魔王アーノルド 第3部
勇者サクラの呼びかけに応じて聖騎士団たちが彼女の周りに集結する。
続々と現れる屈強な聖騎士団たちはしかし、瞳から生者の意思が消え果てていた。
「神聖騎士団はすべて掌握しました。コトリさんの一撃で最後の生き残りも死して、こうしてアンデッドと相成りました」
聖騎士達の成れの果てを従えながらロイテンシアが現れた。
これまで、『死者の姫』であるロイテンシアは純真で清廉潔白な印象を持つ純白のドレスを纏い、下級アンデッドを束ねて『死者の群れ』として使役する能力を持っていた。
対して、進化した今のロイテンシア王女は白から一転して苛烈な印象を与える真紅のドレスを身に纏っている。
彼女が従えている聖騎士団たちは下級を超えた中級・上級のアンデッドたちばかり。
自らの意思を持つ強力なアンデッドを1つの軍隊として束ね、『亡者の軍勢』として自在に操ることができるのは彼女、亡者の女王のみ。
特殊系最上級アンデッドーーーー『亡者の女王』だ。
「完全なる孤立無援になった気分はどうですか? 今なら投降を認めてあげても構いませんよ」
「アハハ、リーダーが顔を出すなんて正気? 戦う力を持たないやつが戦場に立つなんて、舐めているのかしら……ね!」
当然の帰結としてサクラは軍勢のリーダーであるロイテンシアを狙って突撃する。
それにロイテンシアはまったく動揺せず、楽団の指揮者めいて指先を振るった。
一直線で駆けてくるサクラを遮る波のように一重二重と『亡者の軍勢』が押し寄せる。
統率されたその動きは隙がなく、サクラが神刀を振るって蹴散らしても欠けた人員がすぐに再編成される。
アンデッドの平均レベルが向上したことで耐久力が増したことに加えサクラの神刀も傷んでいる。
結果としてロイテンシアへ接近しようとしたサクラはじわりじわりと押し返される形となっていた。
こうなれば圧倒的に物量差の不利があるサクラがこの状況を覆すことは困難だろう。
「くそっ! 雑魚の分際でなんだっていうのよ」
舌打ちしながらも諦めず抵抗するサクラ。
俺は空中からその様子を眺めながら、『亡者の軍勢』の中に変わった個体がいることに気付いた。
『ロイテンシア、お前の右斜め前方にいるそいつ。わかるか? そいつをサクラにぶつけてやれ』
『アーノルド様? 右斜め前方と申しますと……あぁ、なるほど。承りましたわ』
すぐに俺の意図を理解したロイテンシアは軍勢の中から特定の一人を指名してサクラの背後から攻撃させた。
乱戦に苦戦しているとはいえそこは流石サクラ、奇襲に気付いてすぐ様振り向いて神刀を振るった。
「今更不意打ち? 芸がないのよ筋肉ゴリラ! さっさとそこから降りてーー」
振り向き、背後からの襲撃者の斬撃をサクラは受けた。
その襲撃者をサクラは見覚えがあった。
「き、騎士団長ヌアザ!?」
「GUAAAAAA!」
コトリに殺された神聖騎士団の団長、ヌアザ・アガートラームは完全に正気を失っていた。
主から下賜された聖剣は呪いによって漆黒に染まり、その意思は破壊衝動に支配されている。
騎士系アンデッド変異種、『復讐騎』。
信じた相手に裏切られ堕落した騎士は怨嗟の声をまき散らす。
「裏切り者ォォォォ!」
これまで、アンデッドに対して絶対の力を発揮してきた神刀「桜」。
シーリーンの能力によってその神性を半ば失い、今ヌアザのドス黒い負の感情に染まった聖剣によって悲鳴をあげる。
次の瞬間、神刀は戦場に不釣り合いな清涼な音を立てて真っ二つに折れた。
「そ、そんな……!」
頼みの綱の神刀が折れたことでサクラは後退を余儀なくされた。
しかし、ロイテンシアの操る亡者の軍勢がそれを許さない。
「ーーーーふう」
徐々に距離を詰められたサクラは肩を落としてため息を吐いた。
まるで自らの敗北を悟って諦めたかのように見えるが、俺はサクラをよく知っている。
あいつはーーそんな潔いタマじゃない!
『全員油断するんじゃねぇぞ! あのアマはきっと何か奥の手を隠してるはずだ!』
俺が仲間へ警戒を促すと、当然のように俺の仲間に向けた念話を盗聴したサクラは不敵な笑みを零す。
「へぇ? よくわかってるじゃない」
大げさな動作で折れた神刀の柄を捨てたサクラは両手で自分の肩をかき抱いてしゃがみ込み垂直に高く跳んだ。
「出来ればこの手は使いたくなかったんだけど、ね!」
内なるエネルギーを解放したかのように目も眩むほどの白い極光がサクラの全身を包む。
己をかき抱いた腕を一気に開く。
すると光の爆発とともにサクラの背中から白く美しい1対の翼が現れた。
「女神チート全開よ! 世界観とかバランスなんてクソ喰らえだわ! 覚悟しなさい筋肉ダルマ!」
女神の翼を羽ばたかせながらサクラが開き直った態度でそう宣言した。
冒険者風の服装は女神っぽくて飾り気のない純白のワンピース姿になっている。
サクラは俺のことを悪の親玉である「魔王」、自分のことを魔王をやっつける正義の「勇者」と役割をでっちあげて挑んできた。
あいつはその役割をかなぐり捨ててでも俺のことを殺す気なのだ。
俺たちは今、オフィーリアの羽衣に抱えられて空を浮遊している。
「ちっ! まずいぞオフィーリア。なんとか逃げれるか?」
「わかりましたゴリ様! 今ワームホールをーー」
オフィーリアが能力でテレポート用のワームホールを生成しようと簪に手を伸ばした時。
「わぁー! ゴリさん前! 前!」
シェルリの切羽詰まった声に振り向くとさっきまではなかった巨大な光球がいくつもこちらに向かって飛んできていた。
「うおおお!?」
呪文の詠唱もなかった。
理屈も道理もすっ飛ばした光の女神の攻撃。
喰らえば闇の眷属であるアンデッドはただでは済むまい。
咄嗟にオフィーリアが羽衣で空中を舞いながら回避する。
しかし光球はホーミング機能でもついてるのか躱しても躱しても俺たちに向かって追従してきた。
光球のいくつかはメリリーとコトリが撃ち落としてくれる。
だがそれでも残る光球に追われて回避に専念せざるを得なくなった俺たち。
こいつを飛ばしてきた張本人に視線を向けると、俺たちよりも遥か高い高度まで翼で上昇していた。
「こいつでトドメを刺してやるわ。止められるものなら止めてみせなさい!」
サクラが大きな翼を絞る。
高高度から急降下で獲物を狙う猛禽めいた動きでサクラは極光を纏ったひとつの弾丸となる。
たしかに、これまでと比べ物にならない神聖な魔力を纏って突撃するサクラを止める術はない。
今俺にできることは、仲間を信じることだ。
俺は衝突の瞬間まで諦めずにサクラと向き合う。
ついに衝突された俺たちはインチキのような大魔力と衝撃でバラバラに砕け散った。
「アハハハハ! ミンチよミンチ! あとは範囲浄化魔法でここら一帯、を……?」
振り返ったサクラはバラバラになった俺たちの肉片を高笑いしながら見つめる。
すると、肉片のひとつが不意に小さなカボチャに変身した。
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