表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/250

25、旅終えて

 新幹線から降りて、今度は別の鉄道に乗り換えること数十分。

 護たちは自宅のある最寄り駅に到着した。

 そのころになると、新幹線の中でずっと甘えん坊状態だった月美も元に戻り、今は明美にからかわれたことによる羞恥心で顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 なお、月美にこってりと絞られた清も会話ができる程度には回復していた。


 「そんじゃ、ここで解散だな」

 「そうね」

 「あ~、なんかあっという間だったなぁ」

 「家に帰るまでが旅行だってこと、忘れないでよ?勘解由小路くん」

 「あんたのことだから、途中でどっか寄り道してそうだけどね」


 駅の改札口を出た五人はそんなことを言い合いながら、それぞれの家へと帰って行った。

 当然、護も月美とともに自宅である土御門神社へと向かっていった。


 「楽しかったね」

 「だな……もうちょい時間があれば色々回れたんだろうけど」

 「時期が時期だったら嵐山も行きたかったなぁ」

 「桜か?」

 「うん!あ、でも時期的には紅葉のほうが近いかな?」


 嵐山は桜と紅葉、どちらの名所でもある。

 なお、もう少し訪れる時期が早ければ『大文字の送り火』を楽しむこともできたし、京都三大祭に数えられている『祇園祭』を見物することもできた。

 もっとも、夏休み中の課題をすべて終わらせてから、という条件があったため、どのみち物理的に不可能であったのだが。


 「まぁ、それは次の機会ってことにしよう」

 「だね」

 「……なんか、五年もしないでまた行きそうな気はするんだけどな」


 実際、護はこれからは東京と京都を行き来すことが多くなるような気がしていた。

 勘ではあることは確かなのだが、そう思う最大の理由は京都に居を構える晴明神社に仕える遠縁たちにあった。

 自分たちでは対処しきれないと判断した事態が発生した場合、おそらく、いやほぼ高確率で自分たちを呼び出してくることになるだろう、と護は考えていた。

 実際に、これまでも、頻度こそ多くはないが、翼が京都へ仕事でむかったことがあった。

 今にして思えば、安倍家から助太刀を頼まれていたのだろう。

 もっとも、呼びつけられる可能性があるというのは別に構わないのだが、そんな体たらくで大丈夫なのだろうか、と護は少しばかり心配になっていた。


 「へ?どゆこと」


 だが、月美はそうなることをあまり考えていなかったらしく、護に説明を要求してきた。

 苦笑を浮かべながらも、護はそう口にした理由を説明し始めた。

 月美はその説明を理解はしたが、どこか納得がいかないらしく、苦笑を浮かべていた。


 「な、なんというか……少し心配」

 「まぁ、そう言うなって……こっちよりあっちのほうが厄介なことが多いんだろうし」

 「そういうものかな?」


 諌める護の言葉に、月美は首を傾げた。

 東京と比べて比較的自然が多く残っており、妖たちが生息できそうな環境は確かに整っている。

 が、京都は四方を四神が住むとされる土地に囲まれている、言ってみれば天然の結界が構築された土地であり、碁盤の目に例えられる京都の街並みは、それそのものが結界の役割を担っている。

 いわば、京都は二重の結界に守られた霊的に強固な結界が施された都市なのだ。

 そんな場所に、力の強い妖がいるのだろうか、と疑問を抱いたようだ。


 「大江山の酒呑童子とか、鞍馬山の天狗とか、探せばけっこうあるとは思うが、まぁ、彼らは大丈夫だろう。酒吞童子は源頼光が退治たっていうし、天狗はこっちから手を出さなければよほどのことがない限り、関わろうとしないしな」


 護の言う通り、大江山に住むという酒吞童子は平安時代に源頼光が退治したという伝説がある。

 また、鞍馬山の天狗は源義経がまだ幼名である『牛若』と名乗っていた頃に剣術と戦術を授けたという伝説があり、退治されたという話は聞いたことがない。

 どのみち、天狗という妖は山で修業する修験者が徳を積み、転じた姿として伝えられることが多く、手を出さなければ危害を加えることは滅多にない。


 「そうなんだ?」

 「厄介なことってなると、やっぱり悪霊かもしれないな。道満みたいな連中、京都ならごった返してるだろ」

 「……ありそうで怖いね」


 夏休み前に行われる体育祭の時期に現れた、千年以上続く因縁の相手、芦屋道満のことを思い浮かべながら答える護に、月美は苦笑を浮かべた。

 考えたくはないし、あり得ないとは思うが、天皇が東京へ居を移すことになった明治時代までの、およそ千八百年近く、京都と奈良は政治の中心であったのだ。

 当然、自分が権力や富を握ろうと躍起になる貴族たちが権謀術数を繰り広げ、呪い呪われ、追い落とし追い落とされる伏魔殿と化していた大内裏も存在していた。

 無実の罪に問われ、内裏を追われた者や、志半ばで身を引かざるを得なくなった者、そんな者たちの無念や憎悪がいまだこびりついていたとしたら、悪霊となって出現してもおかしくはない。


 加えて、先述の通り京都の街並みは碁盤の目のようになっており、多くの四つ辻、つまり十字路が存在している。四ツ辻は異界に通じるとされており、夕暮れ時になると魔物が出現するという伝承も存在しているほどだ。

 そして、天然の結界と京都そのものをおおう結界の二つに阻まれ、異界から迷い込んできたものが京都を出ることができず、百鬼夜行が跋扈する都としての側面も持つようになってしまった。

 ひょんなことで異界から力の強いものが紛れ込んでしまうことも視野に入れると、安倍家だけでは対応しきれなくなる可能性もなくはない。


 「ま、そうならないように祈るだけなんだけどな」

 「あははは……」


 お気楽ともとれるその言葉に、月美は苦笑を浮かべるのだった。

 そうこうしているうちに、二人は土御門神社に到着し。


 「ただいま」

 「ただいま帰りました」


 二人そろって、玄関に入っていくのだった。

 庭に生えている植物たちの陰から、かすかに聞こえてくる蝉とはまた違う虫たちの声が、秋が訪れてきていることを知らせていた。

少し短いですが、本章はこのお話で最終話となります

次回、新章に突入致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ