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21、文化祭初日~休憩時間になったけど~

 開幕早々、護たちの教室はかなりの数の来客が入り、裏方中心で行動するはずだった護も接客に出なければならない状況になってしまったが、一時間もすればそれも収まり、護と月美は休憩に入ることができた。

 護はすでに執事服から制服に着替え、スタッフ専用入り口で月美を待っていた。

 次の交代の時間までの間、一緒に文化祭を回ることを事前に約束していたため、出入り口で待ち合わせることにしていたようだ。


「お待たせ~」

「そんなに待ってはないさ。で、どこから行く?」

「ん~、護が気になってるところ、先に行ってもいいよ?」

「いいのか?」

「うん」


 護の問いかけに、月美は笑みを浮かべながらうなずいた。


「だって、何か用事があるんでしょ?」

「……まさか、ばれてた?」

「というか、なんとなく?」


 実のところ、護は今回、文化祭の催しで呪物が取引されていることを月美には黙っていた。

 楽しんでもらいたいから、ということもあるのだが、余計な心配をさせないようにしたかったのだ。

 だが、月美にはそんな気遣いすら見通されているような気がしたのか、護は観念したようにため息をついた。


「まぁ、用事って言っても大したもんじゃないから、気にしないで大丈夫だろ」

「大した用事じゃないなら、はやく終わらせても問題ないよね?」

「それもそうだが……調査局が対処することになってるんだよ。なら、俺の出る幕はない」

「そういう問題?」

「そういう問題なの」


 首をかしげる月美に、護はそう返した。

 実際に光からは、気に掛けるだけでいい、と言われているため、護が解決に動く必要はないのだ。

 そもそも、依頼されない限り、護は自分とその周辺に害が及ばなければ、妖怪や物の怪の類に手を出すことはないし、出すつもりもない。


 対象が呪物であっても、その姿勢は変わらない。

 そもそも、興味本位で呪物と接触して、自分や周囲に被害が及ぶことはしたくないのだ。

 そのため、呪物に関しては、特に接触を避ける傾向にある。


 本音を言ってしまえば、文化祭で催されるバザーで出品されると噂されている『呪いの人形』にも関与するつもりは一切ないのだ。

 だが、知っていて手出ししないことに、月美はどこか納得していないらしく、どこか納得できていない様子だった。


「それなら、いいけれど」

「なんか不満そうだな」

「そりゃ、ね。護の方が気にしてそうだし」

「まぁ……気にならないといえば嘘になるな」


 月美からの言葉に、護は肩をすくめた。

 確かに、まったく気にならないか、といえば、そういうわけではない。

 仮に光が失敗してしまった場合、その付けがまわりまわって護自身や家族、月美、果ては佳代や明美、ついでに清へと向かうかもしれない。

 それを考えると、『気にしなくていい』と言われたからと言って、まったく気にかけないというのは、それはそれで筋が違うようにも思えてきていた。

 どうしたものか、と考えている護の様子に、月美はくすくすと笑みを浮かべて、一つ、提案をしてきた。


「すぐに終わるような用事なら、そっちを優先してからで構わないんだよ?」

「……なら、お言葉に甘えて」


 月美の厚意に感謝しながら、護はすまなさそうに笑みを浮かべ、パンフレットを広げた。

 パンフレットの紙面に一通り、目を通すと、護はパンフレットを閉じた。


「どうする?ちょっと様子を見るだけだから、月美が付き合う必要はないけど」

「……まさか、浮気じゃないよね?」

「なぜ接点のない後輩に浮気することになるんだよ?」


 久方ぶりに出てきた月美の嫉妬に、護は苦笑を浮かべながら返し、その返答に納得した月美は、背後から垂れ流していた怨念にも似た霊力を収めた。

 だが、どこに向かおうとしているのか疑問は残っているようで、ついていくことを護に伝えてきた。


「なら、わたしもついて行って構わないよね?」

「あぁ。まったく問題ない」


 にこやかに問いかける月美に、護は二つ返事でそう返した。

 むしろ、一緒に回ることも目的に入っているため、一緒に来てくれるというのは護にとって願ったりかなったりであったので、断る理由がまったくない。

 即答するのは、当然といえば当然であった。


「それじゃ、護の用事がある教室に行こっか」

「……なぜ月美に仕切られているのかは、まぁ、この際、置いておいていいか?」

「えぇ~?なんかつっこんでくれると思ったんだけど」

「何を期待してるんだよ」


 なぜか突然仕切り始めた月美に、護は苦笑しながらそう返すと、月美は残念そうな顔でそう返してきた。

 どうやら、護の反応を楽しみにしていたようだが、思っていたものと違っていたようだ。


 月美の機嫌が、若干とはいえ悪くなったことを感じた護は、苦笑を浮かべながら頭に手を置いた。

 子供をあやすように優しくなでていると、徐々に月美の機嫌も直っていったらしく、不満顔が徐々に柔らかいものへと変わっていった。


 機嫌がよくなったと感じ、手を離そうとすると、その手をつかみ、自分の頬に持って行き、マーキングでもするかのようにこすりつけ始めた。

 今度は飼い主大好きな猫のようになってしまっているその様子に、再び苦笑を浮かべることとなった。


――てか、いつになったら出発できるんだよ……


 月美になされるままになっている護が、心中でそうつぶやいていたことはいうまでもない。

 なお、月美が満足するまで五分ほどの時間を有してしまい、その間、二人の周囲に甘い雰囲気が漂うこととなり、なぜかコーヒーや紅茶を求めて、すぐ近くにあった使用人喫茶に再び人が流れていく現象が起きたのだった。

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