クレアの想い
「ねぇ、クレア。植物園に行こっか」
今にも泣きそうなクレアに私は笑顔で声をかけた。大切なお話しなのは分かるけど、だからこそ落ち着いてゆっくりと話を聞きたい。フェルとフィーレが作った植物園は、時間の経過と共に立派な森になっちゃった。
宇宙船の中に森があるなんて意味不明ではあるけど、皆には憩いの場として好評だ。
クレアも案内したことはあるし、気に入ってくれて何度も植物園で過ごしているのも知ってる。
そのままクレアをつれて植物園にやって来た。ああ、忘れちゃいけない。
「アリア、人払いをお願い。それと、お話しの内容も収集しないで。クレアが許してくれたら、改めて共有するからさ」
『畏まりました、ティナ。終わりましたらまた声をかけてください』
アリアの身体はメンテナンス中だけど、元々AIだからその辺りは関係ない。
植物園は相変わらず床に薄く水が張られていて、アードやリーフ、それにフィオレが地球から持ち込んだ色々な種類の植物が群生している森になっている。
ここだけ独特な生態系が生まれちゃってるんだよね。しれっと三つの星由来の小動物も居るしさ。
で、その中心にある大木が、リーフの象徴である世界樹。張り巡らされた大きな根っこの一つに並んで腰掛けた。
……こんな時、どうすれば正解なのかは分からない。だから、今回は待つことにした。足をプラプラさせて、笑顔を意識して風景を楽しむ。少しでもクレアが話しやすいような雰囲気を出すように注意して……まあ、そんなに器用な性分じゃないけどさ。
「私には……まだ皆さんに話していない秘密があります」
「うん」
しばらく待っていると、ゆっくりとクレアが話し掛けてくれたから私も相槌を打ちながらクレアを見る。
……その顔に浮かんでいる感情は……鈍い私でも分かるくらいの恐怖だ。
「無責任な言い方で悪いけど、大丈夫だよ。クレアの秘密がどんなものでも、ちゃんと受け止めてあげるから」
それが助け出した私の責任だと想ってる。
いやまあ、自分がセンチネルの親玉でこれまでの悲劇は自分が指示したんだってカミングアウトされたらちょっと困るけど、流石にそれは……。
「……私はっ!センチネルを産み出した男の末裔なんです。つまり、この銀河で起きている悲劇はっ!全部っ!……私のっ!!」
私の言葉で覚悟を決めたのか、クレアは一気にとんでもないカミングアウトをしちゃったよ。
いやまって、私の何気無い予想だったのに、ニアピンなんだけど!?
いや、驚くのはまだだ。詳しい事情を聴かないといけない。
「待って待って、クレア。ちょっとお話が大きすぎるよ。ゆっくりとで良いから詳しく教えてくれないかな?」
「……分かりました」
それからクレアはゆっくりと秘密を話し始めた。先ず初めに予想していたことが的中した。まあつまり、クレアがノームのお姫様だってこと。
これにはあんまり驚かなかったかな。普段の仕草が上品だから、偉い身分なんだろうなって想っていたし。
ただ、私にとって衝撃的だったのはかつて存在したノーム人が主体の星間国家、アプソリュート皇国の存在だ。
ノーム人が高い文明レベルを持っていたことは遺物や痕跡からある程度予測されていたけど、まさかアード以上に高度な文明を持っていたなんて。宇宙は広いな。
そして一番衝撃的だったのは、センチネルを生み出したのがアプソリュート皇国だったらしい。
「私も記録と伝承でしか知りませんが、センチネルは私の祖先に当たる皇帝が私欲のために生み出した存在です。
皇帝本人は凄惨な内戦の末に倒されましたが、彼は死の間際にセンチネルの母体である“マザー”に最後の命令を下しました。
それが皆さんもご存知の命令である『知的生命体を探索して、せん滅せよ』です」
「傍迷惑な命令だね、全く」
本当に迷惑だ。死んだ後も銀河規模の悲劇を引き起こし続けているんだから。
「以後センチネルは経験を重ねて進化し、数を増やし続けています。その全容は、私たちでさえ最早把握できていないんです」
「……どうにかする方法は無いの?」
改めて聞いてみても悪夢でしかない。無制限に増え続けて進化する無差別大量破壊兵器なんて最悪な存在だ。
「私達の本星である惑星ノームの中枢に、グラドス帝の血統者が入ることが出来れば、マザーのシステムにアクセスできます。そうすれば、全てのセンチネルを自壊させられますが」
「つまり、クレアがその中枢へ辿り着ければ良いんだね?」
「はい。ですが、えっと……地球時間で言えば三百年前に残存戦力を結集して奪還作戦を決行したんですが、惨敗しています。本星そのものが要塞化されていますし、万単位の防衛艦隊が待機しています」
「まさに難攻不落、近付くことも難しいんだね……」
予想はしていたけど、簡単にはいかないか。でも、解決の糸口が見付かったのは大きな前進だよ。
私達はただ逃げ回ることしか出来なかった。でも、センチネルを倒せる手段があるなら……。
「本当は、直ぐにでも皆さんに打ち明けなきゃいけなかったのに……ごめんなさい……」
俯いて涙を流すクレアを慌てて抱きしめた。
「泣かないで、クレア!怖かったんだよね、不安だったんだよね!でも、大丈夫だから!だってクレアは悪くない!こんなに優しい女の子を恨む人なんてアードには居ないよ!もちろん、私達も!」
恨む筈がない。それどころか、光明を持ってきてくれたんだ。それがなくても私にとって大切な友達だ。嫌いになるなんてあり得ない!
「ティナさん……」
「心配しないで、クレア。貴女は悪くない。色々背負っているのは分かるけど、君はここに居て良い!楽しく過ごして良いんだから!」
一族の抱え込んだ業、地球にもたくさんあった。犯罪者の家族とかね。でも、悪いのは悪いことをした人だ。
少なくとも、アードではそれが当たり前だからクレアを使って非情な事をすることなんて無い。むしろ感謝されると想う。
「今回のお話は、私の胸にしまっておこうか?クレアはどうしたい?」
それでも不安だろうし、クレアが勇気を持てるまで待つのも構わない。それを選ぶのはクレアだ。
「私っ……どう償ったら良いか、分からなくてっ!皆さんに嫌われるのがっ!怖くて!」
「うん」
「でもっ!使命を果たしたい!悲劇を引き起こした男の末裔として……殺された皆を無駄死にしたくないっ!」
「うん」
「だからっ……アードに戻ったら、皆さんにお話しします。ティナさん、聞いてくれてありがとうございました」
涙を浮かべているけど……決心したのかな。いや、私に話したから吹っ切れた?まあ良いや、やることは変わらない。
「一緒に居るよ、クレア」
傍で支えてあげるだけだからさ。




