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君となら喜んで共犯になるよ  作者: 大木戸 いずみ
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少しだけ間が固まった後に、兄はフッと柔らかな笑みを浮かべた。


「ああ、割ろうか」


 自分から提案したことなのに、少しだけ切なくなってしまう。割ってしまったら、もう二度と元には戻らない。

 一度崩壊してしまったものを元通りにするのは難しい。それは全てに言えることだ。

 ただ瓶を割るだけなのに……。大丈夫、何も変わらない。

 自分にそう言い聞かせて、「うん」と私は小さく頷いた。

 兄は私から少し離れたところでしゃがみ込んで、大きく瓶を地面にたたきつけた。ガシャッと大きな音が公園に響く。

 静かな遊具たちが私たちを監視するように見つめているような気がした。

 何度か地面に埋まっている大きな石に向かって、瓶を叩く。

 もうすぐ割れることに対して、少し緊張が走った。当時の自分の心を見返すなんてタイムカプセルでしか出来ない。

 私は小学生の頃の自分の気持ちを受け止めることが出来るのかな……。


「割れた」


 そう小さく呟いた兄の元へと近付く。

 粉々になった瓶が地面に散らばっている。「危ないから気を付けて」と兄は私の方を振り向く。


「うん。……後でちゃんと掃除しようね」

「いや、このままにしとく。俺たちがここにいたんだって証だ」

「まぁ、みんな、古い瓶が割れてるな~ぐらいにしか思わないよね」


 きっと、ここに私たちがいたなんて誰も想像しないだろう。

 私と兄しか今日のことは知らない。邪魔者は誰もいないのだから……。 

「これ、紗英の」と兄は私にハガキぐらいの大きさである薄桃色の封筒を私に渡す。

 ……懐かしい。

 この封筒は微かに記憶にあった。私にレターセットなんて買うお金はなかった。

 当時、テストで満点を取れた子には一つのレターセットかシールをくれる制度があって、それで私はレターセットを選んだんだ。

 薄桃色の封筒には小さい子に人気がありそうなゆるいクマのキャラクターがまばらにいる。

 これを貰った時、この上なく嬉しくて、絶対に使わないでおこって思っていたのに……。タイムカプセルにこの手紙を使ったんだ。

「ありがとう」と私は兄から封筒を受け取った。

 

 瓶の中に入れられて土に長い間埋まっていたからか、手紙は少しシナッとしていた。

 兄の手元の方へと視線を移す。彼はノートのページを一枚ちぎったようなものを持っていた。二つ折りにされていて、中に何が書いているかは分からない。


「それ、お兄ちゃんの?」

「ああ。そう言えば、ノートに書いたんだった」


 男の子だなぁ、と思いながら私は自分の手紙へと視線を戻した。

 ……本当にこの手紙を開ける日が今日でいいのかと少し迷ってしまう。けど、今しかない。

 私はゆっくりと封筒を開けて、中に入っている手紙を出す。過去の自分から貰う手紙ってなんだか不思議な感覚になる。

 ペラッと紙を開けるとお世辞でも綺麗とは言えない拙い字が並んでいる。

 …………小学生の頃はこれが綺麗な字だと思って書いていたんだよね。

 汚い字だけど、一生懸命丁寧に書いたのだということは分かる。

 私は、スゥっと一度軽く深呼吸してから、両手で手紙をしっかりと掴みながら読み始めた。

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