べたが、今のところ身体に変化はない。
時間差で変化が起きる可能性はあるが、それを言い出したらアード由来のものを食べられなくなる。それでは人類の悲願である飢餓の克服は遠退く。
資源の枯渇が迫っている。少なくとも、誠の子供の世代までは地下資源は持たない。
あったとしても供給量は大幅に減る。今の社会や生活が維持できるとは思えない。
だからこそ、アードと手を取り合う必要がある。先ずは食料事情の解決を図り、アードとの交流に対する好意的な国際世論を作り出す。第一歩だな。
「パトラウス殿曰く、このまま放置していても勝手に繁殖して数を増やすのだとか」
「それは困るな、際限無く増えられては管理も難しい」
アード鯛は大量の卵を産み、一ヶ月足らずで成魚に成長する。恐ろしい繁殖力だが、この巨大魚もアードの海では最下層に位置するらしい。
……遠目に見た、百メートルを優に超える巨大な海蛇のような生き物が跋扈しているのがアードの海ならば、それも分かる。
つまりアード鯛はあの超巨大生物群の餌なのだ。
まあ、対策は用意してある。
「そのために、海洋庭園を一つ頂きましたよ」
「なるほど、海洋庭園か!」
カレンさんがティナさんからプレゼントされた海洋庭園は、大きな水晶の中に海をそのまま閉じ込めた魔法の道具だ。
環境も自由に設定できて、様々な海洋生物を飼育できる。欠点があるとするならば、生物の出し入れに手間が掛かる……らしい。
とは言え飼育スペースを必要としないのだ。多少の手間は許容範囲だろう。
「それならば飼育や観察に関して問題あるまい。アードの環境を再現すれば生態調査に弾みが付く。欠点があるとするならば、観察する際は男女に分かれる必要が生じてしまう事か」
最大の欠点は、中へ入った際に全裸となることだな。
……研究職の紳士の皆様が全裸でアード鯛の生態調査を行う風景は、あまり想像したくないし進んで見たいものでもないが。
……ふと顔を上げると、この場に不釣り合いな二人の少女が現れた。フィオレさんとフィーレさんの姉妹じゃないか。月に居る筈だが……。
「おじーちゃん、これあげる。前話してた小型エネルギージェネレータ-。これ一個でこの大陸の電力は簡単に賄えるよ」
青い小さな水晶を差し出しながら、エネルギー政策を根本的に覆すようなヤバい代物を説明するフィーレだったが、朝霧は全力で耳を塞いだ。
「はい、これ。おじいちゃんが欲しがってた世界樹の苗木よ。
これが六本くらいあれば、この大陸の環境は劇的に改善するんじゃない?」
同じように神々しい光の放つ小さな苗木を差し出しながら、環境問題を根本的に解消してしまうようなヤバい代物を説明するフィオレ。
朝霧は全力で反対側を向いて見なかった事にした。




